短編集

ヒトトセ

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二番目の女の子

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 何かと、張り合ってくる奴がいる。
 隣のクラスの学級委員、愛川アイカワサチ。長くて綺麗な黒髪、視線は鋭いがまだあどけなさの残る端正な顔、すらりと伸びた手足は細身の体型とバランスがいい。だが、勝ち気な性格が災いしてなのか何かと俺に張り合ってくる。テストが終われば休み時間に毎回真っ先に来ては、俺の点数を知りたがる。それを毎度はぐらかすのが、とても面倒くさい。だが、教えれば目の前で一喜一憂されるし、何よりうるさい。そのせいで、愛川は張り出される総合順位を見ては落ち込んでいる。何がそんなにいいのか、俺にはずっと分からないと思う。
 でも、ある時気付いた。それは偶然だったし、偶然に偶然が重なったと言っても過言ではないような、本当に奇跡的なものだった。帰り、俺はいつもすぐに帰る。何があろうと、すぐに帰る。だが、その日は先生に呼び出され、化学準備室の片付けをさせられた。遅刻のし過ぎらしい。プラスで、反省文まで書かされた。
 まぁ、その帰り。総合順位は下駄箱の近くに張り出されていたから、嫌でもその辺は視界に入る。そこで、愛川は泣いていた。唇を噛み締めて声を殺し、涙を流していた。愛川が持つ携帯には、母と表示がされていて通話を告げるバイブが虚しく響いている。微かに、口が動いた。
 「ごめんなさい…お母さん…」
 目元を携帯を持ったまま両手で押さえる。
 「また……二番目だ……」
 期待に添えなかったと、続けて呟く。親からのプレッシャーか、なんだか残念な気持ちになった。愛川にもっと崇高な目的でも期待していたのかと、自嘲してみる。下らないな。

 そりゃそうか、これは現実リアルであって漫画フィクションじゃないんだし。



 嫌いな人がいます。その人の名前は、藍沢アイザワ幸人ユキト。幸せを名前に入れているのに、この世全部に裏切られたような人間不信の目をしている男。私はあの目が嫌いです、とっても。被害者面してんじゃないわよ、とひっぱたいてやりたくなります。
 でも、何ででしょう。彼には勝てないんです。勉強も、運動でさえも。遅刻ばかりで、努力とは正反対のところにいるようなあの男が、何故かいつも一番なんです。ムカつくでしょう?とってもムカつきます。大嫌いです、あんな人。
 私は定期テストが終わる度、学年順位をいつもみんな帰った後に見ます。理由なんて野暮なものは聞かないでください。いつも、見る前は憂鬱になります。一番上に、大嫌いな男の名が書かれているのですから。きっと、順位などに興味などなく、怠惰ばかりを繰り返している男はこんなもの見もしないのでしょう。
 私だって、こんなもの見たくもありません。しかし、母はいつでも私の順位を気にしては将来を考えています。私の将来だというのに。
 夏の終わりの期末テスト。いつも通りの時間に私は順位を見ます。涙が溢れました。いつも通りの、二番。ええ、分かっていました。分かっていましたよ。今回の私は勉強に集中出来ていませんでした。
 父からの電話でしょう。携帯が震えます。
 「ごめんなさい…お母さん…」
 溢れ出す涙は止め方が分かりません。
 『いつもいい順位なのね、幸。お母さん、貴女の将来が楽しみだわ』
 目の見えない母はいつもそう言っては、窓の向こうを見ていた。
 「また……二番目だ……」
 一番をとって母を少しでも元気づけたかった、だなんてあの男には分からないんでしょうね。

 人と関わろうともしないあの男には。

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