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7 凍土
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歩いているうちに、狐の他にもウサギやリスといった小動物を何匹か見つけた。
動物達を見られたらいいなとは思っていたけれど、まさか、こんなに見れるとは思っていなかった。
「動物、好きなの?」
エドが聞いてきた。
「嫌いではない・・・・・・、と思っていたんですけど。どうやら好きみたいです」
「そう。それなら次のデートでは動物と触れ合おうか」
「それなら馬がいいです。乗馬をしてみたいので」
「乗馬?」
エドはきょとんとしている。乗馬をしたいと言うなんて思ってもみなかったのだろう。
それもそのはずだ。この国では、乗馬は男が嗜むもので、女は馬車に乗るものだから。近年のほとんどの近隣諸国では、女性の騎手も認められて増えているというのに。
「乗ってみたいと前から思っていたんです。だめですか?」
さっきまでにこにこ笑っていたのに、乗馬の話を出した途端、エドは真剣な顔になった。やはりエドも下品だと感じたのかもしれない。
「だめならいいです」
「いや、だめじゃないよ。ただ、ベラでも乗れそうな大人しい馬がいるかなと思って」
思ってもみない言葉に、私は足を止めた。
「馬に乗ってもいいんですか?」
「うん。反対されると思ったの?」
「はい」
「俺は頭の固い連中とは違うんだ」
そう言って、エドはにっと笑った。
「ただ、馬を探すとなると、次のデートというわけにはいかないな」
「そんなに急いで探さなくても大丈夫です。次のデートには違うことをしましょう」
「そうだね。まだ行ってない所や、やってみたい事はたくさんあるし」
エドはそう言うとふと、足を止めた。
「ずっと雪道を歩いてるけど、疲れてない?」
エドの言葉に私は正直に疲れたと答えた。
「少し座って休もうか」
彼はそう言うと雪で埋もれた切り株を手で払い、ハンカチを敷いた。
「どうぞ」
エドに促されてそれに座ると、隣に彼も座ってきた。大きな切り株ではあったけれど、二人で座るとなると、少し狭い。だから、私達は自然と密着する形になった。
「くっつくと心なしかあったかくなりますね」
「そうだね」
エドはそう言って私の腰に手を回した。
━━何だか、本物の恋人みたい。
学園や街中でも、こうやって仲睦まじく座っている人達を見かけたことがある。私には一生縁のないものだと思っていたから、今こうしているのが何だか不思議だ。
「エドは、冬が好きなんですか?」
「いや? 嫌いではないけど、過ごしやすい春と秋の方が好きかな」
彼は遠くを見ながら答えた。
「どうしたの? いきなり」
「大したことじゃないんです」
私がそう答えると、エドは不思議そうな顔で私を見た。
「それなら、理由を教えてよ」
「私を好きだと言うから、冷たいものや寒い時期が好きなのかと思ったんです」
そう言った途端、エドの顔から表情が失われた。
「エドは私に一目惚れしたんでしょう?」
「そうだよ」
「私の見た目は、凍土のようだと揶揄されているんです」
雪の妖精と例えられるお母様は、目つきが優しくて、愛らしい印象を与える。感情表現が豊かで笑っている時のお母様は特に美しい。
でも、娘の私はお母様とは真逆だった。鋭い目つきのせいで冷たいイメージを持たれることが多かった。それに、感情がほとんど顔に出ないせいで気難しくて近寄り難いと言われたこともあった。
"氷の令嬢を好きになる人間なんていない。仮にいたとしたら、そいつは相当な変わり者だ"
昔、フィリップ様が陰でそう言っていた。だから、エドは変わり者だと思っていたけれど。
━━違ったみたい。
ずっと穏やかだったエドが険しい顔で遠くを見ていた。彼の赤い瞳に怒りが満ちている。
「ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったんです」
「ベラが謝ることはないよ。君に対してそんな陰口を言う不埒な輩に俺は怒っているんだ」
エドは私の手を握った。
「ベラは周りや君自身が思っているほど、冷たい人間じゃないよ」
「そうなんですか」
エドは微笑を浮かべて頷いた。
「だから、他人の評価で自分を蔑まないで」
蔑んでいたつもりはなかったのだけれど。エドにはそう見えてしまったらしい。
「分かりました。もう気にしません」
そう言って私は立ち上がった。
