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本編3
30-2 襲撃
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「……我々は誤った情報を掴まされたのかもしれんな」
男は白々しくもそういうと他の官憲達に下がるようにと命令する。
それを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。
━━良かった。争いにならなくて。
高官の男は、お父様を切ることを選んだ。
二人の王子を敵に回した上、ここで戦闘をして騒ぎになれば、国王陛下の耳に届き、大々的な捜査となるだろう。そうなれば、彼らの不正が明るみになってもおかしくはないのだ。
悪人を放置するのは偲びないけれど、今はそれに拘っている場合じゃない。ジェシカを守り、お父様を徹底的に排斥しないといけないから。
「そうか。それなら、俺達に協力してくれるよな? ジョルネス公爵はどこだ?」
アンディが尋ねた時、タイミングよく扉が開いた。
中に入って来たのは、アンディの部下達とお父様だった。
取り押さえられたお父様は逃げようとジタバタと暴れているけれど、屈強な彼らの力には敵わないようだった。
「建物に火を放とうとしている所を捕まえました」
部下の報告に私の心臓が冷たくなった。
「ナナシの姉さんが見つけて止めなければ、どうなっていたことやら……」
外を見張っていたフェイがお父様の蛮行に気付いて対処してくれたから事なきを得たけれど……。
「あなたは、本当に自分のことしか考えないのですね!」
私の心の声を代弁するかのように、ジェシカが言った。
そして、彼女はお父様のもとに歩み寄る。
「あなたにとって、ここの官憲達は、私を捕まえるための協力者だったんですよね? それが上手く行きそうになかったから、建物に火を放って全員殺すつもりだったんでしょう?」
彼女はお父様の襟首を掴んだ。
「人の命を何だと思っているの?」
「うるさい!!」
お父様は怒鳴り付けた。
「お前のその正義感にはうんざりする! 黙って私の言うことを聞いていれば良かったものを……」
「それが嫌だったから、私は全てを白日の下に晒すと決めたの!」
「そんなことをさせるくらいなら!!」
お父様は大きな声で何かを発した。その途端、彼の首に掛けられたペンダントがまばゆい光を放ち、ジェシカの胸を貫いた。
彼女は血を流しながら、その場に崩れ落ちた。
「ジェシカ!」
私は彼女のもとに駆け寄った。
彼女は目を見開いたまま、荒い息をしている。彼女の震える手が貫かれた胸に置かれる。そうして、神聖力で治療をしようとしているのだろう。
けれど、大怪我を負って生命力を失いつつある彼女にそれができるはずがなかった。
━━私がやらないとジェシカは……。
神聖力を使ったのはもう10年以上も前だったけれど、あの感覚は今ははっきりと思い出せる。
私は彼女の胸に手を当てた。そして、ゆっくりと確実に傷口に神聖力を流し込む。
そうすると、淡い光が湧き上がり、やがてまばゆい光が私達を包んだ。きっと、ジェシカと私の神聖力が重なり合った結果だろう。
そうして、光が落ち着いてくると、彼女はゆっくりと身体を起き上がらせて、胸を撫でた。
深い傷だったにも関わらず、傷は跡形もなく消え去っている。
私がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、背後からお父様が怒鳴った。
「シアリーズ! お前、神聖力を隠し持っていたのか!?」
振り返ってみれば、抑えつけられて、床に伏したお父様が血走った目で私を見つめていた。
「役立たずのふりをして、私の邪魔をしよって!」
「いい加減にしろっ!」
アンディは怒鳴り付けると、お父様の身体を蹴った。
「シアもジェシカ嬢も、あんたの道具じゃない!」
「平民風情が私に意見するな!」
そう言って、お父様はまた何かの呪文を唱えようとしたから、部下が手で口を塞いだ。
━━ああ。この人に何を言っても無駄なんだわ。
分かってはいたことだけれど、改めて現実を突き付けられると、心にくるものがある。
お父様には、改心して欲しかった。一生をかけて、犯した罪を償って生きて欲しかった。
でも、この人には、そういう生き方はできないのだろう。
実の娘であるジェシカを自らの手で殺そうとしたのだ。このままにしておけば、逃げようとして、また、誰かを傷付けるかもしれない━━
私はじっとお父様を見下ろした。そして、私は静かにつぶやいた。
“迷宮を彷徨え。醒めない悪夢を捧げよう”
妖精語で唱えた呪文の意味を、この場にいた人間には理解できなかっただろう。
だから、お父様が突然、おかしくなった理由もきっと分からないはずだ。
わけのわからないことを喚き散らし、暴れ始めたお父様を官憲達は戸惑いながらも捕らえた。
そんな中で、カーライル殿下はジェシカに寄り添い、彼女の頬を撫でていた。そして、静かに何かを語りかけると、私達に向かってこう言った。
「公爵の輸送には俺が付き添おう」
その申し出に、私達は頷いた。
官憲達に証拠隠滅をされたらたまったものじゃないから。殿下が傍にいれば、そんなことはできないだろう。
「ジェシカ嬢を頼む」
彼はアンディにそう言うと、官憲達とともにお父様を連れて店から出て行った。
「お姉様」
ジェシカは私を呼んだ。
「ごめん。……怖かったよね?」
「ええ。でも、それより……」
ジェシカはアンディに向き合った。
「今までごめんなさい」
彼女はばっと頭を下げた。
それを見たアンディは慌てて彼女の頭を上げさせた。
「私、ずっと勘違いをしてあなたを責めて、お姉様から引き離そうとして……」
「いいんだ」
彼はジェシカの言葉を遮った。
「元はといえば、俺の言葉足らずと不誠実に見える対応が原因だったから……。ここ数日、色んなやつからそれを指摘されて、俺の至らなさを自覚したんだ。だから、君は悪くない」
彼はそう言うと、視線を右へ左へと泳がせた。
「そういうわけだから、その……。俺を、シアの夫として、認めて欲しい」
窺うようにジェシカに視線を向けたアンディはいつになく緊張している。そんな彼を見て、彼女はくすりと笑った。
「もう、お姉様を悲しませたり、誤解をさせるようなことをしないと約束して下さるのなら、私からは言うことは何もありません」
彼女の言葉にアンディは「約束する」と即答した。
男は白々しくもそういうと他の官憲達に下がるようにと命令する。
それを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。
━━良かった。争いにならなくて。
高官の男は、お父様を切ることを選んだ。
二人の王子を敵に回した上、ここで戦闘をして騒ぎになれば、国王陛下の耳に届き、大々的な捜査となるだろう。そうなれば、彼らの不正が明るみになってもおかしくはないのだ。
悪人を放置するのは偲びないけれど、今はそれに拘っている場合じゃない。ジェシカを守り、お父様を徹底的に排斥しないといけないから。
「そうか。それなら、俺達に協力してくれるよな? ジョルネス公爵はどこだ?」
アンディが尋ねた時、タイミングよく扉が開いた。
中に入って来たのは、アンディの部下達とお父様だった。
取り押さえられたお父様は逃げようとジタバタと暴れているけれど、屈強な彼らの力には敵わないようだった。
「建物に火を放とうとしている所を捕まえました」
部下の報告に私の心臓が冷たくなった。
「ナナシの姉さんが見つけて止めなければ、どうなっていたことやら……」
外を見張っていたフェイがお父様の蛮行に気付いて対処してくれたから事なきを得たけれど……。
「あなたは、本当に自分のことしか考えないのですね!」
私の心の声を代弁するかのように、ジェシカが言った。
そして、彼女はお父様のもとに歩み寄る。
「あなたにとって、ここの官憲達は、私を捕まえるための協力者だったんですよね? それが上手く行きそうになかったから、建物に火を放って全員殺すつもりだったんでしょう?」
彼女はお父様の襟首を掴んだ。
「人の命を何だと思っているの?」
「うるさい!!」
お父様は怒鳴り付けた。
「お前のその正義感にはうんざりする! 黙って私の言うことを聞いていれば良かったものを……」
「それが嫌だったから、私は全てを白日の下に晒すと決めたの!」
「そんなことをさせるくらいなら!!」
お父様は大きな声で何かを発した。その途端、彼の首に掛けられたペンダントがまばゆい光を放ち、ジェシカの胸を貫いた。
彼女は血を流しながら、その場に崩れ落ちた。
「ジェシカ!」
私は彼女のもとに駆け寄った。
彼女は目を見開いたまま、荒い息をしている。彼女の震える手が貫かれた胸に置かれる。そうして、神聖力で治療をしようとしているのだろう。
けれど、大怪我を負って生命力を失いつつある彼女にそれができるはずがなかった。
━━私がやらないとジェシカは……。
神聖力を使ったのはもう10年以上も前だったけれど、あの感覚は今ははっきりと思い出せる。
私は彼女の胸に手を当てた。そして、ゆっくりと確実に傷口に神聖力を流し込む。
そうすると、淡い光が湧き上がり、やがてまばゆい光が私達を包んだ。きっと、ジェシカと私の神聖力が重なり合った結果だろう。
そうして、光が落ち着いてくると、彼女はゆっくりと身体を起き上がらせて、胸を撫でた。
深い傷だったにも関わらず、傷は跡形もなく消え去っている。
私がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、背後からお父様が怒鳴った。
「シアリーズ! お前、神聖力を隠し持っていたのか!?」
振り返ってみれば、抑えつけられて、床に伏したお父様が血走った目で私を見つめていた。
「役立たずのふりをして、私の邪魔をしよって!」
「いい加減にしろっ!」
アンディは怒鳴り付けると、お父様の身体を蹴った。
「シアもジェシカ嬢も、あんたの道具じゃない!」
「平民風情が私に意見するな!」
そう言って、お父様はまた何かの呪文を唱えようとしたから、部下が手で口を塞いだ。
━━ああ。この人に何を言っても無駄なんだわ。
分かってはいたことだけれど、改めて現実を突き付けられると、心にくるものがある。
お父様には、改心して欲しかった。一生をかけて、犯した罪を償って生きて欲しかった。
でも、この人には、そういう生き方はできないのだろう。
実の娘であるジェシカを自らの手で殺そうとしたのだ。このままにしておけば、逃げようとして、また、誰かを傷付けるかもしれない━━
私はじっとお父様を見下ろした。そして、私は静かにつぶやいた。
“迷宮を彷徨え。醒めない悪夢を捧げよう”
妖精語で唱えた呪文の意味を、この場にいた人間には理解できなかっただろう。
だから、お父様が突然、おかしくなった理由もきっと分からないはずだ。
わけのわからないことを喚き散らし、暴れ始めたお父様を官憲達は戸惑いながらも捕らえた。
そんな中で、カーライル殿下はジェシカに寄り添い、彼女の頬を撫でていた。そして、静かに何かを語りかけると、私達に向かってこう言った。
「公爵の輸送には俺が付き添おう」
その申し出に、私達は頷いた。
官憲達に証拠隠滅をされたらたまったものじゃないから。殿下が傍にいれば、そんなことはできないだろう。
「ジェシカ嬢を頼む」
彼はアンディにそう言うと、官憲達とともにお父様を連れて店から出て行った。
「お姉様」
ジェシカは私を呼んだ。
「ごめん。……怖かったよね?」
「ええ。でも、それより……」
ジェシカはアンディに向き合った。
「今までごめんなさい」
彼女はばっと頭を下げた。
それを見たアンディは慌てて彼女の頭を上げさせた。
「私、ずっと勘違いをしてあなたを責めて、お姉様から引き離そうとして……」
「いいんだ」
彼はジェシカの言葉を遮った。
「元はといえば、俺の言葉足らずと不誠実に見える対応が原因だったから……。ここ数日、色んなやつからそれを指摘されて、俺の至らなさを自覚したんだ。だから、君は悪くない」
彼はそう言うと、視線を右へ左へと泳がせた。
「そういうわけだから、その……。俺を、シアの夫として、認めて欲しい」
窺うようにジェシカに視線を向けたアンディはいつになく緊張している。そんな彼を見て、彼女はくすりと笑った。
「もう、お姉様を悲しませたり、誤解をさせるようなことをしないと約束して下さるのなら、私からは言うことは何もありません」
彼女の言葉にアンディは「約束する」と即答した。
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