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それを私は愛と呼ぶ
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男は拳を握りしめてわなわなと震えていた。私の答えが気に入らなかったらしい。
━━殴られる。
痛みに耐えるために目を閉じた。
でも、いつまで経っても何の痛みも感じなかった。恐る恐る目を開けたら、そこには誰もいなかった。
私は一人取り残された部屋で、拘束を解こうともがいた。どうして男がいなくなったのかは分からないけれど、また戻って来るかもしれない。それまでの間に何とかして逃げたかった。
でも、手足を縛る紐は頑丈でびくともしなかった。
不意に、扉の開く音がした。
「ティア」
エルドノア様だった。エルドノア様は私の下に来るとすぐに手足の拘束を解いてくれた。それから、首輪を外してくれて、それを床に打ち捨てた。
「遅くなってごめん」
そう言いながら腰に巻かれたベルトを外して、張型を引き抜かれた。
「あぅ」
「ひどいことをするやつもいるものだね」
エルドノア様は私の胸につけられた楕円形のものを取り外し、それも投げ捨てた。
━━どうしよう。怒ってるのかな?
エルドノア様の表情がいつもより固い。何を考えているのかは分からないけれど、少なくともいい気分ではないことは確かだ。
「大体のことは察しがつくけど。何があったのかよく見せて?」
エルドノア様は私の額に手を当てて、目を瞑った。
「エルドノア様?」
何をしているの? と聞こうとしたら彼は目を開けた。
「記憶を見ていたんだよ。前にも話しただろう? お前の記憶は全て私に共有されるって」
そんな話をしたかな? 首をかしげたらエルドノア様は苦笑いを浮かべた。
「まあ、いい」
エルドノア様は私を横抱きにした。
「お風呂に行くよ」
「待って、身体を隠したいの」
私は素っ裸で胸もあそこも丸見えだ。こんな姿を屋敷の中にいる調査団の人達に見られたくない。
「安心して。調査団のやつらはもういないから」
「帰ったの?」
「ううん。私の餌になってもらったよ」
「そう」
彼らは悪い人だから。エルドノア様に食べられて、いなくなっても問題ない。
「お前は"ティア"の名前をもらっているくせに、残酷な考え方をするんだな」
どういう意味か分からない。エルドノア様を見たら、彼は何かを愛おしむように笑っていた。
※
ティアを風呂で綺麗にした後、私達は寝室に戻った。
「火事はどうなったの?」
部屋に戻るまでの道のりがいつも通りだったから、ティアは不思議に思っていた。
「あれは煙を出す魔具を使ったんだよ」
調査団のやつらは寝室に入れはしなかったが、そこにティアがいることには気づいていた。だから、魔具を使ってティアを外におびき出すことにしたんだろう。
それにしても、迂闊だった。この世界の文明のレベルはかなり下がっているから、かつての世界にあった魔具はもうほとんどなくなっているものだとばかり思っていた。
でも、実際はフィアロン公爵領にあまり残っていないだけで、シトレディスの配下達はそれなりに持っているようだ。
「エルドノア様」
ベッドに座ったティアが不安げに私を見つめてきた。彼女はさっきからずっと私が怒ってないかと心配している。
私はティアの頬に口づけた。
「ごめん。すぐに助けにいけなくて」
「ううん。いいの」
━━全然良くないよ。
最近のティアはそれなりの知性を得た代わりに、羞恥心も身につけた。裸のままでいることを恥ずかしがるし、私以外の人間に身体をまさぐられるのをひどく嫌がるようになった。
そんな彼女にとって、今日の出来事はとても屈辱的なものだっただろう。
不意にティアが私の身体を抱きしめた。
「エルドノア様」
「何?」
「私のお願いを聞いてくれる?」
「どんな?」
「キスして?」
私はすぐ様、キスをした。
「んあっ、ふぁ」
舌を絡め合い互いの口の中を味わう。
━━これは、愛おしい、私の女だ。
ティアを抱きしめて、腰を優しく撫でてやる。そうするとくすぐったいらしく、時折、身体をびくびくさせた。
長いことキスをして、口の中を堪能して満足したティアは唇を離した。
その拍子にティアの首筋に目がいった。私が付けた数々のキスマークの上に、イレトが付けた歯型が残っている。
━━気に入らない。
私は、その痕に優しく口づけをして、生命の力を吹き込んだ。
「ほら、消しておいてあげたよ」
私の付けた痕も消えてしまったけれど、それはまた後で着け直せばいい。
ティアはにこりと笑うと私の頬にキスをした。
「さあ、ティア。そろそろ寝よう」
私は、彼女を抱きしめたまま、後ろに倒れた。枕の上にちょうど頭が乗って、そのまま寝られる体勢になった。
「やだ。えっちしたいの」
ティアはわがままを言った。
「だめ。今朝したばかりだから」
「ケチ」
「お前は自分の神に向かってなんて口の利き方をするんだ」
ティアのふくれっ面を指でつついた。
━━お前の身体に問題がなければ、私はお前を抱いているよ。
そう思っても、決して口にはしない。そんなことを言ったら、私達がシトレディスとあの男と同じだと言っているようなものだ。
「明日の夜するから。だから、今はおやすみ」
「本当? 私が忘れても、エルドノア様は忘れないでね」
「ああ」
「約束だよ?」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ、ティア」
ティアは私の胸に頭を乗せるとすぐに眠りに就いた。
━━殴られる。
痛みに耐えるために目を閉じた。
でも、いつまで経っても何の痛みも感じなかった。恐る恐る目を開けたら、そこには誰もいなかった。
私は一人取り残された部屋で、拘束を解こうともがいた。どうして男がいなくなったのかは分からないけれど、また戻って来るかもしれない。それまでの間に何とかして逃げたかった。
でも、手足を縛る紐は頑丈でびくともしなかった。
不意に、扉の開く音がした。
「ティア」
エルドノア様だった。エルドノア様は私の下に来るとすぐに手足の拘束を解いてくれた。それから、首輪を外してくれて、それを床に打ち捨てた。
「遅くなってごめん」
そう言いながら腰に巻かれたベルトを外して、張型を引き抜かれた。
「あぅ」
「ひどいことをするやつもいるものだね」
エルドノア様は私の胸につけられた楕円形のものを取り外し、それも投げ捨てた。
━━どうしよう。怒ってるのかな?
