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第一章 死者へ贈る愛
episode 6 冥界の理
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あの日からミーニャが高熱を出して既に四日も過ぎている。
お婆さんが言うには霊との接触は免疫がないと身体に異常をきたすこともあるという。
その間、看病とグランフォートとの話し合いで瞬く間に時は過ぎ去っていた。
「ミーニャ、どう?
調子は?」
どんよりとした天気の五日目、昼食の前に声をかけてみる。
ベッドに横たわるミーニャの額に手を当てると、今までよりも熱さが引いていることに安堵を覚え気分を伺ってみた。
「う、うぅん……。
あぁ、お嬢様。
朝でしょうか?」
「ううん、もうお昼よ。
少し楽になったかと思って、ね」
「そうでしたか……。
んっ、ん~~~。
そう、ですね。
少し体の方は楽に感じます」
大きく伸びをすると、肩の力を抜きつつ笑顔を見せてくれた。
「良かった。
昨日からあまりうなされてなかったから。
もう安心かしらね」
「えっ!?
お嬢様はお休みになられたのですか?
もし、あまりお休みになられてないようでしたら――」
「平気よ平気。
あたしだけじゃなくメイドさん達と交代で診てたからね。
少し起きれるなら食事でもする?」
安心した表情に戻ると軽く頷き、ベッドからゆっくりと出ると着替え始めた。
どうやら本当に体が楽になったのだろう。
「ならさ、あたしはご飯でも頼んで来るわね。
グランフォートにも良くなったって伝えなきゃだし」
お願いしますとだけ話すミーニャの言葉を背に受け部屋を後にすると、真っ直ぐ厨房へと向かった。
ここ数日住まわせてもらったお陰で、何処に何があるかは大方分かっている。
厨房でミーニャ用の食事のついでにあたしの分も頼み、次に執務室へと足を向けた。
部屋の中ではグランフォートが書類に目を通していたが、ミーニャのことを告げるとそれまでの書類を纏め、あたしの手を取り食堂へと急いだ。
「ま、まだ、来ていないみたいね」
急かされた胸の高鳴りなのか、不意に手を握られた感情なのか、鼓動がいつもより早かった。
「そのようで。
では座って待ちましょう」
グランフォートがあたしの為に椅子を引くが、それよりも離された左手の温もりが気になってしまう。
「あ、ありがとう」
椅子に座るや否やミーニャが食堂へと姿を見せた。
すかさずグランフォートは駆け寄ると一言二言交わし、あたしの時とは違い優しく手を取り席までエスコートし出した。
その姿に、何故か胸が締めつけられる感じを覚えた。
「だ、大丈夫、ミーニャ?
歩いた感じ」
「は、はい、お嬢様!
もう、大丈夫なようです」
あたしだけではなく、ミーニャもしどろもどろになっている。
それは多分、今までエスコートなど皆無だったから恥ずかしいのであろう。
「もうすぐ料理も来ると思いますので、その間にミーニャ殿の言っていた『冥府の王』の話をお聞かせ願いますか?」
それについては、あたしも興味があった。
騎士の霊であるブレフトが言っていたらしいが、冥府の王とミーニャが語った途端倒れてしまいそれっきりだった。
「あぁ!
そうでした。
私、その話をしようとして倒れたのでしたね。
では、ブレフトさんの言っていたことをお話致します」
冥府の王。
存在するのは神話で聞いたことがある程度で、こんなに身近でそれが出てくるとは思ってもみなかった。
「それでは。
ブレフトさんはこうお話されました。
死者の国と呼ばれる冥界には、冥界の神とその下に冥府の王が存在している。
神の加護を受け弔われた者は冥界に行き転生を待つが、そうでない者は冥界へ繋ぎ留められる。
日の無い夜は冥界と人界などが繋がり自由に往き来は出来るが、日のある時は冥府王の力により簡単には往き来することが出来ない。
しかし、冥府王の居ない今、我々は自由に人界へと往き来している。
といった内容でした」
霊となった騎士のブレフトの言っていたであろうそのままに話すミーニャだが、話を進める度に汗と息切れが多くなっていた。
「大丈夫?」
あたしが心配して声をかけると、少し間を置いてから大丈夫だと返事をしてくれた。
「その冥府王がいないとなれば、この人界はどうなる?
