落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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二人の王女とダンジョンチャレンジ2

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新年度の初頭はどの学年も慌ただしい。

それは2年に進級したリリスのクラスも同様で、新しい学科も増え、提出する課題なども雑多で、それをまとめるリリスの作業も多い。
更に生徒会の仕事もあるので放課後も学院に残る事が日課になっている。
メリンダ王女とエミリア王女に約束したダンジョンチャレンジを明日に控えて、リリスはこの日も放課後に生徒会の仕事に取り掛かっていた。新年度の決まりとして、生徒会で生徒達への配布物を色々と準備しなければならない。新1年生には学院での生活を快適にする手引きなども必要だ。
リリスは図書館で配布物作成の為の資料集めをし、一緒に作業をしている新1年生のクラス委員と共に生徒会の部屋にそれを運んだ。

新1年生のクラス委員はエリスと言う名の理知的な少女だった。リリスと同様に地方貴族の子女なので気持ちも通じ易い。美少女とは言えないが素朴な雰囲気で親しみ易い顔つきのこの少女に、リリスは少なからず好感を持っている。

「リリス先輩はメリンダ王女様と面識があるんですか?」

資料を整理しながらエリスが話し掛けてきた。

「ええ、そうね。明日、ダンジョンチャレンジに連れて行けって頼まれているわよ。」

「ええっ! 王女様もダンジョンチャレンジに行くのですか?」

エリスの言葉にリリスはふっとため息をついた。

「使い魔をくっつけて行くだけなのよ。」

「そうなんですね。でも、それを聞いて妬ましく思う生徒もいるかも知れませんね。」

妬ましい?

リリスの思いを察してエリスは言葉を続けた。

「王女様に取り入りたいと願っている上級貴族の子女が、私のクラスに二人居るんですよ。二人共女子で、王女様に接近する糸口をいつも探っているのが見え見えなんです。」

そう言う子もいるだろうなあ。

「お互いに地方貴族の娘で良かったわね。そう言う事に神経をすり減らす必要が無いから・・・」

リリスの自虐気味な言葉にエリスもうんうんとうなづいた。

「妬ましいならいつでも王族のダンジョンチャレンジの役割を代わってあげるわよ。使い魔に憑依されたままダンジョンに潜るのって大変なんだからね。」

「そうですよねえ。」

エリスは自分の制服のポケットから何かを取り出し、

「これ、お守りです。持って行ってください。」

そう言ってリリスに手渡した。

カラフルな色合いのミサンガだ。別段変わったところも無い。

でもこの子の気持ちが嬉しいわね。

「ありがとう、エリス。これを着けダンジョンチャレンジに行くわね。」

礼を言ってリリスはそのミサンガを腕に着けた。
ふと、ミサンガから奇妙な波動が伝わってきたが、特に気に成るほどの物でもない。

「そのミサンガは私の父上が旅先で助けたダークエルフの老婆から貰ったものです。その老婆は精霊使いだったそうですが。」

精霊使いねえ。それで奇妙な波動を残しているのかしらね?

少し気に成ったリリスだが、資料の整理をし始めるとそれも忘れてしまった。翌日の授業に支障のないように、短時間で作業を終わらせ、リリス達は生徒会の部屋を後にした。



翌日。

学院は休日であるが、ダンジョンチャレンジは行われる。
特に今回は王族が参加するので、新1年生の担任のロイドも気合が入っているようだ。

「リリス君。その恰好、なかなか似合っているよ。」

そう茶化されたリリスの格好は確かに異様だ。レザーアーマーの両肩から単眼の芋虫が生えている。メリンダ王女の使い魔とエミリア王女の使い魔だ。
なお、今回のダンジョンチャレンジはリリスと監督役のロイドだけで行われる。
王族が参加するからと言う事で、他の生徒が同行して足手纏いにならないようにとの配慮からだ。

「先生、それは誉め言葉として受け取っておきますね。」

そう答えて苦笑いをしたリリスは気を引き締めると、シトのダンジョンの第1階層に入った。

ロイドが多重にシールドを張り、リリスと使い魔達を保護する。リリスもまた念のために非表示状態で魔装を発動させて、慎重にダンジョンを進んだ。
前回はニーナが探知役を買って出てくれたので楽だったが、今回はそれもリリス自身がやらなくてはならない。

仕方が無いわね。

そう思ってレベル4++の探知スキルを発動させると、獣性要素による高度補正も機能して、広範囲に探知が展開され始めた。
魔装と連携してさらに高度補正が効いているようだ。

簡単な罠がしっかりと探知出来ている。だが罠解除のスキルを持ってないので、わざと手前で発動させて避けていくしか方法が無い。それでもリリスは淡々と進めていく。飛び込んでくる矢、突き出す土槍などを避けながら、リリスは第1階層の中央部に差し掛かった。

