性悪女神と野球部員

広根雅斗

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第七話

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 三月十六日、今日も彼の平凡な一日が始まる。
 昨日とは打って変わって、清々しい青空が南山高校の上空に広がっている。
 穏やかな春の日差しが差し込んでいる教室は、外とは対照的に暖かく過ごしやすい室温を保たれていた。
 そんな教室の一角で、大きめのタオルと野球の練習着を枕にして熟睡している坊主頭が一つ、言うまでもなく祐希だ。
 一見だらしないと思ってしまうが、祐希の所属する一年六組には彼のほかにも少なくとも五人以上が夢の世界へ旅立っていた。

 理由を説明するとこういうことだ。
 南山高校では例年、三月の上旬に学年末テストが設けられている。
 今年度は五日から九日までが学年末試験。その翌週がテスト返しだ。
 やる気のない教師だと、テストだけ返却し、残りの時間を自習にして職員室に帰る。
 普通の教師ならばテストを返却後、解説を軽くして授業が終わる。
 そして、変にやる気がある教師やスパルタな人は、昨日の数学のように解説を超えた授業を行うのだ。

 現在の授業は国語。解説の仕様があまりないこの教科は担当教員が適当なこともあり、一番目のタイプにあたる。
 そのため、眠い生徒は睡眠に入り、雑談を始めるその他の生徒、勉強に取り掛かる真面目な生徒というカオスな光景が発生するのだ。
 祐希は寝ているため気づいていないが、二人の女子生徒の視線が彼に向いていた。

「ねえ、柚葉。月守君とは最近どんな感じなの?」

 北山柚葉に話しかけるのは、一ノ瀬明莉。入学式のあとに緊張していた柚葉に席が隣だった彼女が話しかけ友達になったのである。
 明莉は柚葉と相性がとても良く、部活も同じ野球部に入り、マネージャーとして活動している。

 しかし、これには裏話があった。
 当初、彼女らは陸上部に入ろうとしていたが、祐希が野球部に入部することを知った柚葉が、野球部のマネージャーになりたいと主張したために、明莉も野球部への入部を決定したという経緯だ。
 柚葉はその際に明莉に理由を聞かれ、気になる人が居るからとごまかしたが、結局は普段のふるまいから『気になる人=祐希』だと明莉にばれてしまったのだ。

「ど、どんなって……特に何もないよ……」

 柚葉の耳が微妙に赤みを帯びてくる。
 彼女は考えてることが顔に表れる典型的なタイプだ。

「えー、ほんとにー?」

 気弱な柚葉がこうして明莉にいじられることは、日常茶飯事になってしまっている。
 柚葉はその都度しどろもどろしてしまうため、明莉は面白半分でからかっている部分もあるかもしれない。
 一方の明莉は柚葉をいじり続けているが、彼女は決してモテないという事ではない。
 むしろ、男子からは必ずと言っていいほど好印象を持たれるタイプだ

 一ノ瀬明莉、髪の毛がくせ毛の彼女はボブカットがとても良く似合っている。その性格は、名前の通り、底なしに明るく、誰にでも平等に接する優しい性格の持ち主だ。
 男女関係なく幅広い交友関係と人望を持つ彼女は、おしとやかでどこか上品な印象がある柚葉とは対照的なキャラクターである。
 そのため、クラスの男子生徒は、彼女にするなら柚葉、結婚するなら明莉と言った謎のテーマについての議論がしばしば発生するのだった。

 運が良いのか悪いのか、そんなクラスの男子人気を密かに集める二人に見られながら、祐希は気持ちよさそうに熟睡し続けていた。

   ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇  

 教室の温もりとは対照的に屋外では冬の冷たさを残した風が吹き荒れる。
 この時期の風は、体が暖かさに慣れ始めた頃に吹くため、真冬の寒さを想起させるような冷たさを人々に与える。
 しかし、そんな寒さを物ともしない様子の男が一人、南山高校の屋上に立っていた。

「マスター、君には申し訳ないが、私は自分の仕事をさせてもらうぞ」

 男の鋭い眼差しは、吹き荒れる春風よりも遥かに冷たかった。
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