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本編3
30-1 襲撃
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「アンドリュー卿と恋仲だったのですか」
「恋仲って程、はっきりとした関係ではなかったわね。でも、彼は私のために騎士となることを約束してくれたの。そして、その約束を守って、私を迎えに来てくれた。お父様から守るためにね」
「でも、……それならどうして、私に教えてくれなかったのですか」
「ごめんね。あの時は記憶が戻ってなかったから……。私もアンディの求婚に戸惑っていたの」
ジェシカは私の返答を聞くと、今度はアンディを見た。
「カルベーラ卿はどうなんだ?」
ジェシカの気持ちを代弁するかのように、カーライル殿下が尋ねる。
「グレアムに口止めされていたんだ」
「兄上から? なぜだ?」
「下手にしゃべると、公爵がシアの価値に気付くかもしれないから」
彼の答えにジェシカと殿下は顔を見合わせて首を傾げた。
言葉足らずの彼のために、私が補足する。
「グレアム殿下は、アンディが私を妻に求めていることを誰にも悟られないようにとアドバイスしたそうなんです。そうしないと、お父様が私を無理やりにでも連れ返すだろうって」
そこまで言って、ジェシカは頷いた。どうやら殿下の考えが理解できたらしい。
「そうね。お父様ならやりかねないわ。お姉様を人質に取るようなマネをして、アンドリュー卿に金品を要求したに違いないわ」
私は頷いた。
「だから、アンディはジョルネスの城にいる間は不用意に私に関わろうとしなかった。お父様の要求を飲んで魔物の討伐に向かったのも、事を荒立てずに私を領地に連れて帰るためだったの」
ジェシカの瞳が揺らいだ。信じたいけれど、信じられない━━
そんな風に思っているように思えた。
「私が領地にたどり着いて安全が確保されたら、アンディはジェシカにも本当のことを話すつもりだった。私とあなたが望むなら、彼の領地なり、王都なり……。とにかく、ジョルネス公爵領ではない場所で暮らせるようにするつもりだったのよ」
「本当に……?」
ジェシカがそうつぶやいた時、扉が大きな音を立てて開いた。
そして、バタバタと大勢の男達が入って来たのだ。彼らは一様に官憲の制服を着ていて、カフェの客ではないことは明らかだった。
「ジェシカ・ジョルネス!」
大声でジェシカの名を呼んだ男は、胸に勲章を付けていて、一目で高官なのだと分かった。
人々の視線は一斉に彼に注がれる。
「貴様には国家転覆罪の容疑がかかっている。我々とともに来てもらおうか」
そう言われたジェシカは顔を顰めた。身に覚えのない罪に戸惑っているのだろう。
「彼女はそんな人ではない」
声を上げたのはカーライル殿下だった。彼は立ち上がり、高官の男を見据える。
「ジェシカ嬢は約1ヶ月の間、俺のもとに身を寄せていた。彼女に不審な動きがなかったのは、俺が保証をしよう」
殿下の訴えを男は鼻で笑った。
「親しくされていた方の犯行を信じられない気持ちは分かりますが、こちらには証拠があるのです」
「そんなもの、あるはずないわ。全く身に覚えがないもの」
ジェシカが静かに反論すると、男は嘲笑った。
「罪人はおしなべてそう言うものだ」
男はそういうなり、仲間の男達に手で合図を送った。
彼らがジェシカに近付こうと一歩踏み出した時、アンディは立ち上がった。それに呼応して、店内の客席に座っていた人々も一斉に立ち上がる。
異様なその光景に、官憲達の足が止まった。
「何のマネだ?」
官憲の一人がたじろぎながらも力強く言った。
「それはこっちのセリフだ。王都の治安を守る身でありながら、ジョルネス公爵に金で買われるとはな」
お父様の名を聞いた途端、高官の男の顔が引き攣った。その反応を見たカーライル殿下はジェシカを彼の後ろに下がらせた。
「貴公がジョルネス公爵の手先となっているのなら、なおさら彼女は渡せない!」
殿下はそう言って高官を睨み付ける。
「カーライル殿下、それはあの平民の世迷言です。私達は正式な手順を踏み、確かな証拠を持って逮捕に踏み切るのですから」
「その証拠とは、何なんだ?」
不信感を顕にしながら殿下が尋ねると、高官の男は「捜査に関わることだからそれは言えない」と答えた。
「グレアムの言う通りになったな」
アンディはつぶやきに、男はぴくりと反応する。
「グレアム殿下の名を出すとは……。英雄とはいえ、調子に乗り過ぎではないのか」
さっきからこの男は、アンディを平民と見下げて馬鹿にしている。私は腹立たしさのあまり、立ち上がって言った。
「いいえ。夫は調子に乗ってなどいません! 彼は、第二王子グレアム殿下からの依頼に従い、ジェシカを守っているのですから」
私の言葉に男は勿論のこと、ジェシカやカーライル殿下も戸惑っていた。
しかし、説明をしている暇はなかった。
私の言葉を皮切りに、客に扮していたアンディの部下達が隠し持っていた武器を手にしたのだから。
そして、アンディも短剣を持って高官の男を見据えた。
「グレアム殿下は、聖女を不当に傷付ける『賊を討て』と命令された。このままジェシカ嬢の逮捕に踏み切るなら、俺達は戦うことになるが。……どうする?」
