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翌日からは、学園はまるで祝祭日の歓楽街のように騒がしくなっていった。
中庭のベンチでランチをしていた女子学生たちは、今日も噂話に花を咲かせている。
「ねえ、聞いた? カタリーナ嬢がアレハンドロ様からプロポーズされたんですって!」
「信じられないわよね。あの堅物女が、あんなに堂々と求婚されるなんて!」
彼女達はカタリーナを馬鹿にしながらも、目を輝かせていた。演劇のようなプロポーズを目の当たりにしたのだ。内心は羨ましくて仕方がないのだろう。
対して、男子学生達は、冷やかす素振りを見せつける。わざとらしく口笛を吹いて、茶化しつつも、アレハンドロの邪魔をすることはしなかった。
いつになく騒がしい中庭で、カタリーナは好奇の目に晒されながら食事を摂った。
彼女は平静を装っていたものの、心の中は嵐のように乱れていた。
アレハンドロは、告白をして以降、彼女の周囲に張り付く勢いだった。授業の合間には、ノートを手渡すふりをして彼女の隣に座り、舞踏練習では踊りの手本を見せるふりをして無理やりペアになる。お茶会では、正面に陣取って微笑みかけるのが常だった。
毎日のようにわざとらしいくらいに好意を示されて、カタリーナはほとほと疲れ切っていた。
「これは……何事?」
カタリーナは眉を顰めて、パウラに小声で愚痴をこぼす。
「見ているだけで目が回りそうになるわ。どうしてこうも押しが強いのかしら」
「仕方ないわ。彼の中では、もうカタリーナの“婚約者”なんですもの」
パウラは微笑んで、少しからかうように言った。
一方で、カタリーナの幼馴染であるダミアンは、皮肉を交えながらも、冷静に忠告をしてきた。
「今は笑い話にできるが、あの勘違い王子っぷりを放置していたらまずいことになるんじゃないか」
「わかってるわよ。でも……」
カタリーナはため息をつき、花壇に咲く美しい花々を見た。
今までの男のように冷たくあしらってみても、アレハンドロの好意は消えることがなかった。それどころか、彼の熱烈アプローチは、日常にじわじわと侵食してきていた。
カタリーナはできるだけ平穏に、可能な限り距離を取ろうとした。これ以上、噂の的にならないようにしながら、アレハンドロが飽きるのを待つつもりでいた。
しかし、学園中が二人を注視しているため、彼女の必死の防御は逆に目立ってしまった。周囲の生徒たちはそのやり取りを、微笑ましく応援するかのように見守ってくる。それが癪に障るけれど、怒ったらからかいの対象になるから我慢している。
「でも、熱烈に好意を寄せられるなんて、素敵なことじゃない? 彼って、家柄が良くて、何より顔も良いんだし」
パウラは茶目っ気たっぷりに言った。
「あなた、他人事だと思って言ってるでしょ?」
カタリーナは眉間にしわを寄せながら苦笑した。
「そういう男が好みなら、俺もしつこくデートにでも誘ってみるか」
パウラに向けてダミアンが笑いかけると、彼女は「それは勘弁して」とあっさりと振った。
ダミアンは冗談の分かる男だから、彼女達のやり取りはそれでおしまい。
けれど、アレハンドロはそうはいかない。彼は、はっきりと断っても、一向に引かないのだ。
彼の熱烈さは日増しに加速していった。廊下でカタリーナを見つければ、まるで従者のように本や荷物を持ちたがり、講義の場では彼女の代わりに答えようと口を開き、教授に咳払いで制されることもあった。
そのたびに周囲の学生たちは面白がって笑い、ますます二人を“舞台”の上に押し上げていく。
「まるで見世物にでもなった気分よ」
机に肘をつきながら、カタリーナは小さく愚痴った。
「その割には、立派に“主演”を務めてるじゃないか」
ダミアンの皮肉にカタリーナはキッと睨みつける。
しかし、隣りのパウラが「ほんと、喝采を浴びる女優みたい」と茶化すから、カタリーナは頭を抱えるしかなかった。
「私はくだらない三文芝居をする気はないの」
安っぽい恋愛劇なんて、ごめんだ。そう思っているからこそ、カタリーナはアレハンドロに冷たく接しているのに。
彼にとっては、それすら、愛の駆け引きに映るのだ。彼は、愛おしい彼女の挑戦に受けて立つと言わんばかりに、別のアプローチを試そうとする。
その熱意と自己満足の勘違いぶりは、退屈な学園生活をまるで舞台のコントのように彩っていた。
当人であるカタリーナは辟易していても、それ以外の人々は、その続きを楽しみにして毎日を過ごしている。
男子学生たちはアレハンドロのめげない心と勇気に感心し、女子学生たちはカタリーナの照れ隠しに胸をときめかせた。
中庭から始まった噂は、いつの間にか校舎全体へと広がり、カタリーナは知らぬ間に、学園の“話題の中心人物”となっていた。
こうして、カタリーナは大舞台の上に立たされた。壇上を降りようと思っても、主役と観客達がそれを許してくれない。
甘い恋愛ストーリーの台本を彼女がビリビリに破いた所で、劇の幕が下りることはないのだ。
中庭のベンチでランチをしていた女子学生たちは、今日も噂話に花を咲かせている。
「ねえ、聞いた? カタリーナ嬢がアレハンドロ様からプロポーズされたんですって!」
「信じられないわよね。あの堅物女が、あんなに堂々と求婚されるなんて!」
彼女達はカタリーナを馬鹿にしながらも、目を輝かせていた。演劇のようなプロポーズを目の当たりにしたのだ。内心は羨ましくて仕方がないのだろう。
対して、男子学生達は、冷やかす素振りを見せつける。わざとらしく口笛を吹いて、茶化しつつも、アレハンドロの邪魔をすることはしなかった。
いつになく騒がしい中庭で、カタリーナは好奇の目に晒されながら食事を摂った。
彼女は平静を装っていたものの、心の中は嵐のように乱れていた。
アレハンドロは、告白をして以降、彼女の周囲に張り付く勢いだった。授業の合間には、ノートを手渡すふりをして彼女の隣に座り、舞踏練習では踊りの手本を見せるふりをして無理やりペアになる。お茶会では、正面に陣取って微笑みかけるのが常だった。
毎日のようにわざとらしいくらいに好意を示されて、カタリーナはほとほと疲れ切っていた。
「これは……何事?」
カタリーナは眉を顰めて、パウラに小声で愚痴をこぼす。
「見ているだけで目が回りそうになるわ。どうしてこうも押しが強いのかしら」
「仕方ないわ。彼の中では、もうカタリーナの“婚約者”なんですもの」
パウラは微笑んで、少しからかうように言った。
一方で、カタリーナの幼馴染であるダミアンは、皮肉を交えながらも、冷静に忠告をしてきた。
「今は笑い話にできるが、あの勘違い王子っぷりを放置していたらまずいことになるんじゃないか」
「わかってるわよ。でも……」
カタリーナはため息をつき、花壇に咲く美しい花々を見た。
今までの男のように冷たくあしらってみても、アレハンドロの好意は消えることがなかった。それどころか、彼の熱烈アプローチは、日常にじわじわと侵食してきていた。
カタリーナはできるだけ平穏に、可能な限り距離を取ろうとした。これ以上、噂の的にならないようにしながら、アレハンドロが飽きるのを待つつもりでいた。
しかし、学園中が二人を注視しているため、彼女の必死の防御は逆に目立ってしまった。周囲の生徒たちはそのやり取りを、微笑ましく応援するかのように見守ってくる。それが癪に障るけれど、怒ったらからかいの対象になるから我慢している。
「でも、熱烈に好意を寄せられるなんて、素敵なことじゃない? 彼って、家柄が良くて、何より顔も良いんだし」
パウラは茶目っ気たっぷりに言った。
「あなた、他人事だと思って言ってるでしょ?」
カタリーナは眉間にしわを寄せながら苦笑した。
「そういう男が好みなら、俺もしつこくデートにでも誘ってみるか」
パウラに向けてダミアンが笑いかけると、彼女は「それは勘弁して」とあっさりと振った。
ダミアンは冗談の分かる男だから、彼女達のやり取りはそれでおしまい。
けれど、アレハンドロはそうはいかない。彼は、はっきりと断っても、一向に引かないのだ。
彼の熱烈さは日増しに加速していった。廊下でカタリーナを見つければ、まるで従者のように本や荷物を持ちたがり、講義の場では彼女の代わりに答えようと口を開き、教授に咳払いで制されることもあった。
そのたびに周囲の学生たちは面白がって笑い、ますます二人を“舞台”の上に押し上げていく。
「まるで見世物にでもなった気分よ」
机に肘をつきながら、カタリーナは小さく愚痴った。
「その割には、立派に“主演”を務めてるじゃないか」
ダミアンの皮肉にカタリーナはキッと睨みつける。
しかし、隣りのパウラが「ほんと、喝采を浴びる女優みたい」と茶化すから、カタリーナは頭を抱えるしかなかった。
「私はくだらない三文芝居をする気はないの」
安っぽい恋愛劇なんて、ごめんだ。そう思っているからこそ、カタリーナはアレハンドロに冷たく接しているのに。
彼にとっては、それすら、愛の駆け引きに映るのだ。彼は、愛おしい彼女の挑戦に受けて立つと言わんばかりに、別のアプローチを試そうとする。
その熱意と自己満足の勘違いぶりは、退屈な学園生活をまるで舞台のコントのように彩っていた。
当人であるカタリーナは辟易していても、それ以外の人々は、その続きを楽しみにして毎日を過ごしている。
男子学生たちはアレハンドロのめげない心と勇気に感心し、女子学生たちはカタリーナの照れ隠しに胸をときめかせた。
中庭から始まった噂は、いつの間にか校舎全体へと広がり、カタリーナは知らぬ間に、学園の“話題の中心人物”となっていた。
こうして、カタリーナは大舞台の上に立たされた。壇上を降りようと思っても、主役と観客達がそれを許してくれない。
甘い恋愛ストーリーの台本を彼女がビリビリに破いた所で、劇の幕が下りることはないのだ。
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