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アンナの使っている寮はとても大きくて古めかしい屋敷だった。私達が使っている寮と同じく10人の学生が暮らせる広さなのだという。しかし、ここで今、生活をしているのはアンナとその使用人だけだと彼女は教えてくれた。
マテウスやヴェルナー、アイリスも公爵家の子息令嬢ということで、他の学生と比べて広い部屋を使っていると聞いたことがある。でも、流石に寮を丸ごと一つ与えられたりなんてしていない。きっとこれは未来の王太子妃に対する特別待遇ということなんだろう。
馬車から降りて屋敷の中に入ると、さらに言葉を失った。
どれもこれも少し古めかしくはあったけれど、一目で高価なものだと分かった。
思わず、キョロキョロしているとアンナは足を止めた。
「北部調の装飾はやはり珍しいのでしょうか」
「そうですね。他の家ことは分からないのですが、侯爵家のものとは変わって見えます。もしかして、この調度品は全てアンナ様の私物なのですか」
アンナは笑って首を振った。
「違いますよ。ここにある大抵のものはハインツ様が用意してくれたものです」
北部地方出身のアンナのためにわざわざ王都では珍しい北部調の装飾品を集めたのか。
愛するアンナのためなら本当に何でもやるのね。
「アンナ様はハインリヒ殿下に本当に愛されていますね」
褒めたつもりだったのに、アンナの顔は曇った。これだけ甘やかされているのにハインリヒの愛は伝わっていないの?
でも、しょうがないか。この世界のハインリヒはアイリスといちゃついているもの。アンナが不安になるのも無理はない。
「あ、この絵、素敵ですね!」
暗い空気を吹き飛ばすために、エマらしく無邪気に一枚の絵画を指さした。それは周りのものと比べて新しく、どことなく明るい雰囲気を漂わせる作品だった。
アンナはその絵を見てにこりと笑った。
「その絵は、叔父様が描いた絵なんです。ここで一人で暮らしてもさみしくないようにと、実家の、公爵家の庭を描いてくれましたの」
「まあ、とっても素敵な叔父様ですね。それにお庭も素敵です」
「ありがとう」
そう言ってアンナは笑った。
本当に、笑えばとても美しい人だ。
「さあ、こちらのお部屋です」
アンナに導かれては入った部屋は庭の見える日当たりのいい部屋だった。
案内されるままシックな椅子に腰掛ける。エカテリーナというアンナ付きの若いメイドはお茶とお菓子を手際よく私達の前に並べた。
「改めて、今日は来ていただいてありがとう。それからこの間は本当にごめんなさい。少しの間、眠ってもらうつもりがまさか何日も意識を失ってしまうなんて思いもしなくて」
「アンナ様は、私をあの魔物から守るためにされたのでしょう? 私は今ではこの通り元気ですから、もう気になさらないでください」
「でも」
「折角、アンナ様とお茶を一緒にいただけるんです。私、アンナ様ともっと仲良くなりたいです」
そう言って善良で愛らしいエマの笑みを浮かべた。
「そうね、一先ずお茶を楽しみましょう」
そう言ってアンナはお茶に口をつけた。私もそれに続く。
「美味しい」
あまりの美味しさに、気がついたら言っていた。
「本当ね。エカテリーナ、これ、どこで買ってきたの?」
「ハイル通りにある紅茶専門店でございます。お嬢様方のお口にあってようございました」
「あそこの紅茶、いつも飲んでるんですけど、こんなに美味しかったかしら」
そう言ってまた紅茶を飲んだ。やっぱり自分の部屋で飲んでいる物とは全然違うように思う。茶葉が違うのかな?