何か不都合があったりするのか?」
ミーニャの話にグランフォートは厳しい口調で問いただしたが、分からないとばかりに首を振っている。
「そうですね、失礼しました。
しかし、そうなると冥界と人界が常に繋がっていると。
何やらよろしくはなさそうですね」
「そお?
あたしは見えないから何とも思わないけど」
「確かに魔法使いや死霊使いであれ、冥府王の魔力を纏った霊体であれば何も出来ないでしょう。
しかしですよ。
魔法使いや死霊使いが冥府王の居ない事を知ってしまえば、死霊を使い悪さを行うことも考えられます。
そして、それを知るのも時間の問題でしょう」
あぁ、確かに言われてみると可能性はある。
実際にはあたしに関係はないが、民を守る立場のグランフォートであればそんな風に考えるのも頷ける。
「だったらどうするの?」
あたしは率直に聞き返すと両手を広げ首を振った。
「どうにも出来ない、と言わざるを得ないでしょう。
まず、冥府王がいない理由と原因が分からない。
それを知るには霊と接触出来る者を探すしか」
あたしは咄嗟にミーニャを見た、何の考えもなしに。
「それでしたら、また私が!」
「いいや、これ以上は。
寝込ませてしまった上にまだ成そうとしていることが残っているのに、ミーニャを頼ることは出来ない。
この問題は、国として人界の者として立ち向かう事実であると考える。
まずは国王に進言し、それからどうすべきか考えることにしよう」
国に仕えるというのはこういうことなのかと改めて感じた。
あたしの義理の両親もこのようにしていたのかも知れないが、仕事に関してはあまり興味を持っていなかったので、記憶に関してはかなり薄い。
「ありがとうミーニャ、色々と教えてくれて。
さぁ、どうやら食事も出来たようだ。
この話は終わりにして、ブレフトの望みをどう叶えるのか考えましょうか」
そうだった。
ミーニャが寝込んでいる間に少し考えていたが、纏った答えはまだ出ていない。
「そうね。
あたしとしては、女王に直接言いに行きたいところだけど。
ダメなのよね?」
この数日にグランフォートからマグノリア王国のことは色々聞いていた。
それを元に考えようと思っていたのだが。
「通常であれば無理としか言えないですね。
領主の私ですら、会議名目でしか直接は進言出来ません」
「忍び込む?」
「やめてください、お嬢様」
「はっはっはっ。
その前に私が捕まえますよ」
そんなことは分かっている。
では、どうしたら。
大人が隠した事実を子供が周りから伝えてもらっても、信じてもらえないか、または踏み潰されるだけだろう。
「あの、お嬢様。
お祭りで王になると言ったお話は――」
「それよ!
でかしたミーニャ!!」
うっかりしていた。
女王と結婚して王にさえなれば、この問題は簡単に解決する。
目の前のことに囚われ本来の目的を見失っていた。
「王になる?
アテナが?」
グランフォートは首をかしげ、未だ理解出来ていないようだ。
「そうよ!
剣闘技祭というので勝ち進めば、女王と婚約出来るって聞いたわ。
そうなれば王になる日も近いってことよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
アテナ、君は女性……で合っているよね?」
「なに?
まさか、グランフォートまで?
あたしは歴とした女よ。
けどね、愛の力は性別すら超えるの。
だから、あたしが女だとか男だとか関係ないわけ。
女王を惚れさせて、あたしが王になるのよ!!」
一瞬だけ食堂が静寂に包まれると、グランフォートは今までに見せたこともないくらいに大きく笑い出した。
「アテナ、君ほど楽しい人は初めてですよ。
確かにそれなら、叶えることは可能ですが。
出来ますか?」
「やる前にムリだとでも言うと思う?」
「勝ち続けなければですよ?
それも明後日に」
「は?
