性悪女神と野球部員

広根雅斗

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第三話

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「いいぜ、こんな俺でもよければ任せとけ」

 月守祐希は、微塵も躊躇することなく、堂々とそう言い放つ。
 一人の少女であるルナの手助けをしてあげたい。
 ルナの境遇や過去、そして宿命を知った祐希はただ単純にそう思ったのだ。

 彼の頼もしい応えを聞いたルナは仄かに口元が緩むが、扉の向こうにいる祐希に彼女の表情が伝わることは決してない。
 その微笑みは嬉しさが表れていた反面、彼女の本当の感情ではないようにも映った。

「ありがとう……ございます」

 含みのある声で、ルナが静かに感謝を示した瞬間――祐希の周囲に光の粒子が顕れる。
 黄金色の暖かい輝きを放つそれは、森に揺蕩う蛍のようにゆっくりと明滅を繰り返しながら一つの姿を創り上げる。

「これは……?」

 気づいたときには、彼の前に一振りの刀が存在していた。
 八十センチほどあるその刀身は眩いばかりの月白に染まり、全てを飲み込む宇宙のような暗い柄を持ち合わせる。

「その刀は遥か昔、地球の民によって作られたものです。刀身に施された星魔法により、様々な力を使用者に与えます。中でも特筆すべきは……」

 そこまで話すと、彼女が一旦説明を中断する。

「祐希さん、今すぐにその刀を持って風呂から出てください。私は玄関の外で待ってます」

 緊張感の持った様子の彼女はそう言うと、そそくさと脱衣所から出て行った。
 浴室に取り残された祐希も、慌てて浴室を出て、学校のジャージに着替え、外に向かう。

「どうしたんだ……急に?」

 軽く肩で息をしながら、祐希は尋ねる。

「敵の侵入が確認されました。それも、ここからそう遠くはない場所で」

 ルナが真剣な表情で、祐希をじっと見つめた。
 その目は強い決意を宿し、はっきりと祐希を捉えている。

「敵って……どういうことだ、さっき言っていた地球を狙う奴らか?」

「はい。詳しい説明は省略しますが、恐らくは水星からの襲撃者だと考えられます。情けないですが、私よりも格上です」

 ルナが悔しさを滲ませ、最低限の情報を祐希に提供する。
 どこか威圧感を与えるほどに彼女の表情は歪んでいる。
 彼女のその様子とは対照的に、祐希はその事実を軽々しく、捉えていた。

「もしもその敵がお前より強くても、俺が協力すればどうにかなるんだろ?」

 あっけらかんとした祐希の言葉に、ルナは少しの間拍子抜けしたようだったが、口調をより一層強くして祐希に問う。

「祐希さん、説明不足だったので、一つだけ確認します。私たちが行うのは、戦いというよりも殺し合いと言うべき代物です。少しの油断が死を招きます……その覚悟は出来ていますか」

『殺し合い』その言葉を聞いた祐希の心には、恐怖心が宿る。
 当然だが、ただの高校生に過ぎない彼は平凡に暮らし、平和な人生を送っていた。
 自身の平凡な性格のせいもあり基本的には争いごとを起こさず、喧嘩どころか人間関係のトラブルする発生したことが無い。
 だから彼はルナを見つめ、はっきりと告げる。

「ごめん、俺には無理だ。俺に出来るのは手伝いくらいだから代わりが居たらそいつに頼ってくれ」

 明確に無理という意思を示し、祐希は頭を下げる。
 一方で、先程の説明とは全く違うと彼は感じていた。祐希が行うのはあくまでもルナの手伝いであって、自分自身が戦うのではないと思っていたのだ。

「そうですよね……でしたら仕方がありません」

 ルナの声が僅かに低くなり、彼女は妖艶な笑みを浮かべる。
 それを見た祐希は、本能的に今の状況を察した。

(これって……俺が嵌められたんじゃね!?)

 彼の額に冷や汗が浮いてくる。

「祐希さん、悪く思わないでくださいね」

 ルナのセリフを聞き、彼は確信した。と言うよりも確信せざるを得ない。
 先程までの美少女とは明らかに別人のオーラがその身からは流れ始める。

「我が使用者、月守祐希に命じる。我を用い地球を守護するために、共に戦い共に生き続けろ。これより我と其方は一心同体だ」

 いかにも女神らしく、ルナが命じると、祐希の首に半透明の夜色に染まった首輪が装着された。

「これは……呪いの首飾りかなんかですかねぇ?」

 青ざめる祐希にルナは得意気に残酷な宣告を突き付ける。

「いえ、それは呪いなんて醜いものではなく正式な契約を表したものですよ。私が消滅すると祐希さんの首が吹っ飛ぶという契約を具現化したものです」
「く、首が吹っ飛ぶ…………」

 凍り付いた祐希の表情は哀愁、絶望、後悔など様々な感情が滲み出ている。
 目の前にいるのは女神なんかではない。
 相手を口車に巧く乗せ、命を掌握するその手際は悪魔と呼ぶに相応しいものだった。

「改めまして、よろしくお願いしますね。祐希さん!」

 美少女の姿をした女神(悪魔)は、これ以上ないほどの満面の笑みを祐希に送った。
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