落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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課外授業1

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ある日の放課後、リリスは担任のロイドから明日行われる課外授業の打診を受けた。

「課外授業ですか? それって受ける受けないの選択は出来るんですよね?」

「そうだね。でも受けたくなるような授業だと思うよ。ケフラのダンジョンの6~10階層までの探索だからね。」

えっ!
そこまで潜るの?

リリスの驚いた表情を見てロイドはニヤッと笑った。

「非常勤講師のジーク先生が同行するから大丈夫だよ。彼は3属性の魔法を操る王国軍のスペシャリストだからね。実はこの課外授業はジーク先生の主導で始まったもので、才能ある生徒の存在を確認したいと言う王国の意図もある。参加者は各学年から1人づつ選ばれるが、該当者が居ない場合もあるんだ。でも君は間違いなく該当者だからね。」

「と言うか、むしろジーク先生が君に関心を持っていると言うべきだろうね。」

それってどう言う意味だろうか? リリスの心に疑問が過る。
そのリリスの思いを見透かしたようにロイドは付け加えた。

「まあその事はあまり気にしなくて良いよ。いくら君が才能溢れる人物だとしても、13歳の少女に軍に入れなんて王国は言わないからね。」

そこまで心配している訳じゃないんだけど・・・。

「それで課外授業は明日の何時ですか?」

「昼食後の午後2時からだよ。地下の訓練場に集合だから、それなりの装備を着用するようにね。」

ロイドからそう言い渡されたリリスは期待8割不安2割の気持ちで学生寮に戻った。




翌日の午後、レザーアーマーとガントレットを着用し、ポーション類を携帯したリリスは訓練場に向かった。
リリスの他に訓練場に集まっていたのは2人で、先日のクラス委員と生徒会の顔合わせで知り合った4年生のクラス委員のセーラ、そして同じ4年生のモリスだ。
セーラは風魔法と水魔法を巧みに操ると聞いている。だが4年生のモリスは初対面で、小柄で地味な印象の女性だ。

「モリスは召喚術師なのよ。特にこの数か月の技量の向上が目覚ましいからね。」

セーラがまるで自分の事のようにモリスの事を教えてくれた。だがモリスはうんうんとうなづくだけで、あまり喋ろうともしない。基本的に無口な女性なのだろう。

「ジーク先生が来られたわよ。」

その言葉に振り返ったリリスは異様な人物を目にした。金髪で長身の細身の男性だが、その雰囲気がこの世界に何故かそぐわない。むしろリリスが居た元の世界に居そうな人物だ。首のチョーカーがやけに目立つ。それに耳にピアスをしているじゃないの。

この人・・・・・チャラいわね。

例えてみれば若手芸人のような風貌で、とても軍に所属しているとは思えないような雰囲気なのだ。年齢はおそらく40代前半だろう。

「遅れてすまないね。」

レザーアーマーを装着したジークは集まった生徒を見回すと、リリスとモリスを見てニヤッと笑った。

「リリス君とモリス君には初対面だね。非常勤講師のジークだ。よろしくね。」

リリスは即座にジークと挨拶を交わしたが、モリスは軽く会釈して後ろに下がってしまった。ジークのようなタイプの男性が苦手なのだろうか。

「ケフラのダンジョンの6階層からはそれなりに難易度が上がってくるので、君達にはパーティを組んで取り組んでもらう事になる。君達の技量なら問題ないと思うが、どうしても危険な場合には僕が参戦するので心配はいらないよ。これでも僕は単独で40階層までは踏破したのでね。」

単独で40階層まで踏破ねえ。それってパーティを組んでくれる人が居なかったんじゃないの?

そんな突っ込みを心の中でリリスは呟いた。

「魔物との戦闘の際には一応僕から指示を出すので、単独行動は慎むようにね。」

それは当然だろうとリリスは思った。ダンジョンでの単独行動は時として命取りになる。
気を引き締めたリリスはセーラ達と共にジークの引率の元、ポータルからケフラの街に転移した。

一方、ジークは同僚のロイドから聞いていたリリスの資質を見ておきたかった。ロイドの言うには、リリスには謎が多いとの事だ。
持っているレベル以上の事をしているように思えるとも聞く。
更にダンジョンがリリスに異常に反応すると言う話も気に成る。
それを確かめるために、4年生のクラス委員のセーラを担ぎ出した。
ケフラのダンジョンの6階層から10階層程度なら、セーラの魔法の技量だけで充分事足りる。セーラに魔物の相手をしてもらう合間に、リリスにも参戦させてチェックすれば良い。そう思ってジークはケフラのダンジョンに向かった。

ちなみにモリスはセーラの推薦で今回同行する事になった。どうやらグリフォンを召喚出来るらしい。これもチェックしておく必要がある。

速足で歩くジークの後を追ってリリス達もケフラのダンジョンに入って行った。大きな岩山の洞窟の中にダンジョンの入り口があり、その周囲には警備の兵士が常駐しているのは前回も見た光景だ。ジークが学院から発行して貰った許可証を見せて中に入ると、通路の先に苔むした石の階段がありそれを降りると第1階層なのだが・・・・・・。

