59 / 63
本編3
29 計画の実行
しおりを挟む
それから私達は、連日、お父様との対峙に備えて綿密な計画を立てた。
お父様はジェシカに対して危害を加えようとするだろうから、私達はその現場を押さえて、彼を官憲に突き出す。
お父様は自分の手を汚さず、人を雇うのではないかと思ったけれど、そこはグレアム殿下が上手く取り計らってくれるのだという。
お父様は私とジェシカの話し合いの場に必ず現れるのだ。
私はジェシカに私達の計画を教えたかったけれど、皆に反対された。
そうすれば、計画が漏れる可能性が出てくるし、そうじゃなくても、不審に思ったお父様が現れなくなるかもしれないからだ。
危険が迫っているのにそれを彼女に教えられないことにやきもきしたけれど、アンディは騎士として、無駄のない人員配置をしてくれた。そして、死角はないから不意打ちで襲われることはないと彼は断言したのだ。
※
そして、ジェシカと会う日。
━━準備はしっかりしたから大丈夫。
私は、そう思いながら、彼とともにジェシカとの待ち合わせの場所に向かった。
私の指定したカフェに、ジェシカとカーライル殿下はすでに来ていた。
ジェシカは私の隣りにいるアンディを見ると、顔を顰めた。
「お姉様……?」
なぜ彼がここに? と言いたげに私を見つめる。
私はそれに反応せずに、アンディとともに席に着いた。
「ジェシカ。あなたに大事な話をしたいから、彼を連れて来たの」
「……そうですか」
同じ席に着くことまで拒否されなくて良かった。そう思いつつ、店員に私達の分のお茶を頼んだ。
お茶が来るまでの間は本題を切り出さずにいた。プライベートな話題を他人に聞かれるのは嫌だったから。
でも、不満気なジェシカと不機嫌そうなアンディの前では、どんな雑談も弾まなかった。
━━気まずい。
振る話題が尽きて、ついに沈黙が訪れた。
ジェシカとアンディは話をするつもりがないらしく、二人とも黙って店内を見渡している。
カーライル殿下はジェシカをチラチラと見つめるばかりで何も言わない。
お茶が来るまでは、10分もかからなかったはずなのに、長い地獄の中にいる気分にさせられた。
だから、店員がお茶を持ってきてくれた時には心底ほっとさせられた。
私は、お茶を置いた店員が遠くへ行ったことを確認して、ジェシカにしっかりと向き合った。
「ジェシカ、改めてちゃんと紹介させて。私の夫のアンドリューよ」
敬称を付けず、しっかりと彼の名前を呼んだ。
アンディは軽く頭を下げると、ジェシカもそれに呼応して「こんにちは」と挨拶をした。
“よろしく”と言わないあたり、彼女の「認めない」という意志が見え隠れする。
私は苦笑いをしながらも、私の意志を伝えていく。
「私達、王都に来てから、しっかりと話し合ったの。それで、お互いに沢山の誤解が合ったことと、これからもずっと、一緒にいたいと思っていたことを知ったわ。だから、私はアンディと……。夫とは離婚しないわ」
離婚をしない。そう宣言した途端、ジェシカはアンディを睨み付けた。
「お姉様にどんな脅しをかけたの?」
アンディに対して怒りを隠さずに問うた。
「何も」
彼は短く返事をすると、ジェシカはテーブルに手を付いて立ち上がった。
「嘘を吐かないで!! あなたがお姉様をグレアム殿下の所に連れて行ったことを知っているんだから!」
大声を出したせいで、周囲の目が一斉に彼女に向いた。
「ジェシカ嬢、落ち着いて。大きな声で話していいことじゃないだろう?」
カーライル殿下が優しく咎めると、彼女は椅子に座り直した。
「ごめんなさい。大声を出して」
彼女はそう言ってから、気分を落ち着けるためなのかお茶を飲んだ。
私はジェシカがカップを受け皿に戻したのを確認すると、再び話しかけた。
「ねえ、ジェシカ。あなたは私達のことを誤解しているわ。あなたの言う通り、私とアンディがグレアム殿下と会ったのも事実よ? でもね━━」
「愛人の女も馬車に乗っていたんでしょ?」
カーライル殿下が私に付けていたという監視の護衛は、そこまで見ていたとは思わなかった。
「違うわ。彼女は愛人じゃない。私の古くからの友達よ」
「お姉様のお友達?」
ジョルネスの城に閉じ込められて、同世代の子とはまともに付き合いも持てなかったことをジェシカは知っているから。そんなことを言われても、にわかには信じられないのだろう。
「昔、アイネ山にいた頃の友達なの」
「お姉様……。あの頃の記憶があるのですか」
「あなたこそ、まだ小さかったのに、よく覚えているわね」
「いえ、記憶は朧げで、具体的な暮らしの様子は思い出せないのですが……」
ジェシカはじっと私の顔を見た。
「あの頃のお姉様は、明るくておしゃべりで、笑顔の絶えない人だったってことはよく覚えています」
「そうなの……? 実は、あの頃のことはまだ思い出したばかりで、記憶に残っていないことも多いから、未だに私が明るい人間だと言われても違和感があるの」
苦笑して言えば、ジェシカは私の手を取った。
「それでも、お姉様があの頃の記憶を少しでも取り戻してくれて良かったです。お母様を亡くしたショックとお父様のせいで、お姉様は……」
そういったジェシカは、今にも泣き出してしまいそうだ。私は彼女の手を握り返した。
