落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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宝玉の中身

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冗談を言いながら小箱を手渡したフィリップ王子のニヤけた顔に、少しイラッとするリリスである。


「これは王家の倉庫に眠っていた宝玉だよ。これも良かったら貰ってくれたまえ。」

手渡された箱の中には直径が10cmほどの黄金色の宝玉が入っていた。透明で強い魔力を纏っている。だがよく見るとその宝玉の中に黒い点が二つ入っていた。

「その黒い点はその宝玉の纏う魔力の根源だ。それが何かは分からないんだが、放たれている魔力は穏やかで心が癒される波動だと思うよ。」

「そうですね。確かに穏やかで癒されますね。ありがとうございます。」

そう答えながらもリリスはその黒い点が気に成っていた。何故かリリスのコピースキルが微妙に反応しているからだ。
直ぐにでも鑑定したいところだが、フィリップ王子の目の前であまりスキルを披露するのは得策ではない。ここは単純に喜んでいる様子を見せておこう。
そう判断してリリスは再度頭を下げ礼を述べた。

するとフィリップ王子はリリスの目に前に立ち、その手を取った。

えっ!
今度は何?

驚くリリスにフィリップ王子は笑いかけて、

「リリス。君の魔力はかなり特殊なようだね。少し僕に魔力を流してくれないか?」

「僕は魔力の感知に関しては特殊なスキルを持っているんだよ。それはロイヤルガード達とのやり取りでも有用なんだけどね。」

そう言えばこの人はドルキア王国の諜報機関のトップだったわね。そこから考えても単なるシスコンではないと思うんだけど・・・。

あれこれと考えながらも、リリスは言われる通りにフィリップ王子の手に魔力を流した。

フィリップ王子はうんうんとうなづきながら、その魔力を味わうように感じ取っていた。

「これはかなり特殊な魔力の波動だね。魔力を貰いっぱなしでは申し訳ないので、僕からも魔力を送るよ。」

そう言ってフィリップ王子はリリスの手に魔力を流した。暖かい魔力が流れ込んでくる。
だが、ふとリリスはその魔力の最後に何か不純物のようなものを感じた。

これって何だろうか?

ふと感じた疑問ではある。だがそれほどに強くこだわるほどの物でもないので、敢えてスルーしてフィリップ王子の魔力を受け入れ、礼を言って触れていた手を離した。微かに解析スキルのざわめきを感じる。

しばらくの間歓談して、リリスは学生食堂から生徒会の部屋に向かった。だが生徒会の部屋には誰も居なかった。リリスはこのまま寮に帰ろうとしたのだが、フィリップ王子から貰った宝玉が気に成っていたので、生徒会の部屋に入ると椅子に座り、改めて黄金色の宝玉を取り出した。

これって琥珀かしら?
メノウじゃないわよね。

宝玉をしげしげと眺めながら、リリスは解析スキルを発動させた。

これって単なる宝玉なの?

『琥珀をベースにした人工的な宝玉です。おそらく古代の技術で造り上げられたものでしょう。ですが・・・・・』

『この宝玉の中に封じられているのは2体の魔物ですね。』

ええっ!
この黒い点って魔物なの?

『すでに封印されて魔力を吸収され、外殻も完全に消滅してしまっています。もはや存在そのものが風前の灯火ですね。』

『構造としては強力な魔法を操る高位の魔物を封じ、その魔物の魔力を術式で変換しながら害の無い魔力を放っているのでしょう。』

それって封じられた魔物が電池代わりって事なの?

『残酷な仕様ですが、そう言う事です。でもスキルはコピー出来ますよ。』

えっ?
どうして・・・・・。

もしかして、魔物とこの宝玉を介して接触出来るから?

『そうです。可能なはずです。ただ、魔物の存在そのものがもはや消えつつありますので、サルベージしながらコピーするのが良いと思われます。』

サルベージってどうするの?

『魔力吸引をアクティブにして、魔力を吸引しながらコピーするのです。』

そんな事をしたら魔物が消滅してしまうんじゃないの?
止めを刺す事になりそう・・・。

『スキルを活用してあげれば良いのではないかと思います。それが旅立つ者へのはなむけではないかと・・・』

う~ん。
後味が悪くなりそう。

そう思いながらもリリスは宝玉を額に付けた。瞬時にコピースキルが発動され、魔物の持つスキルが脳内に浮かんできた。

高位の火魔法と闇魔法。魔力誘導。魔装。

この魔装って何だろう?

