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3-1 氷の令嬢
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それからほんの少し時間が経って、もうすぐお昼という時に、王室から使者がやって来た。
使者はお父様に手紙を一枚、そして私にも一枚渡してきた。
「エドワード殿下からイザベラ様に贈り物です」
使者はそう言って、様々な物を渡そうとしてきたけれど、お母様はそれら全てを丁重に断った。
お母様達がそんなやり取りをしている最中に、私は手紙を読んだ。差出人はエドワード殿下だった。
"16の春、君を初めて見た時から心を奪われた。この想いを君に伝えられる機会をくれた神に感謝を捧げているところだ。次に君と会える日を心待ちにしている"
私はその手紙を読んで首を傾げた。
━━私に一目惚れしたというの?
私は鏡台の前に座って自分を見た。
お父様に似た灰色の瞳は冷たい印象を与える上に、少し吊り上がっている。お母様と同じ青銀のストレートの長い髪と白い肌は、幽霊のような不気味な印象を与えて不健康に見えるらしい。お母様は雪の妖精と例えられるくらい美しいのに、不思議なものだ。
━━━エリナの方がかわいくて魅力的だわ。
あのピンクのふわふわの髪にブラウンの大きくてくりくりした瞳をした彼女は誰がどうみてもかわいらしいと思う。男の人がエリナの気を引こうと必死になるとのは当然のことだった。
━━エドワード殿下って、変な人。
私はそう思いながら、手紙を引き出しの中にしまった。
※
それから一週間後、私とフィリップ様の婚約は解消された。賠償として、マシュー公爵家からダイヤの鉱山と金貨5万枚を受け取った。大衆の面前で婚約破棄を言い渡されて恥をかかされたことを考慮しても、この賠償額は多いものだった。「これ以上事を大きくしてほしくない」というマシュー公爵の意思の表れなのだろう。
でも、私達が静かにしていても事は勝手に大きなものになっていった。
"イザベラ令嬢、フィリップ令息と愛人が結ばれたことを恨んでの報復か? 多額の賠償を要求!"
ゴシップ記事にはそんな見出しが大きく踊っていた。世間では、私達の婚約解消は相変わらず面白おかしく騒がれていたのだ。
「まるでベラが嫉妬に狂った意地悪な女みたいに書いて! 名誉毀損で訴えてやるわ!」
お母様は美しい顔に皺を寄せて言った。
「どこのイザベラとフィリップなのか書いていませんから、訴えるとそれはそれで恥をかくことになりますよ」
「嫌らしいこと! これだから三流紙のゴシップ記事は嫌いなのよ」
怒ったお母様は新聞を捨てようとしたけれど、メイドは念の為に保管すると言って新聞を受け取った。
「それにしても、こんな時でも、あなたは怒らないのね」
「ごめんなさい」
「叱っているわけじゃないの。心配しているのよ」
それなら、なおさら謝らなければいけない。でも、そうしたらお母様をもっと困らせてしまう。だから私は、めいいっぱい笑った。
「何、その顔?」
でも、私の表情は不格好だったらしい。お母様は「おかしい」と言って笑った。
私は変な人間だ。人よりも感情が薄いみたいで、他の人に比べて心が動くことが少ない。その上、感じたことや思っていることの表現が苦手で、周囲からみれば冷たい反応をしているらしい。だから、周りの雰囲気を壊してしまって、色々な人に何度も迷惑をかけている。
そのせいで、私はいつの間にか"氷の令嬢"と呼ばれるようになってしまった。
「こんな私のどこがいいのかしら」
「どうしたの? 急に」
「エドワード殿下のお手紙に書いてあったんです。『君の感情表現は見ていて愛おしい』って」
あれからエドワード殿下は毎日、手紙をくれた。内容はどれも、私に会いたいということと、私のことを好きだということだった。
フィリップ様との婚約が解消するまではエドワード殿下と接触をするなとお父様に言われていた。だから、返事を書かなかったけれど、それでもエドワード殿下は毎日手紙をくれる。
「エドワード殿下は見る目があるわね」
お母様はにこりと笑った。
「ねえ、ベラはエドワード殿下のことをどう思っているの?」
お母様の目から期待の色がはっきりと浮かんでいる。でも、お母様の期待には答えられない。
「挨拶程度の知り合いです」
「それだけ?」
お母様は途端に顔を曇らせた。
「話しやすい人だとは思いますよ?」
お母様の期待に添えないことが何だか申し訳なくなったからフォローした。
「それならこれから仲が深まるかもしれないわね」
「そうでしょうか」
「ええ。フィリップ子息との婚約が解消されたんだから、お返事を書いてあげなさい。お父様には私から言っておくから」
「はい」
お母様は席を立った。早速、お父様に伝えに行くつもりらしい。
使者はお父様に手紙を一枚、そして私にも一枚渡してきた。
「エドワード殿下からイザベラ様に贈り物です」
使者はそう言って、様々な物を渡そうとしてきたけれど、お母様はそれら全てを丁重に断った。
お母様達がそんなやり取りをしている最中に、私は手紙を読んだ。差出人はエドワード殿下だった。
"16の春、君を初めて見た時から心を奪われた。この想いを君に伝えられる機会をくれた神に感謝を捧げているところだ。次に君と会える日を心待ちにしている"
私はその手紙を読んで首を傾げた。
━━私に一目惚れしたというの?
