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魔物のスキル
しおりを挟む魔物のスキルのコピー。
思ってもみなかった事態に戸惑いつつ、リリスは作業を続けた。
コピースキルの発動で得た情報では、火魔法とファイヤーボール、その他にスキルとして魔力吸引スキルと見識スキルが確認できた。
この二つのスキルに妙に魅力を感じる。リリスは即座に魔力吸引スキルと見識スキルをコピーし始めた。その途端に頭を鈍器で殴られたような衝撃が走って、思わず顔をしかめてしまったリリスだが、それでも諦めず耐えながらコピーを終了した。
それと共にオーガメイジの身体も崩れるように消えていった。なんとか間に合ったようだ。
コピーしたスキルを確かめるために、リリスは自分に鑑定を掛けてみた。
**************
リリス・ベル・クレメンス
種族:人族 レベル15
年齢:13
体力:600
魔力:1500
属性:土・火
(コピースキルの機能拡張中の為、レベルアップ不可)
(現状で蓄積された経験値は全てコピースキルに充当中)
魔法:ファイヤーボール レベル1
ファイヤーボルト レベル4
アースウォール レベル4
(秘匿領域)
属性:水・聖
魔法:ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
ヒール レベル1+ (親和性による補正有り)
スキル:探知 レベル2
鑑定 レベル2
投擲 レベル3
獣性スキル魔力吸引(発動不可 調整中)
獣性スキル見識 (発動不可 調整中)
**************
コピースキルに不具合が生じちゃったの?
私って変な物をコピーしちゃったのかしら。
オーガファイターやオーガメイジを倒して稼いだ経験値を、レベルアップに回せないようだ。だがスキルに関しては調整中と記されているので、いずれは使えるようになるのだろう。
コピーするたびに強烈な頭痛に襲われるのは止むを得ないのかしら?
気を取り直してまだ痛む頭を摩りながら、リリスはオーガメイジのドロップアイテムである魔石と杖を回収した。
「リリス! 大丈夫か!」
ロイドが背後から声を掛けてきた。頭を摩っていたので怪我をしたと思われたのかも知れない。大丈夫ですと答えながら、リリスは立ち上がり、回収したドロップアイテムをロイドに手渡した。
「ロイド先生。初心者用のダンジョンってこんなにハードなの?」
「いや、今回はどこまでも想定外の連続だよ。オーガファイターやオーガメイジなんて、ケフラのダンジョンでも12階層で出てくる魔物だからね。」
ロイドはふっと息を吐いた。
「リリス君の仕打ちに腹が立って送り込んだんじゃないのか?」
「あんなの冗談じゃないですか。」
「まあ、別な見方をすれば君の魔力に過剰に反応したのかも知れない。ダンジョンと相性の良い人っているんだよね」
そう言われれば経験値の貯まる量がデニス達よりはるかに多いような気がする。
「でも、このダンジョンには嫌われちゃったかも知れませんね。」
「いや、そうとも限らないよ。前例のない強い魔物を送ってくるなんて、ダンジョンの立場から考えると大歓迎の証しじゃないのか?」
そう言う好かれ方は嫌だわ。
そう思って地面にさっと魔力を放つと、それだけで地面がグラグラッと揺れ出し、数十秒間揺れが止まらなかった。
「君はこのダンジョンを餌付けするつもりかい?」
ケタケタと笑いながらロイドは手を振ってデニス達を呼び寄せた。彼等からもドロップアイテムの回収を終え、ロイドの引率で元の第1階層のポータルに戻る間、魔物は一切出現しなかった。駆除された魔物が再度出現するまでには1時間以上掛かるそうだ。
そこから考えても、ここではダンジョンコアが回収出来る魔力量が制限されていると類推できる。ロイドの分析にうんうんとうなづきながら、リリス達はポータルで訓練場の片隅に戻り、この日のダンジョンチャレンジを終えた。
その日の深夜、学生寮で眠っていたリリスの夢の中に、あの白髪で白衣の老人がニコニコしながら現れた。
「リリス。君は私の発想の斜め上を進んでくれるね。」
えっ?
何の事?
「魔物のスキルをコピーするなんて、思いもよらなかったよ。そのお陰でコピースキルが自律的に機能を拡張し始めたのも驚きだがね。」
そうなの?