「記憶が戻ったのは、さっき言った友達と、夫のおかげなの。彼女と夫と三人で話しているうちに、私達がかつて友達で、私とアンディは、将来を約束した仲だって思い出したの」
私の言葉にジェシカは目を丸くさせた。
お父様はジェシカに対して危害を加えようとするだろうから、私達はその現場を押さえて、彼を官憲に突き出す。
お父様は自分の手を汚さず、人を雇うのではないかと思ったけれど、そこはグレアム殿下が上手く取り計らってくれるのだという。
お父様は私とジェシカの話し合いの場に必ず現れるのだ。
私はジェシカに私達の計画を教えたかったけれど、皆に反対された。
そうすれば、計画が漏れる可能性が出てくるし、そうじゃなくても、不審に思ったお父様が現れなくなるかもしれないからだ。
危険が迫っているのにそれを彼女に教えられないことにやきもきしたけれど、アンディは騎士として、無駄のない人員配置をしてくれた。そして、死角はないから不意打ちで襲われることはないと彼は断言したのだ。
※
そして、ジェシカと会う日。
━━準備はしっかりしたから大丈夫。
私は、そう思いながら、彼とともにジェシカとの待ち合わせの場所に向かった。
私の指定したカフェに、ジェシカとカーライル殿下はすでに来ていた。
ジェシカは私の隣りにいるアンディを見ると、顔を顰めた。
「お姉様……?」
なぜ彼がここに? と言いたげに私を見つめる。
私はそれに反応せずに、アンディとともに席に着いた。
「ジェシカ。あなたに大事な話をしたいから、彼を連れて来たの」
「……そうですか」
同じ席に着くことまで拒否されなくて良かった。そう思いつつ、店員に私達の分のお茶を頼んだ。
お茶が来るまでの間は本題を切り出さずにいた。プライベートな話題を他人に聞かれるのは嫌だったから。
でも、不満気なジェシカと不機嫌そうなアンディの前では、どんな雑談も弾まなかった。
━━気まずい。
振る話題が尽きて、ついに沈黙が訪れた。
ジェシカとアンディは話をするつもりがないらしく、二人とも黙って店内を見渡している。
カーライル殿下はジェシカをチラチラと見つめるばかりで何も言わない。
お茶が来るまでは、10分もかからなかったはずなのに、長い地獄の中にいる気分にさせられた。
だから、店員がお茶を持ってきてくれた時には心底ほっとさせられた。
私は、お茶を置いた店員が遠くへ行ったことを確認して、ジェシカにしっかりと向き合った。
「ジェシカ、改めてちゃんと紹介させて。私の夫のアンドリューよ」
敬称を付けず、しっかりと彼の名前を呼んだ。
アンディは軽く頭を下げると、ジェシカもそれに呼応して「こんにちは」と挨拶をした。
“よろしく”と言わないあたり、彼女の「認めない」という意志が見え隠れする。
私は苦笑いをしながらも、私の意志を伝えていく。
「私達、王都に来てから、しっかりと話し合ったの。それで、お互いに沢山の誤解が合ったことと、これからもずっと、一緒にいたいと思っていたことを知ったわ。だから、私はアンディと……。夫とは離婚しないわ」
離婚をしない。そう宣言した途端、ジェシカはアンディを睨み付けた。
「お姉様にどんな脅しをかけたの?」
アンディに対して怒りを隠さずに問うた。
「何も」
彼は短く返事をすると、ジェシカはテーブルに手を付いて立ち上がった。
「嘘を吐かないで!! あなたがお姉様をグレアム殿下の所に連れて行ったことを知っているんだから!」
大声を出したせいで、周囲の目が一斉に彼女に向いた。
「ジェシカ嬢、落ち着いて。大きな声で話していいことじゃないだろう?」
カーライル殿下が優しく咎めると、彼女は椅子に座り直した。
「ごめんなさい。大声を出して」
彼女はそう言ってから、気分を落ち着けるためなのかお茶を飲んだ。
私はジェシカがカップを受け皿に戻したのを確認すると、再び話しかけた。
「ねえ、ジェシカ。あなたは私達のことを誤解しているわ。あなたの言う通り、私とアンディがグレアム殿下と会ったのも事実よ? でもね━━」
「愛人の女も馬車に乗っていたんでしょ?」
カーライル殿下が私に付けていたという監視の護衛は、そこまで見ていたとは思わなかった。
「違うわ。彼女は愛人じゃない。私の古くからの友達よ」
「お姉様のお友達?」
ジョルネスの城に閉じ込められて、同世代の子とはまともに付き合いも持てなかったことをジェシカは知っているから。そんなことを言われても、にわかには信じられないのだろう。
「昔、アイネ山にいた頃の友達なの」
「お姉様……。あの頃の記憶があるのですか」
「あなたこそ、まだ小さかったのに、よく覚えているわね」
「いえ、記憶は朧げで、具体的な暮らしの様子は思い出せないのですが……」
ジェシカはじっと私の顔を見た。
「あの頃のお姉様は、明るくておしゃべりで、笑顔の絶えない人だったってことはよく覚えています」
「そうなの……? 実は、あの頃のことはまだ思い出したばかりで、記憶に残っていないことも多いから、未だに私が明るい人間だと言われても違和感があるの」
苦笑して言えば、ジェシカは私の手を取った。
