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1章 神様が間違えたから
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※
お父様が王都を発ってからちょうど1ヶ月経った日の朝、ミランダはわざとらしくも教室で涙を流していた。
「第一王妃様が、ひどいんですっ」
ケインに向かって訴えるミランダを見て、彼女が第一王妃様と謁見してなじられたのだと理解した。
「私は第一王妃様と仲良くしたいと思ってたのに。私の話も聞いてくれず、ずっと、叱られてしまって・・・・・・。きっと何か誤解されてるんですわ」
━━馬鹿ねぇ。第一王妃様は、あなたをイビってストレスを解消するためだけに呼んだのよ。
第一王妃様はケイン殿下とミランダの婚約を絶対に認めない。
第一王妃様は、息子を使った第二王妃様との争いに負けるわけにはいかないから。高位貴族として大切に育てられた彼女にとって、卑しい身の第二王妃様に負ける事程、悔しい事はないのだ。
だから、彼女は焦っている。ケイン殿下を支持し、第二王子派の勢いを立て直せる様な家門の令嬢を血眼になって探していると聞いた。勿論、そんな令嬢など、存在しない。
第一王妃様は決して認めないだろうけれど。今更、ケイン殿下を支持した所で高位の貴族にとっては何のメリットもないのだ。むしろ、そうしたら、ニコラス殿下が王となり実権を握った際に冷や飯を食わされる羽目になるだろう。
だから、高位の貴族達は、その婚約話に絶対に乗ってこない。
しかし、低位の貴族達はそうではない。彼らは王族との繋がりを持ちたいがために、ケイン殿下の婚約話に群がって来る。例えば、ミランダの様な成り上がりを望む卑しい令嬢が・・・・・・。第二王妃様を思わせる様な女しか、ケイン殿下には残っていない。その事実に対して、第一王妃様はさぞ苛立っている事だろう。
しかし、怒った所で仕方がない。彼女の息子はそういう女が好きで、彼はやるべき事を果たせない人間なのだから━━━━
こつんと消しゴムが頭に当たった。背中だと何でもないそれは、頭だとそれなりに痛いのだと思った。
エレノアの取り巻きは「頭に命中させられた!」とはしゃいで笑っている。私が全くといっていい程、抵抗しないせいだろうか。ここ最近の嫌がらせは大胆になっていて、彼女達は人目を気にしなくなってきている。今のように多くのクラスメイトの目がある中でも、消しゴムを投げつけてくるくらい、彼女達は調子に乗っていた。
「ラスト1個、私も当てられるかしら?」
くすくすと笑いながら令嬢が言う。
「いける、いける!」
「頑張って」
囃し立てる声は、突然、ぴたりと止まった。
「・・・・・・あの、ケイン殿下。何かご用がありますか」
さっきまであんなにはしゃいでいたのに。萎縮しきった令嬢の声が気になって私は振り返った。
ケイン殿下は怖い顔で彼女達に向き合っていた。私は彼に睨まれる事も多かったけれど、あそこまで怒った顔をした彼は見た事がなかった。
ケイン殿下は令嬢から消しゴムをひったくると、「二度とこんな真似はするな!」と怒鳴り付けた。そして、彼は怒りも冷めやらぬ様子で、ミランダのもとに戻って行く。
これには、そこにいたクラスメイト全員が呆気に取られてしまった。
━━元婚約者を庇うなんて、何がしたいのかしら?
ケイン殿下の意図は誰にも分からない。彼の手綱をしっかりと握っているミランダさえ、涙を引っ込めて呆気に取られていたくらいだ。
そんなケイン殿下と目が合った。私は慌てて目を逸らし、いつも通り、何事もなかったかのように授業の予習を始めた。
※
昼休みに食事を終えると、私は時間潰しに何となく中庭を訪れた。日陰のベンチに座ってみると、あの日座っていたテラスがよく見えた。
━━結構丸見えなのね。
あの日、ニコラス殿下とキスをしていた所を、ケイン殿下とミランダにはっきりと見られていたのかと思うと恥ずかしい。
私は水筒のお茶を飲んだ。ローズ王女殿下から頂いたミントティーは爽やかな味わいだから、この羞恥心を吹き飛ばしてくれるような気がした。
今日はそんなに頭痛のしない日だった。頭をぎゅっと押さえつけられる様な感覚はあるけれど、激しい痛みは起こっていない。昨日の晩、ニコラス殿下が背中や肩を揉んでくれたおかげだろうか。
そんな事を考えていると、遠くの方から小さく、フローラの歌声が聞こえた。
━━そうか、秋の文化祭に向けて練習しているのね。
フローラは文化祭の歌の演目に出場するらしい。そう噂で聞いた。
彼女の歌声を大ホールの観客席から聴いてみたい。あの透き通ったハイトーンボイスは、大衆を魅了し、圧巻の歓声を引き起こすだろう。
私は、フローラの優勝をこの目で見届けたい。だからこそ、私は文化祭の日を心から待ち望んでいるのだ。
あのテラスでの事件以降、私はフローラの歌をまともに聴けていない。あんな事があった後にテラスに行けるわけもなく。かといって歌を聴き入れる様な場所は他にはなく、私は彼女の歌を聴くことを泣く泣く諦めていたのだ。
それに、フローラは私の顔を見るだけで凄くバツの悪そうな顔をしてしまうから。彼女を困らせている事に対して申し訳なさを感じた。だから、でき得る限り彼女には近寄らない様にしていた。
