落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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転移者との遭遇1

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ギースのダンジョンの第1階層最深部。

1階層ながらファイタークラスのゴブリンが幾度も出てくるのは、ひとえにリリスのダンジョンメイトとしての体質のせいだ。

それでもリリアが即座に駆逐するので、リリスとしては何も補佐する必要はない。

リリアに付き添っているマーティンも同様だ。
リリアの様子を確かめながら、最深部へと足を進めていた。

だが第2階層に向かう階段の近辺で、別の冒険者と魔物との闘いが展開しているようだ。
女性の悲鳴が聞こえるのが気になる。

そんなに強い魔物が出たの?

リリスはそう思いながら、悲鳴のする方向に探知を掛けた。
少し背の高い藪で見えないが、その向こうに数体の魔物と二人の女性が闘っているのが分かった。

リリアもそれを探知したようで、即座に自分の周囲に青白く輝く火球を10個出現させた。
今にもそれを放とうとしているリリアである。

リリアったらオーバーキルになっちゃうわよ。

「リリア、少し待って! その火球を全て放つと、辺り一帯が大惨事になるわよ。」

リリアを制してリリスはマーティンと共に、悲鳴の聞こえる藪の向こうに駆け抜けた。

その場に展開していたのは、二人の女性と5体のブラックウルフだった。
一人の女性は剣を持ち魔物と対峙しているが、もう一人の女性はその後ろでショートソードを持って震えている。
その腰に薬草採取用のかごを装着しているので、戦闘職では無いのだろう。
剣を持つ女性の前には何故か大きめのホーンラビットの死骸が横たわっていた。

今にもブラックウルフが飛び掛かろうとしているのを察知し、マーティンが彼女達の前に亜空間シールドを展開させ、リリスは即座にファイヤーボルトを数本放った。
速度重視のファイヤーボルトは高速度で滑空し、投擲スキルの補正を生かして5体のブラックウルフに次々に着弾した。
女性達の目の前で爆炎が上がるが、マーティンの展開した亜空間シールドのお陰で爆炎に巻き込まれる事は無い。

燃え上がるブラックウルフの死骸を前にして、二人の女性はホッとしてその場に座り込んでしまった。

「ありがとう。助かったわ。」

剣を持つ女性が礼を言って頭を下げた。

女性は二人共、20代半ばだろうか。
剣を持つ女性は、金髪で青い目のきりっとした顔立ちだ。
一方薬草のかごを持つ女性は黒目黒髪で、おっとりとした雰囲気を醸し出している。

この時、リリスは不意に強い違和感を覚えた。
足首がジンジンと痛いほどに痺れていたのだ。

異世界通行手形が反応している!
まさかこの人達って・・・・・。

そう思いながらも平静を装い、リリスは二人の状況を把握しようとした。

「危ないところでしたね。そちらの女性は薬草を採取していたのですか?」

リリスの問い掛けに黒目黒髪の女性は頷いた。

「私はリナと言います。私のスキルで、ここに特殊な薬草が繁茂していると知り、仲間のリサと一緒にここに来たんです。でも第1階層からブラックウルフが出現するなんて、聞いていなかったので焦っちゃいました。」

