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課外授業4
しおりを挟むダンジョンマスターのゲールが説明を始めた。
「シトのダンジョンコアはこのケフラのダンジョンコアとほぼ同時期に、この世界に生成されたようだ。だがケフラのダンジョンが順調に成長してきたのに反して、シトのダンジョンは成長が止まってしまっている。その点を憂慮しているのだよ。」
リリスは以前にロイドが口にしていた言葉を思い出した。
「魔力の吸収が上手く出来ていないようだって聞いたわよ。」
「それも少なからずあるかも知れん。だが私はむしろ内的な要因があるのではと考えている。」
それってやはり引き籠りって事?
あるいは怠け者だとか・・・・。
「迷走していると言った方が良いのかも知れないね。」
「君の魔力を少し拝借してシトのダンジョンコアに送り付けてみた。そうすると驚いた事にシトのダンジョンコアが転移ルートを開いたのだよ。君なら会ってやろうと言う事なのだろう。」
やだなあ。
変な相手に好かれちゃったのかしら・・・。
「まあ、とりあえず軽い気持ちで様子を見て来てくれ。」
その言葉を聞いた途端にリリスの足元に闇が展開して、リリスはその中に落されてしまった。
きゃあっ!
驚きと恐怖で息が止まってしまった。
だがすぐに足元に圧縮された空気の塊が現れて、リリスの身体をその闇の空間の底に軟着陸させた。
随分乱暴な転移ね!
怒りを覚えつつ周囲を見回すと、徐々に闇の空間が紫色に変色してきた。その中から目の前に真っ黒な人物が近付いてくる。だがその輪郭がぼやけていて風貌が良く分からない。すぐ目の前に近付いても輪郭がぼやけてしまっている。何者だろうか?
「君がリリスだね。君の事はゲールから聞いているよ。」
人影が軽くお辞儀をした。
「僕はこのシトのダンジョンコアが造り上げた疑似人格だ。シトと呼んでくれれば良い。」
リリスはシトに軽く会釈をした。
「君は僕の様子を見に来たのだろう? 奴らには自分の好きなようにやっているよと伝えてくれ。」
随分素っ気ない返答ね。
でも・・・。
「シトにはゲールのようなダンジョンマスターは居ないの?」
「僕はリッチが嫌いなんだよ。」
やっぱり変人だわ。
魔物の好き嫌いをしている時点で変よね。
「ダンジョンマスターが居ないので成長しないの?」
「それもあるが、そもそも僕は何もしないでのんびりして居たいんだよ。ゲールには怠け者扱いされているようだがね。」
立派に怠け者だわよ。
「リリス。君は今、失礼な事を考えなかったかい? 僕も働くときは働いているんだよ。」
はいはい。
2階層まででね。
それで働いているって言うのかしらねえ。
「まあ、それは良いとして・・・」
あら。
都合が悪くなって話題を変えられちゃったわ。
「僕の近くの地層に可愛い子が眠っているんだ。こんな子ならダンジョンマスターになって欲しいなって思うんだけど、君が起こしてくれないかな。封印が掛かっていて僕にも手を出せないんだが、君の魔力の波動なら封印が解けるように思うんだよ。」
「シトにも出来ないのに、私に出来るの?」
「君のような・・・この世界に稀有な存在であればね。一応君の魔力をサンプリングしてシュミレーションはしてみたんだよ。」
そんな事までしていたのね。
「お願いだ、やってくれよ。やってくれないとダンジョンの魔物からコピーしたスキルの著作権を請求するぞ。」
「ちょっと待ってよ! 著作権ってこの世界にもあるの?」
「いや。君の記憶を探ってみて該当する概念を探しただけだよ。冗談だから・・・」
脅かさないでよね。
そんなものが本当にこの世界にあったら、コピースキルを自在に使えないじゃないの。
「わかったわよ。それでどうすれば良いの?」
「ありがたい。感謝するよ。」
「今からその封印された子の傍に連れていくので、魔力を纏った手で触れてくれれば良いだけだ。」
「そんな簡単な事で封印が解けるの?」
「すでにシュミレーションしたって言っただろう。君の僅かな魔力に異様に反応を示していたよ。」
そうなの?
でもその眠っている子を起こして大丈夫なんでしょうね。
暴れまわったりしないの?