明後日?」
そんな話、いつ決まったのだ。
「そうですよ。
湖へ行った日に通達が来ましてね」
「お嬢様、剣の練習をしなければ……」
ミーニャの言う通り、あたしはさほど剣さばきは上手くない。
「まぁ、なんとかなるわよ!」
とは思っていないが、今更あれやこれや考えても仕方ないだろう。
今は目の前に並べられた物を腹いっぱい食すのが優先だと、体が言っているようだった。
遅い昼食の後は、闘技祭の概要を説明してもらい、一先ず夕食を取るまではミーニャと共に部屋でゆっくり過ごしているが、少し気になることをグランフォートから聞いていた。
「ちょっと何!?
女王が婚約って!」
「落ち着いて下さい、お嬢様。
先程の話だと、婚約者の方も参加して、未だ候補者の一人だとのお話だったではないですか」
「でもよ!
第一候補ってことでしょ?
ようするに!」
「そうですが……。
でも、その方が負けてしまうと婚約破棄になるとのお話も」
「えっと。
候補者になるには何人に勝てばいいんだっけ?」
「最低でも一般参加の二人で、勝ち進むほどに可能性は高まると言ってました」
そうだそうだ、そんなことを言っていた。
参加者同士で戦った後、国に仕える騎士、騎士隊長、親衛隊と戦うとか。
「ん~。
婚約したからといって必ず結婚するってことじゃないのよね。
他の道が思いつかないし、僅かな可能性にかけるのも悪くないか」
「では、参加するのですね?」
「ここまで来ておいて、後には退けないわ!
でしょ?」
ミーニャはあたしが悩んでいると、いつも心配そうにしている。
その姿をあたしは好きではなかったので、大袈裟に片目を瞑って見せるといつもの笑顔に戻っていた。
「さぁて、問題はどうやって勝ち進むかよね。
どれだけの実力者がいるのか知らないけど、騎士達は間違いなく強いわよね」
「一般の方々もそれなりの実力を兼ね備えていると思いますが。
何か秘策でもあるのですか?」
「秘策?
そんなもの……まぁ、あるとすれば一つだけあるわ」
「あるのですか!?
なんですか、なんですか!?」
勝ち進める希望を見たのか、ミーニャが激しく詰め寄ってきたので堂々と宣言した。
「それは……あたしの色気を使うのよ!!」
胸に手を当て、どうだと言わんばかりに仁王立ちしたが、ミーニャは固まって動かなくなった。
あぁ、これが目を丸くするということなのか。
「なんで?
ダメ?」
「お嬢様……。
また、裸になるつもりですか?」
「またって何よ。
そんな露出魔みたいに言わないでよ」
「あの、私の見解ですけど……色気ってもっとこう、胸が大きかったり脚がスラッと長かったり――」
それ以上のことを口に出させる気はなかった。
「ミーニャ!
そりゃあ、背もまだ小さいし胸だってこれっぽっちしかないけど。
けどね、色気ってのはそんなことだけじゃないの!!」
「それはそうですが……」
まだ何か言いたそうにしているが、口を塞ぐ代わりにミーニャの胸に手を当てる。
「ミーニャだって、そんなに大きくないでしょ。
でも、あたしはミーニャがスゴく可愛いと思っているのよ。
そういうことよ」
「あっ、あっ――。
分かりましたから、もう離して下さい。
もう!
お嬢様はすぐそんなことを」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。
それに、今のは説明をしてあげただけでしょ」
いつもながらに少しイヤな顔をするが、それもすぐに直り心配気な表情をし出した。
「それは冗談だとしても、本当にどうしますか?」
「冗談じゃないんだけどな……。
そうね、グランフォートに相談はするけど。
あとは、あたしの魔法剣に頼るしかないわね」
これといった策は無いものの、あたしの魔法剣は軽さ、強度は一介の剣とは比べ物にならない。
「もの凄く心配ですけど、信じてますね」
「あたしを誰だと思ってるのよっ!
