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本編2
17-2 毛皮のコート
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私が本当のことを言えなかったから、セーブルのコートを買うことになってしまった。後ろめたい気持ちが積もっていく中で、ヒルデン夫人はコートのデザインについて話し出した。
夫人は、店に置いてある商品をいくつか見せてくれて、それぞれの服の特徴を説明してくれる。
「この中に、奥様のご希望するデザインはありますでしょうか」
ヒルデン夫人に尋ねられて、私は迷うことなく一つの商品を指差した。
「これがイメージに近いですね」
せっかく高価な物を買うのだから、できるだけ長く使いたい。だから、流行に左右されないことに加えて、どんな服装にも合いそうなものがよかった。その旨をヒルデン夫人に伝えると、彼女は私の希望に沿うようにと様々な提案をしてくれた。
話し合いが終わると、私達はエントランスに戻った。辺りを見回してみても、そこにはジェシカと同伴の男性はいなかった。
「あの、妹がどこに行ったのか知りませんか」
尋ねると、ヒルデン夫人はエントランスにいた店員達に目配せをした。すると、一人の店員が、二人はもう用事を終わらせて帰ってしまったと教えてくれた。それから、メモを預かったと言ってそれを差し出してきた。
私はすぐにメモを見た。そこには、近くの店で待っているから一人で来て欲しいと書いてあった。
私は、ヒルデン夫人にお礼を言ってから店を出た。
それからすぐに私はアンドリュー卿にメモのことを話した。
「ジェシカが私と話したいことがあるそうなの。二軒隣のカフェに来て欲しいと書いてあって……」
話しているうちにアンドリュー卿の顔がみるみる険しくなっていく。
よく怒った顔をする彼だけれど、今はいつにも増して機嫌が悪いように思える。そんな顔をされてしまったら、「行っていい?」と言いにくくて仕方がない。
━━どうしよう。
ジェシカがどうして王都にいるのか気になるし、同伴していた男性との関係も詳しく聞きたい。何より、別れの挨拶すらまともにせずにジョルネス領を離れたことを謝りたかった。
もし、この機会を逃したら次にジェシカと会えるのはいつになるのか分からない。アンドリュー卿の領地はジョルネス領から遠く、気軽に出かけられる距離ではない。それに、結婚した女が夫のもとを離れて一人遠い場所へと旅行するなんてありえないことだ。
アンドリュー卿を説得する方法が分からず考えあぐねていると、アンドリュー卿が重い口を開いた。
「行って来い」
彼は不機嫌な顔のまま、そう言い放った。彼の思わぬ言葉に、私は吃りながらも「ありがとう」と返事をした。
「ただ、あまり長話はしないでくれ。宝石商の所にもいかないといけないから」
「はい。では、一緒に……」
ジェシカは私が一人で来ることを望んでいたけれど、私は彼を紹介したかった。本当の夫婦になれて、今は幸せなのだと。嘘を吐いてでもジェシカを安心させたかったのだ。
けれど、アンドリュー卿は首を横に振った。
「行かない」
「え?」
「俺は行かない」
むすっとした表情で彼は言い切った。
「どうして?」
「俺は彼女に嫌われているから」
「ジェシカが?」
人懐っこくて誰にでも優しいジェシカが、ほとんど関わりのなかった彼のことを嫌いになるなんて信じられない。
「誤解じゃないかしら?」
アンドリュー卿を宥めるためにそう言ってみたけれど、彼は静かに首を振った。
「妹と会っている間、俺は馬車にいる。馬車は店前に止めておくから」
彼はどうしてもジェシカと一緒にいたくないらしい。私の返事も待たず、馬車の扉を開けてしまった。
私は彼の身勝手な行動に呆れながらもその背中に声をかけた。
「分かったわ。なるべく早く戻るね」
アンドリュー卿は振り返ったかと思うと、私の頬にキスをした。突然の彼の行動にびっくりして、私は一歩後ろに下がった。
そんな私をアンドリュー卿は寂しげな目で見つめた。
「ど、どうしたの!?」
「別に。……嫌なことをして悪かったな」
彼はぶっきらぼうに言うと馬車に乗り込み、そのまま扉を閉めた。そして、椅子に座り、何事もなかったかのように前をじっと見つめている。