「凄いわねえ。リリスって罠が仕掛けられているのが分かるの?」

リリスの肩からエミリア王女の声が聞こえてきた。

「簡単な罠なら分かるわよ。」

反射的にそう答えたが、実際には色々な高度補正もあって、高度な罠でも分かるはずだと確信を得たリリスである。

「リリス、魔物が出てこないわよ。」

反対側の肩からメリンダ王女のつまらなさそうな声が聞こえてきた。

「心配ないわよ、メル。すぐそこにゴブリンの気配がするから。5匹隠れているわね。」

その言葉が終わらないうちに目の前の木立ががさがさと揺れ、ギギギギギッと気味の悪い声を上げてゴブリンが出てきた。

「きゃあ!気味が悪い!」

エミリア王女の悲鳴が聞こえる。

「ゴブリンで悲鳴を上げていたら身が持たないわよ、エミリア。もしかして実物を見たのは初めてなの?」

「うん。初めて見たわ。」

まあ、何と言っても王女様だからねえ。

リリスは剣を振りかざすゴブリンに向けて、ファイヤーボルトを次々に放った。ボスッと音を立ててゴブリンの身体に突き刺さり、悲鳴を上げる間もなくゴブリンが燃えていく。

「かなり威力を抑えているわね。」

「メル。そこは解説しなくて良いからね。」

「だって、リリスの杭のような極太のファイヤーボルトを見たいのよ。」

高みの見物って事ね。

「心配しなくてもそのうちに見れるわよ。」

その言葉が現実になるまで10分も掛からなかった。第1階層の奥で、階下に繋がる階段の前に2体のオーガファイターが居たからだ。
フルメタルアーマーを装着し、魔剣を振りかざしてオーガファイターがこちらに向かってくる。

「さあ! 殺るのよ!」

「メル。キャラが崩壊してるわよ。」

メリンダ王女の雄叫びに刺激されたわけではないが、接近させると拙い相手なので、リリスは早々に二重構造のファイヤーボルトを4本放った。
太い杭のようなファイヤーボルトがキーンと金切り音を立て、弧を描いて敵に向かって行った。ドウンと着弾音が聞こえるや否や火柱が立ち、メタルアーマーを貫かれたオーガファイターの身体が燃え上がる。1体に1本のファイヤーボルトを着弾させれば充分なのに、2本づつ放ってしまったのはメリンダ王女に檄を飛ばされたからだ。

つい調子に乗っちゃったわよ。

冷静に敵に向かうべく反省したリリスである。
一方エミリア王女は、

「魔物ってあんなに燃えやすいものなんですか?」

いやいや、そうじゃないから。
話が長くなりそうなので、説明する気にも成れないわね。

適当に返事をしつつ、リリスは階下に続く階段を降りた。

第2階層。

前回と同じく砂漠である。

ここって暑いのよね。日焼け止めが欲しいくらいだわ。

若干うんざりとしつつ、リリスは砂漠に足を踏み入れた。しばらく歩くとお決まりの大きなサソリが2匹、こちらに向かってくるのが見えた。

「うう、気味が悪い。私・・・・・虫は苦手なの。」

エミリア王女の暗い声が聞こえてきた。

虫と言われてもねえ。体長が3mもあるんだけど・・・・・。
そもそもサソリって虫の範疇に入れて良いの?
昆虫じゃなかったと思うんだけど・・・。

あれこれと考えている間にサソリが接近してきた。リリスは急いで土壁を10mほど手前に出現させた。砂漠の砂の中から出現した大きな土壁にエミリア王女の嬌声が響く。

「あんな仕掛けがあったのね!」

いえいえ。
あれは私の土魔法で・・・。
一々説明するのも面倒ね。

「メル。戦闘中だから細かい解説はメルからエミリアにしてよね。」

「あら、私に丸投げするの? 私だってリリスの魔法やスキルを熟知していないわよ。」

「そんな事よりリリス。サソリが2匹共、壁を上って来ているわよ!」

ああそうだったわ。
話をしている場合じゃなかったわね。

リリスは即座に土壁の向こう側にアースランスを発動させた。土槍に腹部を貫かれ、2匹のサソリが血しぶきをあげて土壁の向こう側に落ちた。
そこに向けてファイヤーボルトを放ち、瀕死のサソリを焼き切ってしまう。土壁のアースランスを解除して痕跡を隠す。
一連の動作を間髪を入れず進めたのは、あまり手の内をロイドにも見られたくなかったからだ。

砂漠を更に奥まで歩く。照り付ける日差しが暑い。蒸し暑い風が追い打ちをかける。

「リリス。足取りが遅いわよ。」

使い魔にはこの暑さは分からないわよね。

「メル。ここは砂漠だから暑いのよ。流れ落ちる汗を見れば分かるでしょ!」

「ええっ? 砂漠風の背景になっているだけじゃなかったの? だってここは地下でしょ?」

ダンジョンが分かっていないわねえ。

「ダンジョンの中は広大な亜空間みたいなものよ。太陽もあれば雲もある。前回のダンジョン探索でメルも見た筈だけど。」

ううんと言いながら使い魔の芋虫が身体をぐるんと回し、周囲に目を向けた。

「これって背景はホログラムや画像だと思っていたわ。暑さや寒さも体感できるのね。」

「メルも生身でダンジョンに来れば分かるわよ。」

そう言いながら、リリスは階下への階段の傍にいる魔物に目を向けた。やはり大きな毒蜘蛛だ。
前回みたいに毒を飛ばされると面倒だから焼いてしまおう。そう思ってリリスはファイヤーボルトを数本放った。弧を描いて敵に向かうファイヤーボルトが着弾するまでほんの数秒。
爆炎と共に毒蜘蛛は焼き尽くされた。

だが、ここまではまだ序盤戦だ。

リリスは再度気を引き締めて階下に向かった。





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