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3-2 氷の令嬢
手紙の返事と言っても、何を書いていいのか分からない。
手紙を送ってくれたお礼を書いてからもう30分も筆が進まないでいる。
━━会いたいと何度も書いてくれているし、一度会ってきちんとお話をするべきなのかしら?
念の為、お父様にエドワード殿下と会ってもいいかと確認すると、「好きにしなさい」と言われた。もっと色々と言われるかと思ったから拍子抜けだった。もしかしたら、お母様に何かを言われていたのかもしれない。
私は部屋に戻ると手紙の続きを書いた。私も会って話がしたいから時間を作って欲しい旨を書いて、メイドに手紙を渡した。
次の日、エドワード殿下から送られた手紙には、一週間後、離宮に来るようにと書かれていた。
「一週間後って、急ね」
お母様は口を尖らせて言った。私の書いた手紙の内容を知らないから、エドワード殿下が急に呼び出したと思ったのだろう。
「私が、なるべく早く会いたいと書きましたから」
「そう。それにしても、いきなり離宮だなんて、畏れ多いわね。もっと緊張しなくても済む場所があるでしょうに」
「例えばどんな所です?」
お母様は人気のカフェや流行りのデートスポットの名前をあげた。
「今、そんなところに行けば、ゴシップ紙の格好の餌食ですよ?」
「嫌だわあ。デートもままならないだなんて」
お母様は腕を組んで顔を顰めた。お母様をがっかりさせたくなかったから、そもそもデートというほどのものではないと言いそびれてしまった。
※
約束の日に、私は離宮に赴いた。
地味なドレスを着てアクセサリーも極力少なくしたら、お母様にデートに相応しくないと叱られた。それに、もっと華やかにしないと相手に失礼だとも言われた。
でも、私はお母様の忠告を無視してそのままの格好で出かけた。エドワード殿下とは少し話をするだけのつもりだったからだ。それに、変に着飾って出歩いたらまたゴシップ記事のネタにされそうで嫌だった。
馬車が離宮に着くと、直ぐ様メイドに案内されて庭園に向かった。そして、東屋に辿り着くと、そこにはエドワード殿下がいた。
「お招きいただきありがとうございます」
私は直ぐに挨拶をしてお辞儀をした。
「こちらこそ。来てくれてありがとう。今日は私的な場だからそんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
そう言って彼は私に手を差し出した。
「今日は天気がいいから散歩をしよう」
彼の言葉に、私は差し出された手を取った。
整備の行き届いた庭を二人で歩いた。冬の庭園は少し寂しいものがある。
「本当は春から夏にかけてが一番見栄えがいいんだけどね」
「そうですか」
この離宮は王族が避暑地として用いる場所として有名だ。だから、そう整備されているのは当然なのだろう。
「夏になったら、また来ようね」
「はい」
私が返事をすると、エドワード殿下は満面の笑みを浮かべた。
「フィリップとの婚約は解消されたと聞いたけど、俺との婚約の話は覚えている?」
「ええ。勿論」
「婚約、してくれるんだよね?」
「はい」
お父様はとても悩んだ末に、エドワード殿下からの婚約の申し入れを受け入れる事にした。国王陛下も私達の婚姻に反対しなかったそうだから、もう少しすれば、正式に婚約する事になるだろう。
「ねえ、イザベラ」
「はい」
「君は俺のことが好きじゃないよね?」
何て答えたらいいのか分からなくて私は何も言うことができなかった。
正直なことを言ってしまえば、私はエドワード殿下に対して、恋愛感情を持っていない。この間、お母様に言った通り、彼は話しやすい人ではあるもののただの知り合いに過ぎなかった。
「ごめん、反応に困るようなことを言って」
エドワード殿下は寂しげに笑った。
「ごめんなさい」
「いいんだ。君が俺のことを好きじゃない事は知っていたから。でも、いつか絶対に君が俺を好きになってくれるように努力するよ」
━━そんな努力は必要ないわ。貴族の婚姻に愛情は必ずしも必要ないから。
3年前の、学園に入学する前の私なら、躊躇うことなくそう言っていただろう。
でも、学園生活でほんの少しだけ空気を読むことを覚えたから口にはしない。もし、言ってしまったら、この場の空気が凍ってしまうことを私は学んだのだ。
でも、エドワード殿下の言葉にどう反応をしていいのか相変わらず分からない。だから、"氷の令嬢"という汚名はまだまだ返上できそうにない。
━━エリナなら、きっと殿下の望む言葉をかけてあげられるに違いないわ。
コロコロと表情を変えて愛らしく振る舞える彼女が羨ましくて仕方なかった。
手紙を送ってくれたお礼を書いてからもう30分も筆が進まないでいる。
━━会いたいと何度も書いてくれているし、一度会ってきちんとお話をするべきなのかしら?
