4 / 12
第四話
しおりを挟む
「さてと……どうでもいい契約のことはさておき、これから戦う敵について話しますね」
ルナは透き通るような声でさらっと惨い発言を繰り出す。
「いや、どうでもいいわけないだろ!?」
半ば狂乱したように祐希が反論する。
彼とルナの間に結ばれた契約は、彼女が消滅すると祐希の頭部と胴体がお別れしてしまうというものだ。
首にある謎の物体にはとても人の首を切断する殺傷力は感じられないが、ルナがそう言った以上、彼はそれを信じるしかない。
「大丈夫ですよ、祐希さん。しっかり私に協力してくだされば、あなたが頭だけになる事態は起こり得ませんので……多分」
最後の方に消えそうなほど微小な声で彼女は不穏な言葉を付け加える。
祐希が再び、口を開こうとするが、彼女が畳みかけるように話を続ける。
「本題に戻りますと、私たちが今から戦う予定の敵は、水星からの来訪者だと推測できます」
このまま反論してもどうにもならないと理解した祐希は、仕方なく彼女の話を聞くことにした。
「来訪者っていうのは、お前と同じ立場の神とかではないのか?」
「はい、簡単に言うと神に仕える者たちです。残酷な言い方をすると神々に限りなく近づいたものの、決して神にはなり得ない星の民たちですね」
ルナのあっさりとそう説明するが、祐希は今一つ実感が湧いてこない。
そもそも女神であるルナの力を見たことすらない彼に『神に限りなく近づいた者と言っても、よく分からないのは当然だ。
「まあ百聞は一見に如かずです。とにかく行ってみましょう。祐希さん、さっきの刀を持ってください」
淡々と話しす彼女は、祐希が右手で刀を持ったことを確認すると、もう片方の彼の手を強く握る。
「少しだけ目を閉じてください」
祐希は色々と思うところはあったが、ルナが言う通り、素直に目をぎゅっと瞑る。
その瞬間、彼はルナの全身が緑色の光で包まれているのを垣間見た。
直後、彼の身体から重さが消える。
水中の中で感じる様な体が浮き上がるようで、フワフワとした感覚がおよそ五秒ほど続いた後に、ルナの声が聞こえた。
「もう大丈夫ですよ、祐希さん」
彼は一抹の不安を感じながら、ゆっくりと目を開く。
そこに広がるのは、広大な草原。
水平線まで伸びる広大な土地は、祐希がまだ来たことがない、どこか知らない場所だ。
「ルナ、ここはどこだ……」
彼はルナのいる方に顔を向けると、彼女が一方向をじっと睨んでいることに今さらながら気づく。
そこに立つ――いや、存在するのは、人間のような形をした何かだった。
人型のシルエットだが、その体は水のように波打っていて、到底人間とは思えない。
しかしそれは唐突に、重苦しく不気味な声を吐き出す。
「月の女神並びに、その使用者を発見。攻撃準備開始」
それは、ゆっくりと一歩一歩だが、確かに近づく。
距離が短くなるにつれ、対峙する相手の身体が、水のように煌めきながら揺れ、あたりには霧がかかり視界を遮り、不快な湿気が満ちていく。
徐々に露わになっていく奇怪な身体の気味悪さに、祐希は本能的に後ろに下がろうとした。
しかしその足はどちらも動かすことが出来ない。
つい数十秒前まで、足元には草木が乱立する乾いた大地があったはずなのに、現在はとても軟弱な沼になってしまっている。
「ルナ、これはどういう状況なんだ!?」
悲鳴を上げるように祐希はルナに問いかけるが、彼女からの返事はない。
静かな草原には、再び機械が発するような異質な音声だけが流れる。
「優先攻撃対象、月の女神」
彼の心に流れる焦りは、徐々に恐怖に変わり、額には脂汗が滲んでいく。
じわじわと迫る不気味な存在について、祐希は再度ルナに叫びかけようとしたが、彼の意識に聞き覚えのある音声が流れ込んできた。
{祐希さん、落ち着いて私の話を聞いてください}
彼の意識に直接、語り掛ける声。
