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“婚約破棄”
それは、悪役令嬢にとってバッドエンドへの入り口となる恐ろしいものだ。
だが、私にとってそれは自由への第一歩となる。
前世の記憶を持つ私は、この世界が乙女ゲームの舞台であり、自分が悪役令嬢ビアンカ・ボルジア公爵令嬢に転生した事を知っていた。
そして、私の婚約者である王太子ラウルは、やがてヒロインである伯爵令嬢ルーナ・コロンナに心を奪われ、私との婚約を破棄することも。
ゲームではビアンカが嫉妬に狂いルーナを陥れようとしたけれど、ことごとく失敗してしまった。そして、ビアンカの悪行が白日の下に晒されると良くて国外追放か、悪くて処刑を迎える運命にあった。
でも、それはあくまでも悪役令嬢のビアンカの話。ゲームの知識を持って生まれた私とは違うのだ。
私は、ビアンカのように嫉妬に狂って、無謀で愚かな真似は一切しなかった。彼の浮気が発覚し、その噂が広まっても、私は実直に変わらない日々を過ごしていた。
ラウルとの婚約が決まってからというもの、私は妃教育に明け暮れていた。
知識と教養を身に着ける為に一日の大半を勉強時間に費やし、自由な時間はほんとんどなかった。たまに外に出かける事もあったけれど、それはあくまでも社交活動の一環だった。
本音をひた隠しにして、にこにこと微笑み、人脈を広げる作業。それは部屋で勉強している時と変わらず、気が休まらなかった。
最初の頃は、バッドエンドを避けて王太子妃になるために、つまらない毎日に耐えていた。けれど、ある日思ってしまった。
私はラウルのために、ここまでやる必要があるのか、と。
ラウルは王太子のくせに、帝王学を真面目に学ばなかった。彼は自分が将来国王になれば、全てが自分の思うままにできると思い込んでいたのだ。
あまりにも幼稚な考えに、最初こそラウルを諫めていたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。それどころか、私を煙たく思ったらしく、各方々で私の悪口を言うようになった。生意気だとか、まだ結婚していないのに王太子妃気取りだとか。それだけなら、まだ許せたけれど、彼は我が家の悪口まで言っていた。
「ボルジア家の人間は俺のやること成すことに口を挟んできて鬱陶しい。俺が王になった暁にはビアンカを廃妃にして家門を取り潰してやる」
彼はそう言って回っていたそうだ。
それで私の気持ちはすんと冷めた。そして、思ったのだ。ラウルはいらないと。こんな人間のために私達の家門が尽くす理由もないし、愚かな彼を国王にさせてはいけないと思った。それをお父様に伝えると、お父様も同じ考えだったらしく、私達の婚約を円満な形で解消する事を模索していると言った。
だから、私はお父様に教えた。ルーナに惚れたラウルは近い将来、必ず私に婚約破棄をしてくるだろうと。
その際に、彼からの一方的な要求を受け入れて、多額の賠償をもらえば良いのではないかと。
そうすれば、我が家に損はないはずだと私は説得したのだ。
お父様はその根拠を求めた。
勿論、ゲームの知識を元にしたのだとは言わなかった。知人から聞いた話やラウルのこれまでの言動からの推測だと答えると、お父様は考えてみる価値はありそうだと判断した。
そうして、ラウルの身辺調査をした結果、お父様は私の話が概ねあっているだろうと結論付けた。
「婚約破棄の日まで、気を抜くな。お前の評判が下がらないように、私の方も根回しをしておくから」
お父様はそう言って、私を激励したのだ。
それから、3年経った現在。
今日は待ちに待ったラウルが18歳の誕生を祝う宴の日だ。そして、いよいよ婚約破棄を宣言される日でもある。
私は慎重に振る舞い、この場をうまく切り抜けるつもりだった。
ラウル達は婚約破棄の宣言によって、私を再起不能にするつもりでいるらしいけれど……。
━━再起不能なんてとんでもない。むしろ、婚約破棄は豊かな人生への第一歩だわ!!
私はこれから自由の身になるのだと思うと、胸が熱くなった。
そして、宴も中盤に差し掛かり、人々が楽団の演奏の中で、話に花を咲かせていた時だった。
「ビアンカ・ボルジア! 貴様との婚約を破棄する!」
待ってましたと言わんばかりのラウルの台詞に、私は心の中でガッツポーズをきめた。
腹の底から喜びの声をあげたくなるのを堪えて、私はいつも通りの静かな笑みを浮かべる。
「そして、俺はルーナと婚約を結ぶことをここに宣言する! ビアンカよ。何か言いたい事はあるか?」
私が泣いて縋るとでも思っているのだろうか。そんなことをするのは愚の骨頂だというのに。
私はとびきりの笑顔を作ると、彼に向けて言った。
「まあ、それはおめでとうございます、殿下」
「え?」
ラウルは驚き、ルーナも「あれ?」と首をかしげる。奇異な物を見るような貴族たちの視線も集まるが、私は動じない。
「婚約破棄を確かに承りました。王太子殿下には、ルーナ嬢のような優しく寛大で素晴らしい方がふさわしいのでしょう。どうか末永くお幸せに」
私は恭しく一礼し、その場を去った。
━━完璧。これで私は自由よ!
