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本編1
13 旅程の遅れ
私のせいで旅程が狂っているのに、アンドリュー卿は私のために何度も休憩を挟んだ。
そんなに休まなくても大丈夫だと言いたかったけれど、また前みたいに険悪な雰囲気になるのが嫌で私は何も言えなかった。
そして、何度目かの休憩時間の最中、アンドリュー卿は私を散歩に誘った。
「尻は痛くないか」
本音を言えば少し痛い。でも正直に答えたら休憩時間がまた伸びるかもしれない。だから、大丈夫だと言った。
「嘘は良くないな」
そう言って彼は私の肩を抱いた。
「無理をしたら後々もっと痛くなるかもしれない。それこそ、移動を中断せざるを得ない程にな」
彼は真剣な顔で言った。
「分かったか」
「はい」
「それで、実際のところはどうなんだ?」
「少し痛むけど、少し休めば治ると思う」
「そうか。それならもう少し休憩時間を伸ばそう」
やっぱり思った通りの事になった。
━━どうしよう。また、旅程が伸びてしまうわ。
「シア、そんなに気にしなくていい」
「……はい」
「元々、今回は移動期間を3ヶ月半と長めに取ってあるんだ。それなのにあいつらときたらもっと早く行けるだの、遅れてるだの、適当なことばかり言いやがって」
アンドリュー卿はうんざりだと言わんばかりに溜め息を吐いた。
「でも、私がいなかったら彼らの言うようにもっと早く目的地まで着けるんでしょ?」
「そりゃあな。俺もあいつらも長旅には慣れているから。でも、俺はシアを迎えに行ったんだ。シアの事を蔑ろにして予定を組むなんて有り得ない。だから、このペースで何も問題ないんだ」
アンドリュー卿はそう言ったけれど、それでも彼らに申し訳ないと思った。
散歩を終えて馬車のある所まで戻った。みんな退屈そうにしていて、私達の帰りを待っていたことは一目瞭然だった。
「すみません、遅くなってしまって」
近くの人にそう声をかけても返事をしてもらえなかった。
━━きっと、トロい私に対して苛ついているのよね。
「シア、先に馬車に戻ってろ」
アンドリュー卿に言われて、私は一人で馬車に入った。扉を閉めて溜め息を吐く。
「こら! 幸せが逃げるからやめなさい!」
耳元で声がして、私は驚きのあまり身体をのけぞらせた。
「そんなに驚かないでよ」
フェイはケラケラと笑いながら言った。
「フェイ……、びっくりさせないで」
「それより、久しぶりに会った私に言うことはないの?」
「言うことって?」
「ずっと見ていなくて寂しかったとか、会えて嬉しいとか。ね?」
正直に言ってフェイのことをすっかり忘れていた。最近はアンドリュー卿のことで頭がいっぱいで他のことを考えている余裕がなかったからだ。
でも、そんなことを正直に話したらフェイに失礼だ。だから私は「会えて嬉しい」と言った。
「シアの嘘つき。私のことなんて忘れていたくせに」
図星を突かれて一瞬、怯みそうになったけれど、「そんなことはないよ」とまた嘘を吐いた。
「うふふっ。一生懸命嘘を吐くシアもかわいいわね。でも、私にまで気を使わなくてもいいわ」
フェイはそう言って私の頬をつついた。
「それより、最近はどう? アンドリューとは上手くいってる?」
「どうだろう。表面的な話をすれば前よりは良くなったのかも。本当の夫婦になったから」
「本当の夫婦に? それはおめでたいことだわ」
フェイは本当に嬉しそうに笑った。
私の結婚を心から祝福してくれるのは、フェイくらいだ。
お父様は私を利用することしか頭にないし、アンドリュー卿の部下の人達は、私を嫌っていて、離婚を望んでいるようだった。妹のジェシカでさえ、私の結婚をよく思っていないような素振りを見せていた。
「私達夫婦のことをこんなに喜んでくれるのはあなたくらいだわ。ありがとう」
私は心の底からお礼を言った。
「友達のことを喜ぶのは当然でしょう? お礼なんかいらない」
そうフェイが答えた時だった。
「モンスターが出たぞ!」
