【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

文字の大きさ
17 / 63
本編1

14-2 偽物の聖女

しおりを挟む
 それからの道のりでも、何度かモンスターに襲われた。幸い、全てを退けることができて、みんなが大きな怪我を負うことはなかった。
 しかし、それでも小さな怪我は多少なりともあった。

 アンドリュー卿の部下達は私に聖女としての役割を求めていた。私も戦うなり戦闘後に治癒をするなりして欲しいと、アンドリュー卿に言っている所を何度も目撃した。
 それなのに、アンドリュー卿は彼らの要望を頑なに退けた。そして、私に向かって「お前は何もしなくていい」と言ってくるのだ。

 でも、当然、彼らは納得してくれなかった。
「夫人もやっぱりジョルネス公爵の娘なんだな。嫌なやつだよ」
「神聖力を持っているくせに戦いもしなければ、治癒を試みもしないなんて……」
 休憩時間に彼らの愚痴を聞いてしまった。
 彼らは私の存在に気づいていないようだった。そして、幸いなことに、近くにはアンドリュー卿もいない。もし彼が傍にいたら、私を庇おうとして喧嘩になっていただろう。
 波風を立てたくなかった私は、気づかれないように静かに立ち去ろうとした。

「そもそも、夫人は本当に聖女なのか」
 その一言で、私の足は止まった。
「どういう意味だ?」
「考えてみろって。おかしいだろ? あのジョルネス公爵が簡単に娘を差し出すなんて」
「まあ、確かに……」
 血の気がさっと引いていくのが分かる。よろけそうになって、木に手をかけた。

「それに、聖女として公に活動しているのは妹の方だ」
「夫人は身体が弱いから外には出さなかったと、公爵は言っていたが……。実際は夫人が聖女じゃないのを隠していたんじゃないか」
 図星を突かれて私の頭は真っ白になった。立っていられないほどの強い目眩を感じた所で私の意識は途切れた。







 気がついたら、私は馬車の中にいた。アンドリュー卿の膝に頭を乗せて眠っていたのだ。私は慌てて起き上がった。
「大丈夫か」
 アンドリュー卿は心配そうに私の頬を撫でる。彼に見つめられて私は目を逸らした。

 ━━どうしよう。部下の人達がアンドリュー卿にさっきの話をしていたら……。

「シア」
「は、はい」
「顔色が悪い。もう少し寝てろ」
 アンドリュー卿はそう言うなり私の頭を押さえつけて、彼の膝に寝かしつけた。そして、そのまま私の頭を優しく撫でてくる。
 彼の手つきが優しいせいだろうか。どうしてだか分からないけれど涙がこぼれる。私はアンドリュー卿に気づかれないように細心の注意を払いながら目の端を指で拭った。

「また、あいつらに何かを言われたんだろ?」
 泣いているのがバレてしまったのかと思って、内心焦った。でも、そうではないらしい。アンドリュー卿は言葉を続けた。
「否定してもだめだぞ。あいつらの話を聞いてお前が倒れたことは既に報告されているからな」
 言われた瞬間、すっと血の気が引いた。

 ━━私が聖女じゃないって、知ってしまったの?

「シア?」
 アンドリュー卿の撫でる手が止まった。彼は心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「急に震え出してどうした?」
「だ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃないだろう」
 彼は震える私の手を握りしめた。
「俺が聞いていた以上のことを言われたのか」
 私は首を振った。アンドリュー卿が誰から何を聞かされたなんて知らない。
 でも、私は知らないふりをするしかなかった。下手に話を続けてしまったら、私が聖女ではないと自白してしまいそうだから。

「あなたが心配するようなことはないわ。ただ、気分が悪いだけなの……」
「シア、遠慮することはないんだ。お前は俺の妻だ。お前を蔑ろにするのなら、たとえ共に戦った者達でさえ許さない」
 とても強い語気だった。アンドリュー卿が本気で私を心配してくれている上、庇おうとしてくれているのが分かった。

 ━━彼の優しさに甘えたい。

 結婚に至るまでの過程を話して、嘘を吐いていたことを洗いざらい話してしまいたい。そうして、この罪悪感と恐怖心から解放されたい。

 でも、都合良く物事が運んでくれるはずがない。
 真実を知ればアンドリュー卿はきっと私に優しくしてくれなくなる。彼が私に優しいのは、私がジョルネスの娘で、聖女だと思っているからだ。

 ━━それを絶対に忘れたらだめ。勘違いしたらきっと後悔することになる。

「シア」
「ごめんなさい」
 何かを話そうとするアンドリュー卿の言葉を私は遮った。
「少し眠りたいわ」
「そうか」
 アンドリュー卿は再び頭を撫で始める。私は目を閉じて彼が私の正体に気づかないで欲しいと願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

眠れる森の美女になりかけた王女は、辺境でスローライフを始めます。すでに結婚していますので、今さら王子さまからプロポーズされても困るのですが。

石河 翠
恋愛
義妹の代わりに呪いを受けた王女。ようやく目覚めたと思ったら、目の前にいたのは魔法使い。なんとここに来るはずの幼なじみの婚約者は義妹が横取りしてしまい、自分との婚約はすでに破棄されてしまったのだという。 しかも王女がいたのは辺境の小さな村。義妹が泣き叫んで手がつけられないからという理由で王城から追い出されたらしい。それならばこの土地でスローライフを始めると開き直る王女。 アフターフォローを申し出た魔法使いと一緒に田舎暮らしを始めることに。そこへ辺境の地の噂を聞きつけた王子さまがやってきて……。 仕事から離れて憧れの田舎暮らしを楽しむ図太いヒロインと、ヒロインをずっと追いかけてきたヒーロー、それを見守る義妹の恋物語。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5047928)をお借りしています。

【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい
恋愛
結婚十年、子どもも授かり、日々執務と子育ての毎日。 穏やかで平凡な日々を過ごしていたある日、夫が大切な人を離れに住まわせると言った。 偶然助けた私に一目惚れしたと言い、結婚し、可愛い子ども達まで授けてくれた夫を恨むことも憎むこともしなかった私。 初恋すら知らず、家族愛を与えてくれた夫だから。 でも、夫の大切な人が離れに移り住んで、私の生き方に変化が生まれた。 2025.11.30 完結しました。 スピンオフ『嫌われ悪女は俺の最愛〜グレイシアとサイファの恋物語〜』は不定期更新中です。 【2025.12.27追記】 エミリオンと先に出逢っていたら もしもの世界編は、諸事情により以下に移動しました 『今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜』 よろしければ、ご訪問くださいませ いつもありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...