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初めてのポーション生成
しおりを挟むある日の放課後、リリスは担任のロイドに託された書類をもって保健室を訪ねた。あいにく保健の先生は午後からの出張で不在だったが、前もって預かっていたカギを使い中に入ると、薬品類の混ざった複雑な匂いがリリスの鼻を突いた。
こんな匂いを嗅ぐと健康な人間でも病気になりそうね。
少し顔をしかめながら、リリスは指示された通り書類を机の上に置いた。直ぐに帰ろうと思ったのだが、部屋の片隅に洗った薬瓶が数本置いてあるのを見つけて、リリスはふと考えを巡らせた。自分のポケットの中にケイトから貰ったマキナ草の葉が数枚ある。しかも保健室の中は誰も居ない。これを使ってヒーリングポーションを造ってみようとリリスは思った。
ポケットから取り出したマキナ草の葉を細かく千切って薬瓶に入れる。その薬瓶の中に水魔法で水を出して注ぎ込む。水魔法で出現する水は精製水と変わらないので、井戸水や普通の飲料水よりもポーション生成には向いているそうだ。
これを火にかけて触媒を入れ、じっくり煎じるのが普通のやり方だが、その代わりに調合スキルを発動させ、両手に満ちた調合の魔力を薬瓶に注ぎ込む。
薬瓶を挟むように握っている手が熱くなって、薬草があっという間に消えていく。これはエキスが抽出されている証拠だ。
熱くなってきたので机の上に置き、直に握らず少し手を離して魔力を注ぎ続けると、ケイトから聞いた通り約5分で赤く透明なポーションが出来上がった。
薬瓶で1本分なので200ccほどになる。後はこれをしばらく放置して冷めるのを待てば良いだけだ。
試しに鑑定スキルを発動させると、
**************
ヒーリングポーション
ランク:並++
効果:服用により体力を300回復可能
付加効果:服用者の体質により相乗効果が現れる
**************
ランクは基本的に並なのね。まるで牛丼だわ。でも付加効果があるのは興味深いわね。
マキナ草の分量をもっと増やせば、より高いランクのポーションが出来るのかしら?
色々と試してみたくなって、リリスは薬瓶に入った赤い透明の液体をしげしげと眺めていた。
ポーションが常温になり、持ち帰ろうとしたその時、保健室の外が急に騒がしくなった。数人の生徒の声が聞こえる。
突然ガラッと扉が開けられ、保健室に雪崩れ込んできたのは4人のクラスメイトだった。
女子はエレンとニーナ、男子はデニスとガイ。ガイは魔法戦士を目指している男子生徒で、ハルバートを扱い身体強化魔法を得意としている。
だがエレンが苦痛に満ちた表情でニーナの肩を借りて歩いているので、何処か負傷しているようだ。
「あれっ? 保健の先生は?」
デニスが間の抜けた声でリリスに問い掛けてきた。
「先生なら午後から出張で居ないわよ。それでどうしたの?」
「ああ。ガイの手元が狂っちゃって・・・」
あたふたとしていて何だか意味が良く分からない。
ニーナに聞くと放課後に訓練場で自主練をしていたらしい。
防具を付けていたエレンの腰にガイのハルバートが当たってしまったと言う。練習用の武器なので刃は潰してあるが、その重量は相当なものだ。
身体強化を掛けていなければガイも振り回せないだろう。
「それで担当の先生は一緒じゃないの?」
リリスの言葉に全員がうっと言葉を詰まらせてしまった。
「あら。先生に無断で自主練をやったのね。それって校則違反よ。最低限でも許可は貰っていないと・・・」
リリスの言葉にうなだれるデニス達を見ながら、リリスはエレンの身体をいたわる様にベッドに寝かせ、周りに気付かれないように鑑定スキルで状態を探った。打撲傷だ。骨折はしていないが、もしかすると骨にひびが入っているかも知れない。
「保健の先生が居ないと・・・・・治療して貰えないよなあ。」
ガイが青ざめた表情でぽつりと話した。確かに治療が必要だ。学校に残っている先生に連絡するしかないか。
