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ルシア12歳、今私にできる事
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しおりを挟む「きれいな花でしょう?」
おっとりした声。
顔はぼやけてわからないが、笑顔だと思う。
優しかった、お母さん。
私が小学校に入ったばかりのある日。
父は突然いなくなった。
仲睦まじい夫婦、というイメージは無かったし、家族でお出かけ、というのも少ない家だったように思う。
父が居なくなる直前数日間は、私と妹が寝静まった後に何か話し合いをしていたようで、大きな声で目を覚ましたこともあった。
…怖くてリビングには近づけなかったから、内容はわからない。
少しして苗字も母親の旧姓に戻り、祖父母のところに移り住んだ。
葬式をした記憶は無い。
「椿って、不吉なイメージを持つ人もいるけど、そんなことは無いのよ?古くから悪いものを払うのに使われていたんですって。」
祖母は同居してすぐ、元々患っていた病気が悪化し亡くなった。
祖父も、それから1年ほどして突然の病に倒れ、結局母は女手一つで私と妹を育ててくれた。
私たちを養うために忙しそうに働いていた母。
妹と二人で過ごす時間がとても多かった。
ただ、母は私たちが寝た後も仕事をしていたようで、夜中にトイレに起きるとリビングには大体電気がついていた。
そんな忙しい母が早朝や休日を使って欠かさなかったのが、庭に咲く椿をはじめとした植物の手入れ。
見上げるほど大きな椿の樹から、春先に椿の花がぽとりぽとりと落ち終わった後、サクサクと余分な枝や葉を切っていた母から聞いた話は、強く印象に残っていた。
椿。
そう、私の名前にまつわる話だからだ。
==========
「目が覚めたか?」
目を開き、ここはどこだったろうか、自室ではなさそうだけど、と天井を眺めてぼんやりしていた私に話しかけてきたのはアレクス殿下だった。
「…はい。ご迷惑おかけしました。」
きっと庭園で倒れた私をこっそりとここまで運ぶのは、誰かの手を借りたにしても面倒だったことだろう。
「体調が悪かったなら言ってくれれば良かったのに。おかげで冷や汗をかいた。痛いところはあるか?具合は?」
「いえ、思いのほか緊張してしまっていたようで…。もうすっかり良いようです。」
起き上がろうとすると、手で制される。
「無理するな。陛下とシルベストリー伯の話もそろそろ終わることだろうから、ここまで迎えを出すように伝えてくる。それまで休んでいるといい。」
殿下の表情からは、心の底から私を労わっているのが伝わってくる。
「申し訳ございません、ありがとうございます。」
「なに、気にするな。俺からそちらに行くことはできないが、そちらから来る分にはシルベストリー伯ならうまくやるだろう。また来てくれ。」
「…ありがとうございます。」
柔らかな気遣いと好意が伝わってくる。
初対面の印象は上々なようだ。
殿下の後ろ姿を見ながら、これは何とかなるかもしれない、とおぼろげに感じていた。
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