━━ああ。やっぱり、綺麗な歌声。癒されるわ。
彼女の美しい声に酔いしれて私は目を閉じた。
お父様が王都を発ってからちょうど1ヶ月経った日の朝、ミランダはわざとらしくも教室で涙を流していた。
「第一王妃様が、ひどいんですっ」
ケインに向かって訴えるミランダを見て、彼女が第一王妃様と謁見してなじられたのだと理解した。
「私は第一王妃様と仲良くしたいと思ってたのに。私の話も聞いてくれず、ずっと、叱られてしまって・・・・・・。きっと何か誤解されてるんですわ」
━━馬鹿ねぇ。第一王妃様は、あなたをイビってストレスを解消するためだけに呼んだのよ。
第一王妃様はケイン殿下とミランダの婚約を絶対に認めない。
第一王妃様は、息子を使った第二王妃様との争いに負けるわけにはいかないから。高位貴族として大切に育てられた彼女にとって、卑しい身の第二王妃様に負ける事程、悔しい事はないのだ。
だから、彼女は焦っている。ケイン殿下を支持し、第二王子派の勢いを立て直せる様な家門の令嬢を血眼になって探していると聞いた。勿論、そんな令嬢など、存在しない。
第一王妃様は決して認めないだろうけれど。今更、ケイン殿下を支持した所で高位の貴族にとっては何のメリットもないのだ。むしろ、そうしたら、ニコラス殿下が王となり実権を握った際に冷や飯を食わされる羽目になるだろう。
だから、高位の貴族達は、その婚約話に絶対に乗ってこない。
しかし、低位の貴族達はそうではない。彼らは王族との繋がりを持ちたいがために、ケイン殿下の婚約話に群がって来る。例えば、ミランダの様な成り上がりを望む卑しい令嬢が・・・・・・。第二王妃様を思わせる様な女しか、ケイン殿下には残っていない。その事実に対して、第一王妃様はさぞ苛立っている事だろう。
しかし、怒った所で仕方がない。彼女の息子はそういう女が好きで、彼はやるべき事を果たせない人間なのだから━━━━
こつんと消しゴムが頭に当たった。背中だと何でもないそれは、頭だとそれなりに痛いのだと思った。
エレノアの取り巻きは「頭に命中させられた!」とはしゃいで笑っている。私が全くといっていい程、抵抗しないせいだろうか。ここ最近の嫌がらせは大胆になっていて、彼女達は人目を気にしなくなってきている。今のように多くのクラスメイトの目がある中でも、消しゴムを投げつけてくるくらい、彼女達は調子に乗っていた。
「ラスト1個、私も当てられるかしら?」
くすくすと笑いながら令嬢が言う。
「いける、いける!」
「頑張って」
囃し立てる声は、突然、ぴたりと止まった。
「・・・・・・あの、ケイン殿下。何かご用がありますか」
さっきまであんなにはしゃいでいたのに。萎縮しきった令嬢の声が気になって私は振り返った。
ケイン殿下は怖い顔で彼女達に向き合っていた。私は彼に睨まれる事も多かったけれど、あそこまで怒った顔をした彼は見た事がなかった。
ケイン殿下は令嬢から消しゴムをひったくると、「二度とこんな真似はするな!」と怒鳴り付けた。そして、彼は怒りも冷めやらぬ様子で、ミランダのもとに戻って行く。
これには、そこにいたクラスメイト全員が呆気に取られてしまった。
━━元婚約者を庇うなんて、何がしたいのかしら?
ケイン殿下の意図は誰にも分からない。彼の手綱をしっかりと握っているミランダさえ、涙を引っ込めて呆気に取られていたくらいだ。
そんなケイン殿下と目が合った。私は慌てて目を逸らし、いつも通り、何事もなかったかのように授業の予習を始めた。
※
昼休みに食事を終えると、私は時間潰しに何となく中庭を訪れた。日陰のベンチに座ってみると、あの日座っていたテラスがよく見えた。
━━結構丸見えなのね。
あの日、ニコラス殿下とキスをしていた所を、ケイン殿下とミランダにはっきりと見られていたのかと思うと恥ずかしい。
私は水筒のお茶を飲んだ。ローズ王女殿下から頂いたミントティーは爽やかな味わいだから、この羞恥心を吹き飛ばしてくれるような気がした。
今日はそんなに頭痛のしない日だった。頭をぎゅっと押さえつけられる様な感覚はあるけれど、激しい痛みは起こっていない。昨日の晩、ニコラス殿下が背中や肩を揉んでくれたおかげだろうか。
そんな事を考えていると、遠くの方から小さく、フローラの歌声が聞こえた。
━━そうか、秋の文化祭に向けて練習しているのね。
フローラは文化祭の歌の演目に出場するらしい。そう噂で聞いた。
彼女の歌声を大ホールの観客席から聴いてみたい。あの透き通ったハイトーンボイスは、大衆を魅了し、圧巻の歓声を引き起こすだろう。
私は、フローラの優勝をこの目で見届けたい。だからこそ、私は文化祭の日を心から待ち望んでいるのだ。
あのテラスでの事件以降、私はフローラの歌をまともに聴けていない。あんな事があった後にテラスに行けるわけもなく。かといって歌を聴き入れる様な場所は他にはなく、私は彼女の歌を聴くことを泣く泣く諦めていたのだ。
それに、フローラは私の顔を見るだけで凄くバツの悪そうな顔をしてしまうから。彼女を困らせている事に対して申し訳なさを感じた。だから、でき得る限り彼女には近寄らない様にしていた。
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