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1章 神様が間違えたから
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※
ニコラス殿下から解放され、家に戻って来た時には、深夜に差し掛かろうとしていた。
お父様は眠らずに待っていて、私は小さな声で「ただいま戻りました」と言った。
「ああ・・・・・・」
お父様は何と表現していいのか分からないような、複雑な表情で私を見ている。
「夜も遅いから、・・・・・・早く寝なさい」
「・・・・・・はい」
私は重たい足取りで浴室に向かうと、侍女には手伝わせずに一人でお風呂に入った。
身体をごしごしと強い力で洗う。ニコラス殿下に触れられたあの甘くて切ない感覚を忘れたくて、必死になって洗った。
でも、そんな事をしたって、何の意味もなかった。念入りに洗えば洗うほど、あの行為を思い出してしまう。むしろ、逆効果になってしまった。
━━だめ。慣れなきゃ。
私は彼の愛人になったのだ。こんな事でいちいち感傷的になってはいけない。
これからも、私は身体を求められて、今日みたいな事をさせられるのだ。そして、それは彼が私に飽きるまで終わらないのだから・・・・・・。
涙がこぼれ落ちた。
慣れないといけないのに。泣いたって意味がないのに。頭では分かっていたけれど、涙は止まらなかった。
蛇口を捻り、シャワーを出す。泡も、涙も、弱い心も。何もかもを洗い流してしまいたかった。
※
それから、5日後の朝。毎日、朝の挨拶をしに来ていたエレノアが、今日は話しかけて来なかった。
私の顔を見ると顔を曇らせて、傷付いていますと言わんばかりに教室を飛び出したのだ。
━━ニコラス殿下から聞いたのね。
露骨な反応に私は溜め息を吐いた。
こんな分かりやすい反応をされては困る。ニコラス殿下の正妻となる人なのだから、もっとしっかりとしてもらいたい。
そもそも、彼女は、愛人相手になぜ気圧されるのだろう。仮に私がニコラス殿下からどんなに愛されようとも。例え、数々の高価な物品を贈られたとしても。所詮、私は愛人で、なれるのはせいぜい彼の「側室」という立場に過ぎない。
しかし、エレノアは違う。彼女は王太子妃殿下となり、やがては王妃陛下となるのだ。公の場で彼と並び立てるのは彼女の方で、王妃陛下となった彼女を跪かせる存在はいなくなる。
それなのに、一体何が不満なのだろう。私には理解ができない。
「やだ、ついに正妻様にまで嫌われちゃったのね!」
甲高いミランダの声がピリピリと痛む重い頭を刺激する。
ケイン殿下がまだ登校していないから、今の彼女は本性を丸出しだ。取り巻きの女達とともに、大きな声で私を嘲笑う。
「嫌よね。他に好きな人ができたら、あっさりと婚約者を捨てて愛人になるなんて。信じられない」
私とケイン殿下の婚約はまだ解消されていないから、彼女も愛人の立場なのだけれど。彼女は自分にとって都合の悪いことを認識できないから、仕方がない。
「ケイン様もかわいそうだわ。早く婚約の解消をしてくれたら、私と幸せに暮らせるのにねぇ」
ミランダの言葉に取り巻き達が同調する。彼女達のお花畑思考に、私はくすりと笑った。
━━ケイン殿下と幸せに暮らせるだなんて、本当に呆れる程、夢見がちな子なんだから。
王太子の座は、ニコラス殿下が勝ち取ると最早、決まったも同然だった。
今現在の中央政界でトップと言っても過言ではない程の力のあるモニャーク公爵家と、地方貴族の筆頭的存在のドルウェルク辺境伯家がニコラス殿下を支持している。
このままいけば、未だに立場を表明していない家の人々も、いずれはニコラス殿下を支持するだろう。そして、今現在、第二王子派に所属している家門だって、いつ、ニコラス殿下に乗り換えるか分かったものではない。
ニコラス殿下が王太子になれば、彼は今まで政敵であった人々を弾圧するはずだ。一番の敵であったケイン殿下に至っては、命の存亡すら、怪しくなるだろう。
━━それなのに、「私と幸せに暮らせる」?
ミランダはまるで現実を見ていない。ケイン殿下と自分が結ばれれば、ゲームの中のように、幸せなエンディングを迎えられると信じている。
弱小貴族の家に生まれた上、頭も良くない彼女がケイン殿下と結婚し、王太子妃になれるわけがないのに。
でも、私はその現実を教えてあげない。
人を小馬鹿にして、散々迷惑をかけてきたのだから、彼女はその報いを受けるべきだ。
ミランダはケイン殿下とともに沈めばいい。二人仲良く、惨たらしく死んでしまえばいいのだ。
それが、自分がこの世界の中心であり、「ヒロイン」なのだと信じて疑わない転生者の末路に相応しいだろう。
だから、私はそんな彼女にぴったりなエンディングを、いつか与えてあげようと思った。
ニコラス殿下から解放され、家に戻って来た時には、深夜に差し掛かろうとしていた。
お父様は眠らずに待っていて、私は小さな声で「ただいま戻りました」と言った。
「ああ・・・・・・」
お父様は何と表現していいのか分からないような、複雑な表情で私を見ている。
「夜も遅いから、・・・・・・早く寝なさい」
「・・・・・・はい」
私は重たい足取りで浴室に向かうと、侍女には手伝わせずに一人でお風呂に入った。
身体をごしごしと強い力で洗う。ニコラス殿下に触れられたあの甘くて切ない感覚を忘れたくて、必死になって洗った。
でも、そんな事をしたって、何の意味もなかった。念入りに洗えば洗うほど、あの行為を思い出してしまう。むしろ、逆効果になってしまった。
━━だめ。慣れなきゃ。
私は彼の愛人になったのだ。こんな事でいちいち感傷的になってはいけない。
これからも、私は身体を求められて、今日みたいな事をさせられるのだ。そして、それは彼が私に飽きるまで終わらないのだから・・・・・・。
涙がこぼれ落ちた。
慣れないといけないのに。泣いたって意味がないのに。頭では分かっていたけれど、涙は止まらなかった。
蛇口を捻り、シャワーを出す。泡も、涙も、弱い心も。何もかもを洗い流してしまいたかった。
※
それから、5日後の朝。毎日、朝の挨拶をしに来ていたエレノアが、今日は話しかけて来なかった。
私の顔を見ると顔を曇らせて、傷付いていますと言わんばかりに教室を飛び出したのだ。
━━ニコラス殿下から聞いたのね。
露骨な反応に私は溜め息を吐いた。
こんな分かりやすい反応をされては困る。ニコラス殿下の正妻となる人なのだから、もっとしっかりとしてもらいたい。
そもそも、彼女は、愛人相手になぜ気圧されるのだろう。仮に私がニコラス殿下からどんなに愛されようとも。例え、数々の高価な物品を贈られたとしても。所詮、私は愛人で、なれるのはせいぜい彼の「側室」という立場に過ぎない。
しかし、エレノアは違う。彼女は王太子妃殿下となり、やがては王妃陛下となるのだ。公の場で彼と並び立てるのは彼女の方で、王妃陛下となった彼女を跪かせる存在はいなくなる。
それなのに、一体何が不満なのだろう。私には理解ができない。
「やだ、ついに正妻様にまで嫌われちゃったのね!」
甲高いミランダの声がピリピリと痛む重い頭を刺激する。
ケイン殿下がまだ登校していないから、今の彼女は本性を丸出しだ。取り巻きの女達とともに、大きな声で私を嘲笑う。
「嫌よね。他に好きな人ができたら、あっさりと婚約者を捨てて愛人になるなんて。信じられない」
私とケイン殿下の婚約はまだ解消されていないから、彼女も愛人の立場なのだけれど。彼女は自分にとって都合の悪いことを認識できないから、仕方がない。
「ケイン様もかわいそうだわ。早く婚約の解消をしてくれたら、私と幸せに暮らせるのにねぇ」
ミランダの言葉に取り巻き達が同調する。彼女達のお花畑思考に、私はくすりと笑った。
━━ケイン殿下と幸せに暮らせるだなんて、本当に呆れる程、夢見がちな子なんだから。
王太子の座は、ニコラス殿下が勝ち取ると最早、決まったも同然だった。
今現在の中央政界でトップと言っても過言ではない程の力のあるモニャーク公爵家と、地方貴族の筆頭的存在のドルウェルク辺境伯家がニコラス殿下を支持している。
このままいけば、未だに立場を表明していない家の人々も、いずれはニコラス殿下を支持するだろう。そして、今現在、第二王子派に所属している家門だって、いつ、ニコラス殿下に乗り換えるか分かったものではない。
ニコラス殿下が王太子になれば、彼は今まで政敵であった人々を弾圧するはずだ。一番の敵であったケイン殿下に至っては、命の存亡すら、怪しくなるだろう。
━━それなのに、「私と幸せに暮らせる」?
ミランダはまるで現実を見ていない。ケイン殿下と自分が結ばれれば、ゲームの中のように、幸せなエンディングを迎えられると信じている。
弱小貴族の家に生まれた上、頭も良くない彼女がケイン殿下と結婚し、王太子妃になれるわけがないのに。
でも、私はその現実を教えてあげない。
人を小馬鹿にして、散々迷惑をかけてきたのだから、彼女はその報いを受けるべきだ。
ミランダはケイン殿下とともに沈めばいい。二人仲良く、惨たらしく死んでしまえばいいのだ。
それが、自分がこの世界の中心であり、「ヒロイン」なのだと信じて疑わない転生者の末路に相応しいだろう。
だから、私はそんな彼女にぴったりなエンディングを、いつか与えてあげようと思った。
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