勝ち進む方法はいくらでもあるはず、期待してるといいわ」
ミーニャの心配はいつものことだが、出来るならば心配などかけさせたくない。
だからこそ、あたしは強気でいられるのだと思っている。
お婆さんが言うには霊との接触は免疫がないと身体に異常をきたすこともあるという。
その間、看病とグランフォートとの話し合いで瞬く間に時は過ぎ去っていた。
「ミーニャ、どう?
調子は?」
どんよりとした天気の五日目、昼食の前に声をかけてみる。
ベッドに横たわるミーニャの額に手を当てると、今までよりも熱さが引いていることに安堵を覚え気分を伺ってみた。
「う、うぅん……。
あぁ、お嬢様。
朝でしょうか?」
「ううん、もうお昼よ。
少し楽になったかと思って、ね」
「そうでしたか……。
んっ、ん~~~。
そう、ですね。
少し体の方は楽に感じます」
大きく伸びをすると、肩の力を抜きつつ笑顔を見せてくれた。
「良かった。
昨日からあまりうなされてなかったから。
もう安心かしらね」
「えっ!?
お嬢様はお休みになられたのですか?
もし、あまりお休みになられてないようでしたら――」
「平気よ平気。
あたしだけじゃなくメイドさん達と交代で診てたからね。
少し起きれるなら食事でもする?」
安心した表情に戻ると軽く頷き、ベッドからゆっくりと出ると着替え始めた。
どうやら本当に体が楽になったのだろう。
「ならさ、あたしはご飯でも頼んで来るわね。
グランフォートにも良くなったって伝えなきゃだし」
お願いしますとだけ話すミーニャの言葉を背に受け部屋を後にすると、真っ直ぐ厨房へと向かった。
ここ数日住まわせてもらったお陰で、何処に何があるかは大方分かっている。
厨房でミーニャ用の食事のついでにあたしの分も頼み、次に執務室へと足を向けた。
部屋の中ではグランフォートが書類に目を通していたが、ミーニャのことを告げるとそれまでの書類を纏め、あたしの手を取り食堂へと急いだ。
「ま、まだ、来ていないみたいね」
急かされた胸の高鳴りなのか、不意に手を握られた感情なのか、鼓動がいつもより早かった。
「そのようで。
では座って待ちましょう」
グランフォートがあたしの為に椅子を引くが、それよりも離された左手の温もりが気になってしまう。
「あ、ありがとう」
椅子に座るや否やミーニャが食堂へと姿を見せた。
すかさずグランフォートは駆け寄ると一言二言交わし、あたしの時とは違い優しく手を取り席までエスコートし出した。
その姿に、何故か胸が締めつけられる感じを覚えた。
「だ、大丈夫、ミーニャ?
歩いた感じ」
「は、はい、お嬢様!
もう、大丈夫なようです」
あたしだけではなく、ミーニャもしどろもどろになっている。
それは多分、今までエスコートなど皆無だったから恥ずかしいのであろう。
「もうすぐ料理も来ると思いますので、その間にミーニャ殿の言っていた『冥府の王』の話をお聞かせ願いますか?」
それについては、あたしも興味があった。
騎士の霊であるブレフトが言っていたらしいが、冥府の王とミーニャが語った途端倒れてしまいそれっきりだった。
「あぁ!
そうでした。
私、その話をしようとして倒れたのでしたね。
では、ブレフトさんの言っていたことをお話致します」
冥府の王。
存在するのは神話で聞いたことがある程度で、こんなに身近でそれが出てくるとは思ってもみなかった。
「それでは。
ブレフトさんはこうお話されました。
死者の国と呼ばれる冥界には、冥界の神とその下に冥府の王が存在している。
神の加護を受け弔われた者は冥界に行き転生を待つが、そうでない者は冥界へ繋ぎ留められる。
日の無い夜は冥界と人界などが繋がり自由に往き来は出来るが、日のある時は冥府王の力により簡単には往き来することが出来ない。
しかし、冥府王の居ない今、我々は自由に人界へと往き来している。
といった内容でした」
霊となった騎士のブレフトの言っていたであろうそのままに話すミーニャだが、話を進める度に汗と息切れが多くなっていた。
「大丈夫?」
あたしが心配して声をかけると、少し間を置いてから大丈夫だと返事をしてくれた。
「その冥府王がいないとなれば、この人界はどうなる?
