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番外編1,2
番外編1-3 私のお姉様
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それから数日経って、アンドリュー卿は戦線に復帰した。安静にという治癒士の言葉も聞かず、仲間と共にまた戦闘に明け暮れているそうだ。
そして、モンスター討伐の終戦が宣言されても、私が彼に会うことはなかった。
謝る機会を失った。そして、彼がお姉様をどう思っているのかも謎のままだった。
それでも、アンドリュー卿とは遠からず会うものだと思っていた。
彼は自分の領地へと戻ったそうだが、それは一時的なもののはずだった。アンドリュー卿は妻であるお姉様を迎えにジョルネス公爵領まで来るはずだからだ。
でも、彼はやって来なかった。一月経っても、半年経っても、彼からは何の音沙汰もなかったのだ。
お姉様は健気にもアンドリュー卿がやって来るのをずっと待っていた。こんな不誠実な男とはさっさと離婚した方がいいと言ったら、お姉様は「そういうわけにはいかないの」と暗い顔で答えた。
━━結局、アンドリュー卿もお姉様を不幸にする要因の一つになっただけじゃない。
ダイヤの装飾を身に着けたお姉様を見た時、お姉様が幸せになれるものだとばかり思っていたのに。あのダイヤはお姉様への愛を示していなかったのだ。
そして、結婚式の日以来、お姉様は宝石を身に着けることはなかった。
「あのダイヤのネックレスとイヤリングは着けないのですか」
ある日、ふと聞いてみると、お姉様は暗い顔で首を振った。
「私はもう、それを身に着けるにふさわしい場所に出ることはないはずだから。ジェシカに貸してあげる。貰いものだからあげることはできないけど。……ごめんね」
「何故、謝るんですか」
「だって、ジェシカが身に着けた方が似合うに決まっているわ。それに……」
お姉様はそこまで言うと押し黙った。続きが気になったけれど、それを言う気配はなかった。
「そんなことはありませんよ。あの日のお姉様はとても美しかったんですもの」
「ありがとう」
お姉様は言葉とは裏腹に、ちっとも嬉しそうじゃなかった。
それに、お姉様は頑なだった。私にダイヤを譲ろうと、あれやこれやと言ってきたのだ。流石に婚約の証である高価なダイヤは受け取れないと固辞していると、お姉様は困った顔で俯いた。
「お願い。これはあなたが持っていて? 私が持っていたら、お父様が勝手に売ってしまうかもしれないわ」
確かに、あの強欲なお父様ならやりかねない。あの人は、お姉様の持ち物を勝手に手を付けて処分することが多々あった。
もし、ダイヤが勝手に処分され、それをアンドリュー卿に知られることとなったら、責められるのはお姉様だ。
「そうですね。私が預かっていた方が安全でしょう。大切に保管しておきます」
私が宝石を受け取ると、お姉様はほんの少し表情が明るくなった。
━━お姉様にとって、あのダイヤは重い荷物だったのかしら。
そんな考えが頭を過った。
それから長い時を経て、アンドリュー卿は突然、お姉様を迎えに来た。
彼は黙って出征したことをお姉様に謝らなかったようだ。それどころか、今まで何をしていたのかという疑問に対する説明や謝罪もなかった。ただ、嵐のようにやって来てお姉様を連れ去ったのだ。
そんな調子だったから、私はとても不安になった。彼は本当に自分の領地へとお姉様を連れて行くのだろうか。お姉様を騙してどこかに売り飛ばしたり、殺したりしないわよね?
