4 / 58
3-2 氷の令嬢
しおりを挟む
手紙の返事と言っても、何を書いていいのか分からない。
手紙を送ってくれたお礼を書いてからもう30分も筆が進まないでいる。
━━会いたいと何度も書いてくれているし、一度会ってきちんとお話をするべきなのかしら?
念の為、お父様にエドワード殿下と会ってもいいかと確認すると、「好きにしなさい」と言われた。もっと色々と言われるかと思ったから拍子抜けだった。もしかしたら、お母様に何かを言われていたのかもしれない。
私は部屋に戻ると手紙の続きを書いた。私も会って話がしたいから時間を作って欲しい旨を書いて、メイドに手紙を渡した。
次の日、エドワード殿下から送られた手紙には、一週間後、離宮に来るようにと書かれていた。
「一週間後って、急ね」
お母様は口を尖らせて言った。私の書いた手紙の内容を知らないから、エドワード殿下が急に呼び出したと思ったのだろう。
「私が、なるべく早く会いたいと書きましたから」
「そう。それにしても、いきなり離宮だなんて、畏れ多いわね。もっと緊張しなくても済む場所があるでしょうに」
「例えばどんな所です?」
お母様は人気のカフェや流行りのデートスポットの名前をあげた。
「今、そんなところに行けば、ゴシップ紙の格好の餌食ですよ?」
「嫌だわあ。デートもままならないだなんて」
お母様は腕を組んで顔を顰めた。お母様をがっかりさせたくなかったから、そもそもデートというほどのものではないと言いそびれてしまった。
※
約束の日に、私は離宮に赴いた。
地味なドレスを着てアクセサリーも極力少なくしたら、お母様にデートに相応しくないと叱られた。それに、もっと華やかにしないと相手に失礼だとも言われた。
でも、私はお母様の忠告を無視してそのままの格好で出かけた。エドワード殿下とは少し話をするだけのつもりだったからだ。それに、変に着飾って出歩いたらまたゴシップ記事のネタにされそうで嫌だった。
馬車が離宮に着くと、直ぐ様メイドに案内されて庭園に向かった。そして、東屋に辿り着くと、そこにはエドワード殿下がいた。
「お招きいただきありがとうございます」
私は直ぐに挨拶をしてお辞儀をした。
「こちらこそ。来てくれてありがとう。今日は私的な場だからそんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
そう言って彼は私に手を差し出した。
「今日は天気がいいから散歩をしよう」
彼の言葉に、私は差し出された手を取った。
整備の行き届いた庭を二人で歩いた。冬の庭園は少し寂しいものがある。
「本当は春から夏にかけてが一番見栄えがいいんだけどね」
「そうですか」
この離宮は王族が避暑地として用いる場所として有名だ。だから、そう整備されているのは当然なのだろう。
「夏になったら、また来ようね」
「はい」
私が返事をすると、エドワード殿下は満面の笑みを浮かべた。
「フィリップとの婚約は解消されたと聞いたけど、俺との婚約の話は覚えている?」
「ええ。勿論」
「婚約、してくれるんだよね?」
「はい」
お父様はとても悩んだ末に、エドワード殿下からの婚約の申し入れを受け入れる事にした。国王陛下も私達の婚姻に反対しなかったそうだから、もう少しすれば、正式に婚約する事になるだろう。
「ねえ、イザベラ」
「はい」
「君は俺のことが好きじゃないよね?」
何て答えたらいいのか分からなくて私は何も言うことができなかった。
正直なことを言ってしまえば、私はエドワード殿下に対して、恋愛感情を持っていない。この間、お母様に言った通り、彼は話しやすい人ではあるもののただの知り合いに過ぎなかった。
「ごめん、反応に困るようなことを言って」
エドワード殿下は寂しげに笑った。
「ごめんなさい」
「いいんだ。君が俺のことを好きじゃない事は知っていたから。でも、いつか絶対に君が俺を好きになってくれるように努力するよ」
━━そんな努力は必要ないわ。貴族の婚姻に愛情は必ずしも必要ないから。
3年前の、学園に入学する前の私なら、躊躇うことなくそう言っていただろう。
でも、学園生活でほんの少しだけ空気を読むことを覚えたから口にはしない。もし、言ってしまったら、この場の空気が凍ってしまうことを私は学んだのだ。
でも、エドワード殿下の言葉にどう反応をしていいのか相変わらず分からない。だから、"氷の令嬢"という汚名はまだまだ返上できそうにない。
━━エリナなら、きっと殿下の望む言葉をかけてあげられるに違いないわ。
コロコロと表情を変えて愛らしく振る舞える彼女が羨ましくて仕方なかった。
手紙を送ってくれたお礼を書いてからもう30分も筆が進まないでいる。
━━会いたいと何度も書いてくれているし、一度会ってきちんとお話をするべきなのかしら?