ああ、それって私のせいだ。

リリスは心の中で謝っていた。

リサと呼ばれた女性は剣を鞘に納めると、ホーンラビットの死骸を優しく撫でていた。

「この子は私がテイムしていた魔物なのよ。ブラックウルフ相手には荷が重すぎたわ。」

「えっ? リサさんってビーストテイマーなんですか?」

リリスの言葉にリサは涙目で頷いた。
相棒の魔物を失ったショックが痛々しい。

程なく駆けつけたリリアと共に自己紹介をすると、リナとリサは驚きの声を上げた。

「3人とも貴族の方なんですね。護衛も無しにダンジョンに潜って大丈夫なんですか?」

リサの言葉にマーティンはハハハと笑った。

「一応僕はミラ王国の軍人だからね。それにここに居るリリスと妹のリリアは火魔法のスペシャリストだから、多少の強敵でも抜かりはないよ。」

「でも第1階層からブラックウルフが出現したのは、リリスの影響だろうなあ。」

そう言ってリリスを横目に見るマーティンである。

分かってるわよ。

リリスもそこは認めざるを得ない。
自分がダンジョンに潜ると、突然難易度が高くなる事を二人に説明した。

「ごめんなさいね。そのホーンラビットが犠牲になったのも私のせいよね。」

リリスの言葉にリサは首を横に振った。

「仕方が無いわよ。また別な魔物をテイムするわ。でも・・・・・テイムする手順が手間なのよね。」

そうなの?

リリスはビーストテイマーについてはあまり詳しくない。
そもそもビーストテイマーが自分の周りにほとんどいなかったからだ。

魔法学院の生徒でも、ビーストテイマーは居なかったはず・・・。
ビーストテイマーに見せかけていたサモナーの先輩は居たけどね。

リリアもビーストテイマーは初めて見たようで、興味津々でリサに問い掛けた。

「魔物のテイムってどうやるんですか?」

単刀直入なリリアの質問に、リサは頭を掻きながら口を開いた。

「私の周りにもビーストテイマーってほとんどいないのよ。でも冒険者ギルドで資料を調べると、ビーストテイマーにも色々なタイプがある事が分かったの。稀に生まれつき強い魔物を実装している者も居るけど、普通は実装していないから自分で探す事になる。」

「テイムの仕方にも色々タイプがあって、魔力やスキルで魔物を昏迷状態にしてテイムする者も居れば、力づくで抑え込んで従属させる者も居るのよ。私の場合は後者で、力づくで瀕死の状態に追い込まないとスキルが発動しないの。」

そう言うとリサはふうっとため息をついた。

「これが結構大変でね。自分の力で圧倒する為には、自分の力よりも弱い魔物が対象になる。私は魔法も剣技もレベルが低いから、このホーンラビットをテイムするにも必死だったのよ。」

う~ん。
そうなのね。

「そのせっかく手に入れた魔物を犠牲にしちゃったのね。何だか申し訳ないから、リサさんが別な魔物をテイムするのを手伝うわ。」

「そう言ってくれるのはありがたいけど、リリスが倒しちゃったら意味無いのよ。」

「そうですよね。だからリサさんが一方的に倒せる状況を作れば良いのよ。私に任せて。」

リリスの言葉にリサは半信半疑ではあるが、笑顔でうんうんと頷いた。


とりあえず、二人のステータスが気になる。

リリスはこっそりと二人のステータスの鑑定をしてみた。


**************

リサ・エドワーズ・バーンスタイン

種族:人族 レベル18

年齢:25

体力:1500
魔力:2000

属性:風

魔法:ウィンドカッター  レベル2

   ウインドストーム  レベル1 


スキル:剣技  レベル1

    ビーストテイム レベル2

    従魔連携

    亜空間収納(従魔専用)

    探知 レベル1

        
**************




**************

リナ・ゴトー

種族:人族 レベル18

年齢:25

体力:1000
魔力:2000

属性:水

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター  レベル1

スキル:探知 レベル1

    調合 レベル3
        
    薬草検索 

秘匿領域

    調合セット レベル1 (発動要件不明)

    亜空間収納 レベル1 (薬草・薬剤専用)(発動要件不明)
   

    
**************


う~ん。
リナさんったら、同じ立場の人が見ればもろに転移者だと分かる名前ね。
でも二人共、人並みって言うか、チートらしきものが無いわねえ。
言い方は悪いけど、スキルも魔法も魔法学院の生徒より低いわ。

それに、リサさんって貴族のような名前だけど、転移者だったとしたら元の世界でもミドルネームがある人なのね。
日本人じゃないって事?

