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15 謎の男
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パーティが終わると、私達はそれぞれ帰りはじめた。エドは送ってくれようとしていたけれど、迎えの馬車を呼んでいたから断った。そうしたら、エドは見送りだけでもさせて欲しいと言ってきた。
エドに別れの言葉を告げて馬車に乗り込もうとした時、御者がいつもの男ではないことに気がついた。「彼はどうしたの」と御者の男に聞くと、この間、あんなことがあったから今日は自分が変わりに来たんだと説明された。私はそんなものかと思って馬車に乗り込もうとしたら、エドに止められた。
「待って」
エドは私の手を取ると、自分の後ろに下がらせた。そして、彼の従者から受け取った写真機を手に取ると、なぜか御者を撮った。写真機のことを知らない御者は、何が起こったのかわからずとても困惑していた。
「君、身分証を見せて」
エドはさっきの行動の説明もないまま、御者に向かって言った。
「すみません、王子殿下、私は平民と変わらぬ身分でして、身分証となるようなものは持っていないんです」
「それなら、モラン侯爵家に勤めている証拠はある?」
「証拠と言われてましても・・・・・・」
男の言葉を最後まで聞かず、エドは私に向かって「この男に見覚えは?」と聞いてきた。
「ありません」
「モラン侯爵家に確認を取ってきて」
エドが従者に向かってそう言った途端、男は馬車から飛び降りて逃げ出した。
「不審者だ! 捕まえてくれ!」
エドが叫ぶと、アンドレ公爵家の警備兵達はすぐに御者を追いかけた。
だが、御者の男の足はとても早く、逃げられてしまったようだった。
「何が起こったの」
騒ぎを聞きつけて屋敷の中からアンドレ公爵夫人が出てきた。
「叔母様、モラン侯爵家の馬車に、御者に扮した不審な輩がいました」
「何ですって? イザベラ嬢、怪我はない?」
「はい。馬車に乗る前にエドが止めてくれたので」
「ああ。よかったわ」
夫人はそう言うと私の手を取った。
「怖かったでしょう?」
そう聞かれても、答えは「いいえ」だ。何も被害を受けていないし、何よりあっという間の事過ぎて恐怖を感じる間もなかった。
「いえ。それよりあの男が何者で、本物の御者がどうなっているのか気になります」
男はうちの使用人ではなかったようだが、馬車はうちのものだった。本物の御者の身に悪いことが起きていないといいのだけれど。
「自分のことより、使用人の身を案じるなんて。とても優しい子だわ」
アンドレ公爵夫人はなぜかいたく感心していた。
「それは、警察に調べてもらいましょう。イザベラ嬢は中に入って。また変な人が現れないとも限らないから」
「アンドレ公爵夫人、感謝します」
私が夫人にお礼を言うと、エドは夫人に向かって「ベラのことを任せます」と言った。彼は警察の応対をするつもりらしい。
公爵夫人に案内された部屋で私は夫人や警備兵達と過ごすことになった。
待機してしばらく経つと、外がもっと騒がしくなってきた。どうやら警察がやって来たらしい。
「すみません、せっかくのパーティだったのにお騒がせしてしまって」
「あなたのせいじゃないわ。気にしないでちょうだい。それより、早く不審者が捕まるといいのだけれど」
そうこうしているうちに、警官がやって来た。彼は、うちの馬車に不自然にも火薬と油が積まれていたと言った。あの不審者は私を人気のないところへ誘拐して、馬車に火を放つつもりだったのかもしれないとも語った。
犯人に心当たりはないかと聞かれて、私は首を振った。警官は「そうですか」と言うと、家まで送ると行ってくれた。私はエドど警官の付き添いの下、家に帰った。
家に帰ると、お母様は私を抱きしめてきた。どうやら既に警察からの連絡がいっていたらしい。
「ベラ、大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫です」
なおも私を抱きしめるお母様の背中を私はポンポンと撫でた。
「怖い思いをしたね」
お父様は優しい口調で私を慰めてくれる。
「それより、本物の御者はどうしていますか?」
「馬小屋で倒れている所を発見されたよ。どうやら、例の不審者に襲われたらしい」
「大丈夫なんですか」
「ああ。今は意識を取り戻しているし、医者にも診てもらった。数日の安静は必要だが、命に別状はないそうだ」
「よかった」
でも、私のせいで怪我をさせてしまったのは申し訳ない。明日、お見舞いに行こう。
「今日は疲れただろう。もう部屋で休みなさい」
お父様の言葉に私は頷いた。
「ベラ、おやすみ。心配しないでね」
