落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

文字の大きさ
54 / 369

ニーナの再チャレンジ

しおりを挟む

ニーナの再チャレンジの日。

リリスの予想通り、エレンはガイを同伴させてきた。

「ガイ。どうしてあんたがついて来たのよ。」

リリスの問い掛けにガイは平然と、

「俺とエレンと二人で一人だと思ってくれよ。」

何を言ってるんだろうかと思ってエレンを見ると、今のガイの言葉でやだぁとか言いながら照れて赤くなっている。

馬鹿じゃないの?

呆れてロイドを見ると、目を逸らしてしまった。見て見ぬふりと言う事なのだろう。

「リリス。耐えて。」

気を遣ったニーナの言葉が心に痛い。

「別に嫌だと言ってるんじゃないからね。」

気を取り直してリリスはニーナに問い掛けた。

「ニーナ。心の準備は出来ているの?」

リリスの言葉にニーナの表情が急にきりっとして、目が力強く光った。

「うん。大丈夫。今日はリリスには面倒を掛けないからね。」

穏やかな口調だが言葉にも力がこもっている。

この様子なら大丈夫そうね。

気を引き締めてリリスはニーナ達とシトのダンジョンに向かった。



ダンジョンの1階層に入ると、担任のロイドが全員にシールドを張ってくれた。リリスはリリスで魔道具に魔力を流して、簡易シールドを発動させた。リリスの身体を透明なウェットスーツが包み込むような感覚だ。

さあ出発と言うその時に、リリスの目の前に赤い衣装を着たピクシーが現われ、リリスの肩にスッと座った。タミアだ。

早速来たわね。

緊張するリリスに念話が伝わってきた。

(いらっしゃい。歓迎するわよ。)

(わざわざお出迎えとは有り難いわね。)

笑顔の無い言葉のジャブのやり取りだ。

(でも珍しいわね。リリスが此処に来るなんて。もっと難易度の高いダンジョンじゃないと満足出来ないんじゃないの?)

(そんな事は無いわよ。今日はそこに居るニーナの補佐で来たのよ。再チャレンジなのでお手柔らかにね。)

ピクシーは身体を傾けてニーナの方を見た。

「そのピクシーってリリスの使い魔なの?」

ピクシーと目が合ったニーナは、リリスに無邪気に問い掛けた。

「そうなのよ。上空からの偵察に使ってみようと思っているので気にしないでね。」

そう答えてリリスはタミアに念話を送った。

(そう言う事にしておいてね。まさかこのダンジョンのダンジョンマスターだなんて言えないからね。)

(分かったわ。それでそのニーナって子なんだけど、なかなか面白いスキルを持っているわね。)

タミアはニーナに関心を持ったようだ。

(この子ってゲームで言えば、アサシンかシーフね。)

まあ、確かにそうなんだけど・・・・・。

(良いわ。この子に合わせた仕様でダンジョンを組み替えてあげるからね。楽しみにして。)

そう言いながらピクシーは上空に飛び立っていった。

(難易度を高くしないでね!)

(はーい!)

リリスのお願いに明るい口調で念話が返ってきた。

返事は良いんだけどねえ。実際にはどうなんだか。

若干の不安を感じつつリリス達は第1階層を進んだ。

草原の木立から現れた3体のゴブリンに向けて、ニーナは早速ウィンドカッターを放って攻撃した。その手数が多い。小さいながらも20個以上の水の刃が蜂の群れのようにゴブリンに向かう。更に間髪を入れず第二陣を放つニーナに隙は無い。

同級生に比べて魔力量が多いから瞬時に連続攻撃が出来るのね。

リリスは前回のチャレンジでのニーナのおどおどしていた姿を思い出して、別人のような手際の良さに驚いていた。おそらくニーナ自身も今日を迎えるまでに自主練をしていたのだろう。

ニーナの放ったウォーターカッターは小さな刃なので致命傷にはならないが、それでも数の暴力でダメージを与え続ける。3体のゴブリンは瀕死の状態でその場に倒れた。すかさずニーナは短剣を取り出し、ゴブリンに止めを刺した。その表情に迷いはない。