何か不都合があったりするのか?」
ミーニャの話にグランフォートは厳しい口調で問いただしたが、分からないとばかりに首を振っている。
「そうですね、失礼しました。
しかし、そうなると冥界と人界が常に繋がっていると。
何やらよろしくはなさそうですね」
「そお?
あたしは見えないから何とも思わないけど」
「確かに魔法使いや死霊使いであれ、冥府王の魔力を纏った霊体であれば何も出来ないでしょう。
しかしですよ。
魔法使いや死霊使いが冥府王の居ない事を知ってしまえば、死霊を使い悪さを行うことも考えられます。
そして、それを知るのも時間の問題でしょう」
あぁ、確かに言われてみると可能性はある。
実際にはあたしに関係はないが、民を守る立場のグランフォートであればそんな風に考えるのも頷ける。
「だったらどうするの?」
あたしは率直に聞き返すと両手を広げ首を振った。
「どうにも出来ない、と言わざるを得ないでしょう。
まず、冥府王がいない理由と原因が分からない。
それを知るには霊と接触出来る者を探すしか」
あたしは咄嗟にミーニャを見た、何の考えもなしに。
「それでしたら、また私が!」
「いいや、これ以上は。
寝込ませてしまった上にまだ成そうとしていることが残っているのに、ミーニャを頼ることは出来ない。
この問題は、国として人界の者として立ち向かう事実であると考える。
まずは国王に進言し、それからどうすべきか考えることにしよう」
国に仕えるというのはこういうことなのかと改めて感じた。
あたしの義理の両親もこのようにしていたのかも知れないが、仕事に関してはあまり興味を持っていなかったので、記憶に関してはかなり薄い。
「ありがとうミーニャ、色々と教えてくれて。
さぁ、どうやら食事も出来たようだ。
この話は終わりにして、ブレフトの望みをどう叶えるのか考えましょうか」
そうだった。
ミーニャが寝込んでいる間に少し考えていたが、纏った答えはまだ出ていない。
「そうね。
あたしとしては、女王に直接言いに行きたいところだけど。
ダメなのよね?」
この数日にグランフォートからマグノリア王国のことは色々聞いていた。
それを元に考えようと思っていたのだが。
「通常であれば無理としか言えないですね。
領主の私ですら、会議名目でしか直接は進言出来ません」
「忍び込む?」
「やめてください、お嬢様」
「はっはっはっ。
その前に私が捕まえますよ」
そんなことは分かっている。
では、どうしたら。
大人が隠した事実を子供が周りから伝えてもらっても、信じてもらえないか、または踏み潰されるだけだろう。
「あの、お嬢様。
お祭りで王になると言ったお話は――」
「それよ!
でかしたミーニャ!!」
うっかりしていた。
女王と結婚して王にさえなれば、この問題は簡単に解決する。
目の前のことに囚われ本来の目的を見失っていた。
「王になる?
アテナが?」
グランフォートは首をかしげ、未だ理解出来ていないようだ。
「そうよ!
剣闘技祭というので勝ち進めば、女王と婚約出来るって聞いたわ。
そうなれば王になる日も近いってことよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
アテナ、君は女性……で合っているよね?」
「なに?
まさか、グランフォートまで?
あたしは歴とした女よ。
けどね、愛の力は性別すら超えるの。
だから、あたしが女だとか男だとか関係ないわけ。
女王を惚れさせて、あたしが王になるのよ!!」
一瞬だけ食堂が静寂に包まれると、グランフォートは今までに見せたこともないくらいに大きく笑い出した。
「アテナ、君ほど楽しい人は初めてですよ。
確かにそれなら、叶えることは可能ですが。
出来ますか?」
「やる前にムリだとでも言うと思う?」
「勝ち続けなければですよ?
それも明後日に」
「は?
