性悪女神と野球部員

広根雅斗

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第八話

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 テスト返しのため、午前中のみの授業が終了し生徒たちはそれぞれ下校したり、午後の部活に備え昼飯を食べ始めたりしている。
 南山高校は学食の美味しさに定評があり、生徒たちは食堂に集める者が約四割ほど行くため、教室の生徒は大きく減少する。
 しかし、今日に限って言えば、教室の生徒は二割すらいなかった。

「なんで今日ってこんなに人少ないんだ?」

 教室に残っている数少ない生徒の一人である祐希は、訝しげに神山に尋ねる。
 現在、一年六組にいるのは彼らを含めても、七人。
 その内、男子は彼らだけだ。

「学食に新メニューでも出たんじゃね」

 神山がおにぎりを頬張りながら、適当に返答する。

「お前なぁ……なんで変な情報は知っているのに、普通の話題とか知らないんだよ」

 あきれ顔の祐希だが、この現象の原因は彼の予想もつかないものであった。



 同時刻、南山高校の食堂で一人の少女がちょこんと座り、食事をしていた。
 それだけならごくごく普通の何ともない光景だが、食堂にいる生徒の数が異常なまでに多かった。
 その様子はまるで、芸能人が来たかの如くひとが集まっていた。

「……すごい人数ですね。祐希さんはいつもこんな中でお昼を食べているんでしょうか?」

 その中心にいるのはルナだった。
 彼女は食堂の人気メニューの一つである、豚骨ラーメンを食べ終わった後、ようやく食堂にいる人の多さに気づいた状態だ。
 ――正確には、彼女が食べている途中に人が増えたため、気づかないのは自然である。

 一方、周りにいる生徒は、八割がた彼女を見ていたが、話しかける者は一人もいない。
 集団心理というのは不思議なもので、例えば町中に超が付くほどの有名人がいたとしても、話しかける人はなかなかいない。
 本当は本人じゃない別人なのではないか、話しかけたら迷惑に思われるかもなど。
 注目されている人物に話しかけるのは、かなりハードルが高い。
 かと思いきや、話しかける者が一人でも出ると、周りの人々もそれに便乗して会話を始めようとする。
 現在の食堂の様子も似たようなものだった。

 ルナは時間を見計らい空になった器とトレイをカウンターにいる調理員に返却し、職員室に向かう。無論、転校の手続きのためだ。
 食堂にいたほとんどの生徒が彼女に視線を向けたが、彼女の後を追うという不審な行動をとる者は発生しなかった。

「今さらですが……祐希さんの所属するクラスぐらいは聞いておけばよかったですね」

 残念そうに呟くルナだったが、その表情はどこか満足気だった。
 彼女にとっての高校はそれくらい新鮮で、暖かく、そして楽しいものだった。
 しかし、この時の彼女はまだ知らない。
 この高校には数人の変人が存在することを。



「あ、あの……私の体って変な匂いでもしますか?」

 十分後、職員室に入った彼女は、不躾に体中を嗅ぎまわられていた。
 その教師の名前は吉野美波。
 祐希たちが在籍するクラスの副担任である変態独身女性教員だ。
 彼女はルナが職員室に入った瞬間、まるで忍びの如く彼女に素早く歩み寄り、今に至る。
 しかし、周りの教員はその様子を気に留める者は一人もおらず、机に向かい各々の作業を続行している。

「私……転校手続きをするためにやってきたんですけど……」

 壬生は三十秒ほど変態行為を続けたのち、ようやく口を開いた。

「自己紹介が遅れました、私の名前は吉野美波って言います。主に数学を教えている者です。早速ですが、手続きを始めましょう」

 まるで何事も無かったかのように、そう話しかけられたルナは壬生の勢いに圧倒され、言いたいことを言えなかった。
 その後、手続きを進めている最中も何度か不審な行動を壬生はとったが、なんとか無事にルナのやるべきことは終了した。
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