念の為、お父様にエドワード殿下と会ってもいいかと確認すると、「好きにしなさい」と言われた。もっと色々と言われるかと思ったから拍子抜けだった。もしかしたら、お母様に何かを言われていたのかもしれない。
私は部屋に戻ると手紙の続きを書いた。私も会って話がしたいから時間を作って欲しい旨を書いて、メイドに手紙を渡した。
次の日、エドワード殿下から送られた手紙には、一週間後、離宮に来るようにと書かれていた。
「一週間後って、急ね」
お母様は口を尖らせて言った。私の書いた手紙の内容を知らないから、エドワード殿下が急に呼び出したと思ったのだろう。
「私が、なるべく早く会いたいと書きましたから」
「そう。それにしても、いきなり離宮だなんて、畏れ多いわね。もっと緊張しなくても済む場所があるでしょうに」
「例えばどんな所です?」
お母様は人気のカフェや流行りのデートスポットの名前をあげた。
「今、そんなところに行けば、ゴシップ紙の格好の餌食ですよ?」
「嫌だわあ。デートもままならないだなんて」
お母様は腕を組んで顔を顰めた。お母様をがっかりさせたくなかったから、そもそもデートというほどのものではないと言いそびれてしまった。
※
約束の日に、私は離宮に赴いた。
地味なドレスを着てアクセサリーも極力少なくしたら、お母様にデートに相応しくないと叱られた。それに、もっと華やかにしないと相手に失礼だとも言われた。
でも、私はお母様の忠告を無視してそのままの格好で出かけた。エドワード殿下とは少し話をするだけのつもりだったからだ。それに、変に着飾って出歩いたらまたゴシップ記事のネタにされそうで嫌だった。
馬車が離宮に着くと、直ぐ様メイドに案内されて庭園に向かった。そして、東屋に辿り着くと、そこにはエドワード殿下がいた。
「お招きいただきありがとうございます」
私は直ぐに挨拶をしてお辞儀をした。
「こちらこそ。来てくれてありがとう。今日は私的な場だからそんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
そう言って彼は私に手を差し出した。
「今日は天気がいいから散歩をしよう」
彼の言葉に、私は差し出された手を取った。
整備の行き届いた庭を二人で歩いた。冬の庭園は少し寂しいものがある。
「本当は春から夏にかけてが一番見栄えがいいんだけどね」
「そうですか」
この離宮は王族が避暑地として用いる場所として有名だ。だから、そう整備されているのは当然なのだろう。
「夏になったら、また来ようね」
「はい」
私が返事をすると、エドワード殿下は満面の笑みを浮かべた。
「フィリップとの婚約は解消されたと聞いたけど、俺との婚約の話は覚えている?」
「ええ。勿論」
「婚約、してくれるんだよね?」
「はい」
お父様はとても悩んだ末に、エドワード殿下からの婚約の申し入れを受け入れる事にした。国王陛下も私達の婚姻に反対しなかったそうだから、もう少しすれば、正式に婚約する事になるだろう。
「ねえ、イザベラ」
「はい」
「君は俺のことが好きじゃないよね?」
何て答えたらいいのか分からなくて私は何も言うことができなかった。
正直なことを言ってしまえば、私はエドワード殿下に対して、恋愛感情を持っていない。この間、お母様に言った通り、彼は話しやすい人ではあるもののただの知り合いに過ぎなかった。
「ごめん、反応に困るようなことを言って」
エドワード殿下は寂しげに笑った。
「ごめんなさい」
「いいんだ。君が俺のことを好きじゃない事は知っていたから。でも、いつか絶対に君が俺を好きになってくれるように努力するよ」
━━そんな努力は必要ないわ。貴族の婚姻に愛情は必ずしも必要ないから。
3年前の、学園に入学する前の私なら、躊躇うことなくそう言っていただろう。
でも、学園生活でほんの少しだけ空気を読むことを覚えたから口にはしない。もし、言ってしまったら、この場の空気が凍ってしまうことを私は学んだのだ。
でも、エドワード殿下の言葉にどう反応をしていいのか相変わらず分からない。だから、"氷の令嬢"という汚名はまだまだ返上できそうにない。
━━エリナなら、きっと殿下の望む言葉をかけてあげられるに違いないわ。
コロコロと表情を変えて愛らしく振る舞える彼女が羨ましくて仕方なかった。
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