【完結】悪役令嬢はバッドエンド回避で自由になり平穏に生きるはずだったのに、なぜこんなに求婚が!?

花草青依

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番外編 理想の彼女

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 俺が隣国を訪れたのは、外交交渉のための特使の一人だったからだ。

「ジェラルド・フォン・アイゼンハルト公爵でいらっしゃいますね」
「ああ」
 話しかけてきた貴婦人は、妙に熱っぽい目で俺を伺い見ていた。

 ━━男漁りなら、他でやって欲しいものだな。

 内心でそう思いながらも、彼女のつまらない話に合わせた。

 貴族の社交界は、形式と虚飾にまみれた場所だ。そして、それはどこの国でも変わらないらしい。

 俺達のために開かれた舞踏会は、豪華なシャンデリアが輝き、着飾った貴族たちが集う華やかなものだった。
 しかし、そこでの交流は取り繕うばかりで中身が薄く、酷く退屈なものだった。そのほとんどは、内容のない会話と互いの利害の探り合いに終始していた。

 ━━今日もこのまま、退屈な夜を過ごすことになるのだろう。

 愛想笑いを浮かべるのにも嫌気が差してきた時、一人の少女と出会った。

「初めまして、ジェラルド公爵閣下。そして、ようこそ、我が国へ」
「歓迎ありがとう。ところで君は?」
「申し遅れました。私はビアンカ・ボルジアです。以後、お見知りおきを」
 ビアンカは名を告げると、恭しく一礼をした。その指先まで洗練された美しい所作に目が引かれた。

「ボルジア公爵のご令嬢か」
「はい。私のことをご存知で?」
「勿論、ラウル王子の婚約者は美しい人だと聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなかったよ」
「まあ! 公爵閣下はお世辞がお上手なのですね」
 彼女はにこりと作り笑いを浮かべた。

 ━━流石はこの国の政治を支えてきた名門貴族の娘だ。適当な世辞を本気にせずに、軽くいなせるのだな。

 感心していると、今度は彼女の方から世辞の言葉を投げかけてきた。

「私も、公爵閣下のご高名は、以前から耳にしておりますわ」
「それはどういう意味だろうか」
 意地悪く尋ねてみたが、彼女は動じなかった。
「勿論、良い意味に決まっています」
 彼女は微かに唇の端を上げた。一見柔らかな笑顔だったが、その瞳の奥に宿る鋭い知性を俺は見逃さなかった。

 ━━これは、只者ではないな。

 どうやら彼女は、お飾りの王太子妃ではないらしい。
 この場において一歩も引かず、むしろ私が特使としての資質のある人物かと探るような視線を向けてくる。
 だから、俺は彼女を試してみたくなくなった。

「我らとの外交について、どう思う?」
「急に難しい質問をなされるのですね」
「貴女なら、何かしらの答えを持っているのでは? と、思ってな」

 彼女は少し考え込み、やがてゆっくりと口を開いた。

「私の立場から申し上げられる事は、何もございません」
「ほう?」
 期待外れだと思って、落胆した。所詮はうら若い少女特有の無鉄砲な態度だったのかと思ったその時、彼女は再び口を開いた。
「しかし、僭越ながらを述べますと、貴国と我が国の交易はもう少し準備が必要かと思いましたわ」
「もっと慎重になれというのか?」
「ええ。貴国との交易そのものは大変素晴らしいことですが、例えば関税ですとか、国境付近に現れる野盗ですとか、細かな問題が山積みですから。それを無視して一気に押し進めれば、いずれどこかで大きな問題が起こらないかと心配で……」
 私は思わず、目を見張った。

「なるほど」
 彼女は俺と同じ所に着目していた。明日の会議で話そうと思っていた事の一つをここで聞くとは思わなかった。
 ここまでの考察ができるという事は、日頃から両国の事情についてそれなりの勉強をしているのだろう。
 婚約者であるラウル王子は、大した事のない男だと思ったが、その婚約者は侮れない人物のようだ。

「公爵閣下?」
 呼ばれてはっとする。ビアンカを見れば、彼女は困ったような顔で俺を見上げていた。
「一介の貴族の小娘が生意気な事を申し上げてしまいました」
 どうやら彼女は、俺を不機嫌にさせたと思ったらしい。俺は慌てて、謝罪をする彼女を止めた。
「そんなことはない。うちの外交官に見習わせたい程の良い着眼点だ」
 心から褒めてやったというのに、彼女は控えめに微笑むだけだった。

 ━━彼女は、あの王子の妻にするのは勿体ないな。

 そんなことを俺が考えているとも知らず、目の前のビアンカは礼儀正しく、俺の言葉に返事をした。







 あれから、3年後、隣国の馬鹿な王子が婚約者を振ったというニュースが、我が国にも流れてきた。
 ビアンカの名を聞いた時、俺はあの舞踏会での会話を思い出した。

 ━━聡明な彼女を振った愚かな王子に礼を言わなければならないな。

 俺は彼女を迎えに行くために、長期の休暇を申請すると、外交官達はぎょっとした目で俺を見た。

「閣下は結婚を引き延ばしにしたいから、わざと冷酷無比な振る舞いをしてきたのでは?」
 部下の一人が尋ねてきた。
「そうだな。だが、ビアンカ嬢となら結婚してもいいと思った」
「そう、ですか」
 部下は「そんなにいい女だったか」と言いたげな顔で俺を見た。他人を見る目がないし、思考を読み取られるなんて、外交官向きではない。その根性を叩き直してやるべきだ。
 だが、それは後にするべき事だ━━

 ビアンカの価値に気付いている男はきっと俺以外にもいるはず。彼らに取られる前に、何としてでも、彼女に選ばれなければならないのだから。グズグズしている暇はないのだ。



『悪役令嬢はバッドエンド回避で自由になり平穏に生きるはずだったのに、なぜこんなに求婚が!?』了
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