そう思った途端にシトが行くよと声を掛けると、リリスの足元に闇が展開されて、リリスは再び闇の中に落された。
「この転移の仕方は止めてよね! 心臓に悪いわ!」
闇の底でそう叫んだリリスの目の前に、淡い光を放つ豪華な装飾の棺桶が浮かんでいた。
これってバンパイアじゃないの?
嫌な気配を感じながらその棺桶の傍に近付くと、その棺桶の扉が突然半透明になった。中の様子が見える。
確かにその中には色白で金髪の少女が眠っていた。年齢は自分と同じくらいだろうか。確かに可愛いわね。
リリスはその姿かたちからバンパイアでは無さそうだと感じた。
そのリリスの背後にシトがにじり寄ってきた。
「さあ、リリス。やってみてくれ。」
言われるがままにリリスは手に魔力を纏ってその棺桶に触れてみた。
その途端に棺桶全体が光を強く放ち始めて、瞬時に消え去ってしまった。
ええっ! 大丈夫なの?
リリスの疑念を他所に、目の前に赤いドレスを着た少女が立ち、その緑色の瞳をリリスに向けた。
「こんなに早くあたしを起こしたのはあんたね。何の用なの?」
う~ん。
素っ気ない表情にこの言葉。
ツンだわね、この子。
「用事があるのは私じゃないのよ。シトが用事があるので起こしたのよ。」
その言葉とほぼ同時にリリスの背後にいたシトが、その少女の身体をふっと包み込み、そのまま消えていった。
「そう。そうだったのね。了解したわ。」
何があったのだろうかと戸惑っているリリスにその少女は笑顔を向けた。
「いま、一瞬で交渉が済んだのよ。ダンジョンマスターをしてあげる事になったわ。」
話が早いわね。意志だけで交渉したのかしら?
「改めて自己紹介するわ。今回このダンジョンのダンジョンマスターになったタミアよ。あたしは本来、あと5000年は眠っている筈だったの。もう一度眠りに入ろうとしたら、ダンジョンマスターをやってみないかって誘われて、期間限定で良ければって事で・・・」
期間限定って5000年間って事?
随分長い期間限定だわね。
「シトのコアと気が合ったのよ。あたしもマイペースだからのんびりと運営していくわ。」
「それでタミアって・・・・・何者なの?」
「あたしの本体は亜空間で休眠中よ。あたしはその休眠状態から励起させるためのキーに過ぎない。この大陸にあたしを含めて7体のキーが眠っているの。そのすべてのキーが眠りから覚めて一つに合体して初めて本体が地上に降臨するのよ。」
「タミアの本体って・・・」
「カサンドラ=エル=シヴァ。破壊の亜神とも呼ばれているわ。」
それって神話の登場人物じゃないの!
地上を全て火で焼き払ってしまう、神のごとき存在・・・。
とんでもないものを起こしちゃった。
リリスの表情を読み取って、タミアはふふふと笑った。
「心配いらないわよ。カサンドラ=エル=シヴァの再降臨はまだ5000年も先の話だからね。」
「それにしても何故地上の物を全て焼き払ってしまうの?」
リリスの言葉にタミアはう~んと唸って首を傾げた。
その仕草にリリスは不覚にも可愛いと思ってしまった。
「特に理由って無いのよね。それが存在目的だから・・・」
出鱈目な世界だとリリスは思った。だが同時にそれがこの世界の理なのだろう。
それはそれで受け止めるしかないのだ。
「リリス。地上に戻してあげるわね。」
ちょっと待って!
そう言おうとした途端にまたリリスの足元に闇が展開されて、リリスは三度その闇に吸い込まれるように落ちていった。
これは止めてって言ってるでしょ!
リリスの心の叫びが通じなかったようだ。
ふと気が付くとケフラのダンジョンの入り口に、ジーク達と一緒に茫然と立っていた。どうやらジーク達との時間差無く転移されたようだ。
ジーク達も茫然として立っていたが、ジークがふと口を開いた。
「追い出されちゃったのか? ダンジョンの気に入らない事でもしてしまったのか?」
お互いに訳が分からないと言った表情で視線を交わす中、リリスも同様に分からない振りをしている他に仕方が無かった。
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