「はい。エドも気をつけて。今日はありがとうございました。みなさん、おやすみなさいませ」
私は両親とエドに別れを告げて二階の自室へと向かった。
エドに別れの言葉を告げて馬車に乗り込もうとした時、御者がいつもの男ではないことに気がついた。「彼はどうしたの」と御者の男に聞くと、この間、あんなことがあったから今日は自分が変わりに来たんだと説明された。私はそんなものかと思って馬車に乗り込もうとしたら、エドに止められた。
「待って」
エドは私の手を取ると、自分の後ろに下がらせた。そして、彼の従者から受け取った写真機を手に取ると、なぜか御者を撮った。写真機のことを知らない御者は、何が起こったのかわからずとても困惑していた。
「君、身分証を見せて」
エドはさっきの行動の説明もないまま、御者に向かって言った。
「すみません、王子殿下、私は平民と変わらぬ身分でして、身分証となるようなものは持っていないんです」
「それなら、モラン侯爵家に勤めている証拠はある?」
「証拠と言われてましても・・・・・・」
男の言葉を最後まで聞かず、エドは私に向かって「この男に見覚えは?」と聞いてきた。
「ありません」
「モラン侯爵家に確認を取ってきて」
エドが従者に向かってそう言った途端、男は馬車から飛び降りて逃げ出した。
「不審者だ! 捕まえてくれ!」
エドが叫ぶと、アンドレ公爵家の警備兵達はすぐに御者を追いかけた。
だが、御者の男の足はとても早く、逃げられてしまったようだった。
「何が起こったの」
騒ぎを聞きつけて屋敷の中からアンドレ公爵夫人が出てきた。
「叔母様、モラン侯爵家の馬車に、御者に扮した不審な輩がいました」
「何ですって? イザベラ嬢、怪我はない?」
「はい。馬車に乗る前にエドが止めてくれたので」
「ああ。よかったわ」
夫人はそう言うと私の手を取った。
「怖かったでしょう?」
そう聞かれても、答えは「いいえ」だ。何も被害を受けていないし、何よりあっという間の事過ぎて恐怖を感じる間もなかった。
「いえ。それよりあの男が何者で、本物の御者がどうなっているのか気になります」
男はうちの使用人ではなかったようだが、馬車はうちのものだった。本物の御者の身に悪いことが起きていないといいのだけれど。
「自分のことより、使用人の身を案じるなんて。とても優しい子だわ」
アンドレ公爵夫人はなぜかいたく感心していた。
「それは、警察に調べてもらいましょう。イザベラ嬢は中に入って。また変な人が現れないとも限らないから」
「アンドレ公爵夫人、感謝します」
私が夫人にお礼を言うと、エドは夫人に向かって「ベラのことを任せます」と言った。彼は警察の応対をするつもりらしい。
公爵夫人に案内された部屋で私は夫人や警備兵達と過ごすことになった。
待機してしばらく経つと、外がもっと騒がしくなってきた。どうやら警察がやって来たらしい。
「すみません、せっかくのパーティだったのにお騒がせしてしまって」
「あなたのせいじゃないわ。気にしないでちょうだい。それより、早く不審者が捕まるといいのだけれど」
そうこうしているうちに、警官がやって来た。彼は、うちの馬車に不自然にも火薬と油が積まれていたと言った。あの不審者は私を人気のないところへ誘拐して、馬車に火を放つつもりだったのかもしれないとも語った。
犯人に心当たりはないかと聞かれて、私は首を振った。警官は「そうですか」と言うと、家まで送ると行ってくれた。私はエドど警官の付き添いの下、家に帰った。
家に帰ると、お母様は私を抱きしめてきた。どうやら既に警察からの連絡がいっていたらしい。
「ベラ、大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫です」
なおも私を抱きしめるお母様の背中を私はポンポンと撫でた。
「怖い思いをしたね」
お父様は優しい口調で私を慰めてくれる。
「それより、本物の御者はどうしていますか?」
「馬小屋で倒れている所を発見されたよ。どうやら、例の不審者に襲われたらしい」
「大丈夫なんですか」
「ああ。今は意識を取り戻しているし、医者にも診てもらった。数日の安静は必要だが、命に別状はないそうだ」
「よかった」
でも、私のせいで怪我をさせてしまったのは申し訳ない。明日、お見舞いに行こう。
「今日は疲れただろう。もう部屋で休みなさい」
お父様の言葉に私は頷いた。
「ベラ、おやすみ。心配しないでね」
「はい。エドも気をつけて。今日はありがとうございました。みなさん、おやすみなさいませ」
私は両親とエドに別れを告げて二階の自室へと向かった。
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