落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
13 / 369

ダンジョンチャレンジ 3

しおりを挟む

リリス達に接近するブラックウルフの唸り声が聞こえてきた。そのスピードも速い。

足止めが必要よね。

リリスは魔力を集中させて瞬時に前方10mの位置にアースウォールを出現させた。高さが1m横幅は5mほどの土壁だ。さらにその5m向こうにもう一つ、高さが2mで幅が5mのアースウォールを出現させた。

高さ2mのアースウォールに隠れて、近付くブラックウルフの姿は見えない。それはブラックウルフにしても同じで、リリス達の気配は感じても土壁が邪魔で見えない。それ故にその高い身体能力でジャンプして飛び越えようとしたブラックウルフに向けて、狙いすましたリリスのファイヤーボルトが放たれた。

キーンと言う甲高い飛翔音をあげて高速で飛ぶファイヤーボルトは、ジャンプした3体のブラックウルフのうち2体の腹部から背中に向けて見事に貫き、そのままその身体を焼き尽くした。だがジャンプしたもう1体のブラックウルフはファイヤーボルトに反応して着弾直前に身体を捻って避けようとし、足を吹き飛ばされて土壁の前に落ちた。深手を負い苦し紛れにそのブラックウルフが雷撃を放つ。その雷撃はバリバリバリッと激しい雷鳴をあげてリリスに向かってきた。だがリリス達の前にはもう一つの土壁がある。雷撃はドウンと衝撃音をあげて土壁に直撃し事なきを得た。

「デニス! サラ! アースウォールの両脇に回ったわよ!」

手前に落ちたブラックウルフにスローイングダガーを放ってとどめを刺しながら、リリスは二人に向かって叫んだ。

「「任せて!」」

二人もリリスの意図を感じ取って、アースウォールの両側にそれぞれ、小振りなウインドカッターとウォーターカッターを拡散させて放った。そこに2体のブラックウルフが、アースウォールの両脇から回り込みながら突っ込んできたので、2体ともに負傷しギャッと悲鳴を上げて地面に転がった。
そこに向けてリリスのファイヤーボルトが容赦なく放たれる。
動きの鈍ったブラックウルフなどは、リリスの格好の獲物に過ぎない。

ボスッ。ボスッ。

ブラックウルフの身体を貫いたファイヤーボルトが激しく燃え上がり、あっという間に2体を焼き尽くしてしまった。

「おお! 良い連携プレーだね。」

ロイドは感心しつつもほっと胸をなでおろした。想定外の魔物の出現で、生徒達を守るために自分が戦う局面だと思っていたからだ。ロイドの魔法の技量であれば5体のブラックウルフもそれほど難敵ではない。それでも俊敏な敵なので多少は手古摺るだろうと思っていた。
それを難なく仕留めたリリス達のチームワークに驚かされていたのだった。

デニスはリリスに笑顔を向けて口を開いた。

「お疲れ様、リリス。今後は『土壁のリリス様』と呼ばせて貰うよ。」

「それ、止めてっていってるでしょ! 様を付ければ良いってものじゃないからね!」

「それならスナイパーと呼ぼうか?」

「私はアサシンでもないからね!」

デニスにからかわれるリリスを見ながらも、ロイドはスナイパーと言う言葉が少し気に成った。リリスの放つファイヤーボルトの命中精度に、何かのスキルの存在を感じざるを得ないからだ。だがリリスのステータスにはそれらしきスキルは見当たらない。

まさかと思うがスキルを秘匿出来るのか?
13歳の少女が?
それも何のために?

まあ、今ここでこだわる問題じゃないな。

ロイドは気持ちを切り替え、心に渦巻いた疑問を振り払った。

とりあえず、この第2階層の奥まで進もう。
ロイドは草原の奥の方に向けて進むようにリリス達に促した。

草原の奥に進む事約20分。リリス達の目の前には地下へ続く階段が見えてきた。

「ロイド先生。あの階段は第3階層へ続いているのですか?」

「いや。あの階段は未完成なんだよ。そこまでこのダンジョンが成長していないんだ。あの階段に向けて魔力を放つと少し反応するのだが、何時もそれだけで終わってしまう。何か原因があって第3階層まで成長出来ないのだろうね。」

そうなのかと思いながら、リリスは階段に近寄り、試しに魔力を放ってみた。それに反応して階段の奥が仄かに光を放ったが直ぐに消えてしまった。

「ほらね。こんな感じで、誰がやってもほとんど反応しないんだよ。」

ロイドの言葉にリリスは何故か諦めきれなかった。

「つまらないわねえ。目を覚ましなさい。」

そう言いながら手のひらに小さな火の玉を造り出すと、階段の奥に向けてポイッと投げつけた。
その途端に階段の周囲がグラグラと揺れ、階段の奥から三つの小さな光の球が飛び出して、リリス達の前方約100mの位置に着地した。その光の球が徐々に形を変えていく。そこに姿を現したのはメタルプレートを装着し、手に大きな剣を持つ2体のオーガファイターだ。そしてその後ろに黒いマントを着て、手に杖を持っているのはオーガメイジだろうか。
2体のオーガファイターは剣を振りかざし、巨体を揺らしながらリリス達に向かって駆け出してきた。

