【完結】堅物令嬢と勘違い求婚 ━学園を騒がす恋の幕開け━

花草青依

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む
 翌日からは、学園はまるで祝祭日の歓楽街のように騒がしくなっていった。
 中庭のベンチでランチをしていた女子学生たちは、今日も噂話に花を咲かせている。

「ねえ、聞いた? カタリーナ嬢がアレハンドロ様からプロポーズされたんですって!」
「信じられないわよね。あの堅物女が、あんなに堂々と求婚されるなんて!」

 彼女達はカタリーナを馬鹿にしながらも、目を輝かせていた。演劇のようなプロポーズを目の当たりにしたのだ。内心は羨ましくて仕方がないのだろう。
 対して、男子学生達は、冷やかす素振りを見せつける。わざとらしく口笛を吹いて、茶化しつつも、アレハンドロの邪魔をすることはしなかった。

 いつになく騒がしい中庭で、カタリーナは好奇の目に晒されながら食事を摂った。
 彼女は平静を装っていたものの、心の中は嵐のように乱れていた。

 アレハンドロは、告白をして以降、彼女の周囲に張り付く勢いだった。授業の合間には、ノートを手渡すふりをして彼女の隣に座り、舞踏練習では踊りの手本を見せるふりをして無理やりペアになる。お茶会では、正面に陣取って微笑みかけるのが常だった。

 毎日のようにわざとらしいくらいに好意を示されて、カタリーナはほとほと疲れ切っていた。
「これは……何事?」
 カタリーナは眉を顰めて、パウラに小声で愚痴をこぼす。

「見ているだけで目が回りそうになるわ。どうしてこうも押しが強いのかしら」
「仕方ないわ。彼の中では、もうカタリーナの“婚約者”なんですもの」
 パウラは微笑んで、少しからかうように言った。

 一方で、カタリーナの幼馴染であるダミアンは、皮肉を交えながらも、冷静に忠告をしてきた。
「今は笑い話にできるが、あの勘違い王子っぷりを放置していたらまずいことになるんじゃないか」
「わかってるわよ。でも……」
 カタリーナはため息をつき、花壇に咲く美しい花々を見た。

 今までの男のように冷たくあしらってみても、アレハンドロの好意は消えることがなかった。それどころか、彼の熱烈アプローチは、日常にじわじわと侵食してきていた。

 カタリーナはできるだけ平穏に、可能な限り距離を取ろうとした。これ以上、噂の的にならないようにしながら、アレハンドロが飽きるのを待つつもりでいた。

 しかし、学園中が二人を注視しているため、彼女の必死の防御は逆に目立ってしまった。周囲の生徒たちはそのやり取りを、微笑ましく応援するかのように見守ってくる。それが癪に障るけれど、怒ったらからかいの対象になるから我慢している。

「でも、熱烈に好意を寄せられるなんて、素敵なことじゃない? 彼って、家柄が良くて、何より顔も良いんだし」
 パウラは茶目っ気たっぷりに言った。
「あなた、他人事だと思って言ってるでしょ?」
 カタリーナは眉間にしわを寄せながら苦笑した。
「そういう男が好みなら、俺もしつこくデートにでも誘ってみるか」
 パウラに向けてダミアンが笑いかけると、彼女は「それは勘弁して」とあっさりと振った。

 ダミアンは冗談の分かる男だから、彼女達のやり取りはそれでおしまい。
 けれど、アレハンドロはそうはいかない。彼は、はっきりと断っても、一向に引かないのだ。

 彼の熱烈さは日増しに加速していった。廊下でカタリーナを見つければ、まるで従者のように本や荷物を持ちたがり、講義の場では彼女の代わりに答えようと口を開き、教授に咳払いで制されることもあった。
 そのたびに周囲の学生たちは面白がって笑い、ますます二人を“舞台”の上に押し上げていく。

「まるで見世物にでもなった気分よ」
 机に肘をつきながら、カタリーナは小さく愚痴った。
「その割には、立派に“主演”を務めてるじゃないか」
 ダミアンの皮肉にカタリーナはキッと睨みつける。
 しかし、隣りのパウラが「ほんと、喝采を浴びる女優みたい」と茶化すから、カタリーナは頭を抱えるしかなかった。

「私はくだらない三文芝居をする気はないの」
 安っぽい恋愛劇なんて、ごめんだ。そう思っているからこそ、カタリーナはアレハンドロに冷たく接しているのに。
 彼にとっては、それすら、愛の駆け引きに映るのだ。彼は、愛おしい彼女の挑戦に受けて立つと言わんばかりに、別のアプローチを試そうとする。

 その熱意と自己満足の勘違いぶりは、退屈な学園生活をまるで舞台のコントのように彩っていた。

 当人であるカタリーナは辟易していても、それ以外の人々は、その続きを楽しみにして毎日を過ごしている。
 男子学生たちはアレハンドロのめげない心と勇気に感心し、女子学生たちはカタリーナのに胸をときめかせた。
 中庭から始まった噂は、いつの間にか校舎全体へと広がり、カタリーナは知らぬ間に、学園の“話題の中心人物”となっていた。

 こうして、カタリーナは大舞台の上に立たされた。壇上を降りようと思っても、主役アレハンドロと観客達がそれを許してくれない。
 甘い恋愛ストーリーの台本を彼女がビリビリに破いた所で、劇の幕が下りることはないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味な陰キャの私。秘密の図書室で、完璧な王子様の”裏の顔”を知ってしまいました

久遠翠
恋愛
教室の隅で息を潜める、分厚い眼鏡の陰キャ女子・山崎静。彼女の唯一の安らぎは、月に一度だけ訪れる旧校舎の「第三図書準備室」。そこは、誰にも邪魔されない彼女だけの聖域――のはずだった。 ある日、その聖域に足を踏み入れたのは、スポーツ万能、成績優秀、誰もが憧れる学園の完璧王子・橘慶一郎。住む世界が違うはずの彼が読んでいたのは、静が愛してやまない超マイナーSF小説だった!? 「もしかして、あなたも――」 この出会いをきっかけに、出席番号25番同士の二人は、毎月25日だけの「秘密の友達」になる。完璧な仮面の下に重度のオタクな素顔を隠す王子と、分厚い眼鏡の下に類いまれなる才能を隠す少女。古書の匂いが満ちる静かな部屋で、二人の心は少しずつ近づいていく。 これは、冴えない少女が本当の自分を見つけ、最高の恋を手に入れる、甘くて少しだけ切ないシンデレラストーリー。ギャップ萌え満載の、心温まる放課後ラブコメディ!

【完結】小動物系の待女が魔術師を魅了したら王宮の危機でした

仙桜可律
恋愛
フードすっぽり魔術師団長×愛され待女 第二王女殿下付きの侍女、リーゼロッテは17才の男爵令嬢。小柄なためか幼く見られるのを気にしている。 王宮で働く先輩たちは恋愛結婚が多い。リーゼは魔術師団のリューバー団長に憧れていた。誰も素顔を見たことはないけれど、そのミステリアスな感じがたまらないと姿を見かけては喜んでいた。 周囲はそんなリーゼをお子様扱いで半ば呆れていたけれど、あることをきっかけに二人は急接近。 ※エブリスタの過去作に加筆しました

余命宣告されたモブ令嬢と隠しルートの人見知り魔術師

佐倉穂波
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生したミリア。  モブなりに楽しく生きていこうと思った矢先に、ミリアは余命宣告を聞いてしまう。  短い人生なら推し活に残りの人生を費やそうと、ミリアは前世で推しだった隠しルートの魔術師を訪ねることにした。 *本編4話完結 *リュカリスside3話。 *ふわっとした世界観。 *この作品はpixiv『投稿企画 みんなが読みたい小説を書こう!』のお題を利用し創作したものです。  https://www.pixiv.net/novel/contest/yomitainovel

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

【完結】二十五歳のドレスを脱ぐとき ~「私という色」を探しに出かけます~

朝日みらい
恋愛
 二十五歳――それは、誰かのために生きることをやめて、  自分のために色を選び直す年齢だったのかもしれません。  リリア・ベルアメール。王都の宰相夫人として、誰もが羨む立場にありながら、 彼女の暮らす屋敷には、静かすぎるほどの沈黙が流れていました。  深緑のドレスを纏い、夫と並んで歩くことが誇りだと信じていた年月は、  いまではすべて、くすんだ記憶の陰に沈んでいます。  “夫の色”――それは、誇りでもあり、呪いでもあった。  リリアはその色の中で、感情を隠し、言葉を飲み込み、微笑むことを覚えた。  けれど二十五歳の冬、長く続いた沈黙に小さなひびが入ります。  愛されることよりも、自分を取り戻すこと。  選ばれる幸せよりも、自分で選ぶ勇気。  その夜、彼女が纏ったのは、夫の深緑ではなく――春の蕾のような淡いピンク。  それは、彼女が“自分の色”で生きると決めた最初の夜でした――。

(完)美貌の王に恋するお姫様(前7話)

青空一夏
恋愛
エステファニア王国のアイヤナ姫は、はじめて見る庭師に恋をした。 その彼と駆け落ちをしたのだが・・・・・・ハッピーエンドのお話。読むに従って「なるほどね」と思うような構成になっています。なので、タグは言えない秘密(´,,•ω•,,`)◝ 画像はpixabayのフリー画像です。

聖女様の生き残り術

ありがとうございました。さようなら
恋愛
「お前なんか生まれてこなければ良かった」 母親に罵倒されたショックで、アイオラに前世の記憶が蘇った。 「愛され聖女の物語」という物語の悪役聖女アイオラに生まれて変わったことに気がつく。 アイオラは、物語の中で悪事の限りを尽くし、死刑される寸前にまで追い込まれるが、家族の嘆願によって死刑は免れる。 しかし、ヒロインに執着する黒幕によって殺害されるという役どころだった。 このままだったら確実に殺されてしまう! 幸い。アイオラが聖女になってから、ヒロインが現れるまでには時間があった。 アイオラは、未来のヒロインの功績を奪い生き残るために奮闘する。

「お前とは釣り合わない」と振られた令嬢、国一番の英雄に溺愛される

ほーみ
恋愛
社交界の中心ともいえる、王宮の大広間。そこに、令嬢アリシア・フェルナーは立っていた。  彼女の金色の髪は絹のように輝き、薄紫のドレスがその華奢な体を包む。だが今、その瞳には静かな怒りと哀しみが宿っていた。 「……アリシア・フェルナー嬢。婚約の破棄を申し渡す。君と私とでは、釣り合わない」  そう告げたのは、王国貴族の筆頭ともいわれるユリウス・グランハルト侯爵令息だった。

処理中です...