その声は間違いなく、ルナのものだ。
{敵は水星からの来訪者です。本来私が戦えば問題なく倒せる相手ですが、今回は練習を兼ねて祐希さんも戦いに参加してもらいます}
敵が眼前に差し迫るなか、ルナの様子は冷静そのものだ。
祐希は激しく反論しようと口を開きかけるが、ルナがジェスチャーでそれを制す。
{あのレベルの相手なら、その刀一本で十分です。いざという場合は、私が先程行った転移魔法を使いますから安心して戦ってください}
そう告げると、彼女の身体は軽やかに宙に浮いた。
先程まで続いていた行動をやめ、彼女は通常通り話し始める。
「試しに力一杯その刀を縦に振り下ろしてみてください。恐らくそれだけでことは済みます」
「おう……了解した」
ルナの言葉を訝しむような表情を浮かべた祐希だったが、直ぐに迷いを捨て、言われたままに白い輝きを放ち続ける刀を全力で振り抜く。
その瞬間、斬撃が一つの波となって繰り出され、敵を一刀両断にしていた。
真っ二つになったその体が、大量の水となり、地面を潤す。
ついさっきまで、そこに存在した不気味な存在は、祐希の斬撃により完全に消滅した。
「これは一体……」
祐希は手元で輝き続ける刀を見つめながら、そう呟く。
輝いていること以外は、何の変哲もない一本の刀だが、その秘めたる能力を目の当たりにした彼は、率直に言って、動揺していた。
ただの一振りで容易に他人を殺傷することが出来る恐ろしい武器。それをルナが自分に与えたということは、つまりはこれから戦うことになるであろう敵たちもまた、匹敵する武器を持つ可能性が高いことを意味する。
「あれ、なんか……視界が」
祐希の視界は徐々に暗くなり、意識が朦朧としてきた彼はその場で腰を落とす。
「さすがに無理がありましたかね、ゆっくり休んでください祐希さん」
突如として強烈な倦怠感を感じた祐希の意識は、ルナの言葉と共に途切れた。
ルナは透き通るような声でさらっと惨い発言を繰り出す。
「いや、どうでもいいわけないだろ!?」
半ば狂乱したように祐希が反論する。
彼とルナの間に結ばれた契約は、彼女が消滅すると祐希の頭部と胴体がお別れしてしまうというものだ。
首にある謎の物体にはとても人の首を切断する殺傷力は感じられないが、ルナがそう言った以上、彼はそれを信じるしかない。
「大丈夫ですよ、祐希さん。しっかり私に協力してくだされば、あなたが頭だけになる事態は起こり得ませんので……多分」
最後の方に消えそうなほど微小な声で彼女は不穏な言葉を付け加える。
祐希が再び、口を開こうとするが、彼女が畳みかけるように話を続ける。
「本題に戻りますと、私たちが今から戦う予定の敵は、水星からの来訪者だと推測できます」
このまま反論してもどうにもならないと理解した祐希は、仕方なく彼女の話を聞くことにした。
「来訪者っていうのは、お前と同じ立場の神とかではないのか?」
「はい、簡単に言うと神に仕える者たちです。残酷な言い方をすると神々に限りなく近づいたものの、決して神にはなり得ない星の民たちですね」
ルナのあっさりとそう説明するが、祐希は今一つ実感が湧いてこない。
そもそも女神であるルナの力を見たことすらない彼に『神に限りなく近づいた者と言っても、よく分からないのは当然だ。
「まあ百聞は一見に如かずです。とにかく行ってみましょう。祐希さん、さっきの刀を持ってください」
淡々と話しす彼女は、祐希が右手で刀を持ったことを確認すると、もう片方の彼の手を強く握る。
「少しだけ目を閉じてください」
祐希は色々と思うところはあったが、ルナが言う通り、素直に目をぎゅっと瞑る。
その瞬間、彼はルナの全身が緑色の光で包まれているのを垣間見た。
直後、彼の身体から重さが消える。
水中の中で感じる様な体が浮き上がるようで、フワフワとした感覚がおよそ五秒ほど続いた後に、ルナの声が聞こえた。