誰かの叫び声とともに、皆が一斉に武器を構えた。
そんなに休まなくても大丈夫だと言いたかったけれど、また前みたいに険悪な雰囲気になるのが嫌で私は何も言えなかった。
そして、何度目かの休憩時間の最中、アンドリュー卿は私を散歩に誘った。
「尻は痛くないか」
本音を言えば少し痛い。でも正直に答えたら休憩時間がまた伸びるかもしれない。だから、大丈夫だと言った。
「嘘は良くないな」
そう言って彼は私の肩を抱いた。
「無理をしたら後々もっと痛くなるかもしれない。それこそ、移動を中断せざるを得ない程にな」
彼は真剣な顔で言った。
「分かったか」
「はい」
「それで、実際のところはどうなんだ?」
「少し痛むけど、少し休めば治ると思う」
「そうか。それならもう少し休憩時間を伸ばそう」
やっぱり思った通りの事になった。
━━どうしよう。また、旅程が伸びてしまうわ。
「シア、そんなに気にしなくていい」
「……はい」
「元々、今回は移動期間を3ヶ月半と長めに取ってあるんだ。それなのにあいつらときたらもっと早く行けるだの、遅れてるだの、適当なことばかり言いやがって」
アンドリュー卿はうんざりだと言わんばかりに溜め息を吐いた。
「でも、私がいなかったら彼らの言うようにもっと早く目的地まで着けるんでしょ?」
「そりゃあな。俺もあいつらも長旅には慣れているから。でも、俺はシアを迎えに行ったんだ。シアの事を蔑ろにして予定を組むなんて有り得ない。だから、このペースで何も問題ないんだ」
アンドリュー卿はそう言ったけれど、それでも彼らに申し訳ないと思った。
散歩を終えて馬車のある所まで戻った。みんな退屈そうにしていて、私達の帰りを待っていたことは一目瞭然だった。
「すみません、遅くなってしまって」
近くの人にそう声をかけても返事をしてもらえなかった。
━━きっと、トロい私に対して苛ついているのよね。
「シア、先に馬車に戻ってろ」
アンドリュー卿に言われて、私は一人で馬車に入った。扉を閉めて溜め息を吐く。
「こら! 幸せが逃げるからやめなさい!」
耳元で声がして、私は驚きのあまり身体をのけぞらせた。
「そんなに驚かないでよ」
フェイはケラケラと笑いながら言った。
「フェイ……、びっくりさせないで」
「それより、久しぶりに会った私に言うことはないの?」
「言うことって?」
「ずっと見ていなくて寂しかったとか、会えて嬉しいとか。ね?」
正直に言ってフェイのことをすっかり忘れていた。最近はアンドリュー卿のことで頭がいっぱいで他のことを考えている余裕がなかったからだ。
でも、そんなことを正直に話したらフェイに失礼だ。だから私は「会えて嬉しい」と言った。
「シアの嘘つき。私のことなんて忘れていたくせに」
図星を突かれて一瞬、怯みそうになったけれど、「そんなことはないよ」とまた嘘を吐いた。
「うふふっ。一生懸命嘘を吐くシアもかわいいわね。でも、私にまで気を使わなくてもいいわ」
フェイはそう言って私の頬をつついた。
「それより、最近はどう? アンドリューとは上手くいってる?」
「どうだろう。表面的な話をすれば前よりは良くなったのかも。本当の夫婦になったから」
「本当の夫婦に? それはおめでたいことだわ」
フェイは本当に嬉しそうに笑った。
私の結婚を心から祝福してくれるのは、フェイくらいだ。
お父様は私を利用することしか頭にないし、アンドリュー卿の部下の人達は、私を嫌っていて、離婚を望んでいるようだった。妹のジェシカでさえ、私の結婚をよく思っていないような素振りを見せていた。
「私達夫婦のことをこんなに喜んでくれるのはあなたくらいだわ。ありがとう」
私は心の底からお礼を言った。
「友達のことを喜ぶのは当然でしょう? お礼なんかいらない」
そうフェイが答えた時だった。
「モンスターが出たぞ!」
誰かの叫び声とともに、皆が一斉に武器を構えた。
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