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それから三年の月日が経った春だった。
街の人々は相変わらず白百合の聖女を敬い、感謝を捧げていたし、そんな彼らの顔をオフィリアも覚えられた。
時間は確かに過ぎ去り、季節は幾度も巡っていた。オフィリアはこの土地での生活にすっかりと馴染んでいたのだ。
そして、オフィリアとジョンとの関係はというと。
彼は今も変わらず、オフィリアを想っていた。そして、オフィリアも、いつしかはっきりとジョンを恋い慕うようになったのだ。
二人はゆっくりと、着実に、互いへの愛を育んでいた。
しかし、結婚の話だけは、彼女は先延ばしにしている。
「気持ちが定まらないの。もう少しだけ、待ってくれる?」
そう言ったのは、決して迷いや、不満があったからではない。
オフィリアは、自分の幸せを望むことができるようにはなっていた。けれど、どこか心の奥に、まだ神に赦されていないような気がしていたのだ。
かつて、白百合の聖女でありながら、神の言葉に背き、自分の考えを優先してしまったこと。それで救えた命も確かにあったが、それは言い訳でしかないとオフィリアは考えている。
そんな自分が、穏やかな生活を送り、愛する人の隣にいる。それは時折、贅沢で、許されざることのように思えた。
それでも、今では、自分が「白百合の聖女ではない」とは思っていない。それは、ジョンやこの土地の人々が、オフィリアに自信を与えてくれたから。彼女はそれに応えるためにも、白百合の聖女であり続けたいと思ったのだ。
だから、日々の祈りは欠かさなかった。癒しの力を使って、人々を助けながら、神に感謝の心を捧げていた。
そして、今。祈りの最中、ふいに頭の中で優しく響く声がオフィリアに聞こえた。
━━神のお告げ。
それは、マクレーン王国を離れてから、ずっと途絶えていたものだった。
“私の愛し子よ。今すぐ、東の山に向かいなさい。お前の力で大切なものを救うのです”
神は、確かにそう告げていた。
驚きとともに不吉な予感がして、オフィリアはすぐに領民達に声をかけ、東の山へと向かった。
険しい山道を、多くの人の助けを借りながら探して回った。やがて、探索に出た者の一人が、倒れているジョンと部下たちを発見した。
「ジョン……!」
オフィリアが彼の元へ駆け寄ると、酷い怪我をしていた。ジョンだけではない。彼の部下達も血だらけだった。
「今すぐ、みんな助けるから」
オフィリアはそう言うと、ジョンの怪我をした背中に手をかざし、聖なる力で癒していく。
長い時をかけて、治療をした後、オフィリアは彼らから何があったのかを聞いた。
彼らは、野生の獣に襲われ、何とか仕留める事はできたものの、多くの者が負傷してしまったのだ。そのため、動くこともままならず山中で立ち往生していたという。
だが幸いにもオフィリアがやって来た。彼女の癒しの力が、なければ全員無事とは行かなかっただろうとジョンは語った。
「助けてくれてありがとう、オフィリア」
そう呟いた彼の顔は、ほっとしたと同時に少し畏敬の念が見えた。
こうして、全員が無事に山を下りた。
オフィリアは屋敷に戻ってから、もう一度祈りを捧げた。そして、胸に手をあてて、改めて今日の神託を思い返していた。
━━「大切なものを救え」か。
ジョンを助けるために、自分に再び神の声が降りたこと。それはつまり、自分が彼を想い、大切に思う気持ちを、神が受け入れてくれたのではないのだろうか。
そう思った瞬間、肩にかかっていた重たいものが、ふっと解けていくような感覚があった。
※
翌日、白百合が静かに揺れる午後。オフィリアはジョンを屋敷の庭へと呼び出した。
白い花の香りが、やさしく風に乗って漂っている。
「ジョン。話したいことがあるの」
彼が少し驚いた顔を見せたが、すぐに穏やかな笑みで頷いた。
オフィリアは、昨日の神託の事を話した。そして、それをどう受け止めたのか、自分の中で何が変わったのかも。
ジョンは黙って聞いていたが、オフィリアの言葉が終わるのを待って、彼は柔らかく微笑んだ。
「君がそう思えるようになって、本当に良かった」
オフィリアは、小さく頷いた。そして、彼女は意を決して、彼に尋ねた。
「ねえ、ジョン。まだ私と結婚したいと思ってくれている?」
それは、今までで一番素直な問いだった。
ジョンは、ふっと息を吐いて笑うと、いつもの優しい声で答えた。
「もちろん。今も、これからも、ずっと」
彼はオフィリアの手を取った。
「改めて言わせてもらう。好きだよ、オフィリア。俺と結婚してくれないか」
「はい。長いこと待ってくれてありがとう。これからはずっと、二人で幸せに暮らしていきましょう」
オフィリアは泣きそうになりながらも、優しく微笑んだ。
白百合は静かに風に揺れていた。まるで、二人の未来を祝福するかのように。
