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20-1 赤いドレス
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目が覚めたら外が薄暗かった。どうやら日が沈むらしい。
━━もうすぐ夕食の時間かしら?
そう思って起き上がると、横で眠っていたアンドリュー卿が目を開けた。
「腹はすいてないか?」
彼は眠気眼でそう言った。
「ええ。少し」
「お前は本当に少食だな」
アンドリュー卿はむくりと起き上がるとぐっと伸びをした。
「食事を用意させるよ」
「そんなに急がなくても」
「昼飯も食わずに朝までずっと眠ってたんだぞ?」
「え?」
私はもう一度窓の外を見た。あれは夕日ではなく朝日だったらしい。
アンドリュー卿はその間に部屋を出ていき、しばらくしてから戻って来た。
「20分後には料理を持ってきてくれるそうだ。その間に支度をしよう」
そう言ってアンドリュー卿は私に服を手渡した。
それは赤いドレスで、ジェシカが普段着ている服と同じくらい綺麗で高価そうに見えた。
普段着ではこんな上質なものを身に着けたことがなかったから、手に取るのも気が引けてしまう。
「どうした? 気に入らないのか」
「・・・・・・いえ。こんなに素敵な服をもらってもいいのかと思って」
「お世辞が過ぎるぞ? この程度のものならジョルネスの家では当たり前に与えられていたはずだ」
そんなことはない。「無能で一族の恥知らず」には、こんな服は過ぎた物だから。
「気に入らないのなら、気に入らないとはっきり言え。別のものを用意するから」
「いえ。本当に素敵だと、思ったんです。ほら、ここの刺繍が綺麗でしょう?」
慌てて服を褒めると、アンドリュー卿は何とか納得してくれた。
着替えを終えて、鏡で自分の姿を見たら、自分とは思えないほど美しく思えた。
━━でも、ジェシカが着た方がもっと綺麗よね。
ジェシカは赤い色が好きでドレスも赤のものを好んで着ていた。赤い服は彼女の白い肌を引き立てて、ジェシカにはよく似合っていたことを思い出す。
━━元気にしているかしら。
急に家を飛び出すことになったから、別れの挨拶もできなかった。
私を慕ってくれて、常に私を味方してくれた善良でかわいい妹。それに対して私は酷い仕打ちをしたのではないかと、今更ながら思った。
「シア」
アンドリュー卿に呼ばれてはっとした。
「やっぱり気に入らないんだろう」
「え?」
一瞬、何の事か分からなかった。
「朝食を食べたら仕立て屋に行くぞ。そこで好みのものを選んでくれ」
「この服は気に入ってるから」
「じゃあ、何でそんな暗い顔で鏡を見ているんだ」
"ジェシカのことを考えていた"と言おうとして、やっぱりやめた。彼のことだから、そんなことを言えば、私がジョルネス家に戻りたいと思っていると勘違いされかねない。
━━何か、言わなきゃ。
アンドリュー卿は冷めた目で私を睨みつけていた。このまま何も言わないでいたら、また彼の機嫌を損ねてしまう。
「この服に、合う装飾品が思いつかなくて」
出てきた言葉はあまりにも苦し紛れの言い訳だった。こんなことをいきなり言い出すのだから、アンドリューは怒るのだと思った。でも、彼は私をじっと見つめて、顎に手を当てた。
ずっと見つめられるといたたまれない気分になってくる。
「あの・・・・・・」
「俺にも分らん」
そんなに見ないでと言おうとした時、アンドリュー卿が言った。
「宝石も見に行こう」
「へ? あの」
これじゃあ、私が宝石をねだったみたいだ。卑しいことこの上ない。そうは思っても、自分から装飾品の話をしたのにいらないと言うのは不自然だった。
━━もうすぐ夕食の時間かしら?
そう思って起き上がると、横で眠っていたアンドリュー卿が目を開けた。
「腹はすいてないか?」
彼は眠気眼でそう言った。
「ええ。少し」
「お前は本当に少食だな」
アンドリュー卿はむくりと起き上がるとぐっと伸びをした。
「食事を用意させるよ」
「そんなに急がなくても」
「昼飯も食わずに朝までずっと眠ってたんだぞ?」
「え?」
私はもう一度窓の外を見た。あれは夕日ではなく朝日だったらしい。
アンドリュー卿はその間に部屋を出ていき、しばらくしてから戻って来た。
「20分後には料理を持ってきてくれるそうだ。その間に支度をしよう」
そう言ってアンドリュー卿は私に服を手渡した。
それは赤いドレスで、ジェシカが普段着ている服と同じくらい綺麗で高価そうに見えた。
普段着ではこんな上質なものを身に着けたことがなかったから、手に取るのも気が引けてしまう。
「どうした? 気に入らないのか」
「・・・・・・いえ。こんなに素敵な服をもらってもいいのかと思って」
「お世辞が過ぎるぞ? この程度のものならジョルネスの家では当たり前に与えられていたはずだ」
そんなことはない。「無能で一族の恥知らず」には、こんな服は過ぎた物だから。
「気に入らないのなら、気に入らないとはっきり言え。別のものを用意するから」
「いえ。本当に素敵だと、思ったんです。ほら、ここの刺繍が綺麗でしょう?」
慌てて服を褒めると、アンドリュー卿は何とか納得してくれた。
着替えを終えて、鏡で自分の姿を見たら、自分とは思えないほど美しく思えた。
━━でも、ジェシカが着た方がもっと綺麗よね。
ジェシカは赤い色が好きでドレスも赤のものを好んで着ていた。赤い服は彼女の白い肌を引き立てて、ジェシカにはよく似合っていたことを思い出す。
━━元気にしているかしら。
急に家を飛び出すことになったから、別れの挨拶もできなかった。
私を慕ってくれて、常に私を味方してくれた善良でかわいい妹。それに対して私は酷い仕打ちをしたのではないかと、今更ながら思った。
「シア」
アンドリュー卿に呼ばれてはっとした。
「やっぱり気に入らないんだろう」
「え?」
一瞬、何の事か分からなかった。
「朝食を食べたら仕立て屋に行くぞ。そこで好みのものを選んでくれ」
「この服は気に入ってるから」
「じゃあ、何でそんな暗い顔で鏡を見ているんだ」
"ジェシカのことを考えていた"と言おうとして、やっぱりやめた。彼のことだから、そんなことを言えば、私がジョルネス家に戻りたいと思っていると勘違いされかねない。
━━何か、言わなきゃ。
アンドリュー卿は冷めた目で私を睨みつけていた。このまま何も言わないでいたら、また彼の機嫌を損ねてしまう。
「この服に、合う装飾品が思いつかなくて」
出てきた言葉はあまりにも苦し紛れの言い訳だった。こんなことをいきなり言い出すのだから、アンドリューは怒るのだと思った。でも、彼は私をじっと見つめて、顎に手を当てた。
ずっと見つめられるといたたまれない気分になってくる。
「あの・・・・・・」
「俺にも分らん」
そんなに見ないでと言おうとした時、アンドリュー卿が言った。
「宝石も見に行こう」
「へ? あの」
これじゃあ、私が宝石をねだったみたいだ。卑しいことこの上ない。そうは思っても、自分から装飾品の話をしたのにいらないと言うのは不自然だった。
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