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番外編1,2
番外編2 愛しい人
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俺の初恋の人は貴族の令嬢で、それもうんと身分の高い人だった。
彼女の名前は、シアリーズ・ジョルネス。シアと初めて出会った時、俺が11歳で、彼女が7歳だった。
初めて彼女を見たのは、アイネ山の麓にある小さな森の中で、彼女は一匹の妖精と遊んでいた。
「あははっ、まって~!」
大きな笑い声を上げながら元気よく走り回る少女は、妖精と追いかけっこをしているようだった。
「フェイったら! そんなに高いところに飛ぶなんてずるいわぁ」
大人の背丈よりも高い木の枝の先に止まった妖精に対して少女は頬を膨らませて抗議した。
「あら、飛べないシアが悪いのよ!」
妖精は指をくるくると回すと少女を宙に浮かべた。
━━また妖精がいたずらをしている。
少女は空を飛べたと大はしゃぎしているが、俺はそれを見て、心配で堪らなくなった。
森に暮らす妖精達は一見、愛らしくも美しい無害な存在のようだが、実際は厄介なことをしてくる奴らだった。
あいつらは遊ぶことが大好きで、時に人を困らせるようなことをする。パンを草花に変えたり、農具をミニチュアサイズにまで小さくする程度ならかわいい方だ。
問題は、彼らは遊びの延長で人を危険に晒すことだった。
彼らは自分達の遊びのためなら迷いの霧を発生させて人を森に閉じ込めたり、面白半分で人を木に変えたりする。そして、人を高いところまで昇らせて地面に叩き落とすことも、彼らは好んで行っていた。
「危ない!」
妖精が急に彼女を突き落としても受け止められるよう、咄嗟に走り寄った。受け止められる自信はなかったが、そうしなければ、彼女は最悪、死んでしまうから。
少女は俺を見て小首を傾げていた。幼い彼女は自分が危険な状況にあることを気づいていないのだ。
しかし、彼女は急に顔を赤くしたかと思うと、スカートを押さえて叫んだ。
「ヘンタイ! パンツ見ないでよ!!」
彼女の声に俺は呆気に取られた。
━━変態? 人が親切に受け止めようとしているのに、パンツを覗く不届き者と勘違いしているのか!?
怒りのあまり俺の顔は熱くなった。そんな俺と少女を見て、妖精はケラケラと笑った。
妖精は一通り笑い転げた後に、少女とともに地面に降りてきた。
「あ~、面白かった!」
ひぃひぃ息をしながら言う妖精に俺も少女も「どこが?」と睨んでいた。
そんな俺達を気にもせず、妖精は少女に向かって語りかけた。
「シア、あなた勘違いしているわ。この男の子はあなたを助けようとしていたはずよ」
「え?」
「この子は私があなたを空から突き落とすと思い違いをしたのよ」
妖精は俺の方を向いて、「そうでしょう?」と言ってきた。
俺は正直に「そうだ」と答えると、少女は途端に慌てふためいた。
「ごめんなさい。助けようとしてくれたのに酷いことを言って」
「おう。……言っとくが、俺は見てないからな」
そう言うと少女は俯いてしまった。
「バカ、余計な一言ね」
妖精はそう言って俺の眉間にデコピンを食らわせた。小さい指をしている癖に、眉間がずきりと痛んだ。
「そんなことより、あなた名前は?」
妖精は腕を組んで俺に尋ねてきた。
「アンドリューだ」
「そう。私はフェイ、そしてこっちが私の友達のシアリーズよ」
仲良くしてねとフェイが言うと、少女ははにかんで手を差し出してきた。
「何だ?」
その手の意味が分からなくて聞いたら、フェイの魔法で無理やりシアの手と握らされる。彼女の手は、小さくて温かかった。
「人間のくせに、“友好の仕草”を知らないの?」
呆れたと言わんばかりに顔を歪めるフェイに対して、シアリーズは気にした様子もなくにこにこと笑っていた。
「これで私達、お友達ね」
さっきまで暗い顔をしていたのに、今ではそんなことなどなかったかのように明るく笑っている。
━━変なやつ。
俺がそんなことを思っていたなんて、彼女は気付きもしなかっただろう。
「ねえ、私のことはシアって呼んで。それからあなたのことはアンディって呼んでもいい?」
彼女は「お願い!」とでも言いたげな顔で俺を見てくる。
「おうよ」
だめと言う理由もなかったから了承すると、シアはとても嬉しかったろう。顔をくしゃっとさせて笑った。