そんな疑念が頭の中で渦巻いて、不安で夜も眠れなかった。お姉様の無事を確かめたくて、何とか連絡を取ろうと奔走していた矢先、教会から使者がやって来た。お姉様とアンドリュー卿が本当の夫婦になったことを私達家族に伝えに来たのだった。
お父様はこの知らせを聞いてとても喜んでいた。そして、「穀潰しがやっと役に立った」と言ってお姉様を嘲笑したのだ。
言っている事の意味がよく分からなかったけれど、お父様がまた良からぬことをしたという事だけは理解できた。だから、私はお父様を問い詰めた。
「お姉様にまた何かしたんですか!」
いつもなら、面倒くさそうに誤魔化しの言葉を並べるくせに、この時のお父様はあっさりと口を割った。
アンドリュー卿が“ジョルネスの娘”を欲しがっていたから、私の代わりにお姉様を差し出したのだと。
「“ジョルネスの娘”を欲しがる卑しい生まれの男には、あの無能で役立たずの女が丁度いいだろう?」
にやにやと笑うお父様は、いつにも増して反吐が出そうなくらい、卑しくて醜い男に思えた。
なぜ、アンドリュー卿が“ジョルネスの娘”を欲しがったのか。アンドリュー卿の言う“ジョルネスの娘”とは誰なのか。そして、彼はお姉様をこれからどうするつもりなのか。
疑問は次々と湧いて来たけれど、それ以上にお父様に対する怒りが止まらなかった。
━━もうお父様に物扱いされるのはうんざり! 私もお姉様も、あなたの幸福のための道具じゃないわ。
私はその日のうちに家を飛び出した。お姉様がいないのなら、こんな家はもうどうだっていい。
数日の衣服と少しのお金、お姉様から預かっていたダイヤの装飾品、そしてお父様の数々の不正が記された証拠品。これだけあれば十分だった。
私は王都に行って国王陛下にお父様の数々の不正を報告するつもりだ。今まで散々酷いことをやって来たのだから、お父様は極刑となり、ジョルネス家を取り潰されることは免れないだろう。ジョルネスの血に連なる事を誇りに思っているお父様にとってこれ以上の罰はないはずだ。
それに、上手くいけばお姉様とアンドリュー卿の婚姻も解消できるかもしれない。
アンドリュー卿はお父様に騙されて、お姉様はお父様に脅されて結婚することになった。そのことが明るみになり、二人に婚姻を解消する意思があれば教会も離婚を認めてくれるに違いない。
家が潰れてしまえば、私達姉妹は今までのような裕福な暮らしはできないだろう。それでも、私の聖女としての力があれば、治癒士としてのそれなりの仕事に就けるはずだ。
━━大丈夫。私達はこれできっと幸せになれるはずよ。天国に行ったお母様も私達を見守ってくれているはず。だから大丈夫。
私はクローゼットの奥に隠しておいた、国王陛下から頂いた褒賞を使うことにした。
王都に至るテレポートの魔紋。先の魔物討伐での治癒士としての功績を認められて、国王陛下が贈ってくれたものだった。
「困った時はいつでも私に会いに来るといい」
誠実で優しい印象の陛下はそう言ってくれた。良政で民心を掴んだ陛下ならば、きっと私達姉妹を助けてくださるだろう。
私は一縷の望みをかけて、テレポートの魔紋を使った。
そして、モンスター討伐の終戦が宣言されても、私が彼に会うことはなかった。
謝る機会を失った。そして、彼がお姉様をどう思っているのかも謎のままだった。
それでも、アンドリュー卿とは遠からず会うものだと思っていた。
彼は自分の領地へと戻ったそうだが、それは一時的なもののはずだった。アンドリュー卿は妻であるお姉様を迎えにジョルネス公爵領まで来るはずだからだ。
でも、彼はやって来なかった。一月経っても、半年経っても、彼からは何の音沙汰もなかったのだ。
お姉様は健気にもアンドリュー卿がやって来るのをずっと待っていた。こんな不誠実な男とはさっさと離婚した方がいいと言ったら、お姉様は「そういうわけにはいかないの」と暗い顔で答えた。
━━結局、アンドリュー卿もお姉様を不幸にする要因の一つになっただけじゃない。
ダイヤの装飾を身に着けたお姉様を見た時、お姉様が幸せになれるものだとばかり思っていたのに。あのダイヤはお姉様への愛を示していなかったのだ。
そして、結婚式の日以来、お姉様は宝石を身に着けることはなかった。
「あのダイヤのネックレスとイヤリングは着けないのですか」
ある日、ふと聞いてみると、お姉様は暗い顔で首を振った。
「私はもう、それを身に着けるにふさわしい場所に出ることはないはずだから。ジェシカに貸してあげる。貰いものだからあげることはできないけど。……ごめんね」
「何故、謝るんですか」
「だって、ジェシカが身に着けた方が似合うに決まっているわ。それに……」
お姉様はそこまで言うと押し黙った。続きが気になったけれど、それを言う気配はなかった。
「そんなことはありませんよ。あの日のお姉様はとても美しかったんですもの」
「ありがとう」
お姉様は言葉とは裏腹に、ちっとも嬉しそうじゃなかった。
それに、お姉様は頑なだった。私にダイヤを譲ろうと、あれやこれやと言ってきたのだ。流石に婚約の証である高価なダイヤは受け取れないと固辞していると、お姉様は困った顔で俯いた。
「お願い。これはあなたが持っていて? 私が持っていたら、お父様が勝手に売ってしまうかもしれないわ」
確かに、あの強欲なお父様ならやりかねない。あの人は、お姉様の持ち物を勝手に手を付けて処分することが多々あった。
もし、ダイヤが勝手に処分され、それをアンドリュー卿に知られることとなったら、責められるのはお姉様だ。
「そうですね。私が預かっていた方が安全でしょう。大切に保管しておきます」
私が宝石を受け取ると、お姉様はほんの少し表情が明るくなった。
━━お姉様にとって、あのダイヤは重い荷物だったのかしら。
そんな考えが頭を過った。
それから長い時を経て、アンドリュー卿は突然、お姉様を迎えに来た。
彼は黙って出征したことをお姉様に謝らなかったようだ。それどころか、今まで何をしていたのかという疑問に対する説明や謝罪もなかった。ただ、嵐のようにやって来てお姉様を連れ去ったのだ。
そんな調子だったから、私はとても不安になった。彼は本当に自分の領地へとお姉様を連れて行くのだろうか。お姉様を騙してどこかに売り飛ばしたり、殺したりしないわよね?
