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本編1
14-2 偽物の聖女
それからの道のりでも、何度かモンスターに襲われた。幸い、全てを退けることができて、みんなが大きな怪我を負うことはなかった。
しかし、それでも小さな怪我は多少なりともあった。
アンドリュー卿の部下達は私に聖女としての役割を求めていた。私も戦うなり戦闘後に治癒をするなりして欲しいと、アンドリュー卿に言っている所を何度も目撃した。
それなのに、アンドリュー卿は彼らの要望を頑なに退けた。そして、私に向かって「お前は何もしなくていい」と言ってくるのだ。
でも、当然、彼らは納得してくれなかった。
「夫人もやっぱりジョルネス公爵の娘なんだな。嫌なやつだよ」
「神聖力を持っているくせに戦いもしなければ、治癒を試みもしないなんて……」
休憩時間に彼らの愚痴を聞いてしまった。
彼らは私の存在に気づいていないようだった。そして、幸いなことに、近くにはアンドリュー卿もいない。もし彼が傍にいたら、私を庇おうとして喧嘩になっていただろう。
波風を立てたくなかった私は、気づかれないように静かに立ち去ろうとした。
「そもそも、夫人は本当に聖女なのか」
その一言で、私の足は止まった。
「どういう意味だ?」
「考えてみろって。おかしいだろ? あのジョルネス公爵が簡単に娘を差し出すなんて」
「まあ、確かに……」
血の気がさっと引いていくのが分かる。よろけそうになって、木に手をかけた。
「それに、聖女として公に活動しているのは妹の方だ」
「夫人は身体が弱いから外には出さなかったと、公爵は言っていたが……。実際は夫人が聖女じゃないのを隠していたんじゃないか」
図星を突かれて私の頭は真っ白になった。立っていられないほどの強い目眩を感じた所で私の意識は途切れた。
※
気がついたら、私は馬車の中にいた。アンドリュー卿の膝に頭を乗せて眠っていたのだ。私は慌てて起き上がった。
「大丈夫か」
アンドリュー卿は心配そうに私の頬を撫でる。彼に見つめられて私は目を逸らした。
━━どうしよう。部下の人達がアンドリュー卿にさっきの話をしていたら……。
「シア」
「は、はい」
「顔色が悪い。もう少し寝てろ」
アンドリュー卿はそう言うなり私の頭を押さえつけて、彼の膝に寝かしつけた。そして、そのまま私の頭を優しく撫でてくる。
彼の手つきが優しいせいだろうか。どうしてだか分からないけれど涙がこぼれる。私はアンドリュー卿に気づかれないように細心の注意を払いながら目の端を指で拭った。
「また、あいつらに何かを言われたんだろ?」
泣いているのがバレてしまったのかと思って、内心焦った。でも、そうではないらしい。アンドリュー卿は言葉を続けた。
「否定してもだめだぞ。あいつらの話を聞いてお前が倒れたことは既に報告されているからな」
言われた瞬間、すっと血の気が引いた。
━━私が聖女じゃないって、知ってしまったの?
「シア?」
アンドリュー卿の撫でる手が止まった。彼は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「急に震え出してどうした?」
「だ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃないだろう」
彼は震える私の手を握りしめた。
「俺が聞いていた以上のことを言われたのか」
私は首を振った。アンドリュー卿が誰から何を聞かされたなんて知らない。
でも、私は知らないふりをするしかなかった。下手に話を続けてしまったら、私が聖女ではないと自白してしまいそうだから。
「あなたが心配するようなことはないわ。ただ、気分が悪いだけなの……」
「シア、遠慮することはないんだ。お前は俺の妻だ。お前を蔑ろにするのなら、たとえ共に戦った者達でさえ許さない」
とても強い語気だった。アンドリュー卿が本気で私を心配してくれている上、庇おうとしてくれているのが分かった。
━━彼の優しさに甘えたい。
結婚に至るまでの過程を話して、嘘を吐いていたことを洗いざらい話してしまいたい。そうして、この罪悪感と恐怖心から解放されたい。
でも、都合良く物事が運んでくれるはずがない。
真実を知ればアンドリュー卿はきっと私に優しくしてくれなくなる。彼が私に優しいのは、私がジョルネスの娘で、聖女だと思っているからだ。
━━それを絶対に忘れたらだめ。勘違いしたらきっと後悔することになる。
「シア」
「ごめんなさい」
何かを話そうとするアンドリュー卿の言葉を私は遮った。
