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第一章 死者へ贈る愛
episode 5 愛のカタチ
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食事をしながら談笑していると扉を叩く音に加え、連れて来たとの声が聞こえた。
それに対してグランフォートは応えると扉が開くと同時に立ち上がった。
「これはこれは。
お越し下さってありがとうございます」
「グランフォートよ。
わしを呼ぶとはどうしたのじゃ?」
イダと呼ばれたお婆さんはグランフォートの倍は生きてきたのだろう、領主である彼ですら深々と礼をし敬意を払っているのが見受けられる。
「折り入って頼みがあるのです。
まず、こちらはアテナ。
それから、こちらがミーニャ」
紹介されたあたし達は軽く頭を下げた。
「このお嬢様方がイダ婆に会いたいと申しておりましてね。
しかし、行った所で会ってはくれないでしょう。
でしたら私の命であればと思いましてね」
「ふむ。
確かに会わんな。
そして、お主もこの場を離れんといったわけじゃな」
「そういった訳です。
そして、頼みというのがでして。
このお嬢様方が湖のことについて知りたいと」
「お主からは……まぁ話せんだろうな。
しかし、ある程度のことは聞いておろう?」
お婆さんがあたし達に話しかける目はどこか悲しげな感じがした。
「えぇ。
あたし達はお婆さんのお友達に会いました。
それで、少なからずは」
「だったら何が知りたいんじゃ?」
悲しげな目から一転、眼差しは鋭く、語気も少し荒くなった。
「今も封鎖されている本当の理由です。
聞いた話では到底納得出来るものではなかったので、直接見たというお婆さんに話を聞きたかったんです」
それには臆することなく真っ正面からぶつかってみる。
この人は年齢もあるだろうが、グランフォートよりも見抜くものを持っていそうだったから。
「ですのでイダ婆さん。
彼女らと共に湖に行って頂けないでしょうか」
グランフォートの言葉にあたし達だけではなく、お婆さんも驚きを隠せなかったようだ。
「今からかえ!?
嫌じゃ‼️
絶対に嫌じゃ!
お主には言っておろう、わしが行かぬ理由を」
どうやら訳ありらしいが、こんなにも拒絶するのは一体……。
「では、明日。
明日の昼間ではいかがですか?」
「どうしてもかね?
どうしても、わしが一緒に行かねばならんかね?」
「えぇ。
私の見解では、彼女達なら何か変えてくれる気がしましてね」
やはりグランフォートは色々知った上で、あたし達に湖の封鎖を解いて欲しいと思っているようだ。
「お主がそこまで言うのは珍しいな。
……分かった。
お主の見立て、間違いでないことを見届けよう」
「ありがとうございます。
ではまた、迎えを致しますので――」
「いいや、結構じゃて。
どれ、わしの悪夢も終いになるかのぉ」
イダ婆さんはそれだけ言い残すと部屋を出ようとした。
すかさずグランフォートが従者に送らせようとしたが婆さんは手をあげ無用だと示すと、振り返ることなくそそくさと扉を開け出て行ってしまった。
「これで良いですかね?」
ニコリと爽やかな笑顔を向けるとそのまま話を続けた。
「お嬢様方にはこちらで部屋を用意致しますよ。
今日はこの屋敷を自由に使って下さい。
それと、目の前の冷めてしまった料理も必要ならば温かいものに」
「それよりも、グランフォートはあたし達に何を期待してるの?」
「それは先程も述べたことです。
私達には出来ずとも貴女方には出来る事を。
ですよ」
「ふぅん。
いいわ、良くして貰ってるからこれ以上は突っ込まない。
それと料理はこのままで、デザートを追加ね」
これにはいつも一緒のミーニャですら驚いているのに、彼は驚きもせずウィンクして見せた。
「もちろんですよ」
あたしの心を揺さぶる紳士と共に楽しい夜は更けていった。
昨日の天気とは変わって、今日は朝から雨が降っていた。
グランフォートの館にイダ婆さんが訪れると、すぐさま用意された馬車に乗り込む。
歩いて行ける距離ではあるが、天候とお婆さんの為に用意したのだろう。
「して、あんたらと行った所で何か変わるかのう」
天板を打ち付ける雨の音に交ざり、静かに言葉を発した。
「それなんですが、あたし達もう湖には昨日行ってたんです」
あたしは自分の目で見たもの、感じた事をイダ婆さんに打ち明けた。
「……そのあとに、ミーニャが誰かに呼ばれた気がしたと言い湖の中に行ってしまったのを助け、これはおかしいと感じていたのです」
「そうかいそうかい、そういうことかい。
その話はグランフォートには言っておらんのじゃろ?
