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開祖の意図
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リリスの目の前で黙り込んでいたチャーリーがようやく口を開いた。
「これは人払いの結界を加護の形で造った物やね。それを僕の加護で包み込むことで大地に定着させてるんや。よくこんな事を考えたな、あいつ。」
「人払い?」
「そう。前にも言うた通り、闇の亜神は人見知りで陰キャなんや。どちらかと言うと引き籠りに近いかな。そいつの加護を大地に定着させて、他国からの侵入を阻むつもりやと思うよ。王族の生命力を注ぎ込む事で、その王族の支配地域全体にその効果を波及させてるんや。」
そんな事って・・・・・。
唖然とするリリスに代わってメリンダ王女の使い魔が口を開いた。
「でもそんな事をすると結果的には国全体が鎖国状態になりませんか?」
「そこは人族の外交努力で何とでも出来るやろ? それにこの結界は悪意を持って侵入してくる者を拒否するようになっている。好意を持って入ってくる者にはそれほど影響は無いよ。」
チャーリーの表情を見ながらリリスはおもむろに尋ねてみた。
「ねえ、チャーリー。この宝玉の持つ加護を維持する為には、どうしても王族の生命力が必要なの?」
リリスの言葉にチャーリーはハッとして、リリスの肩にくっついている使い魔の芋虫をまじまじと眺めた。
「そうか。このお嬢ちゃんが犠牲になる流れになってるんやね。それって酷い契約やな。」
チャーリーは少し考え込んだ。
「でも・・・それなら何とかなるで。」
「えっ! 本当に?」
「ああ。僕の加護を強めて宝玉をしっかりと包み込めば大丈夫や。僅かな加護でも広範囲に効力を広げれば良いだけやろ?」
チャーリーの言葉に芋虫が左右に身体を揺らし、
「そうしてもらえればありがたいわ!」
大声で叫んだ。
チャーリーの口元にも笑みが漏れる。
「でもねえ。その肝心の闇魔法の加護が途切れてしまいそうなのよね。」
リリスの言葉にチャーリーはう~んと唸って考え込んだ。
「ゲルの居場所が分からんなあ・・・・・」
そう呟いてチャーリーは黙り込んだ。
沈黙の時間がしばらく経過する。
だがチャーリーは何かに気が付いたような表情で口を開いた。
「この際、サラ君に協力して貰おうかね。」
「えっ? サラに?」
「そう。サラ君や。あの子、特殊なスキルを持ってたやろ?」
そう言えば、亜神召喚と言うスキルを持っていたわね。でもまだレベルが低くて、闇の亜神のかけらの位置も分からない筈だけど・・・。
リリスの思いを察してチャーリーはニヤッと笑った。
「レベルが低ければ、一時的に上げれば良い。それだけの事や。」
そう言ってチャーリーがパチンと指を鳴らすと、目の前にドサッと何かが落ちてきた。
サラだ!
しかも制服を着たまま眠っている。
「チャーリー! サラをどこからさらってきたのよ!」
リリスの追及にチャーリーはリリスの肩の芋虫を指差した。
「あっ! そう言えば意識を奪って王城のゲストルームに匿ったままだったわ。」
「メル。サラやニーナまで闇魔法の転移で王城に連れて行ってたの?」
リリスの問い掛けに芋虫はうんうんとうなづいた。
それにしても眠ったままのサラをどうするのよ?
リリスがチャーリーに視線を向けると、チャーリーはへへっと笑ってサラに魔力を注ぎ込んだ。うっと呻いてサラの身体が軽く痙攣し、ゆっくりと立ち上がったが目が虚ろで視点が定まっていない。操られているのだろうか?
チャーリーがもう一度魔力を大きく注ぐと、サラの身体がぼんやりと光り始めた。
「一時的にスキルのレベルを上げたんや。さあ、サラ君。亜神召喚のスキルを発動してくれ。」
チャーリーの言葉にサラはこくりとうなづいて、虚ろな目でスキルを発動させた。サラの身体がカッと光を放つと、その目の前にパネルのように立体地図が現われた。3Dでフルカラーだ。大陸の形が鮮明で水面からの高低差も良く分かる。更に河川や湖も鮮明でうっすらと国境線まで見えている。
勿論、亜神のかけらを示す光点も明瞭で、亜神が司る属性もポップアップで表記されている。
これが本来の状態なの?
