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課外授業3
しおりを挟む課外授業で訪れたケフラのダンジョン。
階段を降りて第8階層に入ると、そこは乾燥した荒野だった。
枯れ果てた草の塊が風を受けて転がっていく。西部劇に出て来そうな光景を見ながら歩いていると、リリス達の前方に黒い塊が2個現れた。
あれってもしかして・・・・・。
リリスの予想を裏切ることなく、現れたのは2匹のサソリだった。体長は3mほどだが、黒ではなく暗緑色の甲殻を纏っている。見た目から如何にも強毒性の魔物のようだ。
「リリス君。分かっているね? 例のものを頼むよ。」
う~ん。まるでシトのダンジョンの再現だわ。
ロイドから情報を得ているのだろうと思いながら、リリスは土魔法の発動のタイミングを見計らっていた。サソリは土埃を舞い上げながらこちらに近付いてくる。キシャーッという鳴き声をあげて、毒針の剥き出しになった尾を振り上げ、20mほどの距離に近付いてきた。
このタイミングだ!
リリスは土魔法を発動させ、サソリの真正面に高さ2m幅5mほどの土壁を出現させた。硬化された土壁だ。
突然目の前に現われた土壁に戸惑いながら、2匹のサソリは回り込む事無く土壁を乗り越えてきた。サソリが壁の上に伸び上がった際に灰白色の胸部が見えたので、分厚い甲殻は背中側だけのようだ。これなら普通のファイヤーボルトで充分だとリリスは判断した。だが、正確に胸部を撃ち抜くには投擲スキルの発動が必須となる。ジークの見ている前で手の内を見せたくないが、この状況では止むを得ない。
リリスは素早くファイヤーボルトを出現させ、投擲スキルを同時に発動させた。スキルの影響で両手に力が漲ってくる。間髪を置かず全力で放ったファイヤーボルトは、キーンと金切り音をたてて高速でサソリに向かって行った。
二本のファイヤーボルトはそれぞれに2匹のサソリを的確に捉え、土壁の上に伸び上がったサソリの白い胸部を撃ち抜き、甲殻の裏側で止まると同時に激しく炎上し始めた。その炎熱がこちらにまで届いてくる。若干香ばしい匂いがしてくるのは気のせいだろうか。土壁をまたぐ姿のままで2匹のサソリは燃え上がり、甲殻だけを残して燃え尽きてしまった。
「なるほど。土壁を有効に使うんだね。」
ジークが背後で感心してリリスの戦闘を見つめていた。
リリスはその視線から逃れるように走り出し、ドロップアイテムの回収に向かった。土壁の傍に辿り着くと、土壁の向こう側に魔石が転がっているのが分かったので、リリスは土壁の向こう側に回り込んだ。だがサソリの甲殻の真下に落ちている魔石を拾おうとした際に、リリスの肩にサソリの甲殻の尾部が落ちてきた。
あっ!
肩にチクッと刺されたように感じた次の瞬間、リリスは息苦しくなり、その場に立てなくなってしまった。毒針に毒が僅かに残っていたのだろうか?
座り込んだまま解毒スキルを発動させると、解析スキルからの状況分析がリリスの脳裏に浮かんだ。
『毒の分析を終えました。解毒可能です。ヒールの要領で傷口に手を当てて下さい。』
教えられるままに手を当てると、肩がスッと軽くなり、息苦しさも消えていった。
毒耐性があったのに影響を受けたのね。余程の強毒だったのかしら?
リリスの思いに解析スキルが反応した。
『その通りです。毒耐性を持たない生身の人間なら重篤な状態に陥っていたでしょうね。』
う~ん。毒持ちの魔物はやはり油断出来ないわね。死んでも毒を残しているなんて。
『でもご安心ください。解析出来ましたので同じ毒を生成出来ますよ。』
そんなものを造らなくて良いわよ。
『ちなみに毒生成スキルはレベルアップしていますよ。』
ええっ!どうして?
『蜘蛛の毒やサソリの毒をサンプリングして分析しましたからね。』
サンプリングと言っても蜘蛛の場合は気化した毒液を僅かに吸い込んだ程度だし、サソリは燃え残りの毒に触れた程度じゃないの。
そんな事でレベルアップするの?
