【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

文字の大きさ
3 / 58

3-1 氷の令嬢

しおりを挟む
 それからほんの少し時間が経って、もうすぐお昼という時に、王室から使者がやって来た。
 使者はお父様に手紙を一枚、そして私にも一枚渡してきた。

「エドワード殿下からイザベラ様に贈り物です」
 使者はそう言って、様々な物を渡そうとしてきたけれど、お母様はそれら全てを丁重に断った。
 お母様達がそんなやり取りをしている最中に、私は手紙を読んだ。差出人はエドワード殿下だった。

 "16の春、君を初めて見た時から心を奪われた。この想いを君に伝えられる機会をくれた神に感謝を捧げているところだ。次に君と会える日を心待ちにしている"

 私はその手紙を読んで首を傾げた。

 ━━私に一目惚れしたというの?

 私は鏡台の前に座って自分を見た。
 お父様に似た灰色の瞳は冷たい印象を与える上に、少し吊り上がっている。お母様と同じ青銀のストレートの長い髪と白い肌は、幽霊のような不気味な印象を与えて不健康に見えるらしい。お母様は雪の妖精と例えられるくらい美しいのに、不思議なものだ。

 ━━━エリナの方がかわいくて魅力的だわ。

 あのピンクのふわふわの髪にブラウンの大きくてくりくりした瞳をした彼女は誰がどうみてもかわいらしいと思う。男の人がエリナの気を引こうと必死になるとのは当然のことだった。

 ━━エドワード殿下って、変な人。

 私はそう思いながら、手紙を引き出しの中にしまった。







 それから一週間後、私とフィリップ様の婚約は解消された。賠償として、マシュー公爵家からダイヤの鉱山と金貨5万枚を受け取った。大衆の面前で婚約破棄を言い渡されて恥をかかされたことを考慮しても、この賠償額は多いものだった。「これ以上事を大きくしてほしくない」というマシュー公爵の意思の表れなのだろう。
 でも、私達が静かにしていても事は勝手に大きなものになっていった。

 "イザベラ令嬢、フィリップ令息と愛人が結ばれたことを恨んでの報復か? 多額の賠償を要求!"

 ゴシップ記事にはそんな見出しが大きく踊っていた。世間では、私達の婚約解消は相変わらず面白おかしく騒がれていたのだ。

「まるでベラが嫉妬に狂った意地悪な女みたいに書いて! 名誉毀損で訴えてやるわ!」
 お母様は美しい顔に皺を寄せて言った。
「どこのイザベラとフィリップなのか書いていませんから、訴えるとそれはそれで恥をかくことになりますよ」
「嫌らしいこと! これだから三流紙のゴシップ記事は嫌いなのよ」
 怒ったお母様は新聞を捨てようとしたけれど、メイドは念の為に保管すると言って新聞を受け取った。

「それにしても、こんな時でも、あなたは怒らないのね」
「ごめんなさい」
「叱っているわけじゃないの。心配しているのよ」
 それなら、なおさら謝らなければいけない。でも、そうしたらお母様をもっと困らせてしまう。だから私は、めいいっぱい笑った。
「何、その顔?」
 でも、私の表情は不格好だったらしい。お母様は「おかしい」と言って笑った。

 私は変な人間だ。人よりも感情が薄いみたいで、他の人に比べて心が動くことが少ない。その上、感じたことや思っていることの表現が苦手で、周囲からみれば冷たい反応をしているらしい。だから、周りの雰囲気を壊してしまって、色々な人に何度も迷惑をかけている。
 そのせいで、私はいつの間にか"氷の令嬢"と呼ばれるようになってしまった。

「こんな私のどこがいいのかしら」
「どうしたの? 急に」
「エドワード殿下のお手紙に書いてあったんです。『君の感情表現は見ていて愛おしい』って」
 あれからエドワード殿下は毎日、手紙をくれた。内容はどれも、私に会いたいということと、私のことを好きだということだった。
 フィリップ様との婚約が解消するまではエドワード殿下と接触をするなとお父様に言われていた。だから、返事を書かなかったけれど、それでもエドワード殿下は毎日手紙をくれる。

「エドワード殿下は見る目があるわね」
 お母様はにこりと笑った。
「ねえ、ベラはエドワード殿下のことをどう思っているの?」
 お母様の目から期待の色がはっきりと浮かんでいる。でも、お母様の期待には答えられない。
「挨拶程度の知り合いです」
「それだけ?」
 お母様は途端に顔を曇らせた。
「話しやすい人だとは思いますよ?」
 お母様の期待に添えないことが何だか申し訳なくなったからフォローした。
「それならこれから仲が深まるかもしれないわね」
「そうでしょうか」
「ええ。フィリップ子息との婚約が解消されたんだから、お返事を書いてあげなさい。お父様には私から言っておくから」
「はい」
 お母様は席を立った。早速、お父様に伝えに行くつもりらしい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

処理中です...