リナさんにはかろうじてチートかも知れないスキルがあるようだけど、この秘匿領域って自分でも確認出来るのかしら?
例えチートを授かっていても、持っている事自体に気が付かないと悲劇よね。
それにステータスで確認出来たとしても、発動要件が分からなければ意味も無いし・・・。

二人のステータスを見て、リリスは愕然としてしまった。

転移者だからと言って、チートなスキルや能力を持っているとは限らない。
大した能力も無くこの世界に転移してきたらと思うと、胸が痛くなってしまう。

私って幸運だったのね。
でも私の持っているチートなスキルって、メインはコピースキルと邪眼だったわ。
これってステータスにも表示されないから、ロスティア様から教えられなければ使えなかったのよね。
その事を知らずに元の世界の記憶だけが蘇っていたら、自分はどうしていただろうか?
おそらく土魔法しか扱えず、学院内では役立たずのレッテルを張られ、四苦八苦していたに違いない。
そう考えると、チートの使い方を教わるのも大事よね。
特に未知のスキルや能力となると、自力で解明するのは困難だわ。

リリスはリナが秘匿領域に持っている特殊なスキルの発動を、何とか手助けしてあげたいと思った。
それはスキルや能力に恵まれない転移者の存在を知って、自分が受けたショックが大きかったからである。


ここでリリスは迷った。
リリアやマーティンが居る状況で自分も転移者であると明かすのは拙い。
それ以前に貴族の娘である事を考えると、自分も転移者である事を安易に明かす事にはデメリットもあるだろう。

自分の事を明かさないままに、多少なりとも援助してあげるのが現状での得策ね。

そう考えながら、リリスはリナに話し掛けた。

「リナさんは薬師を目指しているの?」

リリスの言葉にリナは首を横に振った。

「そう言うわけじゃないのよ。薬草の検索スキルと調合スキルがあるから、それで食いつないでいけるって教えられたのよ。」

「教えられたって、誰に?」

「ああ、以前に私が居た村の長老よ。若い頃は冒険者をやっていたそうで、冒険者ギルドにも詳しかったから、色々と教えてもらったの。」

なるほどね。
多分、転移してきた直後に知り合ったのね。

「私って水魔法が使えるんだけど、水魔法って調合には必須なのよね。でも水魔法で魔物退治も出来るって言うけど、ウォーターカッターすら上手く出来ないのよ。何となく魔力の流れが上手く把握出来なくてね。それでリサに用心棒をしてもらっているのよ。」

リナの言葉を聞いてリリアが話に加わってきた。

「リナさん。私も以前は魔力の流れが上手く把握出来なくて、魔法の発動がほとんど出来なかったんです。でもリリス先輩に魔力の流れを調整して貰って、上手く発動出来るようになったんです。リナさんもリリス先輩に魔力の流れを調整して貰ったら良いですよ。」

リリアの言葉にリナはうんうんと頷いた。

リリア。
ナイスフォローよ。
これで自然な流れでリナさんと魔力の循環が出来るわ。

リリスはこの時、自分の魔力でリナの持つ特殊なスキルを刺激してやろうと思っていた。
それによって発動要件の制限を解除出来るかも知れないからだ。

リリスはリナの手を取り、少量の魔力を流して循環させた。
魔力が循環するにつれ、足首がジンジンと痛くなり、今にも異世界通行手形が発動しそうになる。
だが、既に幾度も最適化スキルによって改良されている為、最終的なリリスの判断と許可が無ければ発動しない。

この人ってやっぱり転移者だわ。

そう確信しながら、リリスは魔力を調整してリナが秘匿領域に持つスキルを探った。
これだと言うところに当たりを付け、指向性を付与した魔力を多い目に流し込むと、リナはウッと呻いて手を引き離そうとした。
それを無理やり食い止めて流し続けると、ピンッという音がして魔力の流れが変わった。
特殊なスキルへの魔力の回路が開かれたようだ。