これから、優雅な独身生活を謳歌できる! 妃教育で忙しいからと我慢することももうない。明日はゆっくり、まったりと家の中で過ごそう。
そう思っていたのに━━
次の日、ボルジアの屋敷には多くの人が押し寄せてきたのだ。
それは、悪役令嬢にとってバッドエンドへの入り口となる恐ろしいものだ。
だが、私にとってそれは自由への第一歩となる。
前世の記憶を持つ私は、この世界が乙女ゲームの舞台であり、自分が悪役令嬢ビアンカ・ボルジア公爵令嬢に転生した事を知っていた。
そして、私の婚約者である王太子ラウルは、やがてヒロインである伯爵令嬢ルーナ・コロンナに心を奪われ、私との婚約を破棄することも。
ゲームではビアンカが嫉妬に狂いルーナを陥れようとしたけれど、ことごとく失敗してしまった。そして、ビアンカの悪行が白日の下に晒されると良くて国外追放か、悪くて処刑を迎える運命にあった。
でも、それはあくまでも悪役令嬢のビアンカの話。ゲームの知識を持って生まれた私とは違うのだ。
私は、ビアンカのように嫉妬に狂って、無謀で愚かな真似は一切しなかった。彼の浮気が発覚し、その噂が広まっても、私は実直に変わらない日々を過ごしていた。
ラウルとの婚約が決まってからというもの、私は妃教育に明け暮れていた。
知識と教養を身に着ける為に一日の大半を勉強時間に費やし、自由な時間はほんとんどなかった。たまに外に出かける事もあったけれど、それはあくまでも社交活動の一環だった。
本音をひた隠しにして、にこにこと微笑み、人脈を広げる作業。それは部屋で勉強している時と変わらず、気が休まらなかった。
最初の頃は、バッドエンドを避けて王太子妃になるために、つまらない毎日に耐えていた。けれど、ある日思ってしまった。
私はラウルのために、ここまでやる必要があるのか、と。
ラウルは王太子のくせに、帝王学を真面目に学ばなかった。彼は自分が将来国王になれば、全てが自分の思うままにできると思い込んでいたのだ。
あまりにも幼稚な考えに、最初こそラウルを諫めていたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。それどころか、私を煙たく思ったらしく、各方々で私の悪口を言うようになった。生意気だとか、まだ結婚していないのに王太子妃気取りだとか。それだけなら、まだ許せたけれど、彼は我が家の悪口まで言っていた。
「ボルジア家の人間は俺のやること成すことに口を挟んできて鬱陶しい。俺が王になった暁にはビアンカを廃妃にして家門を取り潰してやる」
彼はそう言って回っていたそうだ。
それで私の気持ちはすんと冷めた。そして、思ったのだ。ラウルはいらないと。こんな人間のために私達の家門が尽くす理由もないし、愚かな彼を国王にさせてはいけないと思った。それをお父様に伝えると、お父様も同じ考えだったらしく、私達の婚約を円満な形で解消する事を模索していると言った。
だから、私はお父様に教えた。ルーナに惚れたラウルは近い将来、必ず私に婚約破棄をしてくるだろうと。
その際に、彼からの一方的な要求を受け入れて、多額の賠償をもらえば良いのではないかと。
そうすれば、我が家に損はないはずだと私は説得したのだ。
お父様はその根拠を求めた。
勿論、ゲームの知識を元にしたのだとは言わなかった。知人から聞いた話やラウルのこれまでの言動からの推測だと答えると、お父様は考えてみる価値はありそうだと判断した。
そうして、ラウルの身辺調査をした結果、お父様は私の話が概ねあっているだろうと結論付けた。
「婚約破棄の日まで、気を抜くな。お前の評判が下がらないように、私の方も根回しをしておくから」
お父様はそう言って、私を激励したのだ。
それから、3年経った現在。
今日は待ちに待ったラウルが18歳の誕生を祝う宴の日だ。そして、いよいよ婚約破棄を宣言される日でもある。
私は慎重に振る舞い、この場をうまく切り抜けるつもりだった。
ラウル達は婚約破棄の宣言によって、私を再起不能にするつもりでいるらしいけれど……。
━━再起不能なんてとんでもない。むしろ、婚約破棄は豊かな人生への第一歩だわ!!
私はこれから自由の身になるのだと思うと、胸が熱くなった。
そして、宴も中盤に差し掛かり、人々が楽団の演奏の中で、話に花を咲かせていた時だった。
「ビアンカ・ボルジア! 貴様との婚約を破棄する!」
待ってましたと言わんばかりのラウルの台詞に、私は心の中でガッツポーズをきめた。
腹の底から喜びの声をあげたくなるのを堪えて、私はいつも通りの静かな笑みを浮かべる。
「そして、俺はルーナと婚約を結ぶことをここに宣言する! ビアンカよ。何か言いたい事はあるか?」
私が泣いて縋るとでも思っているのだろうか。そんなことをするのは愚の骨頂だというのに。
私はとびきりの笑顔を作ると、彼に向けて言った。
「まあ、それはおめでとうございます、殿下」
「え?」
ラウルは驚き、ルーナも「あれ?」と首をかしげる。奇異な物を見るような貴族たちの視線も集まるが、私は動じない。
「婚約破棄を確かに承りました。王太子殿下には、ルーナ嬢のような優しく寛大で素晴らしい方がふさわしいのでしょう。どうか末永くお幸せに」
私は恭しく一礼し、その場を去った。
━━完璧。これで私は自由よ!
これから、優雅な独身生活を謳歌できる! 妃教育で忙しいからと我慢することももうない。明日はゆっくり、まったりと家の中で過ごそう。
そう思っていたのに━━
次の日、ボルジアの屋敷には多くの人が押し寄せてきたのだ。
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