「少し眠りたいわ」
「そうか」
アンドリュー卿は再び頭を撫で始める。私は目を閉じて彼が私の正体に気づかないで欲しいと願った。
しかし、それでも小さな怪我は多少なりともあった。
アンドリュー卿の部下達は私に聖女としての役割を求めていた。私も戦うなり戦闘後に治癒をするなりして欲しいと、アンドリュー卿に言っている所を何度も目撃した。
それなのに、アンドリュー卿は彼らの要望を頑なに退けた。そして、私に向かって「お前は何もしなくていい」と言ってくるのだ。
でも、当然、彼らは納得してくれなかった。
「夫人もやっぱりジョルネス公爵の娘なんだな。嫌なやつだよ」
「神聖力を持っているくせに戦いもしなければ、治癒を試みもしないなんて……」
休憩時間に彼らの愚痴を聞いてしまった。
彼らは私の存在に気づいていないようだった。そして、幸いなことに、近くにはアンドリュー卿もいない。もし彼が傍にいたら、私を庇おうとして喧嘩になっていただろう。
波風を立てたくなかった私は、気づかれないように静かに立ち去ろうとした。
「そもそも、夫人は本当に聖女なのか」
その一言で、私の足は止まった。
「どういう意味だ?」
「考えてみろって。おかしいだろ? あのジョルネス公爵が簡単に娘を差し出すなんて」
「まあ、確かに……」
血の気がさっと引いていくのが分かる。よろけそうになって、木に手をかけた。
「それに、聖女として公に活動しているのは妹の方だ」
「夫人は身体が弱いから外には出さなかったと、公爵は言っていたが……。実際は夫人が聖女じゃないのを隠していたんじゃないか」
図星を突かれて私の頭は真っ白になった。立っていられないほどの強い目眩を感じた所で私の意識は途切れた。
※
気がついたら、私は馬車の中にいた。アンドリュー卿の膝に頭を乗せて眠っていたのだ。私は慌てて起き上がった。
「大丈夫か」
アンドリュー卿は心配そうに私の頬を撫でる。彼に見つめられて私は目を逸らした。
━━どうしよう。部下の人達がアンドリュー卿にさっきの話をしていたら……。
「シア」
「は、はい」
「顔色が悪い。もう少し寝てろ」
アンドリュー卿はそう言うなり私の頭を押さえつけて、彼の膝に寝かしつけた。そして、そのまま私の頭を優しく撫でてくる。
彼の手つきが優しいせいだろうか。どうしてだか分からないけれど涙がこぼれる。私はアンドリュー卿に気づかれないように細心の注意を払いながら目の端を指で拭った。
「また、あいつらに何かを言われたんだろ?」
泣いているのがバレてしまったのかと思って、内心焦った。でも、そうではないらしい。アンドリュー卿は言葉を続けた。
「否定してもだめだぞ。あいつらの話を聞いてお前が倒れたことは既に報告されているからな」
言われた瞬間、すっと血の気が引いた。
━━私が聖女じゃないって、知ってしまったの?
「シア?」
アンドリュー卿の撫でる手が止まった。彼は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「急に震え出してどうした?」
「だ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃないだろう」
彼は震える私の手を握りしめた。
「俺が聞いていた以上のことを言われたのか」
私は首を振った。アンドリュー卿が誰から何を聞かされたなんて知らない。
でも、私は知らないふりをするしかなかった。下手に話を続けてしまったら、私が聖女ではないと自白してしまいそうだから。
「あなたが心配するようなことはないわ。ただ、気分が悪いだけなの……」
「シア、遠慮することはないんだ。お前は俺の妻だ。お前を蔑ろにするのなら、たとえ共に戦った者達でさえ許さない」
とても強い語気だった。アンドリュー卿が本気で私を心配してくれている上、庇おうとしてくれているのが分かった。
━━彼の優しさに甘えたい。
結婚に至るまでの過程を話して、嘘を吐いていたことを洗いざらい話してしまいたい。そうして、この罪悪感と恐怖心から解放されたい。
でも、都合良く物事が運んでくれるはずがない。
真実を知ればアンドリュー卿はきっと私に優しくしてくれなくなる。彼が私に優しいのは、私がジョルネスの娘で、聖女だと思っているからだ。
━━それを絶対に忘れたらだめ。勘違いしたらきっと後悔することになる。
「シア」
「ごめんなさい」
何かを話そうとするアンドリュー卿の言葉を私は遮った。
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