エルドノア様の表情がいつもより固い。何を考えているのかは分からないけれど、少なくともいい気分ではないことは確かだ。
「大体のことは察しがつくけど。何があったのかよく見せて?」
エルドノア様は私の額に手を当てて、目を瞑った。
「エルドノア様?」
何をしているの? と聞こうとしたら彼は目を開けた。
「記憶を見ていたんだよ。前にも話しただろう? お前の記憶は全て私に共有されるって」
そんな話をしたかな? 首をかしげたらエルドノア様は苦笑いを浮かべた。
「まあ、いい」
エルドノア様は私を横抱きにした。
「お風呂に行くよ」
「待って、身体を隠したいの」
私は素っ裸で胸もあそこも丸見えだ。こんな姿を屋敷の中にいる調査団の人達に見られたくない。
「安心して。調査団のやつらはもういないから」
「帰ったの?」
「ううん。私の餌になってもらったよ」
「そう」
彼らは悪い人だから。エルドノア様に食べられて、いなくなっても問題ない。
「お前は"ティア"の名前をもらっているくせに、残酷な考え方をするんだな」
どういう意味か分からない。エルドノア様を見たら、彼は何かを愛おしむように笑っていた。
※
ティアを風呂で綺麗にした後、私達は寝室に戻った。
「火事はどうなったの?」
部屋に戻るまでの道のりがいつも通りだったから、ティアは不思議に思っていた。
「あれは煙を出す魔具を使ったんだよ」
調査団のやつらは寝室に入れはしなかったが、そこにティアがいることには気づいていた。だから、魔具を使ってティアを外におびき出すことにしたんだろう。
それにしても、迂闊だった。この世界の文明のレベルはかなり下がっているから、かつての世界にあった魔具はもうほとんどなくなっているものだとばかり思っていた。
でも、実際はフィアロン公爵領にあまり残っていないだけで、シトレディスの配下達はそれなりに持っているようだ。
「エルドノア様」
ベッドに座ったティアが不安げに私を見つめてきた。彼女はさっきからずっと私が怒ってないかと心配している。
私はティアの頬に口づけた。
「ごめん。すぐに助けにいけなくて」
「ううん。いいの」
━━全然良くないよ。
最近のティアはそれなりの知性を得た代わりに、羞恥心も身につけた。裸のままでいることを恥ずかしがるし、私以外の人間に身体をまさぐられるのをひどく嫌がるようになった。
そんな彼女にとって、今日の出来事はとても屈辱的なものだっただろう。
不意にティアが私の身体を抱きしめた。
「エルドノア様」
「何?」
「私のお願いを聞いてくれる?」
「どんな?」
「キスして?」
私はすぐ様、キスをした。
「んあっ、ふぁ」
舌を絡め合い互いの口の中を味わう。
━━これは、愛おしい、私の女だ。
ティアを抱きしめて、腰を優しく撫でてやる。そうするとくすぐったいらしく、時折、身体をびくびくさせた。
長いことキスをして、口の中を堪能して満足したティアは唇を離した。
その拍子にティアの首筋に目がいった。私が付けた数々のキスマークの上に、イレトが付けた歯型が残っている。
━━気に入らない。
私は、その痕に優しく口づけをして、生命の力を吹き込んだ。
「ほら、消しておいてあげたよ」
私の付けた痕も消えてしまったけれど、それはまた後で着け直せばいい。
ティアはにこりと笑うと私の頬にキスをした。
「さあ、ティア。そろそろ寝よう」
私は、彼女を抱きしめたまま、後ろに倒れた。枕の上にちょうど頭が乗って、そのまま寝られる体勢になった。
「やだ。えっちしたいの」
ティアはわがままを言った。
「だめ。今朝したばかりだから」
「ケチ」
「お前は自分の神に向かってなんて口の利き方をするんだ」
ティアのふくれっ面を指でつついた。
━━お前の身体に問題がなければ、私はお前を抱いているよ。
そう思っても、決して口にはしない。そんなことを言ったら、私達がシトレディスとあの男と同じだと言っているようなものだ。
「明日の夜するから。だから、今はおやすみ」
「本当? 私が忘れても、エルドノア様は忘れないでね」
「ああ」
「約束だよ?」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ、ティア」
ティアは私の胸に頭を乗せるとすぐに眠りに就いた。
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