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1章 神様が間違えたから
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フローラの高く澄んだ声が聖歌を奏でていく。
それは、天上から舞い降りた女神の歌声の様に感じられた。
「全ての私の子らよ。私はいつまでも見守っている」
その一節の通り、彼女の歌声には、どこまでも優しく、全てを包み込むかのような赦しが込められていた。
報われなかった今までの努力を。褒められたものではない現状を。フローラの歌声が私を肯定し、赦してくれる様な錯覚に陥ってしまう。
私は泣きそうになって、目を開けた。
━━あ、最悪。
余韻に浸りたかったのに、私の目の前にはケイン殿下がいた。彼はいつからそこにいたのだろう。
「気分が、悪いのか」
心配そうに尋ねてくる彼を見て、本当に具合が悪くなりそうだと心の中で毒づいた。
「いいえ。お気遣いなく」
私はそう言って立ち上がった。
「待て」
立ち去ろうとする私の腕を彼が握りしめた。
「どうして抵抗しない?」
何の話か分からず首を傾げた。
「クラスでの嫌がらせの事だ。どうしていつも、何も言わず、誰にも助けを求めないんだ?」
つまらない疑問に私は溜め息が出そうになった。
「する必要がないからです」
あの嫌がらせを行っている主要なメンバーはエレノアの信奉者であり、第一王子派の家門の令嬢がほとんどだった。
だから、表立って抵抗して波風を立たせるわけにはいかなかった。そうすれば、エレノアの立場が悪くなり、第一王子派の中でも不和が起こるかもしれないのだ。
ニコラス殿下の基盤を揺るがさないために、私は水面下でゆっくりと解決に向けて動いているのに。
━━やっぱり、ケイン殿下はそれを想像するだけの知性がないのね。
私は彼の手を振り払った。
「では、これで」
立ち去ろうとすると、今度は私の前に立ちはだかってくる。
「何の真似です?」
「レイチェルは、いつもそうだよな」
私は首を傾げた。
「お前はいつも、俺の利益だの、第二王子派の基盤だの・・・・・・、それしか言わなかった。俺の気持ちや考えなんてどうでもよくて、俺が王太子になる事のみが重要で・・・・・・。そんなお前の言動が大嫌いだった」
「そうですか」
今更そんな事を言って何になるのだろう。百歩譲って、私がまだ彼と婚約していた時ならまだしも、今の私はニコラス殿下の愛人だ。ケイン殿下にとっての私の気に障る部分を聞かされても、それを直す価値なんて全くないのに。
私が冷たい反応をした事をケイン殿下は気に入らなかったらしい。彼は顔を歪めていた。
━━ああ。早く立ち去りたい。
そんな事を思いながら、何の気なしに空を見上げると、テラスにニコラス殿下がいる事に気が付いた。彼は冷たい目で私達を見下ろしていた。
面倒な所を見られた。けれど、それは面倒なこの状況をひっくり返すチャンスでもあった。
私はわざとらしくも微笑み、彼に向かって大きく手を振る。ケイン殿下は何事かと、テラスを見て、ニコラス殿下に気が付いた。ニコラス殿下は私の意図が分かったらしく、手を振り返してくる。
そんな私達の様子を見て、ケイン殿下は逃げ出した。
※
家に戻ると、ニコラス殿下は私の顔を見るなり、冷めた表情で腕を掴んだ。
「ただいま戻りました」
平穏を取り戻そうと挨拶をしてみたけれど、無視された。彼は私の腕を引っ張り、寝室へと引き込んだ。
「どうしてそんなに機嫌が悪いんです?」
服を引き剥がされている最中に尋ねると、彼は「嫉妬」とつぶやいた。
「ケイン殿下と私の間に甘い感情などない事はご存知でしょう?」
「俺以外の男と話しているだけで嫌だ」
「困った人ね」
笑うと、彼も同じ様に笑った。
「レイチェルが悪いんだ」
「責任転嫁ですか」
「だって、レイチェルだけが俺の理性を壊すんだ」
そう言って、彼は私の首筋に強く吸い付いた。
「やっ! そんな所に付けないで」
見える所に痣を作られては困る。逃れようとしても、彼にきつく抱きしめられていて動く事ができない。
彼は長い事、私の首筋に食らいつき、やっと離れた時には、肌がじわじわと痛んだ。これは絶対、痕になっている。
「凄くイライラするんだ」
彼はつぶやいてまた服を脱がしていく。
「そんな事を言われましても、男の人と接触を断つ事はできませんよ?」
「知ってる」
「それなら、どうしろと?」
「俺がまた理性的でいられるように、君が俺の気持ちを満たしてくれたらいい」
「分かりました」
私は彼の髪を優しく撫でて言った。