「この状態はレベルで言うと20程度やね。」
チャーリーは平然と言いながらマップを見つめた。
「おった! ゲルはあの光点や!」
チャーリーが指差す先には金色に縁どられた黒い光点があった。一際大きく表示され、ポップアップメニューが表示されている。幾つかのメニューがあり、その中に呼び出しと言う表記もあった。
ええっ! 呼び出せるの?
リリスの驚きを他所に、チャーリーはそのポップアップメニューの呼び出しを魔力で作動させた。
その途端に黒い光点の縁の金色が激しく点滅を始め、マップの直前に小さな魔方陣が現われた。直径2mほどで半透明の魔方陣が床の上に浮かんでいる。
その中央部に光が現われるとその形を徐々に変えていく。
次の瞬間、ピンッと音を立ててその魔方陣の中央に黒い人影が現われた。
黒装束で長身痩せ型の男性だ。青白い顔色で生気が無く、髪は長髪で顔の半分が隠れている。
何となくオタクっぽいわね。確かに陰キャだわ。
「誰だよ? 僕を呼んだのは誰だ?」
低い声で呟いた男性はチャーリーを見てうっと呻いた。
「久しぶりやな、ゲル。500年振りかな。呼び出したんは僕や。それにしても何処に引き籠っていたんや?」
ゲルと呼ばれた男性はフンと鼻息を吐いた。
「それで何の用なんだ?」
「要件はこれや。」
チャーリーはゲルの目の前に台座の付いた宝玉を突き出した。
「これは君が作ったんやな? 僕に説明していた用途と違うやないか。君は僕に、これって単なる置物やて言うてたよな。君にしては珍しく人族に加担したようやけど、どうしてこんなもんを作ったんや?」
チャーリーの目が鋭くゲルに突き刺さる。ゲルも何となくばつが悪そうに視線をずらそうとした。
「誰に頼まれて作ったんや?」
「・・・・・エドワードだよ。」
「エドワードって、傭兵隊長から国を興したあのエドワードの事か?」
「うん。あの『赤ひげのエドワード』だよ。」
チャーリーとゲルのやり取りに、リリスの肩の芋虫が加わってきた。
「あのう・・・、その『赤ひげのエドワード』って、もしかしてミラ王国の開祖の事ですか?」
「ああ、そうだよ。そのミラ王国の国名の由来って知ってるかい?」
「あいつは無類の女好きでさあ、近隣諸国から王女や王妃を何人も攫ってきて、片っ端から自分の側室にしちゃったんだよね。ミラ王国のミラって、あいつが攫ってきたお気に入りの猫耳の獣人の王女の名前なんだよ。それを国名にするなんてふざけた奴だよねえ。」
唐突に尋ねた芋虫を怪訝そうな目で見つめながら、ゲルが忌々しそうに口を開いた。ゲルの言葉を聞いた芋虫はリリスの顔に近付き、
「リリス。私って聞いてはならない事を聞いてしまったのかしら? 頭がくらくらしてきたわ。」
「メル。落ち着くのよ。歴史って隠された秘密が色々とあるものだからね。」
そう答えながらも、リリスはゲルに笑顔で話し掛けた。
「私の名はリリスと言います。肩の芋虫の形の使い魔の召喚主は、このミラ王国のメリンダ王女です。」
「それでエドワード王の事だけど、王はこの国を守るためにその宝玉をゲルさんに作って貰ったのよね。エドワード王もミラ王国の平和と安寧の為に腐心していたんじゃないの?」
リリスの言葉にゲルは薄ら笑いを浮かべた。
「そうであれば良いんだけどね。」
「ちなみに僕の事はゲルと呼んでくれ。さん付けは要らないからね。それでエドワードが宝玉を求めた目的は、攫われた王族を取り返すために隣国が攻めてくるのを防御する事だけの為だったんだ。これは直接本人から聞いた話だから嘘じゃないよ。」
う~ん。
聞くんじゃなかったわ。
ふと肩に目を向けると芋虫が後ろに仰け反っていた。
「メル。大丈夫? 気を確かに持つのよ。」
リリスの言葉に芋虫がゆっくりと起き上がってきた。
「ねえ、リリス。私ってこんなものの為に犠牲になるところだったの?」
失意に満ちたメリンダ王女の声が聞こえてきた。リリスにもその気持ちは分かる。