「リリス! 何をするんだよ! ダンジョンを怒らせちゃったじゃないか!」

デニスが焦って騒ぎ出したが、今更どうにもならない事は明白だ。
ロイドは背後のオーガメイジが全身に禍々しい魔力を纏い始めたのを感じて、即座に防御シールドを前方に張った。その直後にオーガメイジがファイヤーボールを放ってきた。

ドンッ。

火球がシールドにぶつかり、シールド全体にビリビリと衝撃が走った。

それなりの威力だな。

ロイドはそう感じてシールドを二重に張り直した。

その間にリリスはすでに戦闘態勢に入っていた。レベル4になったファイヤーボルトを二重構造で造り上げ、更に投擲スキルを全開させ、近付く2体のオーガファイターに向けて全力でそのファイヤーボルトを二本放った。

少し太めのファイヤーボルトが激しく回転しながら、キーンと金切り音をあげて高速で飛んでいく。
その様子を見てロイドは少なからず違和感を感じた。
あれがファイヤーボルトか?
ボルトと言うよりは太めの槍だ。

ドンッ。ドンッ。

二本のファイヤーボルトは見事に一本ずつオーガファイターに着弾した。

避ける余裕も無かった。それでもファイヤーボルトなど寄せつけぬと言う自負もあったのかも知れない。オーガファイターはその分厚いフルメタルプレートを過信して、正面からファイヤーボルトを受け止めてしまった。

だがリリスの放ったファイヤーボルトはありふれたものではない。着弾と共に外側の部分でオーガファイターのメタルプレートに穴を穿ち、内部に仕込まれたもう一本のファイヤーボルトがオーガファイターの身体を焼き尽くしてしまった。

その場に立ち尽くしたままゴウッと燃え上がるオーガファイターは、程なく消し炭となって崩れ落ちた。
その威力を目の前にして驚くロイドを尻目に、リリスは再度気を引き締めた。

残るはオーガメイジだ。

ファイヤーボールはロイドの張った防御シールドで防いでいるので、現状ではこちらに危害は無い。だがオーガファイターのように闇雲に飛び出してこないので、オーガメイジの行動範囲を制限する必要がある。

敵の出方を見定めるべく、リリスは斜め上方に二本のファイヤーボルトを放った。ファイヤーボルトは放物線を描き、オーガメイジの身体に向かった。だがオーガメイジはそれを避けようともしない。直撃して火の手が上がるが直ぐに消え去り、オーガメイジも無傷のようだ。

シールドを張ったのか!
それならこいつも自分の防御力を過信しているかも知れない。

リリスは再び二重構造のファイヤーボルトを準備し、オーガメイジに向かって斜行しながら駆け出した。

「危ない!」

ロイドの制止の声など気にもせず、リリスは駆ける。その動きに釣られてオーガメイジがファイヤーボールを放った瞬間に、リリスはオーガメイジの前方10mほどの位置にアースウォールを出現させた。

ドドーンッ。

アースウォールが衝撃で砕け散り、粉塵が舞い上がる。至近距離で爆発した自分のファイヤーボールに怯んで、動きが鈍くなったオーガメイジに向けて、リリスは二重構造のファイヤーボルトを全力で放った。投擲スキルが発動され、ファイヤーボルトの速度も増し、正確にオーガメイジに着弾した。

避けようもない攻撃だが、オーガメイジはシールドを張って躱すつもりだったようだ。それはリリスの思うつぼでもある。

着弾したファイヤーボルトの外側部分がオーガメイジのシールドを破壊し、内部に仕込まれたもう一本のファイヤーボルトがオーガメイジの身体を焼き尽くした。

火の塊となってオーガメイジは崩れ落ちた。
だがよく見ると頭部はそれほどに損傷していない。これはおそらく火魔法に対する耐性を持っていたからなのだろう。リリスにとってはそれなりの難敵だったようだ。

振り返るとデニスとサラはロイドと共にオーガファイターの死骸の傍にいた。リリスの戦闘に感心して拳を上げ、ガッツポーズ見せている。
3人がリリスに駆け寄る事無くその場を離れないのは、どうやらドロップアイテムの出現を待っているようだ。これだけの魔物だから、それなりのドロップアイテムが出現しても不思議ではない。

リリスもオーガメイジの死骸の傍に座り、ドロップアイテムの出現を待とうとした。だがその時に、リリスの頭にあらぬ思いがよぎった。

魔物の魔法やスキルってコピー出来るのかしら?

そうは言っても死んだ魔物と額をくっつけるのは精神的に無理だ。それなら自分の片方の手を魔物の額に付け、もう片方の手を自分の額に付け、魔力で繋いだらどうだろうか?
正気とも思えない想念に駆られ、リリスはロイド達に背を向け、手で額同士を繋いで魔力を流してみた。

だが、驚くことに瞬時にコピースキルが発動されてしまった。

ええっ!
コピー出来るの?

リリスは驚嘆のあまり言葉を失ってしまった。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...