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プロローグ 3

 6 叡知の書庫

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 絶海の孤塔と呼ばれるあの場所には暮らしている人がいる。
 それを教えてしまうのは、その者達を危険に晒すことになるかも知れない。

「貴方達に教えるのは別に構わないのよ。
 ただね、その場所が広まり確実になることを恐れているだけ。
 あそこには暮らしている人だっているし、理由があって結界を張っているんだもの。
 それにね、教えないには訳があるのよ」

「訳とは?
 いや、話を聞けば分かるんだったな。
 確かに水中からしか行けないのかも知れないが、世界の全てを知る者がいるとなればあらゆる手段を講じえないだろうな、国としては」

「そういうこと。
 あくまでも噂でとどめておくことが重要なのよ。
 人は自分の目で確かめない限り半信半疑でいるものだからね」

 真面目な口調で話すとルキ流騎もしっかりと受け止めてくれるので、あたしとしては話やすかった。

「確かにな。
 オレ達としても探すことはあるかも知れないが、この話を流すことはしないと約束しよう」

「助かるわ。
 信用出来る相手だと思ってたから冒険譚も語ってるんだけどね」

「私達を信用してるっての?」

 何かにつけて口を挟むアスナ明日菜だが、突っかかってくる理由は始めに話した一つだとは分かっている。

「貴方とは言ってないんだけどね。それならそれでも良いのよ、思うのは勝手だから」

「ふぅん、そう。
 ならそう思っておくわ。
 これ以上子供染みたケンカはみっともないからね」

 どっちがだ。
 聞き捨てならない言葉だったが、ここは大人の対応として無視することに決めた。

「それにね、誰かを助けたくて探し物をしてるのであればいずれこの話も役に立つ時がくるでしょ。
 察しが良いんだから今までの話と詳しい地図を比べたら推測は出来ると思うの」

「だろうな。
 まあ、場所の予測が出来たとしても今のオレ達では塔へ辿り着ける手段がないのだがな」

「だったら、手段があるとしたら行くというの?」

「いや、今のところは。
 魔力を断ち切れる物を探してはいるが、それが最良の手段なのかは定かではないからな」

「だから手っ取り早く叡智の書庫と呼ばれる此処ここに来たというわけね。
 って言っても、知識なんて何もないんだけどね、あたしが知ってるのはあたしが関わったことだけ。
 あとは、そこの本棚に並ぶ訳の分からない魔法の書物だけ。
 魔言語マジックワードが読めれば話は別なんだけど、読めなさそうよね」

「なるほどな、だから叡智の書庫と言うわけか」

 ようやくこの場所の本来の姿を知ったようで、ルキは部屋を見回し何度も頷いた。

「はぁ!?
 それじゃあ私達が来たのは無駄足だったってことじゃない!
 だったら何であんたも長々と話をしてるのよ」

「あんた達が勝手にあたしを呼び出したんでしょうが!
 ったく。
 あたしは此処の管理者でもなければ案内人でもないの。
 でも、あたしが知り得る限りのことなら力を貸すってので話してあげてるのにさ。
 そしたら、どうする?
 先を聞くの?
 聞かないの?」

 あたしは半ば呆れながら二人を交互に見てやると、ルキがアスナを一瞥し頭を下げた。

「すまなかった。
 アテナの言う通り魔法書を読めるならばそうしたいところだが、オレ達にはアテナの話を聞いてそれを探すしか手はないように思う。
 続きをお願いしていいか?」

「そう、それならいいわ、話してあげる。
 それで、どこまで話したかしら?
 ……あー、あたしが意識のなかった時の話よね。
 レディとミーニャはあたしの看病ということでずっと付きっきりだったらしく、あたしが目覚めるまでライズの親代わりという人物には会っていなかったのよ。
 ライズもそれを伝えてくれて目覚めたら一緒に来たらいいと教えてくれたの。
 それからあたしが目を覚まして動けるようになってから、ライズと共に塔の主の元へ行ったのよ……」

 そうしてあたしはゆっくりとした口調で続きを語り始めた。
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