その子供らしい笑顔がかわいくて俺は思わず彼女の髪を強く撫でてしまった。
「やん! 髪が乱れちゃう!」
文句を言いながらもシアはとても嬉しそうに笑った。
その日から、俺とシアの関係は始まった。
あの楽しかった日々を、俺は忘れられなかったのに、彼女は違った。
長い年月を経て、ようやく再会し、手に入れた彼女は、俺のことなど微塵も覚えていなかった。俺のことをアンディと呼んでくれないし、シアと呼べばおかしなものを見る目で俺を見てくる。
━━酷いやつ。
そう思うのに、俺は彼女のことを少しも嫌いになれそうにない。
「シア」
呼びかけても反応はない。王都の宿に着いて、昼寝をしてからずっと眠り続けている。
「晩飯の時間だぞ」
頬をつついてみてもやはり反応はなかった。
━━長旅の疲れが相当溜まってたんだな。
長年、城の外に出ることのなかった彼女にとって、長距離の移動は辛かっただろう。それなのにあいつらときたらシアに対して陰で文句ばかり言いやがって……。
怒りのあまり、ため息が出そうになったが、そうしないように堪えた。そんなことをしたら妙に迷信深いあの妖精が文句を言いにやって来かねない。今は彼女の小言を聞きたい気分じゃなかった。
俺は眠るシアの隣に寝転んで彼女の頬を撫でた。眠る顔は昔と変わらず、穏やかでほっとする。
━━また、昔みたいに笑って欲しい。
再会してからのシアは、笑顔を見せてくれない。暗い顔でどこか遠くを見つめるか、怯えた表情で俺を見るだけだ。
“私ね、素敵な騎士様と結婚して世界で一番幸せなお姫様になるの”
いつだったか、シアがそんなことを言った。小さな彼女の夢は、やがて俺の夢になった。
━━いつか、騎士になってシアを迎えに行こう。
そう決意した時から、俺は人の何十倍も努力した。
長年、幾重もの戦闘を続けると、第二王子からブラックドラゴンの討伐の依頼を持ちかけられた。それを何とか達成すると、俺はようやく誰しもが認める騎士になれた。
その時には、俺の身体はどこもかしこも傷まみれで醜くなっていた。だが、これから夢が叶うのだから、全く気にならなかった。
しかし、そうしてやっとシアを手に入れたというのに、俺は彼女を“世界で一番幸せなお姫様”にしてやれなかった。
━━何がだめなんだ? どうすればシアは満足してくれる?
フェイならその答えを知っていそうだが……。あの妖精にこれ以上の借りを作るのはごめんだ。
だから、俺は今日もフェイを呼ばない。いつも通り、足りない頭でシアを満足させる方法を考えるだけだった。
彼女の名前は、シアリーズ・ジョルネス。シアと初めて出会った時、俺が11歳で、彼女が7歳だった。
初めて彼女を見たのは、アイネ山の麓にある小さな森の中で、彼女は一匹の妖精と遊んでいた。
「あははっ、まって~!」
大きな笑い声を上げながら元気よく走り回る少女は、妖精と追いかけっこをしているようだった。
「フェイったら! そんなに高いところに飛ぶなんてずるいわぁ」
大人の背丈よりも高い木の枝の先に止まった妖精に対して少女は頬を膨らませて抗議した。
「あら、飛べないシアが悪いのよ!」
妖精は指をくるくると回すと少女を宙に浮かべた。
━━また妖精がいたずらをしている。
少女は空を飛べたと大はしゃぎしているが、俺はそれを見て、心配で堪らなくなった。
森に暮らす妖精達は一見、愛らしくも美しい無害な存在のようだが、実際は厄介なことをしてくる奴らだった。
あいつらは遊ぶことが大好きで、時に人を困らせるようなことをする。パンを草花に変えたり、農具をミニチュアサイズにまで小さくする程度ならかわいい方だ。
問題は、彼らは遊びの延長で人を危険に晒すことだった。
彼らは自分達の遊びのためなら迷いの霧を発生させて人を森に閉じ込めたり、面白半分で人を木に変えたりする。そして、人を高いところまで昇らせて地面に叩き落とすことも、彼らは好んで行っていた。
「危ない!」
妖精が急に彼女を突き落としても受け止められるよう、咄嗟に走り寄った。受け止められる自信はなかったが、そうしなければ、彼女は最悪、死んでしまうから。
少女は俺を見て小首を傾げていた。幼い彼女は自分が危険な状況にあることを気づいていないのだ。
しかし、彼女は急に顔を赤くしたかと思うと、スカートを押さえて叫んだ。
「ヘンタイ! パンツ見ないでよ!!」
彼女の声に俺は呆気に取られた。
━━変態? 人が親切に受け止めようとしているのに、パンツを覗く不届き者と勘違いしているのか!?