━━さっきのキスは何なのよ。
うるさいくらい、心臓がバクバク鳴っている。私はその音を隠すために、ジェシカの待つカフェへと走った。
夫人は、店に置いてある商品をいくつか見せてくれて、それぞれの服の特徴を説明してくれる。
「この中に、奥様のご希望するデザインはありますでしょうか」
ヒルデン夫人に尋ねられて、私は迷うことなく一つの商品を指差した。
「これがイメージに近いですね」
せっかく高価な物を買うのだから、できるだけ長く使いたい。だから、流行に左右されないことに加えて、どんな服装にも合いそうなものがよかった。その旨をヒルデン夫人に伝えると、彼女は私の希望に沿うようにと様々な提案をしてくれた。
話し合いが終わると、私達はエントランスに戻った。辺りを見回してみても、そこにはジェシカと同伴の男性はいなかった。
「あの、妹がどこに行ったのか知りませんか」
尋ねると、ヒルデン夫人はエントランスにいた店員達に目配せをした。すると、一人の店員が、二人はもう用事を終わらせて帰ってしまったと教えてくれた。それから、メモを預かったと言ってそれを差し出してきた。
私はすぐにメモを見た。そこには、近くの店で待っているから一人で来て欲しいと書いてあった。
私は、ヒルデン夫人にお礼を言ってから店を出た。
それからすぐに私はアンドリュー卿にメモのことを話した。
「ジェシカが私と話したいことがあるそうなの。二軒隣のカフェに来て欲しいと書いてあって……」
話しているうちにアンドリュー卿の顔がみるみる険しくなっていく。
よく怒った顔をする彼だけれど、今はいつにも増して機嫌が悪いように思える。そんな顔をされてしまったら、「行っていい?」と言いにくくて仕方がない。
━━どうしよう。
ジェシカがどうして王都にいるのか気になるし、同伴していた男性との関係も詳しく聞きたい。何より、別れの挨拶すらまともにせずにジョルネス領を離れたことを謝りたかった。
もし、この機会を逃したら次にジェシカと会えるのはいつになるのか分からない。アンドリュー卿の領地はジョルネス領から遠く、気軽に出かけられる距離ではない。それに、結婚した女が夫のもとを離れて一人遠い場所へと旅行するなんてありえないことだ。
アンドリュー卿を説得する方法が分からず考えあぐねていると、アンドリュー卿が重い口を開いた。
「行って来い」
彼は不機嫌な顔のまま、そう言い放った。彼の思わぬ言葉に、私は吃りながらも「ありがとう」と返事をした。
「ただ、あまり長話はしないでくれ。宝石商の所にもいかないといけないから」
「はい。では、一緒に……」
ジェシカは私が一人で来ることを望んでいたけれど、私は彼を紹介したかった。本当の夫婦になれて、今は幸せなのだと。嘘を吐いてでもジェシカを安心させたかったのだ。
けれど、アンドリュー卿は首を横に振った。
「行かない」
「え?」
「俺は行かない」
むすっとした表情で彼は言い切った。
「どうして?」
「俺は彼女に嫌われているから」
「ジェシカが?」
人懐っこくて誰にでも優しいジェシカが、ほとんど関わりのなかった彼のことを嫌いになるなんて信じられない。
「誤解じゃないかしら?」
アンドリュー卿を宥めるためにそう言ってみたけれど、彼は静かに首を振った。
「妹と会っている間、俺は馬車にいる。馬車は店前に止めておくから」
彼はどうしてもジェシカと一緒にいたくないらしい。私の返事も待たず、馬車の扉を開けてしまった。
私は彼の身勝手な行動に呆れながらもその背中に声をかけた。
「分かったわ。なるべく早く戻るね」
アンドリュー卿は振り返ったかと思うと、私の頬にキスをした。突然の彼の行動にびっくりして、私は一歩後ろに下がった。
そんな私をアンドリュー卿は寂しげな目で見つめた。
「ど、どうしたの!?」
「別に。……嫌なことをして悪かったな」
彼はぶっきらぼうに言うと馬車に乗り込み、そのまま扉を閉めた。そして、椅子に座り、何事もなかったかのように前をじっと見つめている。
━━さっきのキスは何なのよ。
うるさいくらい、心臓がバクバク鳴っている。私はその音を隠すために、ジェシカの待つカフェへと走った。
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