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お人形に恋をした

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 しばらく目を閉じてじっとしていた。そうやって、むかつきに耐えていたら、扉が開く音がした。目を開けてそちらを見たら、赤い髪の男の人が部屋に入ってきた。
 彼は私のもとに近づいて来て、私の脚を持ち上げた。脚を大きく広げさせてあそこをじっと見つめてくる。

 ーーしたいの、かな?

 でも、今日は無理だ。また別の日ならいいけど。どうやって断ろうかと考えていたら、男の人は私の上に馬乗りになってきた。
 彼は怖い顔をして私を見下ろしてくる。

「公爵様」
 男は私の首に手をかけた。どうやら彼は、私としたいんじゃなくて、痛めつけたいらしい。

「俺を好きと言ってくれたのは、嘘だったんですか」

 ーーそんなことを、私は言ったの?

 言った覚えはないんだけど。そもそも彼と会った記憶すらない。
 でも、彼の言っていることが嘘だとも思えなかった。私はいろんなことを忘れてしまうから。記憶はあてにならない。

「答えて下さいよ!」
 男は目から涙を流した。それがぽたぽたと私の顔に落ちてくる。
「俺はあなたを守りたいと本気で思った。それなのに」
「それなら、ちゃんと守って?」

 私を好きで、守りたいと言うのならちゃんと守って欲しい。エルドノアさまのように。
 エルドノアさまは死にかけていた私に毎日温かい力を分け与えてくれた。身動一つ取れない時も、喋ることができない時だって。彼はいつでも私が死なないように尽くしてくれた。

「他の男と喜んで寝る癖に、守れだって? あなたは自分勝手過ぎますよ!」
「よろこんでなんか、いないよ? 私がしたいと思う人は、一人しかいないもの」

 私がしたいのはエルドノアさまだけだ。他の人なんてどうでもいい。
 私が男の人と寝るのはエルドノアさまにそうしなさいと言われた時だけだ。
 私はエルドノアさまのためなら何でもする。彼が守ってくれた分、私も役に立たないといけないから。

 男の手に力がこもった。首を締められて息ができない。
「本命の男がいるのか? 男と寝るためなら何でもやるあばずれの分際で!」
 苦しくて苦しくて。震える手で彼の手に触れる。離して欲しくて必死に爪を立てたけど、彼の手はびくともしなかった。

 ーーこわい。

 私を守ってくれたのはエルドノアさまだけだった。他の人は私を苦しめるか、傍観するだけだったから。
 この人も私を守りたかったと言いながら、結局はひどい暴力を振るってくる。

 ーーくるしい。

 苦しくて、息ができなくて。いつの間にか目の前が真っ暗になった。







 気がついたらあたりはすっかり暗くなっていた。部屋の中には私一人で、赤い髪の男はいなくなっていた。

 ーーお部屋に帰ろう。

 今日はエルドノアさまが部屋に来てくれるかな。今日はもうお腹がいっぱいで、ご褒美は貰えそうにない。
 でも、もし来てくれたらお仕事をしたことは知らせよう。エルドノアさまはきっと褒めてくれるはずだから。そうしたら、このきもちわるいお腹のむかつきも、頭がくらくらする感覚も、我慢できる気がする。

 私は重い身体を起こして寝室へと向かった。
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