『偽物の聖女ですが何か?』了
街の人々は相変わらず白百合の聖女を敬い、感謝を捧げていたし、そんな彼らの顔をオフィリアも覚えられた。
時間は確かに過ぎ去り、季節は幾度も巡っていた。オフィリアはこの土地での生活にすっかりと馴染んでいたのだ。
そして、オフィリアとジョンとの関係はというと。
彼は今も変わらず、オフィリアを想っていた。そして、オフィリアも、いつしかはっきりとジョンを恋い慕うようになったのだ。
二人はゆっくりと、着実に、互いへの愛を育んでいた。
しかし、結婚の話だけは、彼女は先延ばしにしている。
「気持ちが定まらないの。もう少しだけ、待ってくれる?」
そう言ったのは、決して迷いや、不満があったからではない。
オフィリアは、自分の幸せを望むことができるようにはなっていた。けれど、どこか心の奥に、まだ神に赦されていないような気がしていたのだ。
かつて、白百合の聖女でありながら、神の言葉に背き、自分の考えを優先してしまったこと。それで救えた命も確かにあったが、それは言い訳でしかないとオフィリアは考えている。
そんな自分が、穏やかな生活を送り、愛する人の隣にいる。それは時折、贅沢で、許されざることのように思えた。
それでも、今では、自分が「白百合の聖女ではない」とは思っていない。それは、ジョンやこの土地の人々が、オフィリアに自信を与えてくれたから。彼女はそれに応えるためにも、白百合の聖女であり続けたいと思ったのだ。
だから、日々の祈りは欠かさなかった。癒しの力を使って、人々を助けながら、神に感謝の心を捧げていた。
そして、今。祈りの最中、ふいに頭の中で優しく響く声がオフィリアに聞こえた。
━━神のお告げ。
それは、マクレーン王国を離れてから、ずっと途絶えていたものだった。
“私の愛し子よ。今すぐ、東の山に向かいなさい。お前の力で大切なものを救うのです”
神は、確かにそう告げていた。
驚きとともに不吉な予感がして、オフィリアはすぐに領民達に声をかけ、東の山へと向かった。
険しい山道を、多くの人の助けを借りながら探して回った。やがて、探索に出た者の一人が、倒れているジョンと部下たちを発見した。
「ジョン……!」
オフィリアが彼の元へ駆け寄ると、酷い怪我をしていた。ジョンだけではない。彼の部下達も血だらけだった。
「今すぐ、みんな助けるから」
オフィリアはそう言うと、ジョンの怪我をした背中に手をかざし、聖なる力で癒していく。
長い時をかけて、治療をした後、オフィリアは彼らから何があったのかを聞いた。
彼らは、野生の獣に襲われ、何とか仕留める事はできたものの、多くの者が負傷してしまったのだ。そのため、動くこともままならず山中で立ち往生していたという。
だが幸いにもオフィリアがやって来た。彼女の癒しの力が、なければ全員無事とは行かなかっただろうとジョンは語った。
「助けてくれてありがとう、オフィリア」
そう呟いた彼の顔は、ほっとしたと同時に少し畏敬の念が見えた。
こうして、全員が無事に山を下りた。
オフィリアは屋敷に戻ってから、もう一度祈りを捧げた。そして、胸に手をあてて、改めて今日の神託を思い返していた。
━━「大切なものを救え」か。
ジョンを助けるために、自分に再び神の声が降りたこと。それはつまり、自分が彼を想い、大切に思う気持ちを、神が受け入れてくれたのではないのだろうか。
そう思った瞬間、肩にかかっていた重たいものが、ふっと解けていくような感覚があった。
※
翌日、白百合が静かに揺れる午後。オフィリアはジョンを屋敷の庭へと呼び出した。
白い花の香りが、やさしく風に乗って漂っている。
「ジョン。話したいことがあるの」
彼が少し驚いた顔を見せたが、すぐに穏やかな笑みで頷いた。
オフィリアは、昨日の神託の事を話した。そして、それをどう受け止めたのか、自分の中で何が変わったのかも。
ジョンは黙って聞いていたが、オフィリアの言葉が終わるのを待って、彼は柔らかく微笑んだ。
「君がそう思えるようになって、本当に良かった」
オフィリアは、小さく頷いた。そして、彼女は意を決して、彼に尋ねた。
「ねえ、ジョン。まだ私と結婚したいと思ってくれている?」
それは、今までで一番素直な問いだった。
ジョンは、ふっと息を吐いて笑うと、いつもの優しい声で答えた。
「もちろん。今も、これからも、ずっと」
彼はオフィリアの手を取った。
「改めて言わせてもらう。好きだよ、オフィリア。俺と結婚してくれないか」
「はい。長いこと待ってくれてありがとう。これからはずっと、二人で幸せに暮らしていきましょう」
オフィリアは泣きそうになりながらも、優しく微笑んだ。
白百合は静かに風に揺れていた。まるで、二人の未来を祝福するかのように。
『偽物の聖女ですが何か?』了
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