そんな疑念が頭の中で渦巻いて、不安で夜も眠れなかった。お姉様の無事を確かめたくて、何とか連絡を取ろうと奔走していた矢先、教会から使者がやって来た。お姉様とアンドリュー卿が本当の夫婦になったことを私達家族に伝えに来たのだった。
お父様はこの知らせを聞いてとても喜んでいた。そして、「穀潰しがやっと役に立った」と言ってお姉様を嘲笑したのだ。
言っている事の意味がよく分からなかったけれど、お父様がまた良からぬことをしたという事だけは理解できた。だから、私はお父様を問い詰めた。
「お姉様にまた何かしたんですか!」
いつもなら、面倒くさそうに誤魔化しの言葉を並べるくせに、この時のお父様はあっさりと口を割った。
アンドリュー卿が“ジョルネスの娘”を欲しがっていたから、私の代わりにお姉様を差し出したのだと。
「“ジョルネスの娘”を欲しがる卑しい生まれの男には、あの無能で役立たずの女が丁度いいだろう?」
にやにやと笑うお父様は、いつにも増して反吐が出そうなくらい、卑しくて醜い男に思えた。
なぜ、アンドリュー卿が“ジョルネスの娘”を欲しがったのか。アンドリュー卿の言う“ジョルネスの娘”とは誰なのか。そして、彼はお姉様をこれからどうするつもりなのか。
疑問は次々と湧いて来たけれど、それ以上にお父様に対する怒りが止まらなかった。
━━もうお父様に物扱いされるのはうんざり! 私もお姉様も、あなたの幸福のための道具じゃないわ。
私はその日のうちに家を飛び出した。お姉様がいないのなら、こんな家はもうどうだっていい。
数日の衣服と少しのお金、お姉様から預かっていたダイヤの装飾品、そしてお父様の数々の不正が記された証拠品。これだけあれば十分だった。
私は王都に行って国王陛下にお父様の数々の不正を報告するつもりだ。今まで散々酷いことをやって来たのだから、お父様は極刑となり、ジョルネス家を取り潰されることは免れないだろう。ジョルネスの血に連なる事を誇りに思っているお父様にとってこれ以上の罰はないはずだ。
それに、上手くいけばお姉様とアンドリュー卿の婚姻も解消できるかもしれない。
アンドリュー卿はお父様に騙されて、お姉様はお父様に脅されて結婚することになった。そのことが明るみになり、二人に婚姻を解消する意思があれば教会も離婚を認めてくれるに違いない。
家が潰れてしまえば、私達姉妹は今までのような裕福な暮らしはできないだろう。それでも、私の聖女としての力があれば、治癒士としてのそれなりの仕事に就けるはずだ。
━━大丈夫。私達はこれできっと幸せになれるはずよ。天国に行ったお母様も私達を見守ってくれているはず。だから大丈夫。
私はクローゼットの奥に隠しておいた、国王陛下から頂いた褒賞を使うことにした。
王都に至るテレポートの魔紋。先の魔物討伐での治癒士としての功績を認められて、国王陛下が贈ってくれたものだった。
「困った時はいつでも私に会いに来るといい」
誠実で優しい印象の陛下はそう言ってくれた。良政で民心を掴んだ陛下ならば、きっと私達姉妹を助けてくださるだろう。
私は一縷の望みをかけて、テレポートの魔紋を使った。
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