アンディの鋭い視線に射抜かれて、高官の男は俯いた。
「恋仲って程、はっきりとした関係ではなかったわね。でも、彼は私のために騎士となることを約束してくれたの。そして、その約束を守って、私を迎えに来てくれた。お父様から守るためにね」
「でも、……それならどうして、私に教えてくれなかったのですか」
「ごめんね。あの時は記憶が戻ってなかったから……。私もアンディの求婚に戸惑っていたの」
ジェシカは私の返答を聞くと、今度はアンディを見た。
「カルベーラ卿はどうなんだ?」
ジェシカの気持ちを代弁するかのように、カーライル殿下が尋ねる。
「グレアムに口止めされていたんだ」
「兄上から? なぜだ?」
「下手にしゃべると、公爵がシアの価値に気付くかもしれないから」
彼の答えにジェシカと殿下は顔を見合わせて首を傾げた。
言葉足らずの彼のために、私が補足する。
「グレアム殿下は、アンディが私を妻に求めていることを誰にも悟られないようにとアドバイスしたそうなんです。そうしないと、お父様が私を無理やりにでも連れ返すだろうって」
そこまで言って、ジェシカは頷いた。どうやら殿下の考えが理解できたらしい。
「そうね。お父様ならやりかねないわ。お姉様を人質に取るようなマネをして、アンドリュー卿に金品を要求したに違いないわ」
私は頷いた。
「だから、アンディはジョルネスの城にいる間は不用意に私に関わろうとしなかった。お父様の要求を飲んで魔物の討伐に向かったのも、事を荒立てずに私を領地に連れて帰るためだったの」
ジェシカの瞳が揺らいだ。信じたいけれど、信じられない━━
そんな風に思っているように思えた。
「私が領地にたどり着いて安全が確保されたら、アンディはジェシカにも本当のことを話すつもりだった。私とあなたが望むなら、彼の領地なり、王都なり……。とにかく、ジョルネス公爵領ではない場所で暮らせるようにするつもりだったのよ」
「本当に……?」
ジェシカがそうつぶやいた時、扉が大きな音を立てて開いた。
そして、バタバタと大勢の男達が入って来たのだ。彼らは一様に官憲の制服を着ていて、カフェの客ではないことは明らかだった。
「ジェシカ・ジョルネス!」
大声でジェシカの名を呼んだ男は、胸に勲章を付けていて、一目で高官なのだと分かった。
人々の視線は一斉に彼に注がれる。
「貴様には国家転覆罪の容疑がかかっている。我々とともに来てもらおうか」
そう言われたジェシカは顔を顰めた。身に覚えのない罪に戸惑っているのだろう。
「彼女はそんな人ではない」
声を上げたのはカーライル殿下だった。彼は立ち上がり、高官の男を見据える。
「ジェシカ嬢は約1ヶ月の間、俺のもとに身を寄せていた。彼女に不審な動きがなかったのは、俺が保証をしよう」
殿下の訴えを男は鼻で笑った。
「親しくされていた方の犯行を信じられない気持ちは分かりますが、こちらには証拠があるのです」
「そんなもの、あるはずないわ。全く身に覚えがないもの」
ジェシカが静かに反論すると、男は嘲笑った。
「罪人はおしなべてそう言うものだ」
男はそういうなり、仲間の男達に手で合図を送った。
彼らがジェシカに近付こうと一歩踏み出した時、アンディは立ち上がった。それに呼応して、店内の客席に座っていた人々も一斉に立ち上がる。
異様なその光景に、官憲達の足が止まった。
「何のマネだ?」
官憲の一人がたじろぎながらも力強く言った。
「それはこっちのセリフだ。王都の治安を守る身でありながら、ジョルネス公爵に金で買われるとはな」
お父様の名を聞いた途端、高官の男の顔が引き攣った。その反応を見たカーライル殿下はジェシカを彼の後ろに下がらせた。
「貴公がジョルネス公爵の手先となっているのなら、なおさら彼女は渡せない!」
殿下はそう言って高官を睨み付ける。
「カーライル殿下、それはあの平民の世迷言です。私達は正式な手順を踏み、確かな証拠を持って逮捕に踏み切るのですから」
「その証拠とは、何なんだ?」
不信感を顕にしながら殿下が尋ねると、高官の男は「捜査に関わることだからそれは言えない」と答えた。
「グレアムの言う通りになったな」
アンディはつぶやきに、男はぴくりと反応する。
「グレアム殿下の名を出すとは……。英雄とはいえ、調子に乗り過ぎではないのか」
さっきからこの男は、アンディを平民と見下げて馬鹿にしている。私は腹立たしさのあまり、立ち上がって言った。
「いいえ。夫は調子に乗ってなどいません! 彼は、第二王子グレアム殿下からの依頼に従い、ジェシカを守っているのですから」
私の言葉に男は勿論のこと、ジェシカやカーライル殿下も戸惑っていた。
しかし、説明をしている暇はなかった。
私の言葉を皮切りに、客に扮していたアンディの部下達が隠し持っていた武器を手にしたのだから。
そして、アンディも短剣を持って高官の男を見据えた。
「グレアム殿下は、聖女を不当に傷付ける『賊を討て』と命令された。このままジェシカ嬢の逮捕に踏み切るなら、俺達は戦うことになるが。……どうする?」
アンディの鋭い視線に射抜かれて、高官の男は俯いた。
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