「エカテリーナの淹れた紅茶は誰よりも美味しいから」
そう言ったアンナは少し誇らしげだった。
原作でのエカテリーナはアンナにとって唯一の味方だった。
エカテリーナはアンナが小さな頃から世話をしていたという。小説版によると、二人は固い絆で結ばれている。アンナを産んですぐに死んでしまった母親の代わりでもあり、年の離れた姉のような存在でもあったという。
ゲームでは、エンディングの後、エカテリーナはアンナを庇って死ぬ。アンナがこれまでに行っていたエマへの嫌がらせの実行犯だと嘘の自白したのだ。そして、魔物を使うようにアンナを唆したのも自分だと主張した。彼女が嘘を吐いていると知った上でハインリヒはその主張の全てを認めた。
そして彼はエカテリーナを処刑するように事を進める。それは、アンナの罪を軽くするためでもあった。しかし、本当の目的は、エカテリーナを二度とアンナに近づけないためだった。
ハインリヒは、アンナの傍にいるエカテリーナに対して殺したいほど嫉妬していた。だから、殺した。そう小説版で明らかにされた時、ハインリヒの愛の深さにぞっとしたのを覚えている。
マテウスやヴェルナー、アイリスも公爵家の子息令嬢ということで、他の学生と比べて広い部屋を使っていると聞いたことがある。でも、流石に寮を丸ごと一つ与えられたりなんてしていない。きっとこれは未来の王太子妃に対する特別待遇ということなんだろう。
馬車から降りて屋敷の中に入ると、さらに言葉を失った。
どれもこれも少し古めかしくはあったけれど、一目で高価なものだと分かった。
思わず、キョロキョロしているとアンナは足を止めた。
「北部調の装飾はやはり珍しいのでしょうか」
「そうですね。他の家ことは分からないのですが、侯爵家のものとは変わって見えます。もしかして、この調度品は全てアンナ様の私物なのですか」
アンナは笑って首を振った。
「違いますよ。ここにある大抵のものはハインツ様が用意してくれたものです」
北部地方出身のアンナのためにわざわざ王都では珍しい北部調の装飾品を集めたのか。
愛するアンナのためなら本当に何でもやるのね。
「アンナ様はハインリヒ殿下に本当に愛されていますね」
褒めたつもりだったのに、アンナの顔は曇った。これだけ甘やかされているのにハインリヒの愛は伝わっていないの?
でも、しょうがないか。この世界のハインリヒはアイリスといちゃついているもの。アンナが不安になるのも無理はない。
「あ、この絵、素敵ですね!」
暗い空気を吹き飛ばすために、エマらしく無邪気に一枚の絵画を指さした。それは周りのものと比べて新しく、どことなく明るい雰囲気を漂わせる作品だった。
アンナはその絵を見てにこりと笑った。
「その絵は、叔父様が描いた絵なんです。ここで一人で暮らしてもさみしくないようにと、実家の、公爵家の庭を描いてくれましたの」
「まあ、とっても素敵な叔父様ですね。それにお庭も素敵です」
「ありがとう」
そう言ってアンナは笑った。
本当に、笑えばとても美しい人だ。
「さあ、こちらのお部屋です」
アンナに導かれては入った部屋は庭の見える日当たりのいい部屋だった。
案内されるままシックな椅子に腰掛ける。エカテリーナというアンナ付きの若いメイドはお茶とお菓子を手際よく私達の前に並べた。
「改めて、今日は来ていただいてありがとう。それからこの間は本当にごめんなさい。少しの間、眠ってもらうつもりがまさか何日も意識を失ってしまうなんて思いもしなくて」
「アンナ様は、私をあの魔物から守るためにされたのでしょう? 私は今ではこの通り元気ですから、もう気になさらないでください」
「でも」
「折角、アンナ様とお茶を一緒にいただけるんです。私、アンナ様ともっと仲良くなりたいです」
そう言って善良で愛らしいエマの笑みを浮かべた。
「そうね、一先ずお茶を楽しみましょう」
そう言ってアンナはお茶に口をつけた。私もそれに続く。
「美味しい」
あまりの美味しさに、気がついたら言っていた。
「本当ね。エカテリーナ、これ、どこで買ってきたの?」
「ハイル通りにある紅茶専門店でございます。お嬢様方のお口にあってようございました」
「あそこの紅茶、いつも飲んでるんですけど、こんなに美味しかったかしら」
そう言ってまた紅茶を飲んだ。やっぱり自分の部屋で飲んでいる物とは全然違うように思う。茶葉が違うのかな?
「エカテリーナの淹れた紅茶は誰よりも美味しいから」
そう言ったアンナは少し誇らしげだった。
原作でのエカテリーナはアンナにとって唯一の味方だった。
エカテリーナはアンナが小さな頃から世話をしていたという。小説版によると、二人は固い絆で結ばれている。アンナを産んですぐに死んでしまった母親の代わりでもあり、年の離れた姉のような存在でもあったという。
ゲームでは、エンディングの後、エカテリーナはアンナを庇って死ぬ。アンナがこれまでに行っていたエマへの嫌がらせの実行犯だと嘘の自白したのだ。そして、魔物を使うようにアンナを唆したのも自分だと主張した。彼女が嘘を吐いていると知った上でハインリヒはその主張の全てを認めた。
そして彼はエカテリーナを処刑するように事を進める。それは、アンナの罪を軽くするためでもあった。しかし、本当の目的は、エカテリーナを二度とアンナに近づけないためだった。
ハインリヒは、アンナの傍にいるエカテリーナに対して殺したいほど嫉妬していた。だから、殺した。そう小説版で明らかにされた時、ハインリヒの愛の深さにぞっとしたのを覚えている。
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