「もう十分休めたので、散策の続きをしましょう」
私達は、また自然公園の中を歩いた。
動物達を見られたらいいなとは思っていたけれど、まさか、こんなに見れるとは思っていなかった。
「動物、好きなの?」
エドが聞いてきた。
「嫌いではない・・・・・・、と思っていたんですけど。どうやら好きみたいです」
「そう。それなら次のデートでは動物と触れ合おうか」
「それなら馬がいいです。乗馬をしてみたいので」
「乗馬?」
エドはきょとんとしている。乗馬をしたいと言うなんて思ってもみなかったのだろう。
それもそのはずだ。この国では、乗馬は男が嗜むもので、女は馬車に乗るものだから。近年のほとんどの近隣諸国では、女性の騎手も認められて増えているというのに。
「乗ってみたいと前から思っていたんです。だめですか?」
さっきまでにこにこ笑っていたのに、乗馬の話を出した途端、エドは真剣な顔になった。やはりエドも下品だと感じたのかもしれない。
「だめならいいです」
「いや、だめじゃないよ。ただ、ベラでも乗れそうな大人しい馬がいるかなと思って」
思ってもみない言葉に、私は足を止めた。
「馬に乗ってもいいんですか?」
「うん。反対されると思ったの?」
「はい」
「俺は頭の固い連中とは違うんだ」
そう言って、エドはにっと笑った。
「ただ、馬を探すとなると、次のデートというわけにはいかないな」
「そんなに急いで探さなくても大丈夫です。次のデートには違うことをしましょう」
「そうだね。まだ行ってない所や、やってみたい事はたくさんあるし」
エドはそう言うとふと、足を止めた。
「ずっと雪道を歩いてるけど、疲れてない?」
エドの言葉に私は正直に疲れたと答えた。
「少し座って休もうか」
彼はそう言うと雪で埋もれた切り株を手で払い、ハンカチを敷いた。
「どうぞ」
エドに促されてそれに座ると、隣に彼も座ってきた。大きな切り株ではあったけれど、二人で座るとなると、少し狭い。だから、私達は自然と密着する形になった。
「くっつくと心なしかあったかくなりますね」
「そうだね」
エドはそう言って私の腰に手を回した。
━━何だか、本物の恋人みたい。
学園や街中でも、こうやって仲睦まじく座っている人達を見かけたことがある。私には一生縁のないものだと思っていたから、今こうしているのが何だか不思議だ。
「エドは、冬が好きなんですか?」
「いや? 嫌いではないけど、過ごしやすい春と秋の方が好きかな」
彼は遠くを見ながら答えた。
「どうしたの? いきなり」
「大したことじゃないんです」
私がそう答えると、エドは不思議そうな顔で私を見た。
「それなら、理由を教えてよ」
「私を好きだと言うから、冷たいものや寒い時期が好きなのかと思ったんです」
そう言った途端、エドの顔から表情が失われた。
「エドは私に一目惚れしたんでしょう?」
「そうだよ」
「私の見た目は、凍土のようだと揶揄されているんです」
雪の妖精と例えられるお母様は、目つきが優しくて、愛らしい印象を与える。感情表現が豊かで笑っている時のお母様は特に美しい。
でも、娘の私はお母様とは真逆だった。鋭い目つきのせいで冷たいイメージを持たれることが多かった。それに、感情がほとんど顔に出ないせいで気難しくて近寄り難いと言われたこともあった。
"氷の令嬢を好きになる人間なんていない。仮にいたとしたら、そいつは相当な変わり者だ"
昔、フィリップ様が陰でそう言っていた。だから、エドは変わり者だと思っていたけれど。
━━違ったみたい。
ずっと穏やかだったエドが険しい顔で遠くを見ていた。彼の赤い瞳に怒りが満ちている。
「ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったんです」
「ベラが謝ることはないよ。君に対してそんな陰口を言う不埒な輩に俺は怒っているんだ」
エドは私の手を握った。
「ベラは周りや君自身が思っているほど、冷たい人間じゃないよ」
「そうなんですか」
エドは微笑を浮かべて頷いた。
「だから、他人の評価で自分を蔑まないで」
蔑んでいたつもりはなかったのだけれど。エドにはそう見えてしまったらしい。
「分かりました。もう気にしません」
そう言って私は立ち上がった。
「もう十分休めたので、散策の続きをしましょう」
私達は、また自然公園の中を歩いた。
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