そう思いながら、リリスは机の上にヒーリングポーションがある事に気が付いた。自分が先程造ったポーションだ。一応ランクは並なのでそれなりに効果があるはず・・・・・。
「私が実家から持ってきたポーションがあるから、これをエレンに飲ませて。」
リリスの差し出した薬瓶を受け取ったニーナは急いでそれをエレンに飲ませた。苦痛に満ちた表情で声も出ない状態のエレンだったが、ポーションを飲み干して暫くすると、顔色が格段に良くなってきた。
「エレン。腰の痛みはどうなの?」
「・・・うん。治まってきたわ。」
エレンの言葉に周りの生徒達もほっと安堵のため息をついた。
「リリス。ありがとう。このポーションって貴重品なんでしょ?」
申し訳なさそうに薬瓶を返すエレンにリリスは首を横に振って答えた。
「いえ。ランクは並だからそれほどに貴重な物じゃないわよ。多少の付加効果はあるかも知れないけどね。」
そうなのと言いながらエレンはベッドから起き上がり、身体を左右に動かして自分の体調を確かめる仕草を始めた。どうやら完治したようだ。それでも市販のポーションではないので安心は出来ない。
「明日、保健の先生に精査して貰ってね。このポーションは応急措置だから。」
「うん。そうするわ。」
そう言いながらにこやかにほほ笑むエレンの表情を見て、ガイもようやくその固い表情がほぐれてきた。
「リリス、すまないね。恩に着るよ。それで今回の自主練の事なんだけど・・・」
「わかってるって。先生には黙っていてあげるわよ。」
リリスの言葉にガイはほっと溜息をついた。リリスにしてもポーションの出処を詮索されたくないので、内緒にしておいた方が好都合だ。
ヒーリングポーションはまた造れば良いわ。
リリスはそう思って気持ちを切り替え、エレン達を連れて保健室を後にした。
その翌日の朝、午前中の授業の合間にリリスはエレンから興味深い話を聞かされた。
「昨日の晩から顏が火照って、あまり良く寝られなかったの。それで朝起きて鏡で顔を見たら、この通りなのよ。」
そう言ってエレンはリリスの手を取り自分の頬に擦りつけた。
うん? あらっ! すべすべだわ。まるで剥きたてのゆで卵じゃないの。
エレンって確かニキビの痕が酷かったはずだけど・・・・・。
「分かる? 肌が綺麗になっちゃったのよ。これってもしかしてリリスがくれたポーションのお陰なの?」
「う~ん。それは分からないわね。服用者の体質によって付加効果が現れるとは聞いたけど。」
「それならきっとそうよ! ありがとう、リリス。私、ニキビの事を結構気にしていたのよね。」
そう言いながらエレンは涙目になってしまった。ニキビだらけの肌がコンプレックスになっていたのだろう。
それにしてもこんな付加効果が現れるとは思いもよらなかった。感謝して手を握ってくるエレンをいたわりながら、リリスはポーションに付加効果の現れる要因を考えた。だが特別な事はしていない。考えられるとすれば触媒として作用した調合スキルだ。調合スキルと解毒スキルとの連携が確立出来ているから、それに伴う付加効果が現れているに違いない。要するにピンポイントでエレンの顏の肌からニキビの毒素を解毒してしまったようだ。
うんうん。思っていた以上に有能なスキルじゃないの。
それにスキルの連携が相乗効果をもたらしてくれているのも面白いわ。
エレンが席に戻ろうとすると、その背後からニーナがリリスに近寄ってきた。
「リリス。・・・・・私にも頂戴。」
化粧水と勘違いされているのかしら?
「うん。また手に入ったら必ずあげるわね。」
そう言うとニーナは喜んで自分の席に戻っていった。
だがニーナがあのポーションを服用した際に、美容に関わるような付加効果が現れるとは限らない。どんな付加効果が現われるかは服用者の体質によるからだ。
ニーナを適当にあしらってしまった事に若干の自責の念を感じつつ、リリスは次の授業の準備を始めたのだった。
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