ヤツの見る目は間違っておらんのかもな」
「どういうことですか?
っと、着いたようですね」
馬車が停まり窓から覗くと、昨日見た湖の柵の前だった。
御者が柵の鍵を開けると、あたし達もフードを被り湖へと向かう。
泥濘んだ道を足下に気をつけながら先程の続きを振ってみた。
「どういうことじゃて?
あれを見たらわかるじゃろ。
あそこには死者の霊が無数と集まっておるのじゃ」
「無数!?
お婆さんは何度も行っているのですか?」
「かれこれ、数十年は行っておらんがな。
霊と接触する能力はあっても、声は聞こえんからな」
ともすれば、これは涙雨に違いないと勝手に思ってしまう。
「私を呼んだ霊とは一体誰なんでしょう?」
ミーニャの声は雨の音にかき消されるくらい低く不安げだった。
「それはわしの口からは言えんな。
言ったところで誰一人として信じた者もおらなんだ」
魔法を使う者であれば死者を具現化したり操ったりは出来たのだと言うが、魔法を使う者が少ない今、魔術師でもない者が死者の話をしたところで信じる者は少ないのだろう。
「一つまだ知らないことが。
兵士と騎士が追っていた人達は誰なんですか?」
「詳しくまでは知らぬ。
ならず者だったとしか。
しかしな、一つだけは教えておかねばなるまい。
亡くなった者の中に一人女性がおったのじゃが、それは当時の女王陛下だったのじゃよ」
雨音に混ざり聞き間違えたかと思ったが、確かに女王だと言った。
「女王が何故そんなところに?
そんな話は聞かなかったわ」
「嘘ではない。
国もそのように発表してる以上、間違いでもないわ。
ただな、真実と違うのは彼女がならず者の仲間だったという点じゃ」
「えっ!?」
「えっ?」
あたしとミーニャは同時に驚き、その場に立ち止まってしまった。
歩みを止めることなく進むお婆さんにもう一度聞こうと隣まで急ぐ。
「ならず者の仲間!?
どうして!?
国は何と発表したの!?」
「驚くのも無理はないが、そう慌てるな。
わしはあの時茂みに隠れ見ておった。
騎士達がヤツらと対峙すると一人が馬から降り、フードを取ったんじゃ。
それが女王陛下その人でな、騎士達に追って来るなと命じたが、連れ帰るのが我らの使命と言って陛下の後ろに控えるならず者共に斬ってかかろうとした時じゃ。
ヤツらは魔法を使い兵士二人を凪ぎ払うと、残った騎士へと剣を向けた。
そこで剣同士がぶつかり合い騎士の剣が折れると、陛下の胸元へ吸い込まれるように飛んでいったのじゃ」
それでは女王が亡くなったのは単なる事故ではないか。
「それで!?
国は何と発表したのです?」
「国はな、女王が賊に拉致され賊に命を奪われたと。
そして、賊は騎士や兵士に成り済ましていたと」
「ん?
追っていた騎士達が?」
「そうじゃ。
ならず者達が立ち去る前に自らのローブを放って行ったからの。
後から来た者達がそう思ったのじゃろ、わしはその後のことは分からんからな」
「お婆さんは見たことを友達以外に話したんですか?」
「そりゃあ両親と領主には話したさ。
しかしな、子供の言い分じゃと信じては貰えんでな。
それに、あの場に残っていた罪悪感もあってそれ以上は言えなんだ」
そういうことか。
子供の話より、後から来た国に仕える者達の方が信用出来るといったところだろう。
何か国の汚い部分を見てしまったようであまり気分が良くない。
お婆さんもそれっきり口にすることはなく、ただ黙ったまま降りしきる雨の中を歩いている。
「なんじゃこれは!?」
林を抜け湖に出るとお婆さんは驚愕の声を出した。
何に驚いたのか、昨日と何も変わらない風景にあたしは横顔を見つめるしかなかった。
「日が落ちてないというのに何故じゃ」
「どうしたんですか?
何か変わったことが?」
目の前の風景は何も変わっていない。
ただ、雨のせいか空気がひんやりとし、肌を刺す冷たさに変わったのは違いなかった。
「そうか、お主らには見えなんだな。
昼間だというのに霊達が沢山現れておるのじゃ」
「えっ?
今?
目の前にいっぱい?」
目に見えない者が沢山いると言われると若干の恐怖を覚えてしまう。
それはミーニャも同じらしく、あたしの手を握ってきた。
「あぁ、わしもこの感じが嫌で夜は来たくないんじゃが。
やはり何か言いたそうにしておるのぉ。
どれ、ミーニャとやら。
わしの前に立ってみるのじゃ」
言われた通りにミーニャが移動するとお婆さんは肩に手を乗せ、一緒に目を閉じ声を聞くように言った。
「どうじゃ?
聞こえてきたか?」
「小さく沢山の声が……」
「声に集中して、お主を呼んだ声に耳を傾けるのじゃ」
何も見えず聞こえずのあたしには、雨音だけが耳を刺激していた。
「あっ!
あなたですか?」
「聞こえたか?
ならば、ゆっくりと目を開けるのじゃ」
ゆっくりと目を開けたミーニャは口に手を当て目を丸くしていた。
その様子から霊達が見えているのだろうと思う。
「こんなにも沢山……。
あなたなのですね、私を呼んでいたのは」
どうやらミーニャを引きずりこもうとしていた者が分かったようだ。
それからは返事をしたり驚いたりと、一人で喋っているようにしか見えず、あたしはただ待つ他なかった。
「……分かりました。
お嬢様、私を呼んでいたのは亡くなられた騎士のブレフトさんです。
彼に悪意は無く、私が声に反応したのを感じたので聞いて欲しいとの想いが強く出たようで、それに私が引っ張られた形になったそうです」
「そんなことって……あるんだ。
それで?
彼は何を聞いて欲しいって?」
「それが、王と国の民に真実を知って欲しいと。
それから、理由はどうあれ陛下を王家の墓に、兵達を弔って欲しいとのことでして」
それが理由で、話を聞いてもらえそうな人が来るまで天にも逝かずに待っていたのか。
「それをあたし達に?
って言っても、あたし達がやらなきゃまたずっと待つことになるかも知れないわね。
いいわ、出来る限りやってあげましょ」
「分かりました。
彼もお嬢様へ『ありがとう』と」
「へ?
あたしの声は届いてるの?」
「はい。
昨日から聞いていたみたいですが」
確か……あの時は湖の方を向いて裸になった気がする……。
思い出した瞬間、少し顔が火照ってくる。
覚悟がない時にどんな人かも分からず、まして目に見えないとなると流石のあたしでも若干の恥ずかしさを覚えてしまった。
「あ~~~、んっんっ!
あたしの声が聞こえるのね?
貴方の望み、あたしが叶えてあげるわ!」
気を取り直すよう咳払いをし、騎士の霊に向かい宣言するとミーニャが肩を叩いた。
「お嬢様、もう少しこっちです……」
「え?
あの辺り?」
「そうです、そうです」
連続で恥ずかしい思いをすると、もうどうでも良くなってくる。
「えっと……。
もう何十年と待っていたんでしょ?
その想いがあたしの友達の命を危険に晒したわ。
でもそれは望まずして起きてしまったこと。
貴方の剣が女王を貫いてしまったのも同じ。
それなのにこんな所に居ていい訳がないわ!
貴方も兵士も国の為に立派に動いたことは、この国に住まう人、みんなが知っておくべきだと思うわ。
だから、安心して!
貴方の想いはあたしが受け止めてあげるから。
そして、叶えてあげるから‼️」
しっかりと届いたのか少し不安になるが、聞こえているならあたしの想いは伝わったと思う。
「お嬢様、彼がお礼を述べて頭を下げてますわ」
「それと……あたしの裸は忘れなさいよ‼️」
これは、これだけはハッキリと伝えたかった。
「……苦笑い、です」
と言ってるミーニャもまた苦笑いを浮かべているが、お婆さんだけは大いに笑っている。
「それじゃ行くわよ!」
大きな約束をしたことに不安と使命感が入り交じってはいるが、意外と怖さは微塵も感じていなかった。
足並みを揃え馬車の待つ林の外まで確実に歩みを進める。
来た時よりも歩き易く感じたのは、降りしきる雨が少し弱くなったせいだった。
それに対してグランフォートは応えると扉が開くと同時に立ち上がった。
「これはこれは。
お越し下さってありがとうございます」
「グランフォートよ。
わしを呼ぶとはどうしたのじゃ?」
イダと呼ばれたお婆さんはグランフォートの倍は生きてきたのだろう、領主である彼ですら深々と礼をし敬意を払っているのが見受けられる。
「折り入って頼みがあるのです。
まず、こちらはアテナ。
それから、こちらがミーニャ」
紹介されたあたし達は軽く頭を下げた。
「このお嬢様方がイダ婆に会いたいと申しておりましてね。
しかし、行った所で会ってはくれないでしょう。
でしたら私の命であればと思いましてね」
「ふむ。
確かに会わんな。
そして、お主もこの場を離れんといったわけじゃな」
「そういった訳です。
そして、頼みというのがでして。
このお嬢様方が湖のことについて知りたいと」
「お主からは……まぁ話せんだろうな。
しかし、ある程度のことは聞いておろう?」
お婆さんがあたし達に話しかける目はどこか悲しげな感じがした。
「えぇ。
あたし達はお婆さんのお友達に会いました。
それで、少なからずは」
「だったら何が知りたいんじゃ?」
悲しげな目から一転、眼差しは鋭く、語気も少し荒くなった。
「今も封鎖されている本当の理由です。
聞いた話では到底納得出来るものではなかったので、直接見たというお婆さんに話を聞きたかったんです」
それには臆することなく真っ正面からぶつかってみる。
この人は年齢もあるだろうが、グランフォートよりも見抜くものを持っていそうだったから。
「ですのでイダ婆さん。
彼女らと共に湖に行って頂けないでしょうか」
グランフォートの言葉にあたし達だけではなく、お婆さんも驚きを隠せなかったようだ。
「今からかえ!?
嫌じゃ‼️
絶対に嫌じゃ!
お主には言っておろう、わしが行かぬ理由を」
どうやら訳ありらしいが、こんなにも拒絶するのは一体……。
「では、明日。
明日の昼間ではいかがですか?」
「どうしてもかね?
どうしても、わしが一緒に行かねばならんかね?」
「えぇ。
私の見解では、彼女達なら何か変えてくれる気がしましてね」
やはりグランフォートは色々知った上で、あたし達に湖の封鎖を解いて欲しいと思っているようだ。
「お主がそこまで言うのは珍しいな。
……分かった。
お主の見立て、間違いでないことを見届けよう」
「ありがとうございます。
ではまた、迎えを致しますので――」
「いいや、結構じゃて。
どれ、わしの悪夢も終いになるかのぉ」
イダ婆さんはそれだけ言い残すと部屋を出ようとした。
すかさずグランフォートが従者に送らせようとしたが婆さんは手をあげ無用だと示すと、振り返ることなくそそくさと扉を開け出て行ってしまった。
「これで良いですかね?」
ニコリと爽やかな笑顔を向けるとそのまま話を続けた。
「お嬢様方にはこちらで部屋を用意致しますよ。
今日はこの屋敷を自由に使って下さい。
それと、目の前の冷めてしまった料理も必要ならば温かいものに」
「それよりも、グランフォートはあたし達に何を期待してるの?」
「それは先程も述べたことです。
私達には出来ずとも貴女方には出来る事を。
ですよ」
「ふぅん。
いいわ、良くして貰ってるからこれ以上は突っ込まない。
それと料理はこのままで、デザートを追加ね」
これにはいつも一緒のミーニャですら驚いているのに、彼は驚きもせずウィンクして見せた。
「もちろんですよ」
あたしの心を揺さぶる紳士と共に楽しい夜は更けていった。
昨日の天気とは変わって、今日は朝から雨が降っていた。
グランフォートの館にイダ婆さんが訪れると、すぐさま用意された馬車に乗り込む。
歩いて行ける距離ではあるが、天候とお婆さんの為に用意したのだろう。
「して、あんたらと行った所で何か変わるかのう」
天板を打ち付ける雨の音に交ざり、静かに言葉を発した。
「それなんですが、あたし達もう湖には昨日行ってたんです」
あたしは自分の目で見たもの、感じた事をイダ婆さんに打ち明けた。
「……そのあとに、ミーニャが誰かに呼ばれた気がしたと言い湖の中に行ってしまったのを助け、これはおかしいと感じていたのです」
「そうかいそうかい、そういうことかい。
その話はグランフォートには言っておらんのじゃろ?
