落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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二人の王女とダンジョンチャレンジ1

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魔法学院の多忙な学生生活を過ごして数か月、リリスは2年生に進級した。
クラスメイトもそのままで、担任は薬学のケイト先生になった。勿論クラス委員や生徒会での立場も同じだ。

違う点と言えば下級生が入ってきた事である。
新1年生は20人。その中にはミラ王国の王族であるメリンダ王女も入学している。

数年ぶりの自国の王族の入学と言う事で、学院側もセキュリティ面等を含めて色々と大変だったらしい。まあそれは当然の事なのだが。
それでも学生寮の最上階に入寮しているので、リリスとは連絡を取りやすい。時折芋虫の形の使い魔がリリスの部屋を訪ねてくる。

メリンダ王女と入れ替わりで、ドルキアのマリアナ王女は卒業していった。だがそれでもフィリップ王子の使い魔の小人が学生寮内をウロチョロしている。
マリアナ王女の妹が新1年生として入学してきたからだ。

単に居心地が良くて居るだけじゃないの?

そう思ったリリスの思いを意に介さず、日々フィリップ王子は使い魔を駆使して警護に務めている。




入学式から数日後の夜、リリスは学生寮の最上階に招かれた。王族が入寮している階なので、そのセキュリティも厳重だ。階段を上がるとすぐさま検査を受け、その後も豪華な絨毯の敷かれた廊下を歩くたびに、何処からか探知の波動を受けている。不意に自分の傍を何か得体の知れない人影がすり抜ける事も有った。おそらく姿を隠しているロイヤルガードなのだろう。
思わず悲鳴を上げそうになったリリスだが、前もってロイヤルガードの存在を知っていたので大事には至らなかった。

こんなところで悲鳴を上げたら、不審人物として拉致されちゃうわよね。

そう思いながら廊下を歩くと豪華な扉に行き当たった。これがどうやらメリンダ王女の部屋らしい。
扉の付近に居たメイドに話し掛けて中に入れて貰うと、広いリビングが目に入った。天井には小振りながらシャンデリアが輝いている。さすがに自分の部屋と造りが違うのでキョロキョロと見回していると、リビングの奥からリリスを呼ぶ声がした。
壁際に回り込み声のした方に向かうと、大きな長いソファにフィリップ王子とメリンダ王女、そしてもう一人、不思議な雰囲気の少女が座って紅茶を飲んでいた。

「リリス。こっちに来て。」

メリンダ王女の呼びかけに応じて、リリスは長いソファの端の方に座った。

フィリップ王子とメリンダ王女に挨拶を交わすと、リリスはメリンダ王女に問い掛けた。

「メル。そちらの方はどなたなの?」

メリンダ王女がフィリップ王子に目配せをし、フィリップ王子がもう一人の少女を紹介した。

「この子は僕の末の妹だよ。名前は・・・」

そう言ってフィリップ王子が少女を立たせた。

「エミリアです。初めまして。リリスさんの事は兄上や姉上から色々と伺っていますよ。」

リリスも恐縮してその場に立ち挨拶を交わした。
どうやらこの少女が新1年生として入学してきたドルキアの王女のようだ。まるでビスクドールのような美しい少女だが、笑顔がどこか儚げであまり生気が感じられない。しかも両目の瞳の色が少し違う。オッドアイだ。思わずリリスはエミリア王女の顔に見とれてしまった。

再びソファに座ってメイドの給仕した紅茶を飲むリリスだが、この部屋に入った時から少し違和感を感じていた。それは警護のロイヤルガードの気配ではなく、何かが飛び回っているような不思議な気配だ。
しかも若干ながらエミリア王女の方からチャームのような波動を感じる。

気に成るので談笑の合間に解析スキルを発動させると、

『気に成っているのはこの波動ですね。チャームに近いものですが故意の物とは思えません。』

故意でなければ自然発生って事?

『例えてみれば体臭のようなものですね。』

そんな事ってあるのね。
それとこの部屋の中を飛び回っているのは何?

『この気配は微弱なので良く分かりません。魔装を発動してみてください。勿論非表示で。』

言われなくても非表示にするわよ。そうせずに発動させたらきっと悲鳴が上がるでしょうね。リリスが魔物になっちゃったとか叫ぶに違いないわ。

そう思いながらリリスは魔装を非表示で発動させた。
発動と共に魔力の流れが敏感に感じられ、視認できる対象も変わる。リリスの目には淡い色彩で鈍く光る球体が飛び回っているように見えてきた。
魔力の塊だ。向こう側が透けて見えるほどに薄い色合いだが、直径は5cmほどで確実にそこに居る。

その球体を目で追う様子を見て、フィリップ王子が怪訝そうな視線をリリスに向けた。

「リリス。まさかと思うが君には見えるのかい?」

えっと小さく声を上げたリリスはこくりとうなづき、

「私の目の錯覚かも知れません。淡い色合いの5cmほどの大きさの球体が飛び回っているのが見えて・・・・・」

「驚いたな。」

そう言ってフィリップ王子はエミリア王女に目を向けた。

「兄上。リリスさんってやはり不思議な能力の持ち主ですね。」

ニコッと笑ってエミリア王女は話を続けた。

「私は精霊の加護を受けているんです。飛び回っているのは聖霊達。でも普段は兄上にも見えないんですよ。」

聖霊の加護!
それがこの不思議な雰囲気を醸し出しているのね。

リリスはそう思いながらメリンダ王女に目を向けた。

「私は何も見えないわよ。エミリアが言うように普通の人には見えないのよ。・・・やっぱりリリスって色々なスキルを隠してるのね。」

「そんな事は無いわよ、メル。」

そう言って誤魔化すリリスの目の前で、エミリア王女の顏の周りに球体が群がった。
ふんふんとまるで何かを聞いているような仕草をしたエミリア王女は、少し考え込むような表情で、

「リリスさんから微かに妖精の気配を感じるって精霊達が言っていますよ。」

あら、敏感な精霊達なのね。

そう思いながらもリリスは慌てて魔装を解除した。

「でも精霊の加護って神殿の神官が持つ加護じゃなかったの?」

メリンダ王女に尋ねるとフィリップ王子が身を乗り出してきた。

「それは逆なんだよ、リリス。精霊の加護を持つ者は神官や祭司になる運命にあるんだよ。」

「そもそも精霊の加護を持って生まれてくる者は、病弱であったり薄命であったりする事が多い。エミリアも極度の虚弱体質でそのままであれば長く生きられないだろう。だが神官や祭司となり神殿で暮らす事によって命が保たれる。」

フィリップ王子の言葉にエミリア王女は苦笑いでうなづいた。

そうなのね。それでエミリア王女に生気が強く感じられなかったのね。
それにしても悲しい運命だわねえ。

リリスの思いを察してフィリップ王子は言葉を続けた。

「母上に聞いたところ、エミリアは本来は死産になるところだったそうだ。精霊の加護で生き永らえたんだよ。」

「そうなんです。私も自分の運命を受け入れています。精霊達がいつもそばにいるので寂しくはありませんからね。」

エミリア王女は気丈に答えた。

「魔法学院を卒業した後に神殿に入る予定です。」

「この加護のお陰で私は星を詠む事も出来ますし時節を詠む事も出来ます。ミラ王国にとって私の力は大きな助けになると思うのです。」

まあ、立派な心構えだわねえ。

「リリスさん、私の事はエミリアと呼んでください。私もリリスと呼び捨てにしたいので・・・・・」

私を呼び捨てにするのは当たり前よね。自分の国の王女様なんだから。

「分かりました。」

リリスがそう答えるとエミリア王女はふっと薄ら笑いを浮かべた。
その頃合いを見計らってメリンダ王女が口を開く。

「それでね、リリス。あんたにお願いがあるのよ。」

何?

突然メリンダ王女から話を振られてリリスは首を傾げた。

「実は来週末にダンジョンチャレンジがあるのよ。基本的に王族はダンジョンチャレンジは必修じゃないので無理に参加しなくても良いんだけどね。」

何となく納得出来る話だ。王族の身に何かあったら只事では済まないだろう。そう考えるとそれは当然の措置と言える。

「でもねえ。エミリアが一度参加してみたいんだって。勿論生身では参加しないわよ。使い魔で参加する事になるんだけど・・・・・」

そこまで効いてリリスは何となく話が分かってきた。

「要するに私が出ろって言う事なのね。メルの使い魔の芋虫を私にくっつけていたように、エミリアの使い魔を身に纏えと。」

メリンダ王女はへへへと笑い、

「私も一緒に行くからね。」

ええっ!

「そんなに驚かないでよ。両肩に使い魔をくっつけるだけじゃないの。」

「メル、簡単に言わないでよ。」

「でもその状態で魔力をフルに活用して戦闘に迎えるのはリリスしか居ないのよ。」

そんな事を言ってもねえ・・・。

「それならジーク先生に憑依したら良いわよ。」

リリスの言葉にメリンダ王女は顔色を変えた。

「私がジークに? 冗談じゃないわ。そんな事をしたらあの男の陰湿な性格が移ってしまう。私を悪い王女にしたいの?」

そこまで言うかしらねえ。

「分かったわよ。来週末ね。それじゃあ、学院側には手配しておいてよ。」

そう言ったリリスの言葉にメリンダ王女もエミリア王女も満面の笑みを見せていた。








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