落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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二度目のダンジョンチャレンジ

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エレン達と取り組んだ2回目のダンジョンチャレンジ。

リリスは階段を降りていく。

第2階層も草原・・・・・のはずだったが、目の前には砂漠が広がっていた。

何故に砂漠が?

振り返るとロイドも言葉を失っていた。そして眼鏡を外して目を擦り、眼前の風景を再度確かめ直してふと呟いた。

「驚いたね。装いを変えちゃったよ。こんな力があるのならそれを成長に向ければ良いのに・・・」

そうですよねえ。
私も先生の意見に賛成です。

リリスも心でうなづきながら、砂漠の砂を踏みしめつつ前進した。砂は柔らかく、強く踏みしめるとぎゅっと音を立ててへこんでしまう。
吹く風も蒸し暑い。

日焼け止めが欲しい気分だわ。

振り返るとエレンとニーナがおどおどしながらついて来ている。リリスやロイドの躊躇いが彼女達の不安を増進させてしまったようだ。

これではいけない。

そう思ってリリスは気を引き締めて気合を入れた。さあ前に進むぞと思って一歩出たその時、遠方に黒い影が二つ出現し、砂煙を立てながらこちらに近付いてくるのが見えた。
良く見ると砂の上をすべるように身体をくねらせながら進んでいる。

「砂漠につきものの魔物だね。あれはロックスネークだよ。」

リリスは以前に見た魔物の図鑑を思い出した。固い甲殻に覆われた毒蛇だ。近付いてくるのは2体で体長は5mほどだろうか。

意外にも素早く近付いてくるロックスネークの目の前に、リリスは土魔法で高さ3m幅5mほどの土壁を出現させた。突然出現した土壁にロックスネークも戸惑ってしまう。

さあどう出る?

魔物の気配を探知すると一瞬土壁の向こうで、ロックスネークの動きが止まったのが分かった。こちらからは見えないが、次の瞬間に二体がそれぞれに左右に分かれたのが探知された。

この僅かなタイムラグがリリスにファイヤーボルトを準備させる余裕をもたらす。ロックスネークが土壁の左右に身体を出す気配を感じ取り、リリスは両手に準備した二重構造のファイヤーボルトをタイミング良く、土壁の左右に同時に放った。
キーンと言う金切り音をあげてファイヤーボルトが突き進む。

ボスッ! ボスッ!

土壁の左右に身体を出したロックスネークは避ける事も出来ず、その頭部の固い甲殻を貫かれてしまった。そして二重構造内部に仕込まれたファイヤーボルトがその身体を焼き尽くす。ゴウッと激しい炎をあげて、二体のロックスネークは土壁の両脇で消し炭になってしまった。

その様子を見てロイドもうんうんとうなづきながら感心していた。

「リリス君、タイミングの取り方が見事だね。あの土壁が僕には魔物の墓標に見えて来たよ。」

墓標なんて言わないでよ。

下手をすると今度は墓場のリリスなんて言われかねないわ。

不満を感じているリリスとは裏腹に、エレンとニーナの表情は明るい。5mもある毒蛇が目の前で焼き尽くされてほっとしたのだろう。

「さすがはクラス委員のリリスね。私達では手に負えない魔物でも駆除してくれるから安心だわ。」

「エレン。それってさあ・・・・・」

リリスはエレン達とロックスネークのドロップアイテムである魔石を回収しながら、背後に立つロイドの方に目を向けた。

「本来は担任教師の仕事じゃないかと思うのよね。」

リリスの言葉にロイドはばつが悪そうに視線を逸らしてしまった。だがロイドにも言い分はある。そもそも自分の出番が無いのだ。

君が僕の仕事を奪っているだけだよ。

そう思いつつも言葉にはせず、ロイドは心で苦笑した。このままリリスに任せた方が面白い。次は何を見せてくれるのか楽しみだ。
13歳の少女とは思えない技量と戦術を見せられて、ロイドの心は期待に満ちていた。

「さあ! 先を急ごう!」

ロイドの言葉にリリスは肩透かしを食らわされた。

あらあら、先生ったら誤魔化しちゃったわ。

そう思いながらエレン達と顔を見合わせつつ、気を取り直してリリスは第2階層の奥に進んだ。

しばらく砂漠を歩くと視線のかなたに階段が見えてきた。だがその傍に黒い塊がうずくまっている。
あれは何だろうか?
気を引き締めて歩き続けていくと、黒い塊が尻尾を天に向けてこちら側に動き始めた。

嫌だわ。サソリじゃないの。
ロックスネークよりも毒が強そうね。

砂煙をあげてこちらに近付いてくるサソリを探知すると、体長は約3mほどだが身体を覆う甲殻に魔力の渦が強く感じられる。これはおそらく魔法耐性を持っているのだろう。

距離が約30mにまで近づいた時点で、リリスは投擲スキルをフルに発動させ、ファイヤーボルトを斜め上空に放った。二本のファイヤーボルトは放物線を描いてサソリに向かい、その背中の甲殻に命中した。

だが命中した瞬間にサソリの背中の甲殻が青白い光を放ち、ファイヤーボルトの炎熱を消し去ってしまった。

「リリス! 奴の狙い目は甲殻に覆われていない腹だ。」

ロイドの言葉にうんとうなづき、リリスは近付くサソリの目の前に高さ3m横幅は10m近くもある土壁を出現させた。
この横幅の長さはリリスの土魔法の限界とも言える長さだ。
同時に魔力を集中して探知を掛け、サソリの気配を探る。