「落ち着くのよ、メル。これからその理不尽な定めを回避する方法を探るところだからね。」
メリンダ王女を宥めながら、リリスはゲルに向き直った。
「ねえ、ゲル。その宝玉にあなたの加護を注ぎ込む際に、王族の生命力を代償にする契約って破棄できないの?」
「それは無理だね。エドワードはその契約を成立させるために、自分の生命力まで犠牲にしたんだ。死ぬ直前まで自分自身を追い込んでね。」
「死ぬ直前? それならメルも命を落とす直前で回避できるの?」
「それも無理だね。契約を維持する為に必要とする生命力の物量が半端じゃないんだよ。」
そう言い放つゲルをチャーリーが制した。
「そこのところは大丈夫や。僕の加護を強める事でカバー出来る。闇の亜神の加護は本来の半分の分量で構わん。それならこの子の生命力を全て注ぎ込む必要も無いやろ。」
チャーリーの言葉にゲルは目を見開き、ほうっ!と驚きの声を上げた。
「チャーリー。君にしては珍しい。君はどうしてこの子達にそれほど加担しているんだい?」
そう言いながらゲルはリリスとその肩に生えている芋虫を指差した。
話の流れでその芋虫の召喚主であるメリンダ王女にも興味を持ったようだ。
「それはこのリリスが僕の信者だからだよ。」
ええっ!
何時から私はチャーリーの信者になったって言うの?
そう思って怪訝そうな視線を投げ掛けるリリスにチャーリーは目配せをした。
「信者みたいなもんやろ?」
「知らないわよ、そんな事。」
反射的にそう答えたリリスである。
「そんなつれない事言わんでくれよ。土魔法を底上げしてやったやないか。」
「それはそれ、これはこれです。」
「信者とでも言ってくれないと僕の立場が無いやないか。」
「土の亜神なんだから、大地がある限り立つ場所なんて何処でもあるわよ。」
「いや、そう言う意味やなくてやな・・・・・」
テンポ良く続く会話にゲルが一言。
「君達の会話って、夫婦漫才みたいだね。」
「「なんでやねん!」」
二人でゲルに突っ込んでしまったチャーリーとリリスである。
蚊帳の外に置かれていた芋虫がそこに口を挟んだ。
「ところで・・・ゲルはどうして我が開祖エドワード王にそんなに加担していたの?」
そうよね。
それも疑問だわ。
メリンダ王女の疑問に同意したリリスはゲルに目を向けた。
「それはエドワードが僕の信者だったからだよ。」
「「「ええっ!」」」
ゲル以外の3人の驚きの声が響き渡った。
「これは誇張じゃないよ。エドワード自信が僕を崇めて、常々そう言っていたんだからね。」
おかしいわねえ。
亜神って信者を求めるものなの?
崇められて気分が良いのは、ユリアとドルキアの関係を見れば分かるけどね。
不思議そうなリリスの表情を見て、ゲルはふふっと笑みを漏らした。
「エドワードが隠していた事なので知らないだろうとは思うけど、奴は人族とダークエルフとのハーフだったんだよ。彼の肌の色は浅黒くて耳も尖がっていたからね。」
「人族からもダークエルフからも忌み嫌われていたエドワードが、傭兵と言う職業を選んだのも止むを得ない事だったんだろう。でもダークエルフの特徴である闇の属性を彼は持っていた。それを駆使して傭兵隊長にまでのし上がったんだ。」
「それでもエドワードは自分の出自を隠したかったんだね。建国後は種族を問わず大勢の側室を抱えて、30人以上の子供を残した。その中から人族の子供を後継者に選んだって事さ。でもダークエルフの血筋を引いているから、数代に一人の割合で闇の属性を持つ子孫が生まれてくる。」
説明を続けるゲルの言葉にリリスの肩の芋虫がうんうんとうなづいていた。
「それが私って事なのね。」
そう呟く芋虫に、ゲルは憐みの目を向けた。
「宝玉の為に闇の属性を持つ子孫の生命力を犠牲にさせたのは、奴がそう言う子孫を増やしたくなかったからだと思うよ。」
「それって理不尽だわ!」
芋虫を介してメリンダ王女の大きな叫び声が響き渡った。
確かに理不尽よねえ。
「その理不尽な定めを覆すのよ。」