そもそもそんなに毒に拘らなくても良いと思うわよ。
『いいえ。効率の良いレベルアップを目指す為にも、毒は必須です!』
まあ。断言しちゃったわね。これがコミックなら、きりっと言う擬態語が人物の頭上に書かれていそうだわ。
『毒生成スキルは現在レベル3+++ですが、レベル5まで上がると疑似毒腺を体内に造り出せます。これがあると毒を大量迅速に生成出来ますよ。』
ちょっと待ってよ! 毒腺って毒を造り出す器官の事よね。そんなものを私の身体の中に造り出してどうするのよ。レントゲン写真に毒腺が写ったら健康診断でパニックになっちゃうわ。・・・・・この世界にレントゲンは無いけどね。
リリスは徐々に自分が魔物になっていくような不安感を覚えて、解析スキルに疑惑の念を向けた。
『スキルを疑わないでくださいね。スキルの持ち主にとっての最善の効果と結果を常に求めているのですから。』
その最善の結果が魔物化じゃ無いでしょうね。寿命まで超越してリッチを目指しても困るんだからね。
私としては平凡で幸福な人生をこの世界で求めているだけなのよ。
・・・・・・・・・・・・・・。
あらっ、解析スキルが黙っちゃったわ。
まあ、私がしっかりしていれば良いのでしょうけどね。
気を取り直してリリスはサソリが残していった魔石を拾い上げ、ジークの元へと駆け足で戻った。
その後、階下への階段近くで再び2体のサソリに遭遇した一行は、リリスの土壁を利用して難無くそのサソリを倒した。第9階層への階段を降りる。
だがその途中で急に目の前の視界が灰色にぼやけて歪んでいく。
「何事だ!」
最後尾にいたジークが叫んだ途端に、何処からともなく低い声が聞こえてきた。
「申し訳ないが、お前達は今日は此処で帰ってもらうぞ。」
その声と共にリリスの周りの人間がすべてその動きを停止してしまった。
時間が停止したのか?
そんな疑問がリリスの心に湧き上がる。確かに自分だけは普通に動けるからだ。
「リリス。君には用事がある。私に付いて来てもらうよ。」
その言葉と共にリリスの頭上に突然魔方陣が現れて、驚いている間も無くリリスはその魔方陣に吸い込まれるように消えてしまった。
あっと驚いた次の瞬間には周囲が真っ白な空間に変わった。茫然として立ち尽くすリリスの前にマントを羽織った骸骨が立っている。
リッチなのか?
リリスの額に緊張の脂汗が滲み出てくる。リリスはじりっと後ずさりをした。
「怖がらずとも良いぞ。私はこのケフラのダンジョンのダンジョンマスターだ。名はゲールと言う。」
ダンジョンマスターなんて実在していたの?
リリスの心の中には恐怖心と共に中二病的な好奇心がふつふつと湧いてきた。
でもどうしてそのダンジョンマスターが私を呼び出したの?
ケフラのダンジョンに難癖をつけられているのかしら?
戸惑うリリスの表情を見てゲールはニヤッと笑った。否、骸骨が笑ったような気がした。
「君を呼び出したのはこのケフラのダンジョンコアの意志を伝えるためだ。」
「ええっ! ダンジョンコアに意志ってあるの?」
「ああ、あるとも。時には疑似人格を造り上げて出現する事も有る。だが現状では私がダンジョンマスターをしているので、わざわざ疑似人格を造り上げる必要も無い。私の口から直接にコアの意志を伝えれば良いのだからな。」
まあ、それはそうよね。
何となく納得しちゃったわ。
「それで私に何を伝えたいの? 二度とこのダンジョンに来るなって言うの?」
「いやいや。別に喧嘩を売っている訳じゃないよ。」
警戒心を露わにしているリリスに向けてゲールは言葉を続けた。
「君にはシトのダンジョンコアの様子を見に行って欲しいのだ。必要とあれば適度に刺激して貰っても良い。喝を入れても良いぞ。」
思ってもみない言葉にリリスは混乱してしまった。
「ゲールさんが行けば良いんじゃないの?」
「私からの接触は拒まれている。」
「それって引き籠りって事?」
「だからそれを確かめたいのだよ。」
あら、引き籠りで通じちゃったわ。
「でもゲールさんが拒否されているのなら私も拒否されるんじゃないの?」
「君はダンジョンに異様に好かれる体質を持ち合わせている。君はおそらく異世界からの転移者もしくは転生者なのだろうね。その魔力の波動や質が特異なので、ダンジョンコアに有り得ないような影響を与えるようだ。」
異世界人だって見抜かれているわね。
でも私の体質ってそんなに特殊なの?
リリスの思いを気にもせず、ゲールはニヤリと笑った。骸骨なので笑ったように感じられたと言うべきなのだが・・・・・。
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