クリームソーダのつくりかた

みのり

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第1章

先生との出会い

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 1年生の2学期の後半あたりから、私の成績の学年順位が下がりに下がってしまっていた。今までは187人中70位代だったのが、2年生のはじめにある実力テストではついに100位代まで落ちてしまった。言い訳をするとしたら、部活の練習時間が増えたことや宮内くんとのデートで勉強時間が減ったことが原因じゃないか、と私は思った。

私は宮内くんとお付き合いをする関係にまで発展していなかったものの、ゆきが私たちをくっつけようと必死なあまり、2学期の期末テストの後、ダブルデートをすることになった。

でも、私と宮内くんの関係は相変わらずだった。デートを重ねて、少し前よりは親しい関係になっているかな、と思うくらいで。だいたい、宮内くんと2人で並んで歩いた日から再会したは新学期だったし、その時はお互いあの日のことなどなかったかのように教室で他愛のない話をした。
いや、正確に言えば、“なにもなかったかのように振る舞って”話をした。
私の考えすぎかもしれない、とも思ったが、何処と無くお互いよそよそしくなってしまっている気がした。
宮内くんの好きな人の話にも触れることなく...
私はゆきと夏休みに遊びに行った話などをした。

宮内くんも、ゆきが私と宮内くんをくっつけようとしているのを薄々察している様子だった。それもよそよそしくなってしまった原因のひとつだろう。新学期に入ってから席替えもあり、私は宮内くんと話す機会が徐々に減っていった。そんなとき、ダブルデートのお誘いを受けたものだから、なんだか気まずい思いでいっぱいだったのだ。

でも、宮内くんはダブルデートのときも特に変わった様子もなく、私ばかり考えすぎだったのではと拍子抜けしてしまった。その日のデートは4人で映画館へ行って解散、という感じだったが何か進展があるわけでもなく、強いて言うならやっと宮内くんとLINEを交換したことくらいだ。
まぁそれも、ゆきがあまりに交換しなよ!2人とも!と茶化すものだから不自然な流れにならないように...という感じではあったけれども。

その日から、宮内くんとはなんとなくLINEのやりとりを続けてはいるものの、お互いの恋話に触れることは一切なかった。


「今度2人でデートしよって言いなよ~!」


ゆきが口うるさく毎日のようにそう言うのにも、なんだか気が滅入ってしまいそうだった。これならいっそ、恋人同士になったらいいんじゃないか...とは思うものの、相手とそのような雰囲気にならないのではどうしようもない。


宮内くんとはその後、デートを何回かしてみたものの、つまらないわけではないのだが、どうしても甘い雰囲気になるのを避けてしまっている自分がいた。
宮内くんはいわゆる“お調子者”で、悪ふざけが大好きだった。一緒になって遊んだり笑ったりするのは私も楽しい。しかし、友達と一緒にいるような時間を過ごしている感覚だった。それに、宮内くんはたまに説教くさいことを言う人だった。私はときたま、それにうんざりしていた。
デートを重ねていることがどこからか噂で流れて、私と宮内くんが付き合っているのではないかと思ってる子もいる、とゆきが教えてくれたが






もはや、今はそれどころではない。





「ただいま...。」


私はリビングのドアノブを捻り、俯きながら呟くようにそう言った。部活練習がない水曜日、成績が落ち続ける私を見兼ねてお母さんが『塾に連れて行く』と話していた日だったからだ。


「まなちゃん、おかえり~。」


母親の声にパッと顔をあげると、驚いて目を見開いた。母親の向かい側に座っている、知らない男の人の後ろ姿があった。
その人はこちらを振り返ると、椅子から立ち上がって深々とお辞儀をした。


「初めまして、本日からお世話になる木下まなみさんの家庭教師の伊神修吾です。よろしくお願い致します。」


丁寧に挨拶をしてもらったが、突然の事態に私の頭の中は“?”マークでいっぱいになった。

本日から...?家庭教師?

私はとりあえず私の“家庭教師”になるらしい伊神さんに、目礼をした。


「まなちゃん、突然ごめんね。お隣の裕子ちゃんの先生もしてくれてる方らしいの、相田さんとこの。紹介でね。」


お母さんはごめんね、と言うわりにはまったく悪気がない様子でニコニコしながらそう言った。


「ほら、まなちゃんもご挨拶。もー、すみません。」


お母さんも椅子から立ち上がり、伊神さんに申し訳なさそうにそう言うと、私のほうに駆け寄って、隣に並んだ。


「木下まなみです、よろしくお願いします...。」


私もそう言って、伊神さんに向かって深々とお辞儀をした。


「ちょっと話してから、奥の部屋で始めようかな。びっくりさせちゃってごめんなさいね。」


伊神さんは取り繕った笑顔を浮かべた。私は、なんだか胡散臭そうな人だなぁ...とそのとき思った。
切れ長のたれがちな目、薄い唇、何より肌が真っ白で、痩せていて、猫背気味。なんだか頼りないなぁという印象だった。
初めての家庭教師、しかも私の苦手な男の人...




しかしこれが、私の初恋の人との出会いだった。
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