「ジーク先生。ケフラのダンジョンは第1階層から潜るのですか?」

「いや。第6階層からだよ。踏破者とパーティを組むとすでに踏破した階層に転移出来るんだ。」

なるほどそう言う仕組みなのね。

感心しているリリスの目の前で、ジークは石の階段の脇にある小さな宝玉に魔力を纏った手を置いた。宝玉は仄かに光り、階段の降り口が黒い霧に包まれていく。

『行き先を述べよ。』

階段の奥から野太い声が聞こえてきた。

『第6階層だ。』

『承知した。』

これは誰とやり取りしているのだろうか?
ジークに聞いても軍の機密だと言って詳しくは教えてくれなかったが、どうやら踏破した階層には転移用のマーカーが埋め込んであるらしい。

ジークに付き従って階段を降りていく。

階下で目の前に広がるのは・・・森だった。鬱蒼とした森の中に小径が続く。これが順路なのだろう。
鳥たちの鳴き声を聞きながら小径を歩いていると、ふいに目の前に魔物の気配がした。

「さあ。魔物のお迎えだよ。お猿さんが3匹ほど出てくるはずだからね。」

お道化たジークの言葉にセーラも身構えた。

だがふとジークが渋面を見せた。何だろうと思ってリリスが気配を探知すると、確かに前方の森の木陰から3匹の魔物の近付く気配がある。
だが同時に後ろにも気配が現れた。更に左右にも・・・・・。

取り囲まれているじゃないの!

「こんな筈はないのだが・・・」

困惑するジークに尋ねると、近付いてくる魔物はジャイアントエイプ。近接攻撃に長けた大型の猿で、接触性の雷撃を放つと言う。
雷撃を放つのではないだけまだマシだ。
それでも鋭い爪で傷を負わされた上に雷撃のダメージが加わるのは頂けない。基本は遠距離攻撃だ。

「とりあえず、君達全員にシールドを掛けてあげるからね。頑張ってくれ。」

そういってジークはリリス達にシールドを掛けた。ちなみにリリスは先日手に入れたプロテクトスーツを起動させていたので、その上に更にシールドが張られた事になる。

セーラの目配せでモリスがグリフォンを召喚した。

ガウッと咆哮しながら現れたグリフォンは体長が3mほどで、いかにも獰猛な猛禽の顔つきをしている。その身体は羽の生えた獅子だ。
モリスはこのグリフォンにギルと名付けている。

「ギル! 左右の魔物を退治して!」

モリスの言葉にグリフォンが飛び立った。

それと同時にザザッと森の木立が揺れて、一斉にジャイアントエイプが襲い掛かってきた。キキキキキッと甲高い鳴き声が森に響き渡る。現れたのは真っ黒な手長猿で体長は2m程度。その身体に雷属性の魔力を纏っているのが分かる。

前方の3匹はセーラが放つウインドカッターであっという間に切り刻まれてしまった。これはさすがに巧みな攻撃だ。一つ一つの風の刃の威力が強く、その手数も多いので、機敏に動くジャイアントエイプも避けようがない。

側方のジャイアントエイプにはグリフォンが羽ばたき、機敏に飛び回ってその大きな嘴と前足の鋭い爪で倒していく。だが接近戦なのでジャイアントエイプからの攻撃も喰らい、その雷撃でグリフォンの身体にも少なからず傷が付いてしまった。

その間、後方から襲い掛かってきたジャイアントエイプに対処するのはリリスも役目だ。

3匹ならファイヤーボルトで仕留められるわね。

冷静に両手にファイヤーボルトを出現させたリリスは、とびかかってくるジャイアントエイプに向けて後退しながらそれを放った。
放たれたファイヤーボルトは飛び上がったジャイアントエイプの胸を撃ち抜いた。後退するリリスの目の前にドサッと3匹の魔物が倒れ込んだが、良く見るとまだ生きている。レベル1程度のファイヤーボルトなので威力が弱かったようだ。その上に敵は火属性に対する耐性も持っていたと思われる。

近接距離でもう一度ファイヤーボルトを放って止めを刺したリリスが振り向くと、セーラがアイスボルトでグリフォンの攻撃を援護していた。ウインドカッターを無暗に放つと、味方のグリフォンまで傷つけてしまう。そう考えての援護射撃だが、アイスボルトそのものの威力も大きく、頭部に炸裂したアイスボルトはジャイアントエイプの頭部を吹き飛ばしてしまった。

まあ! 頼りになるお姉さまだわ。

セーラの力量に感心しつつ、リリスはグリフォンの負った傷を気遣った。だが見ているうちにグリフォンの傷が消えていく。どうやら小さな傷なら自分で修復出来るようだ。

戦闘が終了して後に残されたジャイアントエイプの魔石を回収しながら、セーラがジークに呟いた。

「ジーク先生。ダンジョンの様子がいつもと違うわよ。」

「そうなんだよね。どうやらこの中にダンジョンメイトが居るようだ。」

そう言いながらジークは複雑な表情で、リリスの顔をじっと見つめていた。






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