「もう大丈夫ですよ、祐希さん」
彼は一抹の不安を感じながら、ゆっくりと目を開く。
そこに広がるのは、広大な草原。
水平線まで伸びる広大な土地は、祐希がまだ来たことがない、どこか知らない場所だ。
「ルナ、ここはどこだ……」
彼はルナのいる方に顔を向けると、彼女が一方向をじっと睨んでいることに今さらながら気づく。
そこに立つ――いや、存在するのは、人間のような形をした何かだった。
人型のシルエットだが、その体は水のように波打っていて、到底人間とは思えない。
しかしそれは唐突に、重苦しく不気味な声を吐き出す。
「月の女神並びに、その使用者を発見。攻撃準備開始」
それは、ゆっくりと一歩一歩だが、確かに近づく。
距離が短くなるにつれ、対峙する相手の身体が、水のように煌めきながら揺れ、あたりには霧がかかり視界を遮り、不快な湿気が満ちていく。
徐々に露わになっていく奇怪な身体の気味悪さに、祐希は本能的に後ろに下がろうとした。
しかしその足はどちらも動かすことが出来ない。
つい数十秒前まで、足元には草木が乱立する乾いた大地があったはずなのに、現在はとても軟弱な沼になってしまっている。
「ルナ、これはどういう状況なんだ!?」
悲鳴を上げるように祐希はルナに問いかけるが、彼女からの返事はない。
静かな草原には、再び機械が発するような異質な音声だけが流れる。
「優先攻撃対象、月の女神」
彼の心に流れる焦りは、徐々に恐怖に変わり、額には脂汗が滲んでいく。
じわじわと迫る不気味な存在について、祐希は再度ルナに叫びかけようとしたが、彼の意識に聞き覚えのある音声が流れ込んできた。
{祐希さん、落ち着いて私の話を聞いてください}
彼の意識に直接、語り掛ける声。
その声は間違いなく、ルナのものだ。
{敵は水星からの来訪者です。本来私が戦えば問題なく倒せる相手ですが、今回は練習を兼ねて祐希さんも戦いに参加してもらいます}
敵が眼前に差し迫るなか、ルナの様子は冷静そのものだ。
祐希は激しく反論しようと口を開きかけるが、ルナがジェスチャーでそれを制す。
{あのレベルの相手なら、その刀一本で十分です。いざという場合は、私が先程行った転移魔法を使いますから安心して戦ってください}
そう告げると、彼女の身体は軽やかに宙に浮いた。
先程まで続いていた行動をやめ、彼女は通常通り話し始める。
「試しに力一杯その刀を縦に振り下ろしてみてください。恐らくそれだけでことは済みます」
「おう……了解した」
ルナの言葉を訝しむような表情を浮かべた祐希だったが、直ぐに迷いを捨て、言われたままに白い輝きを放ち続ける刀を全力で振り抜く。
その瞬間、斬撃が一つの波となって繰り出され、敵を一刀両断にしていた。
真っ二つになったその体が、大量の水となり、地面を潤す。
ついさっきまで、そこに存在した不気味な存在は、祐希の斬撃により完全に消滅した。
「これは一体……」
祐希は手元で輝き続ける刀を見つめながら、そう呟く。
輝いていること以外は、何の変哲もない一本の刀だが、その秘めたる能力を目の当たりにした彼は、率直に言って、動揺していた。
ただの一振りで容易に他人を殺傷することが出来る恐ろしい武器。それをルナが自分に与えたということは、つまりはこれから戦うことになるであろう敵たちもまた、匹敵する武器を持つ可能性が高いことを意味する。
「あれ、なんか……視界が」
祐希の視界は徐々に暗くなり、意識が朦朧としてきた彼はその場で腰を落とす。
「さすがに無理がありましたかね、ゆっくり休んでください祐希さん」
突如として強烈な倦怠感を感じた祐希の意識は、ルナの言葉と共に途切れた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる