【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

文字の大きさ
25 / 63
本編2

17-2 毛皮のコート

しおりを挟む
 私が本当のことを言えなかったから、セーブルのコートを買うことになってしまった。後ろめたい気持ちが積もっていく中で、ヒルデン夫人はコートのデザインについて話し出した。

 夫人は、店に置いてある商品をいくつか見せてくれて、それぞれの服の特徴を説明してくれる。
「この中に、奥様のご希望するデザインはありますでしょうか」
 ヒルデン夫人に尋ねられて、私は迷うことなく一つの商品を指差した。
「これがイメージに近いですね」

 せっかく高価な物を買うのだから、できるだけ長く使いたい。だから、流行に左右されないことに加えて、どんな服装にも合いそうなものがよかった。その旨をヒルデン夫人に伝えると、彼女は私の希望に沿うようにと様々な提案をしてくれた。

 話し合いが終わると、私達はエントランスに戻った。辺りを見回してみても、そこにはジェシカと同伴の男性はいなかった。
「あの、妹がどこに行ったのか知りませんか」
 尋ねると、ヒルデン夫人はエントランスにいた店員達に目配せをした。すると、一人の店員が、二人はもう用事を終わらせて帰ってしまったと教えてくれた。それから、メモを預かったと言ってそれを差し出してきた。
 私はすぐにメモを見た。そこには、近くの店で待っているから一人で来て欲しいと書いてあった。

 私は、ヒルデン夫人にお礼を言ってから店を出た。
 それからすぐに私はアンドリュー卿にメモのことを話した。
「ジェシカが私と話したいことがあるそうなの。二軒隣のカフェに来て欲しいと書いてあって……」
 話しているうちにアンドリュー卿の顔がみるみる険しくなっていく。
 よく怒った顔をする彼だけれど、今はいつにも増して機嫌が悪いように思える。そんな顔をされてしまったら、「行っていい?」と言いにくくて仕方がない。

 ━━どうしよう。

 ジェシカがどうして王都にいるのか気になるし、同伴していた男性との関係も詳しく聞きたい。何より、別れの挨拶すらまともにせずにジョルネス領を離れたことを謝りたかった。
 もし、この機会を逃したら次にジェシカと会えるのはいつになるのか分からない。アンドリュー卿の領地はジョルネス領から遠く、気軽に出かけられる距離ではない。それに、結婚した女が夫のもとを離れて一人遠い場所へと旅行するなんてありえないことだ。

 アンドリュー卿を説得する方法が分からず考えあぐねていると、アンドリュー卿が重い口を開いた。
「行って来い」
 彼は不機嫌な顔のまま、そう言い放った。彼の思わぬ言葉に、私は吃りながらも「ありがとう」と返事をした。

「ただ、あまり長話はしないでくれ。宝石商の所にもいかないといけないから」
「はい。では、一緒に……」
 ジェシカは私が一人で来ることを望んでいたけれど、私は彼を紹介したかった。本当の夫婦になれて、今は幸せなのだと。嘘を吐いてでもジェシカを安心させたかったのだ。

 けれど、アンドリュー卿は首を横に振った。
「行かない」
「え?」
「俺は行かない」
 むすっとした表情で彼は言い切った。

「どうして?」
「俺は彼女に嫌われているから」
「ジェシカが?」
 人懐っこくて誰にでも優しいジェシカが、ほとんど関わりのなかった彼のことを嫌いになるなんて信じられない。

「誤解じゃないかしら?」
 アンドリュー卿を宥めるためにそう言ってみたけれど、彼は静かに首を振った。
「妹と会っている間、俺は馬車にいる。馬車は店前に止めておくから」
 彼はどうしてもジェシカと一緒にいたくないらしい。私の返事も待たず、馬車の扉を開けてしまった。

 私は彼の身勝手な行動に呆れながらもその背中に声をかけた。
「分かったわ。なるべく早く戻るね」
 アンドリュー卿は振り返ったかと思うと、私の頬にキスをした。突然の彼の行動にびっくりして、私は一歩後ろに下がった。
 そんな私をアンドリュー卿は寂しげな目で見つめた。

「ど、どうしたの!?」
「別に。……嫌なことをして悪かったな」
 彼はぶっきらぼうに言うと馬車に乗り込み、そのまま扉を閉めた。そして、椅子に座り、何事もなかったかのように前をじっと見つめている。
 
 ━━さっきのキスは何なのよ。

 うるさいくらい、心臓がバクバク鳴っている。私はその音を隠すために、ジェシカの待つカフェへと走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

眠れる森の美女になりかけた王女は、辺境でスローライフを始めます。すでに結婚していますので、今さら王子さまからプロポーズされても困るのですが。

石河 翠
恋愛
義妹の代わりに呪いを受けた王女。ようやく目覚めたと思ったら、目の前にいたのは魔法使い。なんとここに来るはずの幼なじみの婚約者は義妹が横取りしてしまい、自分との婚約はすでに破棄されてしまったのだという。 しかも王女がいたのは辺境の小さな村。義妹が泣き叫んで手がつけられないからという理由で王城から追い出されたらしい。それならばこの土地でスローライフを始めると開き直る王女。 アフターフォローを申し出た魔法使いと一緒に田舎暮らしを始めることに。そこへ辺境の地の噂を聞きつけた王子さまがやってきて……。 仕事から離れて憧れの田舎暮らしを楽しむ図太いヒロインと、ヒロインをずっと追いかけてきたヒーロー、それを見守る義妹の恋物語。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5047928)をお借りしています。

【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい
恋愛
結婚十年、子どもも授かり、日々執務と子育ての毎日。 穏やかで平凡な日々を過ごしていたある日、夫が大切な人を離れに住まわせると言った。 偶然助けた私に一目惚れしたと言い、結婚し、可愛い子ども達まで授けてくれた夫を恨むことも憎むこともしなかった私。 初恋すら知らず、家族愛を与えてくれた夫だから。 でも、夫の大切な人が離れに移り住んで、私の生き方に変化が生まれた。 2025.11.30 完結しました。 スピンオフ『嫌われ悪女は俺の最愛〜グレイシアとサイファの恋物語〜』は不定期更新中です。 【2025.12.27追記】 エミリオンと先に出逢っていたら もしもの世界編は、諸事情により以下に移動しました 『今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜』 よろしければ、ご訪問くださいませ いつもありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...