ヤツの見る目は間違っておらんのかもな」
「どういうことですか?
っと、着いたようですね」
馬車が停まり窓から覗くと、昨日見た湖の柵の前だった。
御者が柵の鍵を開けると、あたし達もフードを被り湖へと向かう。
泥濘んだ道を足下に気をつけながら先程の続きを振ってみた。
「どういうことじゃて?
あれを見たらわかるじゃろ。
あそこには死者の霊が無数と集まっておるのじゃ」
「無数!?
お婆さんは何度も行っているのですか?」
「かれこれ、数十年は行っておらんがな。
霊と接触する能力はあっても、声は聞こえんからな」
ともすれば、これは涙雨に違いないと勝手に思ってしまう。
「私を呼んだ霊とは一体誰なんでしょう?」
ミーニャの声は雨の音にかき消されるくらい低く不安げだった。
「それはわしの口からは言えんな。
言ったところで誰一人として信じた者もおらなんだ」
魔法を使う者であれば死者を具現化したり操ったりは出来たのだと言うが、魔法を使う者が少ない今、魔術師でもない者が死者の話をしたところで信じる者は少ないのだろう。
「一つまだ知らないことが。
兵士と騎士が追っていた人達は誰なんですか?」
「詳しくまでは知らぬ。
ならず者だったとしか。
しかしな、一つだけは教えておかねばなるまい。
亡くなった者の中に一人女性がおったのじゃが、それは当時の女王陛下だったのじゃよ」
雨音に混ざり聞き間違えたかと思ったが、確かに女王だと言った。
「女王が何故そんなところに?
そんな話は聞かなかったわ」
「嘘ではない。
国もそのように発表してる以上、間違いでもないわ。
ただな、真実と違うのは彼女がならず者の仲間だったという点じゃ」
「えっ!?」
「えっ?」
あたしとミーニャは同時に驚き、その場に立ち止まってしまった。
歩みを止めることなく進むお婆さんにもう一度聞こうと隣まで急ぐ。
「ならず者の仲間!?
どうして!?
国は何と発表したの!?」
「驚くのも無理はないが、そう慌てるな。
わしはあの時茂みに隠れ見ておった。
騎士達がヤツらと対峙すると一人が馬から降り、フードを取ったんじゃ。
それが女王陛下その人でな、騎士達に追って来るなと命じたが、連れ帰るのが我らの使命と言って陛下の後ろに控えるならず者共に斬ってかかろうとした時じゃ。
ヤツらは魔法を使い兵士二人を凪ぎ払うと、残った騎士へと剣を向けた。
そこで剣同士がぶつかり合い騎士の剣が折れると、陛下の胸元へ吸い込まれるように飛んでいったのじゃ」
それでは女王が亡くなったのは単なる事故ではないか。
「それで!?
国は何と発表したのです?」
「国はな、女王が賊に拉致され賊に命を奪われたと。
そして、賊は騎士や兵士に成り済ましていたと」
「ん?
追っていた騎士達が?」
「そうじゃ。
ならず者達が立ち去る前に自らのローブを放って行ったからの。
後から来た者達がそう思ったのじゃろ、わしはその後のことは分からんからな」
「お婆さんは見たことを友達以外に話したんですか?」
「そりゃあ両親と領主には話したさ。
しかしな、子供の言い分じゃと信じては貰えんでな。
それに、あの場に残っていた罪悪感もあってそれ以上は言えなんだ」
そういうことか。
子供の話より、後から来た国に仕える者達の方が信用出来るといったところだろう。
何か国の汚い部分を見てしまったようであまり気分が良くない。
お婆さんもそれっきり口にすることはなく、ただ黙ったまま降りしきる雨の中を歩いている。
「なんじゃこれは!?」
林を抜け湖に出るとお婆さんは驚愕の声を出した。
何に驚いたのか、昨日と何も変わらない風景にあたしは横顔を見つめるしかなかった。
「日が落ちてないというのに何故じゃ」
「どうしたんですか?
何か変わったことが?」
目の前の風景は何も変わっていない。
ただ、雨のせいか空気がひんやりとし、肌を刺す冷たさに変わったのは違いなかった。
「そうか、お主らには見えなんだな。
昼間だというのに霊達が沢山現れておるのじゃ」
「えっ?
今?
目の前にいっぱい?」
目に見えない者が沢山いると言われると若干の恐怖を覚えてしまう。
それはミーニャも同じらしく、あたしの手を握ってきた。
「あぁ、わしもこの感じが嫌で夜は来たくないんじゃが。
やはり何か言いたそうにしておるのぉ。
どれ、ミーニャとやら。
わしの前に立ってみるのじゃ」
言われた通りにミーニャが移動するとお婆さんは肩に手を乗せ、一緒に目を閉じ声を聞くように言った。
「どうじゃ?
聞こえてきたか?」
「小さく沢山の声が……」
「声に集中して、お主を呼んだ声に耳を傾けるのじゃ」
何も見えず聞こえずのあたしには、雨音だけが耳を刺激していた。
「あっ!
あなたですか?」
「聞こえたか?
ならば、ゆっくりと目を開けるのじゃ」
ゆっくりと目を開けたミーニャは口に手を当て目を丸くしていた。
その様子から霊達が見えているのだろうと思う。
「こんなにも沢山……。
あなたなのですね、私を呼んでいたのは」
どうやらミーニャを引きずりこもうとしていた者が分かったようだ。
それからは返事をしたり驚いたりと、一人で喋っているようにしか見えず、あたしはただ待つ他なかった。
「……分かりました。
お嬢様、私を呼んでいたのは亡くなられた騎士のブレフトさんです。
彼に悪意は無く、私が声に反応したのを感じたので聞いて欲しいとの想いが強く出たようで、それに私が引っ張られた形になったそうです」
「そんなことって……あるんだ。
それで?
彼は何を聞いて欲しいって?」
「それが、王と国の民に真実を知って欲しいと。
それから、理由はどうあれ陛下を王家の墓に、兵達を弔って欲しいとのことでして」
それが理由で、話を聞いてもらえそうな人が来るまで天にも逝かずに待っていたのか。
「それをあたし達に?
って言っても、あたし達がやらなきゃまたずっと待つことになるかも知れないわね。
いいわ、出来る限りやってあげましょ」
「分かりました。
彼もお嬢様へ『ありがとう』と」
「へ?
あたしの声は届いてるの?」
「はい。
昨日から聞いていたみたいですが」
確か……あの時は湖の方を向いて裸になった気がする……。
思い出した瞬間、少し顔が火照ってくる。
覚悟がない時にどんな人かも分からず、まして目に見えないとなると流石のあたしでも若干の恥ずかしさを覚えてしまった。
「あ~~~、んっんっ!
あたしの声が聞こえるのね?
貴方の望み、あたしが叶えてあげるわ!」
気を取り直すよう咳払いをし、騎士の霊に向かい宣言するとミーニャが肩を叩いた。
「お嬢様、もう少しこっちです……」
「え?
あの辺り?」
「そうです、そうです」
連続で恥ずかしい思いをすると、もうどうでも良くなってくる。
「えっと……。
もう何十年と待っていたんでしょ?
その想いがあたしの友達の命を危険に晒したわ。
でもそれは望まずして起きてしまったこと。
貴方の剣が女王を貫いてしまったのも同じ。
それなのにこんな所に居ていい訳がないわ!
貴方も兵士も国の為に立派に動いたことは、この国に住まう人、みんなが知っておくべきだと思うわ。
だから、安心して!
貴方の想いはあたしが受け止めてあげるから。
そして、叶えてあげるから‼️」
しっかりと届いたのか少し不安になるが、聞こえているならあたしの想いは伝わったと思う。
「お嬢様、彼がお礼を述べて頭を下げてますわ」
「それと……あたしの裸は忘れなさいよ‼️」
これは、これだけはハッキリと伝えたかった。
「……苦笑い、です」
と言ってるミーニャもまた苦笑いを浮かべているが、お婆さんだけは大いに笑っている。
「それじゃ行くわよ!」
大きな約束をしたことに不安と使命感が入り交じってはいるが、意外と怖さは微塵も感じていなかった。
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これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
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