明後日?」
そんな話、いつ決まったのだ。
「そうですよ。
湖へ行った日に通達が来ましてね」
「お嬢様、剣の練習をしなければ……」
ミーニャの言う通り、あたしはさほど剣さばきは上手くない。
「まぁ、なんとかなるわよ!」
とは思っていないが、今更あれやこれや考えても仕方ないだろう。
今は目の前に並べられた物を腹いっぱい食すのが優先だと、体が言っているようだった。
遅い昼食の後は、闘技祭の概要を説明してもらい、一先ず夕食を取るまではミーニャと共に部屋でゆっくり過ごしているが、少し気になることをグランフォートから聞いていた。
「ちょっと何!?
女王が婚約って!」
「落ち着いて下さい、お嬢様。
先程の話だと、婚約者の方も参加して、未だ候補者の一人だとのお話だったではないですか」
「でもよ!
第一候補ってことでしょ?
ようするに!」
「そうですが……。
でも、その方が負けてしまうと婚約破棄になるとのお話も」
「えっと。
候補者になるには何人に勝てばいいんだっけ?」
「最低でも一般参加の二人で、勝ち進むほどに可能性は高まると言ってました」
そうだそうだ、そんなことを言っていた。
参加者同士で戦った後、国に仕える騎士、騎士隊長、親衛隊と戦うとか。
「ん~。
婚約したからといって必ず結婚するってことじゃないのよね。
他の道が思いつかないし、僅かな可能性にかけるのも悪くないか」
「では、参加するのですね?」
「ここまで来ておいて、後には退けないわ!
でしょ?」
ミーニャはあたしが悩んでいると、いつも心配そうにしている。
その姿をあたしは好きではなかったので、大袈裟に片目を瞑って見せるといつもの笑顔に戻っていた。
「さぁて、問題はどうやって勝ち進むかよね。
どれだけの実力者がいるのか知らないけど、騎士達は間違いなく強いわよね」
「一般の方々もそれなりの実力を兼ね備えていると思いますが。
何か秘策でもあるのですか?」
「秘策?
そんなもの……まぁ、あるとすれば一つだけあるわ」
「あるのですか!?
なんですか、なんですか!?」
勝ち進める希望を見たのか、ミーニャが激しく詰め寄ってきたので堂々と宣言した。
「それは……あたしの色気を使うのよ!!」
胸に手を当て、どうだと言わんばかりに仁王立ちしたが、ミーニャは固まって動かなくなった。
あぁ、これが目を丸くするということなのか。
「なんで?
ダメ?」
「お嬢様……。
また、裸になるつもりですか?」
「またって何よ。
そんな露出魔みたいに言わないでよ」
「あの、私の見解ですけど……色気ってもっとこう、胸が大きかったり脚がスラッと長かったり――」
それ以上のことを口に出させる気はなかった。
「ミーニャ!
そりゃあ、背もまだ小さいし胸だってこれっぽっちしかないけど。
けどね、色気ってのはそんなことだけじゃないの!!」
「それはそうですが……」
まだ何か言いたそうにしているが、口を塞ぐ代わりにミーニャの胸に手を当てる。
「ミーニャだって、そんなに大きくないでしょ。
でも、あたしはミーニャがスゴく可愛いと思っているのよ。
そういうことよ」
「あっ、あっ――。
分かりましたから、もう離して下さい。
もう!
お嬢様はすぐそんなことを」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。
それに、今のは説明をしてあげただけでしょ」
いつもながらに少しイヤな顔をするが、それもすぐに直り心配気な表情をし出した。
「それは冗談だとしても、本当にどうしますか?」
「冗談じゃないんだけどな……。
そうね、グランフォートに相談はするけど。
あとは、あたしの魔法剣に頼るしかないわね」
これといった策は無いものの、あたしの魔法剣は軽さ、強度は一介の剣とは比べ物にならない。
「もの凄く心配ですけど、信じてますね」
「あたしを誰だと思ってるのよっ!
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ミーニャの心配はいつものことだが、出来るならば心配などかけさせたくない。
だからこそ、あたしは強気でいられるのだと思っている。
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