怒りのあまり俺の顔は熱くなった。そんな俺と少女を見て、妖精はケラケラと笑った。
妖精は一通り笑い転げた後に、少女とともに地面に降りてきた。
「あ~、面白かった!」
ひぃひぃ息をしながら言う妖精に俺も少女も「どこが?」と睨んでいた。
そんな俺達を気にもせず、妖精は少女に向かって語りかけた。
「シア、あなた勘違いしているわ。この男の子はあなたを助けようとしていたはずよ」
「え?」
「この子は私があなたを空から突き落とすと思い違いをしたのよ」
妖精は俺の方を向いて、「そうでしょう?」と言ってきた。
俺は正直に「そうだ」と答えると、少女は途端に慌てふためいた。
「ごめんなさい。助けようとしてくれたのに酷いことを言って」
「おう。……言っとくが、俺は見てないからな」
そう言うと少女は俯いてしまった。
「バカ、余計な一言ね」
妖精はそう言って俺の眉間にデコピンを食らわせた。小さい指をしている癖に、眉間がずきりと痛んだ。
「そんなことより、あなた名前は?」
妖精は腕を組んで俺に尋ねてきた。
「アンドリューだ」
「そう。私はフェイ、そしてこっちが私の友達のシアリーズよ」
仲良くしてねとフェイが言うと、少女ははにかんで手を差し出してきた。
「何だ?」
その手の意味が分からなくて聞いたら、フェイの魔法で無理やりシアの手と握らされる。彼女の手は、小さくて温かかった。
「人間のくせに、“友好の仕草”を知らないの?」
呆れたと言わんばかりに顔を歪めるフェイに対して、シアリーズは気にした様子もなくにこにこと笑っていた。
「これで私達、お友達ね」
さっきまで暗い顔をしていたのに、今ではそんなことなどなかったかのように明るく笑っている。
━━変なやつ。
俺がそんなことを思っていたなんて、彼女は気付きもしなかっただろう。
「ねえ、私のことはシアって呼んで。それからあなたのことはアンディって呼んでもいい?」
彼女は「お願い!」とでも言いたげな顔で俺を見てくる。
「おうよ」
だめと言う理由もなかったから了承すると、シアはとても嬉しかったろう。顔をくしゃっとさせて笑った。
その子供らしい笑顔がかわいくて俺は思わず彼女の髪を強く撫でてしまった。
「やん! 髪が乱れちゃう!」
文句を言いながらもシアはとても嬉しそうに笑った。
その日から、俺とシアの関係は始まった。
あの楽しかった日々を、俺は忘れられなかったのに、彼女は違った。
長い年月を経て、ようやく再会し、手に入れた彼女は、俺のことなど微塵も覚えていなかった。俺のことをアンディと呼んでくれないし、シアと呼べばおかしなものを見る目で俺を見てくる。
━━酷いやつ。
そう思うのに、俺は彼女のことを少しも嫌いになれそうにない。
「シア」
呼びかけても反応はない。王都の宿に着いて、昼寝をしてからずっと眠り続けている。
「晩飯の時間だぞ」
頬をつついてみてもやはり反応はなかった。
━━長旅の疲れが相当溜まってたんだな。
長年、城の外に出ることのなかった彼女にとって、長距離の移動は辛かっただろう。それなのにあいつらときたらシアに対して陰で文句ばかり言いやがって……。
怒りのあまり、ため息が出そうになったが、そうしないように堪えた。そんなことをしたら妙に迷信深いあの妖精が文句を言いにやって来かねない。今は彼女の小言を聞きたい気分じゃなかった。
俺は眠るシアの隣に寝転んで彼女の頬を撫でた。眠る顔は昔と変わらず、穏やかでほっとする。
━━また、昔みたいに笑って欲しい。
再会してからのシアは、笑顔を見せてくれない。暗い顔でどこか遠くを見つめるか、怯えた表情で俺を見るだけだ。
“私ね、素敵な騎士様と結婚して世界で一番幸せなお姫様になるの”
いつだったか、シアがそんなことを言った。小さな彼女の夢は、やがて俺の夢になった。
━━いつか、騎士になってシアを迎えに行こう。
そう決意した時から、俺は人の何十倍も努力した。
長年、幾重もの戦闘を続けると、第二王子からブラックドラゴンの討伐の依頼を持ちかけられた。それを何とか達成すると、俺はようやく誰しもが認める騎士になれた。
その時には、俺の身体はどこもかしこも傷まみれで醜くなっていた。だが、これから夢が叶うのだから、全く気にならなかった。
しかし、そうしてやっとシアを手に入れたというのに、俺は彼女を“世界で一番幸せなお姫様”にしてやれなかった。
━━何がだめなんだ? どうすればシアは満足してくれる?
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