「我儘な王子様。私以外の人に子供っぽい所を見せてはいけませんよ?」
ニコラス殿下は嬉しそうに頷き、私を押し倒した。
それは、天上から舞い降りた女神の歌声の様に感じられた。
「全ての私の子らよ。私はいつまでも見守っている」
その一節の通り、彼女の歌声には、どこまでも優しく、全てを包み込むかのような赦しが込められていた。
報われなかった今までの努力を。褒められたものではない現状を。フローラの歌声が私を肯定し、赦してくれる様な錯覚に陥ってしまう。
私は泣きそうになって、目を開けた。
━━あ、最悪。
余韻に浸りたかったのに、私の目の前にはケイン殿下がいた。彼はいつからそこにいたのだろう。
「気分が、悪いのか」
心配そうに尋ねてくる彼を見て、本当に具合が悪くなりそうだと心の中で毒づいた。
「いいえ。お気遣いなく」
私はそう言って立ち上がった。
「待て」
立ち去ろうとする私の腕を彼が握りしめた。
「どうして抵抗しない?」
何の話か分からず首を傾げた。
「クラスでの嫌がらせの事だ。どうしていつも、何も言わず、誰にも助けを求めないんだ?」
つまらない疑問に私は溜め息が出そうになった。
「する必要がないからです」
あの嫌がらせを行っている主要なメンバーはエレノアの信奉者であり、第一王子派の家門の令嬢がほとんどだった。
だから、表立って抵抗して波風を立たせるわけにはいかなかった。そうすれば、エレノアの立場が悪くなり、第一王子派の中でも不和が起こるかもしれないのだ。
ニコラス殿下の基盤を揺るがさないために、私は水面下でゆっくりと解決に向けて動いているのに。
━━やっぱり、ケイン殿下はそれを想像するだけの知性がないのね。
私は彼の手を振り払った。
「では、これで」
立ち去ろうとすると、今度は私の前に立ちはだかってくる。
「何の真似です?」
「レイチェルは、いつもそうだよな」
私は首を傾げた。
「お前はいつも、俺の利益だの、第二王子派の基盤だの・・・・・・、それしか言わなかった。俺の気持ちや考えなんてどうでもよくて、俺が王太子になる事のみが重要で・・・・・・。そんなお前の言動が大嫌いだった」
「そうですか」
今更そんな事を言って何になるのだろう。百歩譲って、私がまだ彼と婚約していた時ならまだしも、今の私はニコラス殿下の愛人だ。ケイン殿下にとっての私の気に障る部分を聞かされても、それを直す価値なんて全くないのに。
私が冷たい反応をした事をケイン殿下は気に入らなかったらしい。彼は顔を歪めていた。
━━ああ。早く立ち去りたい。
そんな事を思いながら、何の気なしに空を見上げると、テラスにニコラス殿下がいる事に気が付いた。彼は冷たい目で私達を見下ろしていた。
面倒な所を見られた。けれど、それは面倒なこの状況をひっくり返すチャンスでもあった。
私はわざとらしくも微笑み、彼に向かって大きく手を振る。ケイン殿下は何事かと、テラスを見て、ニコラス殿下に気が付いた。ニコラス殿下は私の意図が分かったらしく、手を振り返してくる。
そんな私達の様子を見て、ケイン殿下は逃げ出した。
※
家に戻ると、ニコラス殿下は私の顔を見るなり、冷めた表情で腕を掴んだ。
「ただいま戻りました」
平穏を取り戻そうと挨拶をしてみたけれど、無視された。彼は私の腕を引っ張り、寝室へと引き込んだ。
「どうしてそんなに機嫌が悪いんです?」
服を引き剥がされている最中に尋ねると、彼は「嫉妬」とつぶやいた。
「ケイン殿下と私の間に甘い感情などない事はご存知でしょう?」
「俺以外の男と話しているだけで嫌だ」
「困った人ね」
笑うと、彼も同じ様に笑った。
「レイチェルが悪いんだ」
「責任転嫁ですか」
「だって、レイチェルだけが俺の理性を壊すんだ」
そう言って、彼は私の首筋に強く吸い付いた。
「やっ! そんな所に付けないで」
見える所に痣を作られては困る。逃れようとしても、彼にきつく抱きしめられていて動く事ができない。
彼は長い事、私の首筋に食らいつき、やっと離れた時には、肌がじわじわと痛んだ。これは絶対、痕になっている。
「凄くイライラするんだ」
彼はつぶやいてまた服を脱がしていく。
「そんな事を言われましても、男の人と接触を断つ事はできませんよ?」
「知ってる」
「それなら、どうしろと?」
「俺がまた理性的でいられるように、君が俺の気持ちを満たしてくれたらいい」
「分かりました」
私は彼の髪を優しく撫でて言った。
「我儘な王子様。私以外の人に子供っぽい所を見せてはいけませんよ?」
ニコラス殿下は嬉しそうに頷き、私を押し倒した。
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