上 下
164 / 206

遺恨3

しおりを挟む
 アコンニエミ聖国は<金眼>を持つトールをずっと目の敵にしていた。それにトールのことを「忌み子」だと表現するのもあの国だけだ。

 そして冒険者に憧れていたティナを無理やり神殿に連れて行き、聖女として奉仕させ、あまつさえ魔力を搾り取り、一生その身を縛りつけようとした。

 アコンニエミ聖国は、ティナと同じような数多の人々の犠牲で成り立っている国、と言っても過言ではないのだ。

 いつかアコンニエミ聖国には今回のことと、ティナが受けた仕打ちに対する報復をしなければならないだろう。その時は容赦なく徹底的に潰すつもりでいる。

 だけど今は、とにかくティナに会いたい──会いたくて会いたくて、その笑顔で自分の心を癒してほしい、とトールは切に願う。

 ──このままではきっと、心までも凍てついてしまうだろうから。





 それからトールは休むことなく、ひたすらフラウエンロープへと突き進んだ。
 アコンニエミ聖国から追手が来る可能性を危惧していたが、警告が効いたのか何事もなく進むことが出来た。

 そうして王宮から飛び出して二週間ほど経った頃、トールはついにフラウエンロープに到着する。

 トールはティナに会いたい一心で、街に寄ることなく通り過ぎ、<迷いの森>の入り口に降り立った。

 森は噂に違わず広大で、鬱蒼と生い茂る木々はまるで砦のような威圧感がある。普通の人間なら言い知れぬ恐怖を感じ、その場から逃げてしまうかもしれない。

「ルシオラは何か感じる?」

 トールは精霊であるルシオラがフラウエンロープへ近づくに連れ、元気になっていくのを感じていた。
 それはまるで、本来の力を取り戻していくかのようだった。

 ルシオラは嬉しそうにトールの周りを飛び回ると、森の入り口へとトールを誘う。

「……え? 案内してくれるって?」

 ルシオラから伝えられたイメージは、森の奥深くに巨大な力を感じる、というものだった。その力がルシオラに影響を与えているという。

「じゃあ頼むよ。もしティナの気配を感じたら教えてほしい」

 ルシオラから肯定の返事を伝えられたトールは、ルシオラの存在を頼もしく思う。ルシオラには今まで何度も助けてもらっているのだ。

「うん、行こう」

 まるで得体の知れない化け物が口を開け、一度入ったら二度と逃げられない──そんな錯覚を起こしそうな恐ろしい森に、トールは全く躊躇うことなく足を踏み入れた。

 ティナがいるのなら、そこが火山の噴火口でも海底でも構わず、トールは飛び込むだろう──ティナはずっと前から、トールの生きる全てなのだから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!―

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:7,768

夫は親友を選びました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,211pt お気に入り:1,392

私の未来を知るあなた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:8,159pt お気に入り:528

次期公爵閣下は若奥様を猫可愛がりしたい!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:1,319

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,279pt お気に入り:13,939

処理中です...