【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

文字の大きさ
18 / 58

15 謎の男

しおりを挟む
 パーティが終わると、私達はそれぞれ帰りはじめた。エドは送ってくれようとしていたけれど、迎えの馬車を呼んでいたから断った。そうしたら、エドは見送りだけでもさせて欲しいと言ってきた。

 エドに別れの言葉を告げて馬車に乗り込もうとした時、御者がいつもの男ではない事に気がついた。「彼はどうしたの」と御者の男に聞くと、この間、あんな事があったから今日は自分が変わりに来たんだと説明された。私はそんなものかと思って馬車に乗り込もうとしたら、エドに止められた。

「待って」
 エドは私の手を取ると、彼の後ろに下がらせた。そして、エドの従者から受け取った写真機を手に取ると、なぜか御者を撮った。写真機を知らない御者は、何が起こったのかわからずとても困惑していた。

「君、身分証を見せて」
 エドはさっきの行動の説明もないまま、御者に向かって言った。
「すみません、王子殿下、私は平民と変わらぬ身分でして、身分証となるようなものは持っていないんです」
「それなら、モラン侯爵家に勤めている証拠はある?」
「証拠と言われてましても・・・・・・」
 男の言葉を最後まで聞かず、エドは私に向かって「この男に見覚えは?」と聞いてきた。
「ありません」
「モラン侯爵家に確認を取ってきて」
 エドが従者に向かってそう言った途端、男は馬車から飛び降りて逃げ出した。
「不審者だ! 捕まえてくれ!」
 エドが叫ぶと、アンドレ公爵家の警備兵達はすぐに御者を追いかけた。
 だが、御者の男の足はとても早く、逃げられてしまったようだった。

「何が起こったの」
 騒ぎを聞きつけて屋敷の中からアンドレ公爵夫人が出てきた。
「叔母様、モラン侯爵家の馬車に、御者に扮した不審な輩がいました」
「何ですって? イザベラ嬢、怪我はない?」
「はい。馬車に乗る前にエドが止めてくれたので」
「ああ。よかったわ」
 夫人はそう言うと私の手を取った。
「怖かったでしょう?」
 そう聞かれても、答えは「いいえ」だ。何も被害を受けていないし、何よりあっという間の事過ぎて恐怖を感じる間もなかった。

「いえ。それよりあの男が何者で、本物の御者がどうなっているのか気になります」
 男はうちの使用人ではなかったようだが、馬車はうちのものだった。本物の御者の身に悪いことが起きていないといいのだけれど。
「自分のことより、使用人の身を案じるなんて。とても優しい子だわ」
 アンドレ公爵夫人はなぜかいたく感心していた。そして、彼女は私の手を優しく握った。
「本物の御者の所在については、警察に調べてもらいましょう。イザベラ嬢は中に入って。また変な人が現れないとも限らないから」
「お気遣い感謝します」
 私が感謝を伝えると、エドは夫人に向かって「ベラのことを任せます」と言った。彼は警察の応対をするつもりらしい。

 公爵夫人に案内された部屋で私は夫人や警備兵達と過ごすことになった。
 待機してしばらく経つと、外がもっと騒がしくなってきた。どうやら警察がやって来たらしい。
「すみません、せっかくのパーティだったのにお騒がせしてしまって」
「あなたのせいじゃないわ。気にしないでちょうだい。それより、早く不審者が捕まるといいのだけれど」
 そうこうしているうちに、警官がやって来た。彼は、うちの馬車に不自然にも火薬と油が積まれていたと言った。あの不審者は私を人気のないところへ誘拐して、馬車に火を放つつもりだったのかもしれないとも語った。
 犯人に心当たりはないかと聞かれて、私は首を振った。警官は「そうですか」と言うと、家まで送ると言ってくれた。私はエドと警官の付き添いの下、家に帰った。

 家に帰ると、お母様は私を抱きしめてきた。どうやら既に警察からの連絡がいっていたらしい。
「ベラ、大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫です」
 なおも私を抱きしめるお母様の背中を私はポンポンと撫でた。
「怖い思いをしたね」
 お父様は優しい口調で私を慰めてくれる。
「それより、本物の御者はどうしていますか」
「馬小屋で倒れている所を発見されたよ。どうやら、例の不審者に襲われたらしい」
「大丈夫なんですか」
「ああ。今は意識を取り戻しているし、医者にも診てもらった。数日の安静は必要だが、命に別状はないそうだ」
「よかった」
 でも、私のせいで怪我をさせてしまったのは申し訳ない。明日、お見舞いに行こう。
「今日は疲れただろう。もう部屋で休みなさい」
 お父様の言葉に私は頷いた。
「ベラ、おやすみ。心配しないでね」
「はい。エドも気をつけて。今日はありがとうございました。みなさん、おやすみなさいませ」
 私は両親とエドに別れを告げて二階の自室へと向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...