「私の出番は無さそうね。」

リリスの言葉にエレンはうんうんとうなづいた。

「ニーナってすっかり頼もしくなっちゃったのよね。でもリリスってダンジョンメイトなんでしょ? 凶悪な魔物が出てきたらお願いね。」

エレンの言葉にガイが首を突っ込んできた。

「その時は俺が守ってやるよ。」

「やだぁ。ガイったら。」

はいはい。ご馳走様。
付き合ってられないわ。

そう思って後方のロイドを見ると、リリスはまた目を逸らされてしまった。

仕方が無いなあと言う視線を送りながら、ニーナは何時の間にか先頭に立ち、フロアの奥に再度進み始めた。
だが草原を少し進んだ時、ニーナは突然周りを制して立ち止まった。

「罠が仕掛けてある。」

そう言いながら探知を巡らせると、ニーナは大きめの石を持ち前方に投げつけた。石が地面に落ちた途端に地面から土の槍がグッと突き出した。その数は約30本。斜めに交差してダメージを加える形式だ。横幅10m奥行2mほどの領域が土の槍で埋め尽くされた。

これって土魔法のアースランスよね。

(タミア! あんた、土魔法はダサいって言ってたじゃないの!)

(そんな事言ったかしらね?)

しらばっくれてるわね。

気を取り直してリリスは前に進んだ。だが50mほど進むとまたニーナが立ち止まった。

全員を制して周囲を探知すると、前方の地面にかがみこんで何かをし始めた。手に魔力を纏っている。これは罠の解除のスキルを使っているのだろう。
ニーナが立ち上がり、何かを試すように少し前に進むと、5mほど離れた両側の藪から合計40本ほどの矢がドサッと前に落ちてきた。

「ニーナ。あれって解除していなかったらそのまま飛んできてたの?」

エレンが呑気に尋ねると、ニーナはうんうんとうなづきながら、地面に落ちた矢を一本拾い上げた。それをリリスの目の前に持ってきたのだが、その先端がドロッと緑色に濡れて光っている。

「毒矢じゃないの!」

「悪質な罠だよね。」

そんなに落ち着いている場合じゃないわよ、ニーナ。
それでも解除に自信があって意に介さないのかしら?

リリスは鑑定スキルを発動させた。


**************

ニーナ・メル・ハーネスト

種族:人族 レベル11

年齢:13

体力:500
魔力:1100+

属性:火・水

魔法:ファイヤーボール  レベル1

   ウォータースプラッシュ レベル2 

   ウォーターカッター  レベル2

秘匿領域

スキル:探知 レベル2

    隠形 レベル1
        
    罠解除 レベル2

    暗視 レベル2

    千里眼 レベル2

    魔力吸引 レベル1
      (阻害要素により発動不可) 

呪縛要素:商人の枷 ステージ1(残余15%)
     商人の枷 ステージ2(無効化処置完了)
     商人の枷 ステージ3(無効化処置完了)

    
**************

以前に比べてスキルのレベルが上がっている。相当自主練を積んだのね。
それに<商人の枷>の影響も僅かに減少している。

ニーナのスキルの使用状況って分かる?

『上手くスキルを連動させていますね。探知スキルと罠解除や千里眼や暗視を連動させて、効率よく罠の確認と分析をしているようです。』

『探知と千里眼と暗視の連動で、常人には気付かない高度な偽装さえ見破っていますね。シーフとして立派に大成出来ますよ。』

いやいや。
大商人の娘がシーフになってどうするのよ。
でもニーナがそれで生き生きとダンジョンに潜れるのなら良いのかな。

リリスの思いを知る事も無く、ニーナは更に前方に進んだ。だが第2階層への階段の近くまで来て、ニーナはまたも立ち止まった。

「階段の降り口に罠がある。」

そう言いながらニーナが小石を取り上げて階段の降り口に投げると、バリバリバリバリッと目も眩むような閃光と雷撃が走った。

「おいおい。こんな罠なんて何時から仕掛けられていたんだ?」

ロイドも唖然として階段を見つめている。ニーナは階段の降り口の前にかがんで、罠の解除を始めた。30秒ほどで解除を終えると恐る恐る足を踏み出したが変化はない。うんうんとうなづきながらニーナが階下に進んでいく。

「ニーナ。急いでいかないでね。」

「大丈夫。しっかり探知出来ているから。」

探知のみならず千里眼や暗視まで駆使しているからだろう。自信に漲るニーナだ。


第3階層までは同じような造りだったが、第4階層に入って様相が変わった。草原の向こうからブラックウルフの群れが近付いてくる。その数約20。

流石にここはリリスの出番だ。チームで闘わないとあの数のブラックウルフは倒せない。

リリスは魔力を集中させて敵の接近を待っていた。








しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...