これだけ横に長い土壁なら乗り越えるしかないわよね。

そう目論んで気配を探ると、サソリは一瞬躊躇しつつも直ぐに乗り越えようとして動いたのが分かった。
しめしめと思いながらリリスは二重構造のファイヤーボルトを両手に二本準備し、タイミングを見計らって、サソリが乗り越えようとしている土壁の正面に向けて全力で放った。

投擲スキルが発動されて回転と加速が掛かり、ファイヤーボルトがキーンと金切り音をあげて土壁の正面に向かった。サソリが土壁を乗り越えようとして腹をこちらに向けた瞬間に、リリスは魔力を集中させてぐっと腕を突き出し、土壁の直前でファイヤーボルトの向きを斜め上に向かうように念じた。思い込んだら命がけと言うところだろうか。ラノベで火球を誘導する話があったから出来ない筈はない。そんな無茶な発想がリリスの頭に浮かんだのも事実だ。
放たれたファイヤーボルトはまるでリリスの意志が乗り移ったように、グイっと斜め上に向きを変えた。

二本のファイヤーボルトのうちの一本は、土壁から乗り出したサソリの胸のあたりに命中して大きく炎上した。もう一本のファイヤーボルトは曲がりが甘く、土壁の上部に命中したのだが、二重構造の外側が土壁を突き破り、内部のファイヤーボルトがその穴からサソリの腹部の中心部分に命中して激しく燃え上がった。
若干香ばしい匂いが漂ってくる。

エビを焼いたような匂いだわ。

リリスの思いを他所に、サソリの身体は内部から焼き尽くされ、黒い甲殻だけが土壁にもたれかかるように残されてしまった。

ロイドは一連の様子を見てリリスの意図を勘ぐっていた。土壁を貫いてサソリの腹部に命中したのは偶然なのか、それとも計算されたものなのか。
土壁の直前で僅かに斜め上に向いたのは、曲がり方が足りないようにも思えた。だが土壁を破って命中した部位はサソリの一番の急所だ。

まさかと思うが意図していたのか?
それにしても謎の多い子だな。

思いを巡らせるロイドの思いとは裏腹に、リリスはエレン達と談笑しながらサソリの残骸の前で、ドロップアイテムの出現を待っていた。
黒焦げになった甲殻が消えてその場に残されたのは、鈍い光沢を放つ黒い仮面だった。

「呪いの仮面って事は無いわよね。」

リリスの言葉に失笑しながらロイドは仮面を受け取り、綿密に探知してみたが、魔力を纏っているものの呪いは掛かっていない。害は無さそうだと思ってロイドはその仮面を顔に付けてみた。だが何も変化が起きない。逆に仮面の纏っている魔力が気に成ったのだが、ドロップアイテムとしてはどうなのだろうかと訝ってしまう。

「ロイド先生。その仮面を貸してください。」

リリスの言葉にロイドは何の躊躇いも無く仮面を手渡した。

リリスはこの時、とんでもない事を考えていた。

仮面の額から何かコピー出来ないのか?
でも仮面だよと自分で自分に言い聞かせつつも、衝動に駆られて仮面を手に取ってしまった。仮面の額を自分の額に近付けてみると、瞬時にコピースキルの発動する気配がした。

ええっ!
本当にコピー出来るの?

驚きを隠してリリスは考えた。このまま仮面を自分の額に付けているのも不自然だ。なにか目立たずコピーする手段は無いか?
仮面を確かめると額の裏側に突起がある。

これって普通に仮面を被れば、裏側で額と額が接触する事になるんじゃないの。

そう思って仮面をかぶると、直ちにコピースキルが発動した。これなら出来る!
リリスは興奮を隠して仮面を被り続けた。

「この仮面、学院の仮装パーティーに使えそうだわ。」

そううそぶいて仮面を被り続けるリリスに、ロイドもこれと言って疑問を持たなかった。すぐに飽きるだろうと思ったからだ。

リリスはリリスで激しい頭痛に耐えながら、コピーの終了する1分間を耐えていた。ターゲットは仮面を被って見つけた毒操作と言うスキルだ。
それ以外に気配探知と言うスキルもあった。これも気に成る。

お道化た調子でニーナ達に話し掛け、周りの目を何とか誤魔化しながら、リリスは仮面からスキルをコピーした。
自分自身を鑑定してみると、


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル15

年齢:13

体力:600
魔力:1500

属性:土・火


(コピースキルの機能拡張中の為、レベルアップ不可)
(現状で蓄積された経験値は全てコピースキルに充当中)


魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ファイヤーボルト  レベル4

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)
 
スキル:探知 レベル2

    鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル1

    解析 

    最適化

    獣性スキル毒操作(発動不可 調整中)

    獣性スキル気配探知(発動不可 調整中)

    
**************

上手くコピーされていた。

仮面をロイドに返し、エレン達と談笑しながらリリスは帰り道を急いだ。早く帰って一人になった時点で、痛む頭にヒールを掛けたいからだ。ロイドの近くでヒールを掛けると察知されてしまうに違いない。それを避けたいがためにリリスはしばらく我慢していた。第1階層のポータルから学舎地下の訓練場の片隅に転移し、その場で解散となった。

「エレン、ニーナ、先に戻ってね。私は少し用事があるから・・・」

そう言いながらトイレに向かうリリスに誰も不審を抱かなかった。誰も付いて来ていないのを確かめてトイレに入ると、リリスは即座にヒールを自分の頭に掛けた。すーっと痛みが消え、更に身体全体が暖かくなってくる。相性の良さもあって聖魔法に補正が働いているからだろう。

痛みから解放されたリリスは、仮面からコピーした獣性スキルをコピースキルがどんな風に最適化してくれるのだろうかと思うと、その期待に胸が膨らんでいた。








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