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「君、どうしたんだい? そんなに暗い顔をして」
 ヴェルナーの声に我に返った。
「ああ、そうか。マイヤー侯爵は汚い貴族の代表みたいな性格をしてるから・・・・・・。もしかして嫌な思いをさせちゃった?」
「そんなことはないです」
 ヴェルナーの言う通りだったけど認めるのは何だか癪に障る。強がってみたはいいものの、ヴェルナーにはバレているのだろう。彼は憐れむような目で私を見ていた。

「それで、貴族社会の中枢で生きるヴェルナー様が、私のような"性格のねじ曲がった女"と結婚する理由はなんでしょう」
「あははっ、随分とキツい口調だね。怒っている君もかわいくて好きだよ」
 かわいいなんて思っていないくせに。ヴェルナーは馬鹿にしたように笑った。
「俺が汚くて陰謀のうごめく場所で生きるってことは、俺の妻となる人も当然、そんなところに足を踏み入れることになる。だから、陰謀にも負けない人がいいんだ」
「それが"性格の悪い女"、ですか」
「具体的に言えば、"善人のフリができ"て、"思慮深く"て、"他人を操ることも切り捨てることも躊躇しない"女だよ」
 途中までは身に覚えがあるのだけど。最後の一つは全く私には当てはまらない。
「ヴェルナー様は、私のことを過大評価されているんですね。私は血も涙もないような女ではないのですよ」
「本当に?」
「本当に」
 どれだけ言ってもヴェルナーは信じてくれないだろう。今までの行動を見ていたら、彼は自分の決めたことは頑として譲らなかったから。

「仮に今はそうだとしても、君には素質があると思うよ。"悪女"の素質が」
「そんなもの、いりません」
「君は頑固だなあ」
「ヴェルナー様に比べたらかわいいものです」
 エマの笑みを浮かべて言ってやると、ヴェルナーはふんっと鼻で笑った。
「まあ、いいや。とにかくこれは君にあげる」
 ヴェルナーはベッドの上に過去問を置いた。
「俺が君と真剣に仲良くしたいってことの証として置いておくから。じゃあね」
 そう言うなりヴェルナーは窓の外へと出ていった。

 嵐のような男だ。状況をめちゃくちゃにして人を困らせる。
 どこまで本気なのか。それともからかっているだけなのか。わけが分からない。
 ひとまず私は過去問を手に取った。内容を見てもさっきのことが原因で、頭の中に入ってこない。

「寝よう」
 私はヤケクソになって布団に潜り込んだ。こんな状態で勉強なんてできない。明日また図書館で頑張ろう。
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