リリスが握っていた手を離すと、リナは後ろに崩れる様に座り込んでしまった。
ハアハアと荒い息遣いをしながら、額に脂汗を滲ませている。

「少し眩暈がするわ。」

そう言ってリナは革袋を取り出し、ごくごくと水を飲んで一息ついた。

「リナさん。落ち着いたら自分のステータスを確かめて。魔力の流れが良くなった事が起因で、ステータスに変化が出てきているかもしれないわ。」

リリスの言葉に頷き、リナは自分のステータスを確かめた。
リナは首を傾げて呟いた。

「これって何だろう? 調合関係のスキルが現われたわ。」

「危険じゃなさそうだから、試しに発動してみるわね。」

リナはそう言うと魔力を循環させ、ステータスに現われたスキルである『調合セット』を発動させてみた。

その途端にリナの目の前に何かが現われたようで、リナは盛んに目の前で両手をあれこれと操作しているのだが、リリス達には何も見えていない。
その様子に気付いてリナは問い掛けた。

「ねえ、あなた達には何も見えないの?」

「何が?」

反射的に答えたリサにリナは説明を始めた。

「私の目の前には薬剤を調合する為の色々な器具が見えているのよ。それを操作してこの場でポーションを作るのも可能みたいだわ。」

そう言いながら、リナは腰に携えていたかごから幾つかの薬草を取り出した。それを目の前に突き出し手を動かすと薬草は消えてしまった。リナはおもむろに魔力をリナの目の前の虚空に流し始めたのだが、ほどなくリナの表情がパッと明るくなった。

「出来たわ。出来ちゃった。この場でヒーリングポーションを造っちゃったわ。」

リナはかごからガラス製の小瓶を取り出し、栓を取って前に突き出した。
小瓶の中に湧き上がる様に赤い薬剤が溜まってしまった。
その小瓶に再び栓をしてふっと魔力を流すと、小瓶はその場から消えてしまった。

「うんうん。ここに収納出来るのね。」

リナは嬉しそうな表情でリリスに礼を言った。

「リリスさん、ありがとう。お陰で二つの特殊なスキルが使えるようになったわ。」

「一つは『調合セット』で、亜空間で調合が出来るようね。もう一つのスキルは『亜空間収納』なんだけど、これは薬草・薬剤専用で、容器に居れた状態で無くても保管出来るって説明されたわ。」

リナの言葉にリサが問い掛けた。

「教えられたって・・・誰に?」

「ああ、このスキルに教えられたのよ。言葉が脳に直接浮かんでくるわ。このタイミングで魔力を流せとか、この薬草をもう少し加えろってね。亜空間収納の事も教えてくれたのよ。」

リナはそう言うと目の前で手を動かしながら更に言葉を続けた。

「薬剤の検索と調合レシピまであるわ。私が知らない薬剤のレシピが山ほどあるのよ。」

うんうん。
生産系のチートなので地味だけど、使いようによっては便利よね。
いつでもどこでも必要な薬剤を調合出来るのは実にありがたいわ。

「ねえ、リナさん。調合出来るレシピの中には毒もあるわよね。」

リリスの唐突な問い掛けにリナはウッと呻いた。

「・・・うん、あるわよ。」

リナの表情が真剣になった。

「それは良いわね。リナさんは水魔法が使えるんだから、毒を水や霧に付与して撒けば、魔物の駆除や魔物除けにも重宝するはずよ。まあ、とりあえず弱らせる目的なら麻痺毒でも良いけどね。」

リリスの言葉にリナは神妙な表情で頷いた。

「リナったら暗殺者で生活出来るわよ。」

からかい気味のリサの言葉にリナは、『止めてよ』と言いながら失笑した。
特殊なスキルが使える様になって、リナに心の余裕が出来てきたようだ。

「さあ、次はリサさんの番ね。下の階層でテイムする為の強そうな魔物を探しましょう。」

リリスはそう言うと、リサを下の階層に続く階段へと促したのだった。











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