「それでも、お姉様があの頃の記憶を少しでも取り戻してくれて良かったです。お母様を亡くしたショックとお父様のせいで、お姉様は……」
そういったジェシカは、今にも泣き出してしまいそうだ。私は彼女の手を握り返した。
「記憶が戻ったのは、さっき言った友達と、夫のおかげなの。彼女と夫と三人で話しているうちに、私達がかつて友達で、私とアンディは、将来を約束した仲だって思い出したの」
私の言葉にジェシカは目を丸くさせた。
22
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
眠れる森の美女になりかけた王女は、辺境でスローライフを始めます。すでに結婚していますので、今さら王子さまからプロポーズされても困るのですが。
石河 翠
恋愛
義妹の代わりに呪いを受けた王女。ようやく目覚めたと思ったら、目の前にいたのは魔法使い。なんとここに来るはずの幼なじみの婚約者は義妹が横取りしてしまい、自分との婚約はすでに破棄されてしまったのだという。
しかも王女がいたのは辺境の小さな村。義妹が泣き叫んで手がつけられないからという理由で王城から追い出されたらしい。それならばこの土地でスローライフを始めると開き直る王女。
アフターフォローを申し出た魔法使いと一緒に田舎暮らしを始めることに。そこへ辺境の地の噂を聞きつけた王子さまがやってきて……。
仕事から離れて憧れの田舎暮らしを楽しむ図太いヒロインと、ヒロインをずっと追いかけてきたヒーロー、それを見守る義妹の恋物語。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5047928)をお借りしています。
【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜
紬あおい
恋愛
結婚十年、子どもも授かり、日々執務と子育ての毎日。
穏やかで平凡な日々を過ごしていたある日、夫が大切な人を離れに住まわせると言った。
偶然助けた私に一目惚れしたと言い、結婚し、可愛い子ども達まで授けてくれた夫を恨むことも憎むこともしなかった私。
初恋すら知らず、家族愛を与えてくれた夫だから。
でも、夫の大切な人が離れに移り住んで、私の生き方に変化が生まれた。
2025.11.30 完結しました。
スピンオフ『嫌われ悪女は俺の最愛〜グレイシアとサイファの恋物語〜』は不定期更新中です。
【2025.12.27追記】
エミリオンと先に出逢っていたら
もしもの世界編は、諸事情により以下に移動しました
『今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜』
よろしければ、ご訪問くださいませ
いつもありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
引きこもり聖女は祈らない
鷹 綾
恋愛
内容紹介
聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。
人と話すことができず、部屋から出ることもできず、
彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。
「西の街道でがけ崩れが起きます」
「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」
祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。
その存在は次第に「役立たず」と見なされ、
王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。
──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。
天候不順、嵐、洪水、冷害。
新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。
誰もが気づかぬまま、
「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。
扉の向こうで静かに生きる少女と、
毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。
失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。
これは、
祈らない聖女が選んだ、
誰にも支配されない静かな結末の物語。
『引きこもり聖女は祈らない』
ざまぁは声高でなく、
救いは奇跡ではなく、
その扉の向こうに、確かにあった。
ここに聖女はいない
こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。
勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。
どうしてこんな奴がここにいる?
かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる