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開花1

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 ティナは精霊王ルーアシェイアから月下草の育て方を見せてもらった。

(……これは……人間が育てるのは不可能なんじゃ……?)

 ところが、普通の植物の育て方と全く違っていたため、ティナは困惑してしまう。

「あの、ルーアシェイア様……。せっかく教えていただいたのに申し訳ないのですが、私に栽培は無理だと思います……」

《何故だ?》

「あ、いや、私はルーアシェイア様のような不思議な力もありませんし……」

 ティナは正直に考えていることをルーアシェイアに伝えた。
 精霊王であるルーアシェイアが持つような特別な力が、自分には無いからだ。

《うーむ。おかしなことを言うな。私の力も其方の力も同じだろう?》

「へ?」

 しかし、ティナの考えとルーアシェイアの考えは違うらしい。

《私の力も其方の力も、ラーシャルード様から与えられた力なんだ。其方にも種を芽吹かせることが出来るはずだ》

「あっ……!」

 ルーアシェイアの話を聞いたティナの頭に、ノアから教えられた言葉が甦った。

『──魔力も神聖力も元は同じものじゃて。ただ、大切な人を救いたいという想いが神聖力となる場合があるでな』

 魔力も神聖力も、ルーアシェイアが言うように元は同じラーシャルード神から与えられたものなのだ。
 その力は人の心の持ちよう次第で、その性質は変化する。
 ならば、ティナが強く願えば、その力は月下草を開花させる力になるだろう。

「有難うございます……。やってみます!」

 ティナは気付かせてくれたルーアシェイアに感謝した。

 何事も出来ないと決めつけたら先には進めない。
 ティナは両親の夢を叶えるためにも──そして、堂々とトールに会いに行くためにも、ここで立ち止まってはいられないのだ。

 ティナは袋から種を一つ取り出すと、祈るように両手でぎゅっと握り締めた。

(──どうか芽吹きますように……!)

 ティナはただ一言、その言葉に万感の思いを乗せて祈った。
 それは神官たちが神に捧げる義務の祈りとは違う、かたちを持たない、けれど心からの祈りだった。

「──あ」

 種を握りしめていた手のひらが熱くなった感覚がして、ティナはきつく閉じていた目を開いて見る。
 すると、ルーアシェイアの時と同じように、虹色の光がティナの手から溢れていた。

 ティナが思わず手を広げると、まるで種に吸い込まれていくかのように、虹色の光が収まっていく。

《ほら、種を地に落としてごらん》

「は、はいっ!」

 ルーアシェイアに促され、ティナが月下草の種を地面にそっと置くと、月の光を浴びた種から小さい芽が顔を出した。

「あっ! 芽が出ました!」

 ティナが見守る中、発芽した種は葉を茂らせながらどんどん成長していく。
 そして茎が伸び、蕾をつけ、透き通るような純白の花びらが徐々に開いていった。

「うわぁ……っ」

 月明かりに照らされた月下草の花には、儚い美しさがあった。
 開花すると同時に漂う芳香は甘くて優しくて、心が洗われるような清々しさを醸し出している。
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