私は鏡台の前に座って自分を見た。
お父様に似た灰色の瞳は冷たい印象を与える上に、少し吊り上がっている。お母様と同じ青銀のストレートの長い髪と白い肌は、幽霊のような不気味な印象を与えて不健康に見えるらしい。お母様は雪の妖精と例えられるくらい美しいのに、不思議なものだ。
━━━エリナの方がかわいくて魅力的だわ。
あのピンクのふわふわの髪にブラウンの大きくてくりくりした瞳をした彼女は誰がどうみてもかわいらしいと思う。男の人がエリナの気を引こうと必死になるとのは当然のことだった。
━━エドワード殿下って、変な人。
私はそう思いながら、手紙を引き出しの中にしまった。
※
それから一週間後、私とフィリップ様の婚約は解消された。賠償として、マシュー公爵家からダイヤの鉱山と金貨5万枚を受け取った。大衆の面前で婚約破棄を言い渡されて恥をかかされたことを考慮しても、この賠償額は多いものだった。「これ以上事を大きくしてほしくない」というマシュー公爵の意思の表れなのだろう。
でも、私達が静かにしていても事は勝手に大きなものになっていった。
"イザベラ令嬢、フィリップ令息と愛人が結ばれたことを恨んでの報復か? 多額の賠償を要求!"
ゴシップ記事にはそんな見出しが大きく踊っていた。世間では、私達の婚約解消は相変わらず面白おかしく騒がれていたのだ。
「まるでベラが嫉妬に狂った意地悪な女みたいに書いて! 名誉毀損で訴えてやるわ!」
お母様は美しい顔に皺を寄せて言った。
「どこのイザベラとフィリップなのか書いていませんから、訴えるとそれはそれで恥をかくことになりますよ」
「嫌らしいこと! これだから三流紙のゴシップ記事は嫌いなのよ」
怒ったお母様は新聞を捨てようとしたけれど、メイドは念の為に保管すると言って新聞を受け取った。
「それにしても、こんな時でも、あなたは怒らないのね」
「ごめんなさい」
「叱っているわけじゃないの。心配しているのよ」
それなら、なおさら謝らなければいけない。でも、そうしたらお母様をもっと困らせてしまう。だから私は、めいいっぱい笑った。
「何、その顔?」
でも、私の表情は不格好だったらしい。お母様は「おかしい」と言って笑った。
私は変な人間だ。人よりも感情が薄いみたいで、他の人に比べて心が動くことが少ない。その上、感じたことや思っていることの表現が苦手で、周囲からみれば冷たい反応をしているらしい。だから、周りの雰囲気を壊してしまって、色々な人に何度も迷惑をかけている。
そのせいで、私はいつの間にか"氷の令嬢"と呼ばれるようになってしまった。
「こんな私のどこがいいのかしら」
「どうしたの? 急に」
「エドワード殿下のお手紙に書いてあったんです。『君の感情表現は見ていて愛おしい』って」
あれからエドワード殿下は毎日、手紙をくれた。内容はどれも、私に会いたいということと、私のことを好きだということだった。
フィリップ様との婚約が解消するまではエドワード殿下と接触をするなとお父様に言われていた。だから、返事を書かなかったけれど、それでもエドワード殿下は毎日手紙をくれる。
「エドワード殿下は見る目があるわね」
お母様はにこりと笑った。
「ねえ、ベラはエドワード殿下のことをどう思っているの?」
お母様の目から期待の色がはっきりと浮かんでいる。でも、お母様の期待には答えられない。
「挨拶程度の知り合いです」
「それだけ?」
お母様は途端に顔を曇らせた。
「話しやすい人だとは思いますよ?」
お母様の期待に添えないことが何だか申し訳なくなったからフォローした。
「それならこれから仲が深まるかもしれないわね」
「そうでしょうか」
「ええ。フィリップ子息との婚約が解消されたんだから、お返事を書いてあげなさい。お父様には私から言っておくから」
「はい」
お母様は席を立った。早速、お父様に伝えに行くつもりらしい。
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