『闇魔法はコピーしない方が良いでしょう。聖魔法と相殺されて補正がなくなってしまいます。』

そうでしょうねえ。
聖魔法と闇魔法を両方持つなんて無理があるわよね。

とりあえずリリスは宝玉の魔力を吸引しながら闇魔法以外のものをコピーした。だが意外にもコピー時の鋭い頭痛が現れない。魔物の生命反応がほとんど無いので、物質からコピーしているようなものだ。それ故に頭痛が無いのだろうとリリスは判断した。

スキルのコピーと魔力の吸引によって、宝玉の中の黒い点は完全に消え去ってしまった。

成仏してね。

そう思い、心の中で手を合わせたリリスであった。

『魔物の正体がようやく判明しました。魔人とピクシーですね。』

ええっ! 魔人なの!
魔人のスキルをコピーして大丈夫なのかしら?

若干の不安を感じつつ、リリスは自分自身に鑑定を掛けてみた。


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル18

年齢:13

体力:800
魔力:1700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ファイヤーボルト  レベル4

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

 
スキル:鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル1

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    解析 

    最適化


    獣性スキル高位火魔法(発動不可 調整中)

    獣性スキル魔力誘導(発動不可 調整中)

    獣性スキル魔装(発動不可 調整中)

       
**************


上手くコピーされたようだ。

『獣性スキルの最適化にはそれほど時間が掛かりません。数時間で処置できると思われます。』

そうなの?
それは楽しみだわ。

リリスは宝玉を制服のポケットにしまい込み、生徒会の部屋から寮へと戻った。

その日の夜、明日の授業の準備を終えてベッドに入ると、解析スキルがリリスに獣性スキルの最適化終了した事を伝えてきた。
それを確認すべく自分自身に鑑定を掛けると、


**************

リリス・ベル・クレメンス

種族:人族 レベル19

年齢:13

体力:800
魔力:1700

属性:土・火

魔法:ファイヤーボール  レベル3+

   ファイヤーボルト  レベル5+

   アースウォール   レベル4

   加圧        レベル1



(秘匿領域)

属性:水・聖

魔法:ウォータースプラッシュ レベル1 

   ウォーターカッター レベル1

   ヒール       レベル1+ (親和性による補正有り)

 
スキル:鑑定 レベル2

    投擲 レベル3

    魔力吸引(P・A) レベル2

    魔力誘導 レベル3 (獣性要素による高度補正有り)

    探知 レベル4++ (獣性要素による高度補正有り)

    毒生成 レベル4+ (獣性要素による高度補正有り)

    解毒  レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    毒耐性 レベル2+ (獣性要素による高度補正有り)

    調合 レベル2

    魔装(P・A) (妖精化)

    解析 

    最適化

**************


火魔法が底上げされている。それに伴って総合レベルも上がっているわ。
魔力誘導は最初からレベル3なのね。

『試しに魔力誘導で自分の身体の内部を探ってみてください。魔力の触手で体の中を辿っていく感覚です。』

それってタミアに脳の中を探られた時のアレなのね。

リリスが魔力誘導を発動させると、リリスの頭から2本の触手が生えてきた。否、生えてきたような感覚だけだ。だがそれでも自分の意志の通りに動く感覚がある。

面白いわね。

解析スキルの勧めるままに、自分の身体の内部に魔力の触手を打ち込んでみた。少し気味の悪い感覚はあるが、思った以上に体の内部を精査出来る。身体の中を巡らせるに連れて、自分の内臓や筋肉の弱っている部位が分かる。更に体内組織の魔素の濃淡まで見えてくる。

『魔力に毒性の魔素を組み込んで相手の体内に撃ち込むことも可能ですよ。』

そんな悪辣な事まで出来るの!

『そもそも魔人のスキルですからねえ。』

それはそうだろうけど、私は暗殺者じゃないからね。悪用はしないわよ。

『いずれ恋敵に使いたくなる時が来るかも知れませんよ。』

いやいや。
それは駄目だって。

でもこのスキルは有意義に活用させて貰うわよ。

この時リリスは、このスキルを早速使う事になるとは思っていなかった。







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