「前にも言ったようにコピースキルにはまだまだ不明な点が多くあるんだ。元々は完結したスキルだと思われていたので、自律的に進化するなんて思いもよらなかったよ。」
「コピースキルの機能拡張が完了したようだ。自分のステータスを見てごらん。」
老人に言われるままにリリスは鑑定スキルを発動させた。
**************
リリス・ベル・クレメンス
種族:人族 レベル15
年齢:13
体力:600
魔力:1500
属性:土・火
魔法:ファイヤーボール レベル1
ファイヤーボルト レベル4
アースウォール レベル4
加圧 レベル1
(秘匿領域)
属性:水・聖
魔法:ウォータースプラッシュ レベル1
ウォーターカッター レベル1
ヒール レベル1+ (親和性による補正有り)
スキル:探知 レベル2
鑑定 レベル2
投擲 レベル3
魔力吸引(P・A) レベル1
解析
最適化
**************
あれっ?
加圧って何だろう?
それに見識が解析になっているわ。
不思議に思っていると老人が説明を始めた。
「加圧は土魔法で付随的に派生したものだよ。土に圧力を加える魔法だ。アースウォールのレベルと使用頻度が引き金になって派生するんだ。」
この加圧って使い道が良く分からないわね。その他は?
「解析と最適化はコピースキルの拡張機能だ。最適化は普段は使わないスキルで、獣性スキルを人族用に転換する等の必要性に応じて発動される。解析は獣性スキルの見識が人族用に最適化されたものだ。パッシブスキルなので常に発動させておくと良い。」
老人の説明に応じてリリスは解析をパッシブスキルとして発動させた。
それで解析ってどんな事が出来るの?
「試しに魔力吸引スキルを解析してごらん。対象を意識して解析を念じれば発動されるはずだ。」
そうそう。この魔力吸引の(P・A)と言う表記が気に成っていたのよ。
リリスは老人に言われるままに解析を念じた。すると途端に脳内に言葉が浮かび上がってきた。
老人の説明によると解析は疑似人格を造り上げて、リリスの思念に答えようとするそうだ。
『(P・A)はパッシブスキルとしてもアクティブスキルとしても使えると言う意味です。』
『パッシブスキルとしての魔力吸引は魔力の自動補給、アクティブスキルとしての魔力吸引は強制的な魔力の強奪として機能します。』
そう言う事なのね。それならパッシブスキルとして使う事にするわ。魔力の強奪なんて、サキュバスじゃないんだから。
でも、魔物の死骸からこんな風にスキルをコピー出来るなんて、思いもよらなかったわ。他の魔物からも出来るのかしら?
「それは今回がラッキーだったとしか思えないね。普通に野山に居る魔物なら無理だろう。ダンジョンの魔物だった事が、スキルをコピー出来た大きな要因だと思うよ。」
えっ?
それってどう言う事なの?
「ダンジョンでは魔物の身体が生成される時に、ダンジョンコアから属性魔法やスキルが付与されると考えられるからね。」
そうか。
付与されたものだからコピーし易いって事なのね。
「しかもダンジョンでは死んでしまった魔物が、腐敗を待たずにダンジョンに吸収されていく。君はダンジョンコアが回収しようとしていた魔物のスキルをコピーした訳だ。」
うんうん。
でも付与されたもののコピーって、劣化コピーみたいなものね。
「いや、そうとも限らないよ。その証拠に獣性スキルを人族用に最適化する際に、魔力吸引スキルが劣化したとは思えない。むしろおまけが付いて来たんじゃないのか?」
おまけ?
「そう。パッシブにもアクティブにも使えるスキルなんて相当にレアなスキルだよ。本来はパッシブスキルだからね。コピースキルが人族用に最適化する際に派生した特性だとしか思えない。くじで特賞に当たったようなものだよ。」
そう言われると嬉しいけど、使い分ける局面に遭遇しないと価値が分からないわね。
「リリス。今後もコピースキルを君の個性に合わせて更に進化させてくれる事を期待しているよ。それじゃあね。」
そう言って老人は消えていった。だが言い残した事があったのだろう。その声だけが遠くからリリスに聞こえてきた。
「加圧はアースウォールと連動させると面白い使い道があるよ。良く考えてみるんだね。」
そうなのかなあ?
疑問を抱きつつも、リリスは睡魔に襲われて、再び深い眠りに落ちていった。
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