念の為、お父様にエドワード殿下と会ってもいいかと確認すると、「好きにしなさい」と言われた。もっと色々と言われるかと思ったから拍子抜けだった。もしかしたら、お母様に何かを言われていたのかもしれない。
私は部屋に戻ると手紙の続きを書いた。私も会って話がしたいから時間を作って欲しい旨を書いて、メイドに手紙を渡した。
次の日、エドワード殿下から送られた手紙には、一週間後、離宮に来るようにと書かれていた。
「一週間後って、急ね」
お母様は口を尖らせて言った。私の書いた手紙の内容を知らないから、エドワード殿下が急に呼び出したと思ったのだろう。
「私が、なるべく早く会いたいと書きましたから」
「そう。それにしても、いきなり離宮だなんて、畏れ多いわね。もっと緊張しなくても済む場所があるでしょうに」
「例えばどんな所です?」
お母様は人気のカフェや流行りのデートスポットの名前をあげた。
「今、そんなところに行けば、ゴシップ紙の格好の餌食ですよ?」
「嫌だわあ。デートもままならないだなんて」
お母様は腕を組んで顔を顰めた。お母様をがっかりさせたくなかったから、そもそもデートというほどのものではないと言いそびれてしまった。
※
約束の日に、私は離宮に赴いた。
地味なドレスを着てアクセサリーも極力少なくしたら、お母様にデートに相応しくないと叱られた。それに、もっと華やかにしないと相手に失礼だとも言われた。
でも、私はお母様の忠告を無視してそのままの格好で出かけた。エドワード殿下とは少し話をするだけのつもりだったからだ。それに、変に着飾って出歩いたらまたゴシップ記事のネタにされそうで嫌だった。
馬車が離宮に着くと、直ぐ様メイドに案内されて庭園に向かった。そして、東屋に辿り着くと、そこにはエドワード殿下がいた。
「お招きいただきありがとうございます」
私は直ぐに挨拶をしてお辞儀をした。
「こちらこそ。来てくれてありがとう。今日は私的な場だからそんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
そう言って彼は私に手を差し出した。
「今日は天気がいいから散歩をしよう」
彼の言葉に、私は差し出された手を取った。
整備の行き届いた庭を二人で歩いた。冬の庭園は少し寂しいものがある。
「本当は春から夏にかけてが一番見栄えがいいんだけどね」
「そうですか」
この離宮は王族が避暑地として用いる場所として有名だ。だから、そう整備されているのは当然なのだろう。
「夏になったら、また来ようね」
「はい」
私が返事をすると、エドワード殿下は満面の笑みを浮かべた。
「フィリップとの婚約は解消されたと聞いたけど、俺との婚約の話は覚えている?」
「ええ。勿論」
「婚約、してくれるんだよね?」
「はい」
お父様はとても悩んだ末に、エドワード殿下からの婚約の申し入れを受け入れる事にした。国王陛下も私達の婚姻に反対しなかったそうだから、もう少しすれば、正式に婚約する事になるだろう。
「ねえ、イザベラ」
「はい」
「君は俺のことが好きじゃないよね?」
何て答えたらいいのか分からなくて私は何も言うことができなかった。
正直なことを言ってしまえば、私はエドワード殿下に対して、恋愛感情を持っていない。この間、お母様に言った通り、彼は話しやすい人ではあるもののただの知り合いに過ぎなかった。
「ごめん、反応に困るようなことを言って」
エドワード殿下は寂しげに笑った。
「ごめんなさい」
「いいんだ。君が俺のことを好きじゃない事は知っていたから。でも、いつか絶対に君が俺を好きになってくれるように努力するよ」
━━そんな努力は必要ないわ。貴族の婚姻に愛情は必ずしも必要ないから。
3年前の、学園に入学する前の私なら、躊躇うことなくそう言っていただろう。
でも、学園生活でほんの少しだけ空気を読むことを覚えたから口にはしない。もし、言ってしまったら、この場の空気が凍ってしまうことを私は学んだのだ。
でも、エドワード殿下の言葉にどう反応をしていいのか相変わらず分からない。だから、"氷の令嬢"という汚名はまだまだ返上できそうにない。
━━エリナなら、きっと殿下の望む言葉をかけてあげられるに違いないわ。
コロコロと表情を変えて愛らしく振る舞える彼女が羨ましくて仕方なかった。
81
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる