【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
33 / 103
1章 神様が間違えたから

33

しおりを挟む




 情事の後、私達は裸のまま抱き合った。・・・・・・というより、私がニコラス殿下を抱きしめている。
 今日の彼は酷く甘えん坊だった。私の胸元に顔を埋めて引っ付いてくる。
 胸に執着するだなんて、まるで小さな子供のようだ。私は母親が子供にするように、彼の頭を撫でてあげる。

「レイチェル」
「はい」
「最近はどう?」
「まあまあです」
「文化祭の歌の演目、アイズ家の令嬢も出るんだってね?」
「そうらしいですね」
「今日、練習していたあの曲を歌うのかな?」
「さあ?」
 歌の曲名までは、噂で聞けなかった。

「・・・・・・俺、今年は歌と美術の審査員をするんだ」
 文化祭の各演目の審査には、毎年理事の一人が参加している。今年は彼がそれに選ばれたのだろう。
「アイズ家の令嬢達のペアに満点を付けるよ」
「どうしてです?」
「彼女、君のお気に入りだろ?」
 私は笑った。
「私の機嫌を取ろうとしなくたって、百点を付けることになりますから」
 フローラに並ぶ実力者はこの学園にはいない。彼女は少し聴かない間に、プロオペラ歌手と言っても遜色ない程にまで成長していたのだから。

 ニコラス殿下はふっと顔をあげて私を見て、また胸に顔を埋めた。
「またそうやって嫉妬させる」
「え? フローラ嬢相手にも嫉妬するのですか」
 彼は黙って頷いた。
 本当に困った人だ。女の子相手に嫉妬心を抱くなんて。

「これでは、私は誰とも仲良くできませんわ」
「・・・・・・分かってないな。君の心を掴んで離さないから憎いんだ」
 私は苦笑した。
「私の最も近くにいることができて、私を好きに扱う事ができるのはニコラス殿下だけなのですよ? 満足できませんか」
 問いかけに彼は答えない。身体をほんの少し動かして彼を窺い見れば、狸寝入りを決め込んでいる。

 私は笑った。今日の彼は、やっぱり子供っぽい。
 私は目を瞑り、彼の頭を撫でた。
 先程までの行為が、激しかったせいか、眠くなってきたのだ。
 裸のままで眠るだなんて、はしたない行為だと分かっている。けれど、それを見られるのはニコラス殿下だけ。そして、彼はそれを誰にも喋ることはない。
 だから、私は、安心して眠りに落ちた。
 彼は意外にも体温が高く、抱き枕にすると、よく眠れるのだ。







 文化祭の歌の演目は、残念な結果に終わった。
 フローラと侯爵令嬢のペアは準優勝。優勝したミランダと伯爵令嬢のペアが嬉しそうに笑っているのが妙に腹が立った。

 ━━何で、フローラを主役にしないのかしら。

 あの聖歌は、サビの高音パートがとても難しい事で有名な曲だった。そこを音程を外さずに歌い切れたなら、華々しくも神聖な雰囲気を醸し出せるのだけれど。侯爵令嬢には、荷が重かったようだ。彼女はサビの部分で声が掠れていたし、音をいくつも外していた。あれでは大減点を避ける事はできないだろう。
 高音を得意とするフローラがあのパートを歌っていれば、こんな結果にはならなかったはずだ。

 侯爵令嬢は、きっと、自分の方がフローラよりも年上で身分が高いからという理由で、主役の座を譲らなかったのだろう。彼女のつまらないプライドで優勝を逃し、彼女自身も恥を搔いた。
 でも、彼女はそれに気づいていない。ヘラヘラとした笑みを浮かべて準優勝という結果を喜んでいる。

 審査員として、コメントを求められたニコラス殿下はマイクを持って言った。
「参加者全員、とても歌が上手かった。中には、今すぐにでもプロ入りできる人もいたぐらいだよ。これからの活躍に期待している」
 彼はフローラに向けて言っていたのだけれど。当のフローラは俯いていて、その真意に気付いていなさそうだった。

 ━━ああ。もどかしい。

 こんな事なら歌の演目に参加していれば良かった。私なら何の躊躇いもなく、フローラに主役の座を譲ったのに。でしゃばりな令嬢のせいで、フローラが世間から注目されずに終わったじゃない。

 私は憤りを感じながら、席を立った。
 学園生活最後の文化祭は、こんなつまらない形で幕を下ろしたのだ。







 レイチェルはアイズ家の令嬢が優勝できなかった事に酷く落胆していた。どうやら彼女は、アイズ家の令嬢が世間から評価されるチャンスを逃した事を許せないでいるようだった。

「フローラ嬢の実家に、モニャーク公爵令嬢名義でお金を出資して欲しいんです。勿論、お金は私が払いますから」
 それはレイチェルの、初めてのおねだりだった。ベッドの中で、俺に抱かれ、上目遣いでお願いしてきた彼女に、俺は「いいよ」と答えた。

「でも、いいの? アイズ家はケインを支持する家門だ」
「問題ないですわ。彼女の所属する芸術関係のコミュニティは、中立派が多いですから」
「なるほど」
 に評価されれば、多額の金額を惜しみなく出資してもらえると認識させるのか。それで、彼らをこちら側に引き寄せると。

「それにしても、王太子妃ともなると、芸術にも造詣が深くならないといけないから大変だね」
「そうでしょうか。そんな風に思った事はないのですが」
「今日見た裸の男女の絵。あれは何がいいのかさっぱり分からない」
 そう言うとレイチェルはくすくすと笑った。

「あれは生まれた時の・・・・・・、ありのままの姿を描こうという意思の表れなんです」
「ふぅん? でも、何でそんな事を?」
「ちゃんと美術の先生の話を聞いていませんね」
「うん。あまり役に立ちそうにもないから、聞く気にもならなかった。他に覚えないといけない事が山程あったし」
「ふふっ。まあ、殿下は帝王教育で忙しかったのでしょうし。仕方がないですね」
「うん。・・・・・・それで、何で、今、ありのままを描く事が流行っているんだい?」
「肉体美を通して、ありのままの人間の美しさを表現しているのです」
「へえ・・・・・・。でも、それは間違ってるな」
 レイチェルは起き上がって俺を見た。
「どうして?」
「だって、そうだろう? ありのままの人間なんて、とても見れた様なものじゃないからさ」
 特に俺達のように、取り繕って生きる人間は・・・・・・。
 レイチェルはふっと笑い、また俺の腕に戻って来た。
「そうですね」
 彼女はそう言って、珍しく甘える様に擦り寄ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...