リリスの言葉に王女の使い魔の芋虫が激しく同意して身体を揺らしていたのだった。
「これは人払いの結界を加護の形で造った物やね。それを僕の加護で包み込むことで大地に定着させてるんや。よくこんな事を考えたな、あいつ。」
「人払い?」
「そう。前にも言うた通り、闇の亜神は人見知りで陰キャなんや。どちらかと言うと引き籠りに近いかな。そいつの加護を大地に定着させて、他国からの侵入を阻むつもりやと思うよ。王族の生命力を注ぎ込む事で、その王族の支配地域全体にその効果を波及させてるんや。」
そんな事って・・・・・。
唖然とするリリスに代わってメリンダ王女の使い魔が口を開いた。
「でもそんな事をすると結果的には国全体が鎖国状態になりませんか?」
「そこは人族の外交努力で何とでも出来るやろ? それにこの結界は悪意を持って侵入してくる者を拒否するようになっている。好意を持って入ってくる者にはそれほど影響は無いよ。」
チャーリーの表情を見ながらリリスはおもむろに尋ねてみた。
「ねえ、チャーリー。この宝玉の持つ加護を維持する為には、どうしても王族の生命力が必要なの?」
リリスの言葉にチャーリーはハッとして、リリスの肩にくっついている使い魔の芋虫をまじまじと眺めた。
「そうか。このお嬢ちゃんが犠牲になる流れになってるんやね。それって酷い契約やな。」
チャーリーは少し考え込んだ。
「でも・・・それなら何とかなるで。」
「えっ! 本当に?」
「ああ。僕の加護を強めて宝玉をしっかりと包み込めば大丈夫や。僅かな加護でも広範囲に効力を広げれば良いだけやろ?」
チャーリーの言葉に芋虫が左右に身体を揺らし、
「そうしてもらえればありがたいわ!」
大声で叫んだ。
チャーリーの口元にも笑みが漏れる。
「でもねえ。その肝心の闇魔法の加護が途切れてしまいそうなのよね。」
リリスの言葉にチャーリーはう~んと唸って考え込んだ。
「ゲルの居場所が分からんなあ・・・・・」
そう呟いてチャーリーは黙り込んだ。
沈黙の時間がしばらく経過する。
だがチャーリーは何かに気が付いたような表情で口を開いた。
「この際、サラ君に協力して貰おうかね。」
「えっ? サラに?」
「そう。サラ君や。あの子、特殊なスキルを持ってたやろ?」
そう言えば、亜神召喚と言うスキルを持っていたわね。でもまだレベルが低くて、闇の亜神のかけらの位置も分からない筈だけど・・・。
リリスの思いを察してチャーリーはニヤッと笑った。
「レベルが低ければ、一時的に上げれば良い。それだけの事や。」
そう言ってチャーリーがパチンと指を鳴らすと、目の前にドサッと何かが落ちてきた。
サラだ!
しかも制服を着たまま眠っている。
「チャーリー! サラをどこからさらってきたのよ!」
リリスの追及にチャーリーはリリスの肩の芋虫を指差した。
「あっ! そう言えば意識を奪って王城のゲストルームに匿ったままだったわ。」
「メル。サラやニーナまで闇魔法の転移で王城に連れて行ってたの?」
リリスの問い掛けに芋虫はうんうんとうなづいた。
それにしても眠ったままのサラをどうするのよ?
リリスがチャーリーに視線を向けると、チャーリーはへへっと笑ってサラに魔力を注ぎ込んだ。うっと呻いてサラの身体が軽く痙攣し、ゆっくりと立ち上がったが目が虚ろで視点が定まっていない。操られているのだろうか?
チャーリーがもう一度魔力を大きく注ぐと、サラの身体がぼんやりと光り始めた。
「一時的にスキルのレベルを上げたんや。さあ、サラ君。亜神召喚のスキルを発動してくれ。」
チャーリーの言葉にサラはこくりとうなづいて、虚ろな目でスキルを発動させた。サラの身体がカッと光を放つと、その目の前にパネルのように立体地図が現われた。3Dでフルカラーだ。大陸の形が鮮明で水面からの高低差も良く分かる。更に河川や湖も鮮明でうっすらと国境線まで見えている。
勿論、亜神のかけらを示す光点も明瞭で、亜神が司る属性もポップアップで表記されている。
これが本来の状態なの?
「この状態はレベルで言うと20程度やね。」
チャーリーは平然と言いながらマップを見つめた。
「おった! ゲルはあの光点や!」
チャーリーが指差す先には金色に縁どられた黒い光点があった。一際大きく表示され、ポップアップメニューが表示されている。幾つかのメニューがあり、その中に呼び出しと言う表記もあった。
ええっ! 呼び出せるの?
リリスの驚きを他所に、チャーリーはそのポップアップメニューの呼び出しを魔力で作動させた。
その途端に黒い光点の縁の金色が激しく点滅を始め、マップの直前に小さな魔方陣が現われた。直径2mほどで半透明の魔方陣が床の上に浮かんでいる。
その中央部に光が現われるとその形を徐々に変えていく。
次の瞬間、ピンッと音を立ててその魔方陣の中央に黒い人影が現われた。
黒装束で長身痩せ型の男性だ。青白い顔色で生気が無く、髪は長髪で顔の半分が隠れている。
何となくオタクっぽいわね。確かに陰キャだわ。
「誰だよ? 僕を呼んだのは誰だ?」
低い声で呟いた男性はチャーリーを見てうっと呻いた。
「久しぶりやな、ゲル。500年振りかな。呼び出したんは僕や。それにしても何処に引き籠っていたんや?」
ゲルと呼ばれた男性はフンと鼻息を吐いた。
「それで何の用なんだ?」
「要件はこれや。」
チャーリーはゲルの目の前に台座の付いた宝玉を突き出した。
「これは君が作ったんやな? 僕に説明していた用途と違うやないか。君は僕に、これって単なる置物やて言うてたよな。君にしては珍しく人族に加担したようやけど、どうしてこんなもんを作ったんや?」
チャーリーの目が鋭くゲルに突き刺さる。ゲルも何となくばつが悪そうに視線をずらそうとした。
「誰に頼まれて作ったんや?」
「・・・・・エドワードだよ。」
「エドワードって、傭兵隊長から国を興したあのエドワードの事か?」
「うん。あの『赤ひげのエドワード』だよ。」
チャーリーとゲルのやり取りに、リリスの肩の芋虫が加わってきた。
「あのう・・・、その『赤ひげのエドワード』って、もしかしてミラ王国の開祖の事ですか?」
「ああ、そうだよ。そのミラ王国の国名の由来って知ってるかい?」
「あいつは無類の女好きでさあ、近隣諸国から王女や王妃を何人も攫ってきて、片っ端から自分の側室にしちゃったんだよね。ミラ王国のミラって、あいつが攫ってきたお気に入りの猫耳の獣人の王女の名前なんだよ。それを国名にするなんてふざけた奴だよねえ。」
唐突に尋ねた芋虫を怪訝そうな目で見つめながら、ゲルが忌々しそうに口を開いた。ゲルの言葉を聞いた芋虫はリリスの顔に近付き、
「リリス。私って聞いてはならない事を聞いてしまったのかしら? 頭がくらくらしてきたわ。」
「メル。落ち着くのよ。歴史って隠された秘密が色々とあるものだからね。」
そう答えながらも、リリスはゲルに笑顔で話し掛けた。
「私の名はリリスと言います。肩の芋虫の形の使い魔の召喚主は、このミラ王国のメリンダ王女です。」
「それでエドワード王の事だけど、王はこの国を守るためにその宝玉をゲルさんに作って貰ったのよね。エドワード王もミラ王国の平和と安寧の為に腐心していたんじゃないの?」
リリスの言葉にゲルは薄ら笑いを浮かべた。
「そうであれば良いんだけどね。」
「ちなみに僕の事はゲルと呼んでくれ。さん付けは要らないからね。それでエドワードが宝玉を求めた目的は、攫われた王族を取り返すために隣国が攻めてくるのを防御する事だけの為だったんだ。これは直接本人から聞いた話だから嘘じゃないよ。」
う~ん。
聞くんじゃなかったわ。
ふと肩に目を向けると芋虫が後ろに仰け反っていた。
「メル。大丈夫? 気を確かに持つのよ。」
リリスの言葉に芋虫がゆっくりと起き上がってきた。
「ねえ、リリス。私ってこんなものの為に犠牲になるところだったの?」
失意に満ちたメリンダ王女の声が聞こえてきた。リリスにもその気持ちは分かる。
「落ち着くのよ、メル。これからその理不尽な定めを回避する方法を探るところだからね。」
メリンダ王女を宥めながら、リリスはゲルに向き直った。
「ねえ、ゲル。その宝玉にあなたの加護を注ぎ込む際に、王族の生命力を代償にする契約って破棄できないの?」
「それは無理だね。エドワードはその契約を成立させるために、自分の生命力まで犠牲にしたんだ。死ぬ直前まで自分自身を追い込んでね。」
「死ぬ直前? それならメルも命を落とす直前で回避できるの?」
「それも無理だね。契約を維持する為に必要とする生命力の物量が半端じゃないんだよ。」
そう言い放つゲルをチャーリーが制した。
「そこのところは大丈夫や。僕の加護を強める事でカバー出来る。闇の亜神の加護は本来の半分の分量で構わん。それならこの子の生命力を全て注ぎ込む必要も無いやろ。」
チャーリーの言葉にゲルは目を見開き、ほうっ!と驚きの声を上げた。
「チャーリー。君にしては珍しい。君はどうしてこの子達にそれほど加担しているんだい?」
そう言いながらゲルはリリスとその肩に生えている芋虫を指差した。
話の流れでその芋虫の召喚主であるメリンダ王女にも興味を持ったようだ。
「それはこのリリスが僕の信者だからだよ。」
ええっ!
何時から私はチャーリーの信者になったって言うの?
そう思って怪訝そうな視線を投げ掛けるリリスにチャーリーは目配せをした。
「信者みたいなもんやろ?」
「知らないわよ、そんな事。」
反射的にそう答えたリリスである。
「そんなつれない事言わんでくれよ。土魔法を底上げしてやったやないか。」
「それはそれ、これはこれです。」
「信者とでも言ってくれないと僕の立場が無いやないか。」
「土の亜神なんだから、大地がある限り立つ場所なんて何処でもあるわよ。」
「いや、そう言う意味やなくてやな・・・・・」
テンポ良く続く会話にゲルが一言。
「君達の会話って、夫婦漫才みたいだね。」
「「なんでやねん!」」
二人でゲルに突っ込んでしまったチャーリーとリリスである。
蚊帳の外に置かれていた芋虫がそこに口を挟んだ。
「ところで・・・ゲルはどうして我が開祖エドワード王にそんなに加担していたの?」
そうよね。
それも疑問だわ。
メリンダ王女の疑問に同意したリリスはゲルに目を向けた。
「それはエドワードが僕の信者だったからだよ。」
「「「ええっ!」」」
ゲル以外の3人の驚きの声が響き渡った。
「これは誇張じゃないよ。エドワード自信が僕を崇めて、常々そう言っていたんだからね。」
おかしいわねえ。
亜神って信者を求めるものなの?
崇められて気分が良いのは、ユリアとドルキアの関係を見れば分かるけどね。
不思議そうなリリスの表情を見て、ゲルはふふっと笑みを漏らした。
「エドワードが隠していた事なので知らないだろうとは思うけど、奴は人族とダークエルフとのハーフだったんだよ。彼の肌の色は浅黒くて耳も尖がっていたからね。」
「人族からもダークエルフからも忌み嫌われていたエドワードが、傭兵と言う職業を選んだのも止むを得ない事だったんだろう。でもダークエルフの特徴である闇の属性を彼は持っていた。それを駆使して傭兵隊長にまでのし上がったんだ。」
「それでもエドワードは自分の出自を隠したかったんだね。建国後は種族を問わず大勢の側室を抱えて、30人以上の子供を残した。その中から人族の子供を後継者に選んだって事さ。でもダークエルフの血筋を引いているから、数代に一人の割合で闇の属性を持つ子孫が生まれてくる。」
説明を続けるゲルの言葉にリリスの肩の芋虫がうんうんとうなづいていた。
「それが私って事なのね。」
そう呟く芋虫に、ゲルは憐みの目を向けた。
「宝玉の為に闇の属性を持つ子孫の生命力を犠牲にさせたのは、奴がそう言う子孫を増やしたくなかったからだと思うよ。」
「それって理不尽だわ!」
芋虫を介してメリンダ王女の大きな叫び声が響き渡った。
確かに理不尽よねえ。
「その理不尽な定めを覆すのよ。」
リリスの言葉に王女の使い魔の芋虫が激しく同意して身体を揺らしていたのだった。
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